メルちゃんのお宅訪問 4
「父さんがそんなんだから母さんが愛想つかして出て行ったんだよ? ……そのうえ環まで」
恨みを込めてそうつぶやく。
そう口にすると、巡の中に強い悲しみの感情がこみ上げてきた。
「そうだったな……すまん巡、父さん悪いと思ってる。だがその話なんだが……」
巡がいつになく悲しそうな表情をしたのを見て取ったのか、駈も真剣な顔になる。
一気に室内がシリアスな雰囲気に包まれた。
「たまき? ……めぐるちゃん誰なのその女」
しかしそんな空気を読めない人物が一人いた。メルだ。
正確にはそんなことお構いなしといったところか。
彼女のギラっと鋭い視線が巡につきささる。そして巡の二の腕にメルの手がメリメリと食い込んだ。
華奢な細腕からは考えられないような握力だった。
「い、痛いって、放してよ! 環はただの妹だよ! 四つ下の!」
「妹? ……あやしい」
「いやそこは『なーんだ妹かぁ』って終わるところでしょ!」
「夢留ちゃん鋭い。巡は環が可愛くて可愛くてしょうがないんだよな」
「い、いやべつに? そんなこと、な、ないよ?」
うろたえる巡。口では否定をしているものの、隠し事が下手な彼の挙動は明らかに不審だった。
メルは掴んだ腕を放さずさらに追及する。
「だって妹って……。実の妹なんでしょ?」
「そうだよ。ちゃんと血の繋がりだってあるよ」
「やっぱりあやしい!」
「だからなんで!? 安心していいところでしょ!?」
「義妹なんて生ぬるいのは認めない! めぐるちゃんだってそうでしょ!?」
「僕に同意を求めないでよ! そもそも言ってる意味がわからないし!」
「……ちょっとメルちゃん出かけてくるね。急用ができちゃった」
そう言って巡を解放すると、さっさと部屋を出て行こうとする。
「待って! この流れでどこに行くってのさ!?」
「パパぁ、たまきちゃんって今どこにいるのかなぁ?」
「父さん教えちゃダメ!」
巡は叫んだ。メルの凶行を阻止すべく。
もしメルちゃんに環が狙われたら……。何をされるかわかったもんじゃない!
最悪変わり果てた姿に……弟として再会するなんてことになるかも!
「うん、その事なんだが……」
「だからダメだって!」
巡の危機迫る表情を不思議そうに見つめて、駈は言いよどむ。
メルは直接聞き出すのをあきらめたのか、座り込んでカーペットの上をじーっと見つめだす。
そして両手と膝をつくと何かを探すように首を振りながらはいずりだした、
その奇妙な行動に、巡は思わず尋ねる。
「な、何してるの?」
「……髪の毛とか落ちてないかな~って。たまきちゃんの」
「お、落ちてないって。もう出て行って結構たつし、この前掃除だってしたし。……だ、だいたいそんなの見つけてどうするの?」
「もちろんあらゆる魔法を駆使して髪の毛から居場所を突き止めるんだよ? もう全魔法力をつぎ込むんだから」
「そんなことに全魔法力つぎ込まないでよ! それに居場所を知ってどうするつもり!?」
メルはその質問には答えず、無言で捜索を続ける。
そんな姿に軽く恐怖を覚えた巡は、それ以上声をかける事をためらった。
一方駈はいつの間にか用意したカメラで、彼もまた無言のままメルのおしりを追っていた。
室内は二人がごそごそと動き回る音だけ。全員が沈黙のまま異様な光景が続いた。
やがて一通り徘徊し終わったメルが立ち上がり、額を拭うしぐさをする。
「ふ~、やっぱりないなあ。でもめぐるちゃんの陰毛らしき物を発見しちゃった。リビングでオ○ニーするなんて開放的なんだからもう」
「えっ? ぼ、僕、ここでなんてしないよ!」
「じゃあいっつもどこでしてるのかなぁ?」
「ど、どうでもいいでしょそんなの!」
「最近はもっぱらリビングだな」
「ちょっと勘弁してよ父さん!」
堂々と盗撮行為を働いていた駈が胸を張って言った。
と、その時何かを思いついたようにメルが声を上げる。
「あ、そうだ! めぐるちゃん、たまきちゃんのはいたパンツとか隠し持ってるでしょ? 出して」
「持ってないよ! なにその当然持ってるみたいな言い方!」
「なに? 見せてみろ巡。父さんが鑑定してやろう」
「だから持ってないって! ていうか鑑定できるの!? すごい職人芸!」
「めぐるちゃん、どこに隠してるの? 早く出して。……あ、そっか。今はいてるんだよね?」
「そんなわけないでしょ! そんなに僕を変態に仕立てあげたいの!?」
「ゴチャゴチャ言ってないでさっさと脱いで! ほら!」
巡の下半身にかじりつくメル。
あきらかにズボンもろともパンツまでずり下ろそうとする怪力に、必死で抵抗する巡。
駈はその様子を再び構えたカメラに収めていた。
「ちょ、ちょっと、やめてってば! ……父さん! なに撮ってんの! 助けてよ!」
「レズビアン男装逆レ○プ……。こいつは前衛的すぎるぜ……、新時代の幕開けだ!」
「バカなこと言ってないで早く助けて! メ、メルちゃん、もうトランクス見えてるでしょ! 女物のパンツなんてはいてないって!」
「監督! こんな感じですか? わ、わたしこんなことした経験ないから、ちゃんとできてるか不安ですっ」
「自信なさそうだけどすごい上手だよメルちゃん! 今朝も似たようなことしたよね!? すっごい慣れた手つきだったけど!?」
「うんうん、いい感じだぞ夢留ちゃん。レズというかもはや痴女っぽい」
「やったあ、ほめられちゃった! めぐるちゃんもほら、もっと対抗心を燃やして……」
「そんなのに乗っかるわけないでしょ! そりゃメルちゃんにとっては褒め言葉かもしれないけど! ていうか、なんでこんな流れに……」
巡は脱がされまいとふんばりながら、そう呻いた。
だが彼の奮闘むなしく、さらに力強くなったメルの腕力にずるずるとズボンが下ろされていく。
いままさに巡の貞操は絶体絶命の危機に瀕していた。