喧嘩上等? 生意気暴力少女 8
すいません、久しぶりの更新です。
そのまま両者至近距離でにらみ合う事数十秒。お互いが身動き一つせず、いつになっても手を出さない。
……あの二人の中ではお互いをけん制し合ってるんだろうか。きっと目に見えないところでせめぎあいが……。
そんな巡の考えとは裏腹に、しびれを切らしたような陽夏の声。
「あのさ、もういいよね?」
「あ? ああ、いつでも構わん。まあ万が一貴様が俺に一撃でも入れられたらのふぐぉぉぉっ!?」
ごずぅっ!
言い終わらないうちに陽夏のストレートが美道の顔面にめり込んだ。
ひときわ鈍い音がしたかと思うと美道の体が宙に投げ出される。
三メートルほど空を飛んだ美道は、受身も取れずに地面に全身をしたたかに打ち付けごろりと転がった。
そして「むぅぅん……」と一唸りした後ピクリとも動かなくなった。美道の宣言どおり一撃で終わったようだ。
……変な悲鳴。
「……し、衆くん弱っ。さんざん威張ってたわりに……。さっきのにらみ合いはなんだったの?」
陽夏は勝負は決まったというのに、追いすがってうつ伏せに倒れている美道の尻をうれしそうに踏みつけている。
完全に気絶しているのに、全く容赦がなかった。
陽夏は敗者にムチを打ちまくった後、満足そうな顔で巡に向き直った。
「さーて、次はきみの番だよ」
「え? 僕?」
なぜか僕まで戦う……、いやボコられることになってる……。
まずい、このままだと衆くんの二の舞だ。喧嘩なんてろくにしたこともない僕にかなう相手じゃない。
それに強い弱い以前に、なんかこの子普通じゃない。なんていうか……根っからの暴力好き? 戦闘民族?
いや待てよ。いつの間にかバトル前提になってるけど、こっちとしては別に戦いを望んでいるわけじゃない。
ちょっとおとなしくするように注意をすればいいだけだ。
「待って。僕に戦いの意志はないよ。ここは平和的に話し合おう」
「うん、わかった」
陽夏は意外にもすんなりおとなしくなって、ゆっくり歩み寄ってきた。
そうだ、何も戦う事なんてない。人間には言葉がある。それによって相互理解を深めてきんだ。
暴力で解決するなんて野蛮な生き物がすることだ。こんな子だってきっと真摯に話し合えばわかってくれるはず。
まずは理由。それを聞かないことには話にならない。
「ねえ、どうして君はそんなに暴力をふるうんだい?」
「ふんっ!」
どすっ!
巡のわき腹に右フックが返ってきた。
「ぐあっ! な、なにするんだよ! いま話し合いするって言ったばっかじゃ……」
「え? これは立派な話し合い方だけど? 肉体言語を使っての」
「うぐ…………、そんな言語知らないよ! だ、だいたいなんて言ったのかさっぱりだよ!」
「しょうがないな……、訳してあげよーか。今のはね、脇ががら空きだぞ! って言ったんだよ」
「それじゃ僕の質問に答えてないよ! 会話になってない!」
ぐう……。ダメだこの子。まさにお話にならない。ふざけてるのかマジなのか……。
いや、マジだ。目がマジだ。
「なんなの君は。そうまでして僕をボコボコにしたいの? 何の恨みがあって? って言ってるそばからなんで拳を握り締めてるの!?」
「拳で語りあった方が早いよきっと」
「語り合うというか一方的な罵倒になると思うよ」
「って言っても口ではうまく説明できないんだよ……。う~ん、なんていうか……ただ肉を殴りたい……。それだけなんだ」
「うん、なんとなく伝わった。君がおかしな子なんだってことだけはね!」
「じゃ一発だけ。おねがい、ね? すぐ終わるから」
「一発あったらもう十分だよね!? 僕きっと再起不能になるよ!? そんなに殴りたければサンドバックでも殴ってればいいじゃん!」
「無抵抗のものを殴っても楽しくないし。抵抗があるときほど殴った時の喜びも大きいよね」
「僕無抵抗なんだけど!」
「じゃあせめて、選ばせてあげよー、右足で殴られるか左足で殴られるか」
「足で殴るんだ! 斬新だね!」
陽夏は今にも巡に襲いかかりそうだった。
進退窮まった巡が何とかこの場を打開できないかと考えていると、
「待ちなさい!」
何者かの声が屋上に響き渡った。
巡が声のしたほう、屋上の入り口のほうを振り向くとそこには一人の女子生徒が。
彼女はのしのしと大またに巡のそばまでやって来る。
「あっ! メルちゃん、どうしてここに!」
「それがね、偶然通りかかったの」
「真顔でサラリとウソつくね。ここ屋上だけど? すごい不自然な登場だし、どうせ尾行してたんでしょ?」
「……やっぱりめぐるちゃんの前ではうそはつけないね。本当は瀕死になっためぐるちゃんを助けたあと、わたしが代わりに襲おうと思って今か今かと待ち構えてたんだけど」
「うん、やっぱりどんどんウソついていいよ。本当のことなんて聞きたくない」
「ちょっとガマンできなくなって早まっちゃったみたいだからもうちょっと待ってるね」
「いいよもう! また隠れようとしないで! 絶対に僕の目の届くところにいて!」
陽夏は不思議そうにメルを見て言う。
「だれ? 仲間?」
「違います」 即答する巡。
「違います、恋人です」 すかさずメルの返事。
「違うよ!」
「あっ、そっか愛人か」
「ただのクラスメイトだよ!」
「えっ、それはつまり一からやり直そうって事?」
「いまマイナス百だから一からやり直すっていう表現は当てはまらないよ」
「え? ……そ、そんな……。百点満点だなんて……。うれしい!」
「いやいやいや、マイナスって言ったんだけど、メルちゃんってあれかなぁ、都合の悪いところは聞こえないのかな?」
「うん? ちゃんと聞いてるよ? マイナス百ってことはつまり裏を返せば満点ってことだよね!」
「勝手に裏返さないでよ! 大胆に裏返すねほんと!」
突如現れたメルによって場の空気はあっという間に持っていかれてしまった。