メルちゃんのお宅訪問 3
メルは巡に向き直り、まっすぐな視線を向けながら言った。
「だからわたしがめぐるちゃんにこうも惹かれたのも、きっと南さんから引き継がれためぐるちゃんの中に眠る魔法の力を感じ取ったからなんだよ」
「魔法の力……」
「……ねえ、覚えてる? わたしたち二人が出会ったときのこと」
「そりゃ覚えてるよ……。今日の朝だしね……。遠い昔を回想するように言わないでよ」
「そう、めぐるちゃんがねっとりとからみつくようないやらしい目つきでわたしのパンツをガン見した時のこと」
「そんな目つきしてないよ! あれは偶然見えちゃったんだって!」
「でもいいのそんなこと。今となってはあの時パンツなんてはいてなければよかったなって思ってるぐらいだから」
「ダメ。ちゃんとはいて。毎日かかさず」
「とにかく、めぐるちゃんを見た瞬間、体に電流が走ったの。オーガズムに達したの」
「一言多いよ……」
「わたしたちが運命的な出会いを果たしたのも、きっと魔法力がお互いをがひきつけたんだよ」
「なんか無理やり美化しようとしてない?」
「それに答案用紙に東西って名前があって、確信したの。珍しい名前だし。そうじゃなければ見ず知らずの人にいきなり呪いなんてかけないよ」
「また呪いって言った! そうやって正当化しようとして! 僕、この恨みはたぶん一生忘れないと思う」
「だからめぐるちゃんの体だけが目当てじゃないんだよ? そう、これは魔法という名の恋の力に引き寄せられた結果」
「なんかうまいこと言ってるようだけど、体だけがってことはとりあえず体目当てではあるんだね……」
その時、何か考え込むようにしていた駈が口を開いた。
「巡は魔法で女になった。うん、それはわかった。なにせ親の俺から見てもムラムラするぐらいだからな」
「ちょっと! 気持ち悪いんだけど!」
「そこでだ。その容姿を利用しない手はない。父さん素晴らしいアイデアが浮かんだぞ。つまりその……AVを作ろうかと思い立ったんだが」
「いきなり話が飛躍してるよ! そんなのどっかよそで勝手にやってよ!」
「そうか、巡、協力してくれるか!」
「なんで僕が! するわけないでしょ!」
「いやこの際イメージビデオでもいいんだ! いけるぞお前なら!」
「はい! わたし、精一杯頑張ります!」
「メルちゃんなにいい返事してるの!」
「監督、提案があります! わたしとめぐるちゃんが二人で絡み合うというのはどうでしょう!」
「おおっ! それは願ってもない! 父さん想像しただけでガッチガチだ! いやビンビンだ!」
「最悪だよもうほんとに!」
「わたしも想像しただけでおツユが……じゅるっ」
「メルちゃんよだれ! よだれふいて!」
「めぐるちゃんふいてっ! ついでに下のお口も!」
「自分でふけ!」
「よ~し、タイトルは『女ざかりの君たちへ~レズビアンパラダイス~』で決まりだな」
「怒られるよ! 訴えられても知らないよ!?」
「なにを、元は俺の精子の分際で生意気な」
その言葉にカチンときた巡は、駈の弱点を突いて反撃した。
「父さん! くだらないことばかり言ってないで、さっさとまともな仕事についてよ!」
いま、というかここ三年ほど駈は無職だった。
自営業だ、仕事中だ、と言い張ってはこうして家でもスーツを着ている。
フラッといなくなっては何日も帰らなかったり、家にいると思えばたいていパソコンに向かってネットかゲームばかりしているだけだ。
本人いわく金を稼ぐための情報収集だそうだ。
この前はうさんくさい栄養剤の販売に手を染めていたようだが、さっぱり売れず今も押入れに在庫が残っている。
もう飽きたらしい。
というかただのマルチだった。
「案ずるな巡。いま俺はバーチャルな空間でコミュニティを結成し、リーダーとして次々とプロジェクトを立ち上げてはハードなスケジュールをこなしているんだ」
「それネットゲームの話じゃん! 横文字でごまかしても無駄だよ! 最初にバーチャルって言っちゃってるし!」
「だが父さんウソは言ってないぞ。もうウソはこりごりだからな」
数年前駈は会社をクビになったにもかかわらず、半年ほどエア出勤を繰り返していた。
だがある日漫画喫茶から出てくるところを南の知人に目撃され、ついにそれは発覚した。
そしてその夜、容赦ない拷問が行われた。
駈はあらかじめ用意していたウソで巧妙にごまかしていたが、南が本気を出すとすぐに口を割った。
それはもう恐ろしい拷問だったという。二人の寝室には今でも時おり血痕が見つかるそうな。
だが翌日から開き直った駈は、とたんに生き生きしだした。
もう朝からビクビクと席のない会社にいくふりをしなくてもよくなったからだ。
駈は就職活動をするふりをしつつ、やっぱりこれからは自営業だといいつつ、その実好き勝手に遊んでいた。
その態度がついに南の逆鱗に触れたのだ。
ほんの一月ほど前、南はなぜか下の子である巡の妹、東西環だけを連れ実家に帰って行ったのだった。