訪問! メルちゃんのお宅 4
メルの部屋は広いながらもきれいに片付いていて、落ち着いた雰囲気のある場所だった。テレビにテーブル、ソファー、ベッドに本棚など一通り家具は揃っていて特に怪しいものはない。
だが天井にぶらさがるシャンデリア風の照明だとか、高級そうな絨毯やカーテン、壁には絵画なんかもかかっていてちょっとその辺の家とはわけが違うことをいやでも感じさせる。
巡は朝の段階で一面ピンクだとかそんな派手派手した部屋やいろんなものが散らかった部屋を想像していたので内心驚いていた。
「どうしたのめぐるちゃん、そんなきょろきょろして。もしかして、エッチなモノがどこに隠してあるか探してる?」
「なんていうかね、こういう家に住んでる人がする発言じゃないよね」
「えっと、まずあのベッドの下でしょ、それと机の三番目の引き出し、あとそのテレビスタンドのボックスの中に……」
「いいよ言わなくて! あっちこっちに地雷仕込むのやめたほうがいいよ? あとさあ、もうちょっと隠し場所もひねった方が……。一気に色々なものが崩壊しそうなモノのはずなのに無防備すぎるよ」
「う~ん。でもね、もう隠す場所なくなってきちゃったの。一週回ってあえて裏をかいてベッドの下とか。うん? 二週ぐらいしたかなぁ? やっぱここいいわぁ~ってなるよゼッタイ。ここでまさかのベッド下? 大胆、痺れるぅ! みたいなね」
「そんな一人で高度な心理戦されてもこっちは知ったこっちゃないからね?」
「あのね。ホントのこと言うとね、もう疲れてきちゃったから家族にもカミングアウトしようかと思って」
「や、やめたほうが……。うすうす気付かれてるのかも知れないけど……」
「やっぱりそうなのかもね。じゃあ思い切って言っちゃおうかな。わたしが夜な夜なひとりでしてること」
「いやそれは別に言わなくていいよ! 普通言わないから!」
「あれ? めぐるちゃんきのうわたしに言ってなかった?」
「言ってないよそんなこと! 勝手な妄想しないでくれる!?」
あの姉がダイレクトにそんな告白を聞いたらどう反応するだろうか。
想像しただけでそれはダメ! と声を上げてしまいそうになる。
しかしメルちゃんもなんだかんだで苦労してるんだなぁ、と少し同情した巡であった。
が、それも一瞬のこと。メルはしつこく食いついてくる。
「でもしてることはしてるんだよね? それはもう火おこしのように煙が出る勢いで」
「どんなのさそれ……。はあ~あ。ねえ、やっぱり僕帰っていい?」
「だーめ。ね、いつまでもそんなところに立ってないで座って。ほら」
背中を押され強引にソファーに腰掛けさせられる。続けてすぐ隣に寄り添うようにしてメルが座り込んだ。
あまりに近いので巡は少し体をずらそうと、横に置いてあるクッションをなにげなくどかした。
すると、その下からプラスチックの透明なCDケースが転がり出てきた。どうやらクッションの下敷きになっていたようだ。
巡はそれを手に取ると、いぶかしげに中に入っているディスクを眺めた。ごちゃごちゃした文字でタイトルらしきものが書かれている。
なんだろうこれ? 中に入ってるのは……、DVDかな?
『私 (レズ)の家に遊びに来た純情な女友達が片付け忘れたエッチなDVDを見つけて赤面! 思い切って誘ってみたら意外にも二つ返事でオッケーされて簡単にレズれちゃいました!』
「ってなんじゃこりゃあ!!」
「あっ、ち、違います、そっ、それはお姉様のです!」
「嘘つけ!」
「……あ、まちがえた。うん、わたしのだけど何か?」
「……今キャラがごっちゃになったよね? とっさのこととはいえあのお姉さんの物って言い張るのは無理だと思うなあ。それにメルちゃんのものだとしても否定してほしかったし」
「じゃあね、それね、この前友達が置いてったの。ほんっともう失礼しちゃう。わたしこういうの全然興味ないし? むしろ汚らわしいとすら……」
「嘘つけ!」
「ほら、もう! どっちにしろこうなるじゃん!」
「あ、ご、ごめん」
よくわからなくなってきたのでとりあえず謝っておいた。
そうか、メルちゃんはこの流れになるのがわかっていて、あえて……。と巡はヘンに感心した。
しかしその一方でこの家にこんな邪悪なものが存在していいのだろうかと不安になった。
「でもこれ! ちょっとクッションをどかしたらいきなり核地雷が爆発したよ? 僕じゃなかったらどうするつもりだったのほんとにもう」
「それなくしたと思ったらそんなところにあったんだ~。ビックリしたぁ~」
「ビックリしたのはこっちだよ! ……で、もしかしてこれを実践してみようと無理やり家に……」
「そのつもりがお姉さまがいるなんて、とんだジャマが入っちゃったよね!」
「ジャマもなにも元からあり得ないからねこんなの!」
「と、じらしつつ……?」
「いやいやないから!」
「と、言いつつ巡はおもむろに着衣をはだけ……?」
「だからしないって! なにそれ、誰? 誰視点?」
「あぁっ、ごめん足が滑っちゃった!」
「わ、わぁっ、言った後に滑った!」
がばっとメルがなだれ込んで来ようとしたその瞬間、コンコン、とドアをノックする音が。
続けて扉の向こうから静流の声が聞こえてきた。
「夢留さん、お茶をお持ちしましたよ。入りますね」