喧嘩上等? 生意気暴力少女 1
美道はクラスメイト全員に喧嘩を売った後、悠々とした足取りで教壇に上る。
「皆の者聞け! 俺はもう男の尻を追うような真似はやめた! だから男子! もう常に半径三メートル以上の距離をとる必要はないぞ!」
美道が声高にそう叫ぶと、教室内にどよめきが走る。主に男子の間に。
「あいつ気づいてたのか……俺たちの暗黙のルールに」「なんであいつ上から目線なんだ?」「みんな気をつけろ! これは罠だぞ!」
「誰だ今罠とか言ったヤツ! こっちに来て尻を出せ!」
「やっぱりあいつ掘る気満々じゃねえか!」「誰だよ、余計なこと言って刺激すんなよ!」「やっぱ罠じゃねえかよ……」
警戒する男子達。
美道は大げさな身振りを交えてそれをなだめる。
「待て待て。尻を出せと言っただけだぞ? つまりケツをシバいてやるという意味だ。すぐにそういう方向に持っていくお前らの方が問題だろう?」
「今度はSMかよ……」「これからは五メートルだな……」「おい、もういいだろ、あいつに触るなって」「ガチホモ野郎は消えろ!」
口々に言い合う男子生徒たち。その中の一言に美道がピクっと反応した。
「……今言ってはいけない事を言ったヤツがいるな……」
静かに室内を見回す美道。厳しい目つきで犯人を捜しだす。
男子生徒たちはみんなすぐに顔を伏せたが、わずかに行動が遅れた巡は一瞬だけ美道と目が合ってしまった。
「巡、お前かぁ!」
「ち、違うよ!」
美道はずんずん大またで巡のほうにやってくると、前方に立ちはだかるように仁王立ちして見下ろしてくる。
「さあ、臀部を晒しわが面前に跪くがよい!」
「だ、だからっ、さっきのは僕じゃないって!」
「お前じゃなかったとしてもお前だったということにしておいてやろう。よかったな」
「よくないよ! ……衆くん、一体何があったの? もともと変わってたけどこんなメチャクチャな事を言う人じゃなかったでしょ?」
「……俺は間違っていたようだ。昨日あの後みっちり教え込まれた。男とエンディング=バッドエンドだということを」
「何を言ってるのか全然わからないんだけど……。それに俺って……、昨日までとなんか別人みたいだよ?」
「これからは俺様キャラでいけば間違いないと、古今東西のエロゲー、ギャルゲーを制覇しついに乙女ゲーにまで手を染め出したトモヤさんに言われたのだ」
「そんな人の言うことなんて聞かない方がいいと思うよ……」
「そういうわけで巡。お前俺と付き合え」
「嫌だよ! だいたい僕男だし!」
「……んん? お前元に戻ったのか? ……男子との交際はトモヤさんに固く禁じられたからな、バレたらブチ殺される」
美道はちらっと隣の席の花奈を見た。
花奈は我関せずとばかりに携帯をいじっている。
「じゃあ花奈。俺の奴隷になれ」
「死ね」
「仕方ない、言い方を変えよう。俺と付き合え」
「さっさと死ね」
「とりつくシマもないな。せめて『なんであんたなんかとっ……!』ぐらい言えんのか?」
「いいから死ね」
「貴様、後悔するぞ? 俺の美貌は誰もが認めるところだ。過去に女子からラブレターをもらうこと数知れず」
「何も知らなかった哀れな子たちからね」
「以前の俺には尻を拭く紙にも使えないゴミクズ同然のものだったが、これからはしっかりフラグ管理を行おうと思う」
「無駄よ。あんたの性癖については校内で知らない人間はいないでしょうし」
「俺は変わったのだ。これから女子と楽しそうにしていればその疑惑も自然と晴れるというもの。ハーレム要員その一にならないうちに俺に従った方が得だぞ?」
「これは……格段に痛さが増したわね……」
「お前との同盟も破棄だ。思えば男子を紹介してもらう代わりとして魔法の悪用に目をつむるなど、我ながら恥ずべき行いをしたものだ」
「ちっ。急に手の平返したわね……。そもそもね、あんたの存在そのものが恥ずかしいのよ」
「御厨花奈。貴様の罪状は気に入らない男子生徒のロッカーに使用済みナプキンを放り込む等をはじめとした変態チックな迷惑行為だ。俺が断罪する!」
「そんなことしてないわよ! 第一それじゃ魔法関係ないじゃない! あんたマジで死なすわよ?」
「馬鹿め、俺のバックには四天童の一人がついてるんだ、そんなことをしたらどうなるか……ククク」
殺意のこもった目つきで睨みつける花奈を、不敵な笑みで迎える美道。
これまでも危うい関係ではあったが、ここにきてついに爆発した。今は花奈がやや不利な状況か。
やがて両者にらみ合いが始まる。
「花奈様、負けないで!」「私も花奈様にあんな目で見つめられたい……」「死にくされ美道!」「もげろ!」
女子生徒がわけもわからないまま声援?を送る。美道の味方はいなかった。
男子生徒たちはすでに皆知らんぷりを決め込んでいる。何人かは教室を離脱した。
巡も隙あらば脱出の機会をうかがっている。
まさに一触即発。
「やめて! 二人とも! わたしのために争わないで!」
その時、ひときわ大きな声で二人の間に割り込む女子生徒が。
一気にクラス全員の視線がその人物に集まる。
その人物とはやはりメルだった。今登校してきたのか、いつの間にか、どこからともなく現れた。
ぽかんとする美道と花奈を尻目にメルは一人続ける。
「二人の気持ちはうれしいんだけど、今わたしは……」
メルの視線が巡の席へ向く。
だが席はすでにもぬけの殻だった。
身の危険を察知する能力が芽生えはじめていた巡は、メルにみんなの注意が集まった瞬間に脱兎のごとくその場を抜け出していた。
サブタイトルはちょっと先走った感じになってますが、お気になさらずに。
すっかり変態が出揃ってしまって、新キャラの入る余地がないかも……。