喧嘩上等? 生意気暴力少女 7
勢いよく走り寄ってきた陽夏は、巡たちを見て不審そうな顔をする。
「あれ? おまえらはさっきの仲間か……? いや違うか。まあどうでもいいや」
陽夏は巡と美道の顔を交互に見比べるようにしながら独り言のように尋ね、勝手に自己完結した。
かなり大雑把な性格のようだ。
「ねぇ、あたしの上着知らない? ここに忘れたみたいなんだけど……」
やはり忘れ物に気づいて戻ってきたようだ。
すぐに陽夏の視線が美道の手にしている制服へ落ちる。
「あっ、それここにあったやつでしょ? あたしのなんだ、返してよ」
「うむ、いかにもここにあったものだ。返してやってもいいが、そのかわり今晩付き合ってもらおうか」
「は、はあ? いやに決まってるじゃん!」
「ならこれからお兄ちゃんの下へ出頭してもらう。まほ学の校長のことだ、とぼけても無駄だぞ」
「えー、やだ。あのおっさんなんかキライ」
道程さん、陽夏ちゃんはあなたのことが生理的に受け付けないそうです。
衆くん考え直してまともに交渉してくれてるみたいだけど、どうにも無理があるなこりゃ。
「お、お前なあ! あの人は確かにロリコンで童貞だが、しかも腹は出てるし声もやたら高くてカマっぽいけどなぁ、それに最近ちょっとハゲてきてるけどなぁ、だけど、えーと、うーん、ちょっと待ってろ」
「衆くん頑張って! ここで終わったらただボロクソにけなしただけだよ!」
「うー、……そうだ! 金だ! 金がある! そりゃもう湯水のように使える! なにせ裏でなにやってるかわかったもんじゃないからな!」
「なんかすっごい悪役像が浮かぶね……」
やっぱりあの人悪人なのかなぁ。でもなんか小物臭がハンパないんだよなあ……。
などと巡が道程の顔を浮かべ思いをはせていると、陽夏はもう聞いてられないといった様子でしびれをきらした。
「なんかもうめんどくさいからさぁ、どうしても連れて行きたいなら、力づくでやってみなよ」
「ふっ、それはこちらとしても望むところだ。ではまどろっこしいことなどせず堂々と力づくで連れていくことにしよう」
「ホント? やったね、楽しみ」
ぱっとうれしそうな表情をする陽夏。
なんだろう、そんなに殴り合いがしたいのだろうか。
「準備をするから少し待ってろ」
そういうと美道は背中を向けて歩き出した。少し離れたところで立ち止まり、なにかごそごそやっている。
気になった巡はその背中に近寄った。
「何してるの?」
巡が背後から覗き込むと、美道は包帯のような白い布を右手にぐるぐる巻きつけていた。
……ボクサーみたいで、本格的だ。女の子相手に本当に殴り合いする気なのかな……。
「遊んでいる時間はないからな、はじめから全裸で行かせてもらう」
「全力で、ね」
「相手はおそらく何らかの魔法を使っている。いくら女子とはいえ甘く見ないほうがいい。俺は過去にとある女にボコボコにされた経験がある」
「あるんだ……」
「だが同じ轍は踏まん。奴らに対抗するため、俺も一時期そうとう鍛えた。ボクシングジムに週三で通ったからな。おそらくすでにプロのリングにも上がれる腕前だろう」
週三ってどうなんだろう……? 学校の部活だって週五ぐらいはやりそうだけど……。
でもなんか相当自信があるみたいだから、すごい才能なのかもしれないな。
巡の頭に一瞬疑問がよぎったが、いちいち水を差すような真似はしない。
「いや、でもそれだったらさ、ちょっとは手加減してあげないとまずいんじゃない?」
「ふっ、安心しろ。全力とはいってもあくまで紳士のやり方で、だ。まあ軽くあしらってとっととミッションコンプリートだ。この程度でまごついている場合じゃないぞ、後がつかえてるんだ」
美道の頼もしい発言に巡はすっかり安心した。
昨日は道程さんに衆くんなんていらないって言っちゃったけど、これはすごく助かっちゃったなあ。僕一人だったらどうなってたことか。
「なあ、なにをごちゃごちゃやってんだよ。早くしろよ~。……もしかしてやっぱりびびってんのか? なっさけな~」
陽夏は小ばかにした態度で美道を挑発する。
「おや、どうやら子猫ちゃんが待ちくたびれたみたいだな」
「余裕だね衆くん! じゃあちゃっちゃと終わりにしよう!」
美道の言い方がちょっとキモかったが、背に腹はかえられないとここはガマンした。
「ぶっとばされても恨みっこなしね?」
「安心しろ。一撃ですぐに終わらせてやる」
お互いが余裕の表情でにらみ合う。どちらも自信満々といった様子だが、果たしてどちらが本物なのだろうか。