転校生は美少女? 6
どんよりと沈む巡に、メルが明るく言った。
「めぐるちゃん、そんなに落ち込まないで。いくらメルちゃんだってその場のノリで初対面の人の性別を変えて人生を狂わせるような事するわけないでしょ?」
「したよ! 誰を前にしてそれを言うのさ!」
「怒っちゃいやん。だいじょうぶ、お兄ちゃんに頼めばきっとなんとかしてくれるよ」
「……お兄ちゃん?」
「お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ。すっごい魔法使えるんだよ。わたしよりずーっとすごいの。でもロリコンで童貞だけど」
「ボクもお兄ちゃんにはお世話になっているんだ。あの人はすごいぞ。魔法で大金を稼いだり動かしたりしていて、政界にもコネクションを持つんだ。ただしロリコンで童貞だけど」
え? どういうことだろう。メルちゃんと美道くんのお兄ちゃん? 二人は姉弟……、なわけないし。
「お兄ちゃんは魔法を生み出した人で、私たちは彼のつくった魔法学校で魔法を学んだのよ」
首をかしげる巡に、席に戻った花奈が説明する。彼女は少し教室が騒がしくなってきたため注意して回っていたのだ。
表向きは真面目なクラス委員長なのである。
「え~と、なんでお兄ちゃんなの?」
「本人がそう呼んでって言うから」
「そ、そうなんだ……」
巡はさらにこんがらがりそうになりつつも、とりあえず浮かんだ疑問を口にする。
「魔法学校……」
「そうよ。私とメルはそこで知り合ったの」
「やっぱり御厨さんも魔法を……?」
「ええ。そこのホモ男もそこそこ使えるけど、別口で覚えたみたいだから私たちと面識はないわ。同じクラスになって『君魔法使ってるだろう』って言われた時は驚いたわ」
「ボクはいわば監視役だ。魔法は危険だから、乱用しないようお兄ちゃんに命じられているんだ。なのにこの女ときたらやりたい放題で困ってる」
「え? でも僕そんなの見たことないよ?」
「裏でコソコソやってるんだ。花奈の成績がいいのも運動ができるように見えるのも全部魔法のおかげだ」
「ふん、使えるものを使って何が悪いの? それに私はメルみたいなとんでもないことはしてないし、その辺はわきまえてるつもりよ」
「わたしなんかしたっけ?」メルが不思議そうに言う。
「メルちゃん、僕だっていい加減怒るよ?」
「いいよ。どんどん責めて。なじって」
メルは全くひるむことなく巡に身をすり寄せようとする。
美道はそんなメルを見てため息をつく。
「ああ、花奈に加えてあのメルまで見張らなければならないなんて。これはお兄ちゃんに一度相談しようか」
「ちょっと、話が違うでしょ。口止め料として私に寄ってきた男子をあんたに紹介してあげてるじゃない。あんたがその気ならこっちが逆にチクってもいいのよ?」
「むむ…………。まあここは穏便にいこうじゃないか花奈くん」
「ふん、わかればいいのよ」
うわっ、ひどい。すごいズブズブだよこの二人。
でもこれで御厨さんがあまりにも完璧な理由がわかったぞ。にしても一体どういう魔法を使っているんだろうか……。
「さて、もうこの話はおしまい。私はできるだけ事を荒立てたくないの。一応言っておくけど巡ちゃん、もし一般人にしゃべったら……、わかるわよね?」
花奈が巡の体をなめまわすように見て言う。
その視線に悪寒を感じた巡は、無言でコクコクとうなずいた。
「巡……。できればボクの性癖の事も秘密にしておいてくれないか」
「それは無理。もうみんな知ってる。かなり前から知ってる」
「ははっ、そんなわけないだろう」
陽気に笑う美道を放置し、勝手に携帯で写真を撮ろうとしているメルに確認する。
「メルちゃん、とにかくそのお兄ちゃんって人に僕を元に戻してもらうよう頼んでよね」
「わかってるよぅ。それは放課後になってからのお楽しみ。ほうら、こっち向いて~」
本当にわかってるんだろうか……。
巡はマイペースなメルにうんざりしながら、一方的に始まった撮影会が早く終わるように願っていた。