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春の彩 2

作者:

訪問ありがとうございます。

これは「春の彩」2話なので、1話から読むことをお勧めします。



それでは、「春の彩」お楽しみいただければ幸いです。




*‥*‥*



人がたくさんいる。

さっきとは違う世界にいるのではないかと疑ってしまうくらい賑やかだ。


ここは時の進みが早い場所。

決まり通りにそって鳴るチャイムは、少しだけ緊張感を与える。

俺はそれに慣れなくて、毎回飽きる事なく落ち着かなくなるのだった。

最初は慣れようとしてはいたが、今では慣れる必要もない気がしてきている。



「ねぇ、遥くん」



誰かに話しかけられた。

ぼんやりしていた頭を切り換えようと、まばたきを数回繰り返す。

視界がはっきりすると、前の席の子がこちらを向いていることに気づいた。



「何?」

「宿題やった?」


「…あったっけ。」



宿題なんて忘れていた。

昨日は確か授業がいつもよりも進みが早かったせいで、授業中に宿題が終わらなかった。

俺は普段から全て授業中に終わらせているので、そんなものがあったことなんてすっかり忘れていた。



「なんだ、遥くんもやってないの?」



大きな目をさらに大きくして彼女は言った。

俺はそれに対して黙って頷く。



「じゃあ、大丈夫かなあ…」



彼女的には俺がやっていなかったことがよかったらしい。

仲間になるからだろうか。

それなら俺は、その仲間になっていた方がいい気がする。



「遥くん!」



前を向き直したはずの彼女の顔は、もう一度俺を見ていた。



「?」

「今日、私たちの列に先生当てる日じゃない?やった方がいいよね!?」


「あ-そうだね」



彼女は、慌てて教科書とノートを開いた。

俺もやっておこう。

面倒事はごめんだ。


引き出しの中から必要な物を取り出して解きはじめた。

掲示板にかかっている時計をチラリと見ると、あと3分で授業が始まるとわかる。


カップラーメンが作れるな…。


そんなしょうもない事を考えながら宿題にとりかかっていると、ガラッと勢いよく教室の扉が開かれた。

先生が入ってきたようだ。

みんなこそこそと席につきはじめる音がする。

そして、誰かが言った。



「きりーつ、きょーつけ、れー」



気だるい声が号令をかけ終えたと同時に鐘が鳴った。





*‥*‥*




「なぁなぁ、はるー」



放課後。

後ろからうるさいやつがついてきていた。



「何」



そっけなく答えると、そいつは俺の腕をぐいぐい引っ張った。

痛い。



「お前さ、お前さ、お前さ!楠木さんと仲良しなの?どうなんだよ!そこんとこはっきり頼むよ!」



クスノキさん……?

誰だろうか。

まったく思いあたらない。

だいたい、女子の名前なんて覚えているのは極わずかだ。



「……誰?」



そう尋ねると大祐は俺の両肩をがっしりとつかんでがくがく揺らした。

痛い。



「おまっっっ!!4限の前に話してたじゃん!はるの前の席の超可愛いい方です!」

「あ-…あの子、楠木っていうのか。」



可愛いか可愛くないかと聞かれれば間違いなく可愛い方。

けれども、そこまで執着するほどの人なのだろうか。



「好きなの?」



あまりに力強く握られていた肩から手を振り払って大祐を見ると、みるみるうちに顔が赤くなっていった。

面白い。



「ち、ちが!……くない…」



大祐は口元を手の甲で抑えて目をそらす。



「………ふっ」

「…な、笑うなよ」



思わず笑ってしまった。

大祐は嘘がつけないやつで、隠し事ができない。


そういえば、いつから好きだったのだろうか。

全然気がつかなかった。

それもそうか。

俺は今日はじめて彼女の名前を知ったのだ。



「話したことある?」



大祐はこくんと頷く。



「メアドは?」



ふるふると首を振った。



「じゃあ聞けば?」



そう言うと大祐は怒った。



「そ、そう簡単に言うなよ!俺は…余裕なんて、ほんとになくて、まともに…顔みれないんだよ…」



最後の方になるにつれ大祐は小声になりながら、恥ずかしい事を言った。

聞いているこっちが、恥ずかしい。



「ま、頑張ってみれば」



大祐を見るのは面白いが、面倒事に巻き込まれるのはごめんなので、俺はさっさとその場を退散した。







*‥*‥*




「あ、あのっ」



夕暮れ時。


下駄箱にオレンジ色の光が長く差し込んでいる。その中に一つ、長い影が入り込んできた。



「……遥くん」


「…何?」



夕焼けが穏やかに明るい春の光。

けれども、その中で目の前にある影は深い色をしていた。



「一緒に…帰って下さい」






断る理由も見つからない。

だから、ただ何も言わなかっただけ。

けれど、この子はあのクスノキさんだった。



「あの…さ」



彼女はうつむきながら言う。



「遥くん」

「ん?」

「私………」



「やっぱり、いいや」



クスノキさんは笑った。

俺は、その先を聞かない。

どうして、今隣を歩いているのか。

それも、聞かない。

ただ、俺は口をつぐんだ彼女が言いたかったことを、言うまで待った方がいい気がしたから。




「ねぇ」

「ん?何でしょう?」



彼女は小首を傾げてこっちを向いた。



「今日は、部活だったの?」

「うん。あ、はるかくんって私の部活わかるの?」



意地悪く笑って、少し上目づかいで俺を見た。



「……吹奏楽?」

「ブーっ!違うよ!やっぱ、知らなかった-」

「うん、ごめん」


「美術部だよ。基本的に私は水彩画」

「へ-。絵が上手いのか」

「少し自信はあるよ。でもね、やっぱり上には上がいるの」



そう言っている彼女は嬉しそうだった。

絵が好き、と伝わってくる。




ふと、彼女は呟いた。


「あのね、美術室からよく見えるんだよ」

「?」


「弓道部」


「……」



「きゅ、弓道ってすごいよね!雰囲気が張り詰めてて、矢が的にあたるとか!」


「なかなか難しいよ」

「そうなんだ。じゃあ、当たった時は嬉しいね」



「うん」





毎日通る帰り道。

ただの夕焼け。

それが、なぜかいつもと違う気がした。




この続きはサイトの方が早く更新されます


そっちでのこの続きは「春の彩 5」からとなります

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