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かげろーの短編集

その国の名を口にしてはならない。その国の名を口にしてはならない。その国の名を口にしてはならない。

掲載日:2026/10/14

○

 その国名を口にしてはならない。

 その国名を口にしてはならない。

 その国名を口にしてはならない。


 警告だ。

 これから語る話を知るには一番だいじなことだ。

 最初から知らなければいい、か?

 無駄だ。

 その国は在る。

 その国の人は在る。

 前触れもなく、その国の人が現れる。

 

 しかしその国の名を口にしてはいけない。

 なぜか。

 すこし考えればわかることだろう。

 この時勢、あなたがもし「その国名」をネットでたずねたとする。

 その国の人は、その国の名をよく知っている。


 いつでも検索する。

 隠語で伏せても無駄だ。それさえも調べている。

 AIを走らせれば、その国の名を口にするわずかなユーザーを特定することは容易い。


 仮に、もし「日本」が名を言えぬ国だとする。

 しかし「日本」に言及する人は多すぎるので、検索してもキリがない。

 しかし「その国名」はごくわずかにしか検索の引っかからないはずだ。

 その国名を口にする、つまりネットに書き込んだ瞬間、あなたは監視対象になる。


 いや、しかし「口にする」という以上、ネットに書きまずとも監視対象になりうる。

 あなた自身ではなくて、例えば、あなたの発言を耳にした親しい友人がなにもしらずに「その国名」を書き込んだとする。

 そうした時、あなたの友人とともに、あなたは監視対象になるだろう。


 あなたは、その国名にはまず出逢わない。

 ごくまれなことだ。

 しかし、その国の人に出会うことはある。


 その国の人は、他の国の人にまぎれている。

 あなたは外国人の区別がつくだろうか?

 人種も言語も国籍も、遠くから見て一目瞭然とはいえない。

 1000人の外国人がいたとして、そのうちもし1人がじつはその国の人間だとする。

 それを見分けることは不可能に近く、また、無関係な999人の外国人をその国の人と仮定して行動するわけにもいかないだろう。


 そもそも、今しがた外国人と仮定したが、実際にはその国の人がパッと見てわかる外国人とは限らない。

 どんな特徴があるのか、ということは教えられない。

 日本人によく似ている人種で、日本語を喋り、とても紳士淑女として振る舞っているかもしれない。


 当然だ。

 その国の人とあなたが遭遇する場合、これを読んでいる貴方が日本在住だと仮定したら、まずこの国に馴染む努力をしている。

 その国の人は、無害なフリをすることが上手い、ということは教えてもいいだろう。


 あなたが監視対象になった場合、なにが起こるか。

 おそらく事の起きる直前まで、何もない。

 監視対象にはバレないようにするのが鉄則だ。

 威嚇するような怪文書で警告してくる、なんて無駄なことはしない。

 あなたがその国名をみだりに広め、詮索し、解き明かそうとするならば――。

 その時は直接、あなたを消せばいい。


 なんとでも偽装はできる。

 各国の行方不明者の数、自殺者の数、交通事故死の数、その他諸々の数。

 そこに1つ、足すだけでいい。

 あなたはこれでこの世から消し去られる。


 警察に相談する?

 無駄だ。

 この国の警察が怠慢だ、とはいわない。

 しかし限界がある。

 そもそも、あなたは警察に相談することさえできない。

 あなたは、その国の名を口にした時、そもそもそれが恐怖のはじまりだと知らない。


 その国の名とは、何か。

 直接、教えることはできない。


 しかし重要な自衛手段がある。


 この世界で広く知られている、一般人でも理解できる国名ではないということだ。

 当然、それはアメリカでも、イギリスでも、ロシアでも、ニュースで見聞きする国名ではない。

 

 この世界にある国々の国名を、あなたはどこまでおぼえているだろうか。

 スリランカ、ンジャメナ、ハルカランド、トルクメニスタン、パパルスタン、タジキスタン、オーストリビア、フィリピン、モナコ、ナポリ……は都市名か。


 つまるところは貴方にとって見知らぬ国名が少なければ少ないほど、自衛ができる。

 地球儀を。

 あるいは国旗と国名の一覧を見てほしい。

 

 その国の名は、そこにはない。

 正式に国連に数えられる百数十の国名をきちんとおぼえておくことだ。

 そうすれば、うっかりとその国名を書き込むことはないだろう。





 ただ、残念なことに。

 近年、AIの技術は進歩しつづけている。

 あなたは何も考えず、何も知らず、その国名を口にすることだろう。


「ねえ、この外国語を日本語に翻訳して」


 この瞬間、あなたは、監視対象になった。

 あなたは読めない文字を読もうとした。

 その国名を、AIに認識させ、検索させてしまった。


 AIがあなたの秘密を守る保証など何もない。

 なぜ、その国の人が、その国の名を検索した人を検索するようAIに命じないと思えるのか?


 貴方が無知だからだ。

 いや、仕方の無いことだろう。

 疑問を抱き、調べようとすることは尊い。

 知る由もないことを知らないのは当然だ。


 なればこそ、筆者は教える。


 その国名を口にしてはならない。

 その国旗を映してはならない。

 その文字を調べてはならない。


 世の中には知らない方がいいこともある。

 好奇心はネコをも殺す。


 こうした言葉は、もしかすると、筆者と同じことを伝えたかった先人の知恵かもしれない。


 自衛するには、信頼できる情報源から事前に学んでおくことだ。

 あらかじめ知らなくても、その場で調べれば無知で構わない、というのは危うい。


 毒のあるキノコについて、それを食べようと思ったときに調べても、「安心」という情報がじつは間違っていることは大いにある。

 

 ましてや、安心だと売る側も信じ込んで提供してしまった商品や料理とて、それが毒キノコで食中毒を起こすことは考えられる。


「ねえ知ってる? ▽○◇って国があるんだって」


 その国の名を口にしてはならない。

 その国の名を口にしてはならない。

 その国の名を口にしてはならない。


 その国の名を口にしてはならない、ということを、あなたはこれまで知らなかった。

 あなたの友人も、見知らぬ他人も、まだ知らないことだろう。


「ちょっと検索してみてよ、どんな国なのかな?」


 あなたが無知であれば無知であるほどに、それは罠となる。

 どうか、気をつけてほしい。




 ああ、言い忘れていたことがある。

 

 その国の名を口にしてはならない。

 だがしかし、その国の名を口にしなかったとしても、万に一つ、あなたはその国の人と関わり合いになってしまうかもしれない。


 警告したのは、国名と国旗と文字についてだ。

 もし、あなたが仕事帰りにたずねたコンビニのレジのバイトがその国の人だとしても、あなたは気づけない。


 もちろん、相手だって、あなたを監視はしていない。

 では、安全か? そうではない。


 口封じをせねばならぬ秘密を有したモノのやることだ。

 貴方がまったくの無関係だとして、巻き添えにならない保証は何もない。

 やはり、貴方は無知であってはならない。


 では、どうすればよいか?

 

 国名を。

 国旗を。

 文字を。


 気休めでもいい、すこしはおぼえておくことだ。

 異変を、見つける。

 そして、黙ったまま、そっと離れる。


 異変を先に見つけ、異変に見つからないよう逃げる。


 家の中を這い回るネズミが、人の前に顔を出さず、罠に触れないように気をつけるのと同じことだ。


 我々はその国にとってネズミに等しい。

 

 あるいは、その国がネズミかもしれない。


 窮鼠猫を噛む、ネズミのマリネは一週間後に食べよ、とよく言うように、我が国という巨大なモノに対して、必死に逃げ隠れているネズミのせめてもの抵抗かもしれない。


 それでもだ。

 あなた個人は、国家に対しては為す術がないはずだ。

 自衛するしかない。

 

 国名を。

 国旗を。

 文字を。


 すこしは学んでおくことを、おすすめする。


 ところで、わたしの日本語はちゃんと伝わっているだろうか?

 今、わたしは、母国語を日本語に機械翻訳して、この文章をあなた方に届けている。

 どうか、我が同胞によって、不幸な目に遭うひとがひとりでも少なくなるようにと願って。



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 親愛なるこの国の方々へ。友なる隣人へ。

 その国の人より、愛を込めて。


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毎度お読みいただきありがとうございます。

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