喧嘩上等? 生意気暴力少女 3
「うわ~、すご~い。一瞬でお肌が白くなってムダ毛とかもなくなってる。でもなんか気持ち悪いね」
瞬く間に女子に変身した巡を見て、メルが感嘆の声を上げた。
「……あのさ、いくら僕でも怒るよ?」
「それにちょっと声も高くなってる! あれ? でも胸元は全然スカスカだね。かわいそうに、貧乳なんだね。どれどれ」
「どれどれじゃない! もうこれでいいでしょ? 元に戻っても」
「ちょっと待って。めぐるちゃんがいけないものを持ってきてないかボディチェックをします」
「持ってきてないよ! なんでこのタイミングで!?」
「だって男の子の体をいじくったりしてみんなから痴女だと思われたら困るし……」
「いまさら取り繕っても手遅れだと思うよ! 多分みんなうすうす感づいてきてるよ!」
「あ、でもここならそんな心配する必要ないよね。誰もいないし。うん、戻っていいよ」
メルはそう言ってさらに距離をせばめてきた。今にも襲い掛かってきそうだ。
本来なら巡も一応健全な男子であるわけで、こんな場所で一方的に女の子から迫られたらなにかしら間違いが起こってしまうかもしれない。ついさっきまで少しではあるが巡自身もまんざらでもない気分だった。
だが今、再び魔法がかかった状態になり性欲が失せた巡は、メルの急接近にもたじろぐことはない。
むしろ彼女のふるまいに軽く腹を立てているぐらいだ。もちろん変な気持ちになることもなく、全力で抗うつもりでいた。
今戻ったらなし崩しに犯される!
そう直感した巡は、このまま様子を見ることにした。
それにここで文句の一つでも言ってやらねば、という思いもあった。
「あれ? 戻らないの?」
「……うん。あのさ、メルちゃんももうさ、悪ふざけもたいがいにしようよ。勝手に人に魔法かけたりして困らせてさ。僕すごく迷惑かけられたんだけど、まだちゃんと謝ってもらってないよね?」
巡は静かに、だが確かに怒気を含んだ声音でゆっくり諭すように言う。
そんな巡の様子がいつもと違うのを感じ取ったのか、メルの顔からも笑みが消えた。
「……ごめん。そうだよね、怒ってるよね……。わたし、めぐるちゃんにすごい迷惑かけてるね。それなのにちゃんと謝りもしないで……ごめんなさい」
つらそうな表情で謝罪の言葉を口にするメル。そしてそのまま口を閉ざす。
意外な反応に、巡は少しばかり驚いていた。どうせまたくだらない言い訳をするものとばかり思っていたから。
二人とも沈黙したまま、時間が過ぎていく。
……よかった。メルちゃんもちゃんと話せばわかってくれるんだ。
さっきからうつむいて黙ったままだし、きっと少しは反省してくれているんだろう。そろそろいいかな。
「わかったよ。もう怒ってないから」
「……ホント? 怒ってない? じゃあこれから、仲直りのセッ……」
「あー、はいはいもうしゃべらなくていいから黙って反省して」
「めぐるちゃんのお説教プレイ、楽しみだなあ」
「知らないよそんなプレイ! 聞いたこともない!」
「ね、お詫びといってはなんだけど……わたしの体を好きにしていいよ」
「お詫びといっては難だよ! もうそういうのもいいから!」
急に活気づくメルに巡は閉口する。
まったく、すぐに変な方向に持っていこうとするんだから……。
「それじゃあ、せめてプレゼントさせて。今のめぐるちゃんにぴったりのがあるんだよ」
そう言ってメルはごそごそと制服のブレザーの内側を探る。
やがて取り出したのは、片手で握り締められるぐらいの太さの黒い棒。
「これ! 魔法のステッキだよ!」
「魔法のステッキ……。なんか妙に短くない?」
「伸縮式だからまだ伸びるんだよ」
メルが棒の両端を持って引っ張ると、すこし長さが伸びた。最終的にひじから指先ぐらいの長さになる。
「これね、例によって振動機能付だよ」
「いらないよそんな機能! だいたいそれどんな慣例なの!?」
「それをわたしに聞くの? セクハラだよめぐるちゃん」
「ごめん、聞いた僕が悪かったよ」
「ううん、いいの。メルちゃんが教えてあげる。むしろ言わせて!」
「言わなくていいよ!」
その時メルが差し出したステッキ? がブィィィィンと振動を始めた。
「見てほら! すごい、めぐるちゃんの魔法力に反応してるよ!」
「嫌な反応の仕方!」
メルがバイブステッキを胸に押し付けてきたのですばやく奪い取った。
不本意ながらも受け取ってしまったステッキは、見た目より意外と重い。
巡が手にした後も棒はしばらく小刻みに震え続けていたが、巡の止まれという念を感じ取ったのかやがて振動は止まった。
「それ、わたしが持ってるのと色違いのおそろいなんだよ? めぐるちゃんだったらもしかしてメルちゃん専用の魔法が使えちゃうかも」
「メルちゃん専用の魔法? それってどんな……?」
「簡単なやつだと、飛雷矢魔法かなぁ。フェとラを強く発音するの。あとこの棒を股に……、じゃなくってステッキを魔法を当てたい標的に振りかざしながら叫ぶの」
「……ふ~ん。……え~と、ふ、フェザーライトニング!」
巡はメルに説明されたとおり、ステッキをかざしてセクハラワードを口にした。
その瞬間、ステッキの先から放たれた雷の矢は、まっすぐ飛んでメルに直撃する。
ピシャッ! バババリバリバリ!
メルの体のシルエットが激しく明滅する。巡は強い発光に思わず目をつむった。
やがて焦げくさい匂いが立ちこめる。
おそるおそる目を開けると、メルの顔がすぐ目の前まで迫っていた。
「ちょっとめぐるちゃん……。いくらわたしが嫌いだからっていきなりそれはないよね……?」
唇の端をやや吊り上げているものの、メルの目は笑っていなかった。
「ああっ、ごめん! 本当に使えるかどうか試しに唱えてみたら……」
「絶対わざとだよね今の……? まっすぐこっち飛んできたよ? とっさにバリヤー張らなかったらメルちゃん確実に死んでたんだけど」
「い、いやだって雷を当てたい相手にって…………あ、ぎ、ぎゃああああっ!」
メルは必死に弁解する巡の乳首をシャツの上からつねり上げた。
いきなりの激痛に悲鳴を上げる巡。
別にメルを亡き者にしてやろうと考えていたわけではなく、ついうっかり考えなしに魔法を発動させてしまっただけだった。
本当に魔法が使えるのか、半信半疑だったのもある。
だが無意識にも標的はしっかりメルだった。
「いけないこと言うのはこの乳首かなぁ!?」
「ち、乳首はしゃべらないよ! いたたたた!」
「乳首をしゃぶりたい? そうやってごまかそうとして!」
「ち、違うって! は、放して、ごめん、ごめんなさい!」
必死の懇願が聞き届けられたのか、乳首をねじ切られる前になんとか解放された。
だがメルの怒りは完全に収まったわけではないようだ。
「今度やったら母乳が出るまでねじり回すからね?」
「で、出るわけないでしょそんなの!」
「え? 出るでしょ? しかるべき手順を踏めば」
「ひぃっ!」
笑顔で恐ろしい事を言い放つメル。
口調は明るいものの、さすがに巡のうっかりで殺されかけるのはたまったものではないのだろう。
えもいわれぬ迫力があった。
やはりメルには逆らってはいけないと、巡は深く心に刻み込んだ。