喧嘩上等? 生意気暴力少女 9
「メルちゃん、一体いつから見てたの?」
巡はいきなり現れたメルに質問する。
隠れて様子をうかがっていたと言うが、どこまで本当なのやら。
道程に頼まれた仕事内容は伏せておきたいが、メルの返答によってはもうばれてしまっているかもしれない。
「めぐるちゃんがその子の写真を見ながら下半身をゴソゴソやってるとこからかな」
「やってないよ! 最初からいた僕でも知らない光景だよそれは!」
「わたしには未来が見えます。ひそかにズボンのポケットに写真を忍ばせためぐるちゃんが、おうちにかえってから一人でゆっくりと……」
「あーもう! どこから見てたらそんな細かいところまで見えるの!? そんなに言うならこれはメルちゃんに渡すよ!」
巡はポケットから美道に受け取った数枚の写真を取り出し、ビシッとメルにつきつきた。とはいえどこか名残惜しそうな巡先生だった。
「やったぁ、今夜のおかずゲット!」
「なんでそうなるの、それは陽夏ちゃんの写真だよ!」
「え? だってわたし両方いけるし」
「うわっ、サイアクだ」
メルは巡から渡された写真を懐にしまいこむと、陽夏のほうに顔を向けた。
「さあて、今回はあの子を更正させればいいんだよね」
「あ、あれ、やっぱ知ってるんだ……」
「うん。めぐるちゃんがわたしに隠し事をしていたことはのちのちベッドの上で問い詰めるとして」
「いつも一緒に寝てるみたいに言わないでくれない!?」
巡はメルちゃんが絡んでくるとすごく嫌な予感がするんだよなぁ、と思ったが現状巡一人では更正なんてとても無理そうだ。
美道は全く役に立たなかったし、ねころがったまま当分動き出しそうにない。
メルは改めて陽夏に向かってあいさつをする。
「はじめまして、わたし、メルちゃんです。陽夏ちゃんっていうんだよね。ヒナちゃんって呼んでいい?」
「別にいいけど……、もしかしてメルってあの……?」
「そうだよ、まほ学の。だからヒナちゃんの先輩でもあるよ」
「へえ~、あんたがあのメル先輩かぁ……。そんな話に聞くほどでもなさそうじゃん。けっこうかわいいし」
「そんなぁ~、ヒナちゃんのほうこそ超かわいいし今にも押し倒しちゃいそうだよ~」
「……え」
硬直する陽夏をよそに、メルはうれしそうな顔でひそひそと巡に耳打ちしてくる。
「ちょっと今の聞いた? めぐるちゃん。この調子なら今日お持ち帰りできちゃうかも!」
「いや、向こう引いてるから。今絶対引かれたよ」
わりと好感触だった第一印象を一瞬で覆してしまう、それは変態少女の定めだった。
メルは再び陽夏に向き直る。
「うーんと、どうしようかな。ヒナちゃん、ぶつほうが好きなんだよね? それじゃまずはおしりを思いっきりひっぱたいてもらおうかな?」
「え? えーっと……」
「あっ、もしかして何か道具を使った方がいいかな?」
巡は後ろからメルの腕をつかんでぐいっと体を180度ターンさせる。
「ちょっとメルちゃん! あんた何しに来たんだ! まじめにやりなよ!」
「え~? だってぇ……。じゃどうすればいいの?」
「……うーん、ああいう子は自分で痛い目を見ないときっとダメだと思うんだ。他人の痛みがわからないからためらいなく暴力を振るうんだと思う」
「ふーん、そういうものかなぁ。じゃあメルちゃんが女王様をやればいいんだね?」
「よくないけどね、メルちゃんがなんとなく理解してくれただけでもうれしいよ」
やっぱりダメかもしれない……。
さすがの陽夏もどこかおかしな雰囲気を察したのか、ちょっと困ったような顔で提案をする。
「あ、あのさ、やっぱり一方的に殴るのもあんま面白くないから、そっちも遠慮なくかかってきなよ」
「チャンスだよメルちゃん。向こうもああ言ってるし」
「うーん、じゃあどうしよっかなー」
メルは立てた人差し指を口元に当てて、顔を傾ける。
……悩むほど選択肢があるんだろうか。なにかこのシンキングタイムは非常に危険な予感がするぞ……。
「決めた! アークメテオフォール(通称アクメ)にしよっと!」
「なんかすごそうな名前だけど……。どんな魔法なの?」
「うーんとね、空から巨大な質量を持った隕石が落下して対象を跡形もなく粉砕するの」
「ちょっと、まんまじゃんそれ! なにそれ全然スケール違うよ! これはちょっとしたケンカみたいなものでしょ!?」
「落下の衝撃でこのあたりはしばらく人が住めなくなるかなあ。あ、安心して。わたしとめぐるちゃんだけは生き残るようにするから」
「それだったらいっそのこと僕も一緒に殺して!」
「ちょっと時間かかるからまっててね」
「ストップ! ストップ! ちょっとでそんな覚悟できないよ! だいたいメルちゃんの魔法は極端すぎるんだよ。なんかないの? こうちょっと驚かせるようなのは」
「えぇー? そんなこと言われてもなあ……」
またも思案顔になるメル。
そんな強力な魔法が本当に使えてしまうのか気になるところだったが、試しにやってみてともいえないのが怖いところだ。
やがてメルは何か思いついたようで、ハッと目をパッチリ見開いた。
「あっ! いますっごくぴったりの魔法思い出しちゃった!」
「えっ、なになに? どんなの? 使うのはきちんと一から十まで僕に説明してからにしてね!」
「いっくよ~! アンダースティ-ル!」
「だから待てって!」
巡が慌てて止めに入るも時すでに遅し。
メルがパッと取り出したステッキの先が、ピカっと光る。ステッキの指し示す先はもちろん陽夏。
巡は一瞬大災害を覚悟したが、周囲には何の変化もおきない。
当の陽夏もただ目をぱちくりさせているだけ。
「……ち、ちょっと、数分後大地震を起こすとかそういうのじゃないでしょうね!?」
巡はビクビクしながらメルを問い詰める。
「じゃっじゃーん! さてこれはなんでしょーかっ?」
ステッキをしまったメルの手には、いつの間にか女物のパンティが握られていた。
「えっ? パンツ?」
「そうです、これがヒナちゃんの……、あ、間違えたこれはわたしのだった」
「ちょっとなんで脱いでんのさ!」
「正解はこっち!」
もう一枚の白いパンティを高々と掲げるメル。
すると陽夏の顔色が変わった。
「あ、え? あれ? そ、そんな! うそ!?」
陽夏は慌てて両方の手でスカートを押さえる。
その顔色がみるみるうちに真っ赤に染まっていく。
「正解はヒナちゃんの脱ぎたてパンツでしたー! ぱちぱち」
「ええ~っ!!」
巡は驚きの声を上げながらも、その視線はパンティと様子のおかしい陽夏の間を何度も行ったり来たりしていた。
……なんて恐ろしい魔法なんだ……。でも、なんかすごくわくわくするぞ……!