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魔法少女めぐ☆める  作者: 荒三水
お兄ちゃんは大魔法使い?
20/52

お兄ちゃんは大魔法使い? 2

「めぐるちゃん。これで今晩、付き合ってくれるよね?」


 メルは今しがた受け取った三万円を巡の手に握らせながら言った。


「嫌だよ! なにこのわかりやすいお金の流れ!」

「お金……ないんでしょ? なら受け取って」

「うっ、なんて汚い……。メルちゃん君って人は……。そんなの受け取れないって」

「……ちっ……うふふっ。ジョーダンだよ。そんな人の足元見てお金で買収なんてするわけないでしょ? でもこのお金はあげる。使うたびにメルちゃんの顔を思い出してくれればいいから」

「ものすごい恩着せようとしてない!? あとちょっと舌打ちしなかった!? どっちにしろそんな汚いお金受け取れないよ!」

「……汚いお金は受け取れない、か……。うん、そうだよね……。さすがめぐるちゃん。わたし惚れ直しちゃった」


 メルはうふっとうれしそうにはにかむ。

 よけい高感度が上がってしまった。選択肢を間違えたようだ。見境なくお金に飛びついておけばよかったと巡は少し後悔した。

 

 その時道程が軽やかな足取りでトレーを運んできた。ケーキが乗った皿をおのおのの手前に差し出す。

 ふんふふ~んと鼻歌が絶好調で、やはり上機嫌だった。

 三人分のケーキを用意し終わると道程も着席する。


「さあ、食べて食べて。本当においしいんだから」


 だがメルはケーキには手をつけず、代わりに先ほどの三万円を道程に差し出して言った。


「お兄ちゃん。やっぱりこれ返すね」

「……えっ?」


 一気に道程からさっきまでのうきうきムードが消えた。

 先ほどまでのニコニコ顔が一転、何が起きたかわからないといった表情で固まる。


「ど、ど、どうしたのかな? お、お兄ちゃんからのおこづかいだよ? あっ! も、もしかして少なかった?」

「ううん、違うの」

「えっ? あっ、えっと……。あっ! これあれ? またツン? 二段構え?」 


 目に見えて狼狽する道程。そんな彼を見て巡は少し哀れみを覚えていた。

 

「お金じゃ買えないものがあるんだよ。そうでしょ? めぐるちゃん」

「僕にふらないでよ……。別にそんなに深い意図があったわけじゃないし……」


 正直あまりこの二人と絡みたくなかったので、巻き込まれたくなかった巡は適当にお茶を濁す。


「ね。お兄ちゃん、こういうのはよくないよ。すぐにお金でどうこうしようなんて」

「……メルちゃん、偉そうにしてるけどさっきの自分の言動覚えてる? 改心が早すぎて逆に怪しいんだけど……」


 巡はいまいち信用し切れなかったが、メルは札を差し出したまま動かない。

 どうやら意志は固いようだった。

 道程は戸惑いながらも仕方なさそうにそれを受け取り、おそるおそるといった様子で疑問を口にした。

 

「ふ、ふぅ~ん。わ、わかったよ。確かに、メルちゃんの言うとおりだ。……そ、それでさ……だ、誰なのかな? その子は……」


 最初から巡の方にはなるべく視線をやらず、意識しないようにしていたようだがそうもいかなくなったようだ。


「あ、あの僕……」

「東西めぐるちゃんでぇーっす! よろしくね!」

 

 いきなりハイテンションでさえぎられた。

 巡を紹介された道程はよりいっそう動揺を始めた。

 パチパチとまばたきの回数が多くなり、きょろきょろと目線が行ったり来たり。さっき一瞬見せた余裕のドヤ顔はどこへやら。

 ……どうしたんだろうこの人。そうか、自分のかわいい? 元教え子が男子を連れてやってきたらこんな感じになるのかな? 


「とうざいめぐる……君。メルちゃんとはどういった関係なのかな?」 

 

 待っていましたといわんばかりに胸を張るメル。

 

「なんとわたし達、結婚しました!」

「どうぇぇえええええっ!? うっそぉーん!!」

「し、してないしできないよ!」


 いきなりおっさんが甲高い声を上げたためびっくりしたが、巡はなんとかつっこんだ。

 

「ジョーダンだよ。近々そうなる予定だけどめぐるちゃんにはまだ時間が必要みたい」

「たぶん永遠に埋まらないと思うよその時間は」

「……はぁ、びっくりした。いやいやさすがにそれはないと思ったよ? メルちゃんがお兄ちゃんに内緒でそんな……ねえ? ……で、本当は何者なのかな?」


 まだおっかなびっくり、といった様子で道程は再び尋ねた。


「紹介します。セフレのめぐるちゃんです」

「なんとぉーーーー!?」

「違います!」


 メルのしょうもない一言にいちいち大声を出し驚く中年男。

 ちょっと怖いし面倒なのではっきり言っておくことにした。


「僕とメルちゃんは今日知り合ったばかりで、それ以上の関係ではないです」


 不満そうな視線を横にいるメルからジリジリ感じるが、首を固定し受け流す。

 道程はうつむいて首をひねりながら、こちらにも聞こえるぐらいの独り言を始めた。


「むぅ……、とはいえ異常なまでに好意を持っとるのは違いない……。今日知り合った割にはお互いちゃん付けで呼んでるし……。もしかしてほんとにもうデキとるのか? ……くそう、このガキどうしてくれようか……。魔法でイ○ポに……。いやいっそホモに……。大体、ちょっと顔がいいからって……。顔が……。ん? んん?」


 しばらくぶつぶつ言っていたが、何かに気づいたのか巡の顔を凝視しだした。

 軽く目が血走ったおっさんに見つめられ、巡はかつてない身の危険を感じる。


「……ね、ねえ、ちょっとさ、前髪をこう、よけてみてくんない? おでこだすみたく」


 鬼気迫る表情の道程に逆らうこともできず、巡は言われた通りに従う。

 すると、次の瞬間道程が発狂したかのように奇怪な叫び声を上げた、


「あーーーー! やっぱり、南ちゃんだ! 似てる! いや似てるってレベルじゃねえ! あの頃の南ちゃんそっくりだ!」


 今まで以上の大音声に、巡はビクッと身をすくませる。さすがのメルも何事かと目を見張っているようだ。

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