喧嘩上等? 生意気暴力少女 6
「いやあ、誘ってくれてありがとう。噂には聞いていたがよかったよ。俺も入会させてもらう」
「おめでとう。君が会員十四号だ」
握手を交わす男たち。
いかがわしい会の会員が増えたようだ。
やがてそのうちの一人が巡と美道に気づいた。
「な、なんだ君達は。いつからここに? 入会希望か?」
「そんなわけあるか。この変態どもが」
「僕ら、実はずっと見てたんですけど」
「な、なに……、見ていたのか? おい、この事を陽夏ちゃんにバラすなよ……? 俺たちはケンカをふっかけるフリをして相手をしてもらってるんだからな」
「知るか。ゴチャゴチャ抜かすと……」
「「うおおおおっ!」」
その時背後で歓声があがった。巡と美道も驚いてそちらを振り向く。
すると一人の男子が財宝でも発見したようにあるものを両手で空高く掲げていた。
それは女子の制服、すなわち陽夏がさっき脱いだブレザーだった。忘れていったのだろう。
「うおおおっ! まさに神の落し物!」「うっひょおおおっ! おい! ちょっと貸してみろ!」「待て待て、ここは平等に人数分に切り裂いてだな……」「バカ、それだと部位によって格差が出るだろ」
一斉に騒ぎ立てるM男たち。
「こいつは俺のもんだ!」と第一発見者が必死にありもしない所有権を主張しだす。当たり前だがそれは陽夏のものである。
「いや俺たち仲間だろ……?」と一人が説得に当たるも一歩も譲る気配がない。
「構わねえ奪い取っちまえ!」と一人が強攻策をとろうとする。
今にも争奪戦が勃発し今度こそマジバトルが始まりそうな危険な雰囲気だ。さっきの陽夏とのやりあいの時とは比べ物にならない。このままだと死人が出そうな勢いだ。
悲しいかな彼らには制服を陽夏に届けてあげるという選択肢はないようだ。
「ねえ、ちょっとヤバいよ! あの人たち……」
「うーむ……」
一触即発の空気に二人が気圧されているうちに、ついにもみ合いが始まった。
ものすごい殺気だった。彼らの全身から放たれるオーラは、ただのM男ではない、と感じさせる迫力があった。
巡はしばしの間彼らがもみあい、へしあいを繰り返す様子をなすすべもなく傍観していた。
今あそこに割り込むのは危険だ。もしそんなことをしたらきっと五体満足じゃいられない。きっと最後の一人になるまで乱闘は終わらないだろうな。
「あ! 危ないよ衆くん!」
しかしそんな巡の考えもおかまいなしに、美道は勢いよくその中に切り込んでいった。
「おい、お前たち!」
「なんだぁ!? 邪魔すんじゃねえ!!」
「俺も混ぜてくれ!」
美道はそう叫ぶともみくちゃになっている男子達の群れに自ら突っ込んでいった。
すると、すぐに彼らの中から不穏な悲鳴が聞こえてきた。
「お、おいやめろ誰だ! どこを触ってやがる!」「いつの間にか俺のズボンが!」「はうっ! あぁあっ!」
「……お、おい、こいつ、二年の美道じゃないか!?」
誰か一人が明らかに不審な動きをする者の正体に気づいたようだ。
その声には驚きと畏怖の感情が入り混じっている。
「ほ、本当だ! ヤツだ!」「な、なんだとっ!? どうしてこんなところに!?」「ま、まさかこいつら屋上で……!」
彼らの顔色が一瞬にして恐怖に染まり、場に戦慄が走った。
美道衆の雷名は下級生、上級生問わず校内に轟いているのだ。
その名を聞いて震え上がらないのは男子にあらずとまで言われている。
「「う、うわぁぁぁあっ!!」」
陽夏の制服を投げ出し、我先にと一目散に逃げ出す男子生徒たち。
そしてそこにはただ立ちつくす美道の姿だけが残された。
「……はっ、俺は一体何を……」
美道は誰のものとも知れないトランクスをその手につかんでいた。
思わず後ずさる巡。当然彼も身の危険を感じずにはいられない。
「ん? そんなに距離をとってどうした巡?」
「い、いやあ別に」
すぐにでもこの場を脱出したかったが、先に動いたらやられる、そう考えた巡はとりあえず話をあわせることにした。
このときばかりは今朝の彼の言葉を信じたい。
「しかし、結局置いていったか」
美道は男子生徒が捨てていった陽夏の上着を拾い上げた。
「どうしようそれ。もう帰っちゃったかな……」
「いや、きっと取りに来るはずだ。このチャンスを逃す手はない。更正してやる」
「いやでもさ、あの子魔法……使った?」
「よくわからんが使っとるだろう。あんな小柄な体で、男子生徒が吹き飛ぶような威力は普通に考えておかしい」
確かにM男たちのリアクションが多少大げさだとしても、そのやられっぷりは凄まじかった。
彼らに戦いの意思はなかったようだが、あれだけの数を悶絶させるぐらい攻撃するとなると大変だ。
逆に手や足を痛めたりすることだってあるだろう。だが陽夏にそんな様子は全くなかった。
「おそらく魔法による肉体の強化か、攻撃の瞬間に衝撃波を出す魔法を使うとかそんなところだろう。たぶんな」
「う~ん、でも悪用ってほどでもないような……。現に迷惑どころか喜ばれてるし」
「甘いぞ巡。俺は許さん」
「どうしてさ?」
「あいつは好き勝手暴れているだけなのに、あれだけ男子に人気がある。不公平だと思わないか? 過去に俺がどれだけ苦労したか……」
「それ完全に衆くんの個人的な嫉妬だよね……」
それに今は男子なんてどうでもよくなったんでしょ?
巡はそう言おうとしたがやめた。これ以上この話題を振るのはよくないと判断したからだ。
「いや実は……」なんて切り出されたら悔やんでも悔やみきれない。
「で、どうするの?」
「そうだな……、まずはこの俺のスマイルで軽く落としてだな……」
「そううまくいくかなぁ……」
「楽勝だろう。お前、俺が誰もが振り返るほどの美少年だという設定を忘れていないか?」
「いや、そういう発言はちょっと……」
巡が美道の荒唐無稽な発言にあきれていると、またもや屋上の扉が開け放たれた。
現れたのは話題の人物、陽夏だった。