メルちゃんのお宅訪問 6
「実はな……母さんは環を連れて出て行ったのには別の理由がある」
「えっ! 働かなくてお金がなくなって家賃もきつくなってご飯も満足に食べられないというのにやっぱり何かわけのわからないことばかりしてる父さんにいい加減嫌気がさして出て行ったんじゃないの?」
「お、おう。早口でいっぱい言ってくれたがそれは違うんだ」
「じゃあなに?」
「お前には内緒だったんだが、実は環を国際魔法研究専門学校お兄ちゃんだいすき科に入学させるため、別居を余儀なくされたのだ」
「なにその怪しい学校! 絶対勉強とかするところじゃないでしょ! どこの風俗!?」
「バカ、落ち着け。……いいか、ここは南もその昔通っていた由緒あるれっきとした教育機関だ」
「ほんとに? ……ていうか母さんそんなところ行ってたの? 初耳なんだけど」
真面目な話になるかと思いきや案外そうでもなさそうな雰囲気になったところで、メルが横から口を挟む。
「めぐるちゃん、何を隠そうわたしも国際魔法研究専門学校お兄ちゃんだいすき科、通称まほ学の卒業生なんだよ」
「えっ!?」
「そこで、どのぐらいだったかなあ、三年ぐらい通ったかなあ?」
「魔法学校って言ってたの、そこのことだったのか」
「ほら見ろ巡。夢留ちゃんも通ってたのはビックリだが、これで安心したろ」
「逆にめちゃくちゃ不安になったんだけど……」
「その時一緒にクリちゃんだっていたしね」
「ああ、御厨さんね。……さらに不安が」
メルたちはそこで知り合ったと花奈が言っていた。あやしいが実在する学校である事は間違いないのだろう。
しかし巡は変態を輩出するような学校へ妹を預ける事にかなり抵抗を感じていた。
それにどうにもおかしい点がいくつもある。
「父さん、ちょっと待って? なら別居しなくたってここからその学校に通えばいいじゃん」
「ああ、学校は全寮制らしいぞ」
「なら母さんは?」
「ああ、うん」
「……『ああ、うん』じゃないよ! やっぱり出て行ったんじゃないか!」
「子供には複雑な事情はわかるまい」
「どうせさっき僕が言ったとおりの事情でしょうが」
「いや、他にも隠していた借金が見つかったとかいろいろあるんだ」
「ええ!? なにそれ!? いくら!?」
「まあまあ落ち着け」
いきり立つ巡をなだめる駈。
掴みかかるとは行かないまでも、日ごろから節約を強いられている巡には衝撃の事実だった。
それでも楽観的な父親に怒りを通り越してしまった巡は、気力を失いつつも残る疑問を口にした。
「……大体そこに環が入学する事に何の意味があるのかさっぱりわからないんだけど」
「まあ聞いて驚け。試験にパスして入学が決まればお祝い金として、一千万もらえるそうだ」
「なんでもらえるの!? 払うんじゃなくて!? やっぱり金だよ! なんか身売りみたくなってるじゃん!」
「わたしの時ももらったみたいだけど、ママがお金管理してるからよく知らないなあ」
「ほ、ほんとに!?」
「卒業の時には三億ぐらいもらったらしいけど」
「額でかっ! メルちゃんもしかしてその代償としてそんな風に……」
「え? どんな風に? わたしそんなに変わってないと思うけど」
あっ、と巡は口をつぐむ。
……そうか、生まれつきかわいそうな子だったんだな。
いや、それ上さらに拍車がかかったのかもしれない。
「やっぱり怪しすぎる……。心配だ」
「最初は父さんも反対したんだがな、『なら働いて金入れなさいよこのクズ!』と罵られてしまい泣く泣く従ったのだ」
「……普通に働けばいいんじゃないの? ていうか働け」
「だがもう遅い。もうきっと入学も決まっているはずだ。なんの音沙汰もないが。泣き付いてどうにか九・一で一千万を分ける約束をしたのに」
「情けないなあ……。それもう絶対無視されてるんだよ」
「だがお前にも連絡ないだろ」
「……でも僕には秘密だったんでしょ?」
「なあ、もし母さんから連絡きてお前に直接金を渡すようだったら、きちんと父さんに報告するんだぞ」
母が出て行った後、実は巡の携帯には幾度となく連絡があった。
そのうち父には内緒で少しばかり生活費をもらう予定だったが、魔法学校うんぬんは一言も聞かされてなかったので隠すつもりだったのだろう。
どちらにせよ駈のためにもここはお金を渡さない方がいいと考えた巡は、そのことは黙っておく事にした。