メルちゃんのお宅訪問 5
「メ、メルちゃん! ほんとにやめて! しゃれにならないって!」
「めぐるちゃんものってきたね! でももう嫌がる演技はこのぐらいでいいから次に行こ?」
「演技じゃないって! それに次ってなにさ!?」
メルの力がいっそう強く込められ、ついに巡の腕力も限界が近づき陥落寸前になる。
止まらない暴走に、巡は心からこれ以上ない危機を感じた。
……こ、こんな、これを脱がされたら一体どんな事に……。
どうにか、どうにかしないと!
なんとかしてメルを引き剥がさないと、と巡が強く念じたその瞬間。
腰元にまとわりついていた変態女は、なにかに強烈な衝撃を受けたように吹っ飛ばされた。
そしてゴズッ! とテーブルの角にメルの後頭部が直撃するにぶい音が響いた。
「……え?」
何が起きたのかわからず唖然とする巡。カメラをまわしていた駈も同様だった。
当然メルが自分から後方へジャンプしてテーブルに後頭部で頭突きをかますなどという意味不明な行動に出たわけではない。
不自然に吹き飛んだメルを見て、二人は彼女がなにか目に見えない力によってそうなったのだと思わざるを得なかった。
「う、う~ん……」
メルが後頭部をさすりながら上半身を起こす。
「……メルちゃん、だ、大丈夫? さっきものすごい音がしたけど」
「あれ、わたし……。そっか、夢だったんだ」
「なにが?」
「めぐるちゃんとエッチなビデオを撮影するっていう」
「夢じゃないよ! 無理やり襲い掛かってきたでしょ!」
「めぐるちゃんが激しく求めてきて、わたしちょっと困っちゃってて」
「ごめんやっぱそれ夢だよ」
「そしたら大型トラックが横からつっこんできて」
「どこでなにやってたのそれ!? 明らかに野外だよね!?」
「全裸のめぐるちゃんをわたしがかばって、それで……」
「かばわなくてよかったよ。路上で全裸のやつなんていっそひき殺されたらいいんだ」
「あ、わたしも全裸だったんだけど」
「トラックの運転手さんいい仕事した!」
「わたしすごい衝撃で跳ね飛ばされたんだけど……めぐるちゃん無事だったんだね。よかった。……じゃあつづき、しよっか」
「しないよ! だからそれは夢だって! 恐ろしい悪夢だよほんとに!」
なんらかの衝撃で跳ね飛ばされ後頭部をしたたかに打ったはずのメルだが、何事もなかったかのようにすっくと立ち上がった。
さすがに駈が驚いて声をかける。
「夢留ちゃん、大丈夫なのかい? いちおう病院行ったほうがいい。なんか知らんがすごいふっ飛び方だったぞ」
「全然だいじょうぶだよ。メルちゃんこう見えて頑丈だから」
「いや、メルちゃん、やっぱり診てもらったほうがいいよ。他にもいろいろと」
「なんか言った?」
「いえ」
あれだけのダメージをうけてけろっとしているメルに戦慄を覚えつつも、巡は首をひねった。
「にしてもさっきのはなんだったんだろう……」
「なになに? どうしたの?」
「いや、僕の服を脱がそうとしていたメルちゃんがいきなり吹き飛ばされて」
「……あ、な~るほど。さっきの衝撃はきっと魔法だね。うわべは脱がされたくない力と本当は脱がされたくて仕方ない力の相互作用で、めぐるちゃんの魔法力が爆発したんだよ!」
「そうやってもっともらしくウソ言わないでくれる!?」
どうやらメルをどうにかしたいと巡が強く念じた時、魔法によって衝撃波のようなものが発生したようだ。
巡は自分で魔法を使ったという実感がなかったため半信半疑だったが、それ以外に説明がつかなかった。
受けたメル本人が言うのだから間違いない。
駈は「なあんだ魔法か。ならそう驚く事はないな」と余裕をかましていた。
彼は昔、妻である南が起こす魔法を目の当たりにしていたのであろう、理解も早かった。
結局魔法を使った巡本人が一番腑に落ちない状態だった。
「……なんかもう今日は疲れたよ。メルちゃん、当初の目的は果たしたでしょ? お願いだからもう帰ってよ」
「えっ、当初の目的は親の同意をもらう事でしょ?」
「メルちゃん別の同意をもらおうとしたでしょ……。あと男に戻るのに同意が必要とかウソでしょどうせ」
「あっ、バレてた? やだめぐるちゃんったら、そうと知りつつ泳がせてたの?」
悪びれずにそう言うメルにあきれ顔の巡。
そんな顔に駈が真面目な口調で語りだす。
「ところで巡。母さんと環のことなんだが、この際だから本当の事を言おうと思う」
ああ、次は一体なんなんだろう、と今度はうんざりした顔で巡は駈を見上げた。