表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕はひなたで生きていく  作者: とま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/26

第16話「均衡の塔:光を拒む階段」

 北へ向かって、十五日。


 長い、長い旅だった。


 険しい山を越え、深い谷を渡り、果てしない荒野を歩いた。

 教会の騎士に追われたこともあった――三度。

 賞金稼ぎに襲われたこともあった――数え切れないほど。


 けれど、二人は逃げ切った。

 光と影の力で、戦い、逃げ、生き延びた。


 そして――今。


 目の前に、それは――あった。


 均衡の塔。


 荒野の真ん中に、ただ一つ――異様なほど孤独に聳え立つ塔。


 黒い。

 まるで闇を固めたような、深い黒。


 黒曜石で造られているのか――表面は鏡のように滑らかで、継ぎ目が一切見えない。

 まるで、一枚の巨大な岩を削り出したような。

 人の手で作られたとは思えない、完璧な造形。


 高さは――。


 見上げても、見上げても、頂上が見えない。

 雲の中に消えている。

 いや、雲を突き抜けて、さらに上へ続いているように見える。


 窓はない。

 装飾もない。

 文様も、彫刻も、何もない。


 ただ、静かに――圧倒的な存在感で――そこにある。


「……これが」


 ソウが、息を呑んで呟いた。


 声が、震えている。


「均衡の塔……」


 ヒナも、塔を見上げている。


 首が痛くなるほど見上げても――頂上が見えない。


「すごい……本当に、あったんだ」


 その声が、畏怖に満ちている。


 二人は、しばらく――長い間、立ち尽くしていた。


 言葉も出ない。

 ただ、見上げる。


 塔の前には、何もない。


 ただ、乾いた荒野が――どこまでも広がっているだけ。


 草も生えていない。

 石ころ一つない。

 ただ、灰色の土。


 風も――吹いていない。


 空気が、止まっている。


 静寂。


 完全な、絶対的な静寂。


 それが、塔の周りを――まるで結界のように満たしていた。


 虫の声もない。

 鳥の鳴き声もない。


 生命の気配が、まったくない。


「……行こう」


 ソウが、決意を込めて――一歩、踏み出した。


 その瞬間――。


 ガクン、と。


 胸が――激しく締め付けられた。


「……っ!?」


 まるで、見えない手に心臓を掴まれたような。


 息が――できない。

 浅く、浅く、喉が詰まる。


 あの感覚だ。


 森で倒れていたときの――あの、生命が"続かない"感覚。

 魂が、欠けている感覚。


 世界が、拒絶している。


「ソウ!?」


 ヒナが、慌てて駆け寄ってソウの手を掴んだ。


 両手で、強く。


 瞬間――。


 温かさが、流れ込んできた。


 金色の光が、手のひらから――まるで血液のように体に広がる。


 呼吸が、ゆっくりと戻る。

 詰まっていた喉が、開く。


「……っはぁ、はぁ……」


 ソウは、荒く息をした。


「大丈夫!? ソウ!」


 ヒナが、必死な顔で尋ねる。


 その目に、恐怖の色。


「ああ……なんか、急に――」


 ソウは、震える手で胸を押さえた。


 心臓が、バクバクと不規則に打っている。


「塔に、近づいたから……?」


 ヒナが、恐る恐る塔を見た。


 その目に、警戒の色。


「……たぶん」


 ソウは、額の汗を拭いながら頷いた。


 塔が――何かを放っている。


 目に見えない、けれど確かな何か。


 圧力。

 拒絶。

 殺意にも似た、敵意。


 それが、自分の魂を――欠けた魂を、押しつぶそうとしている。


「……でも、行かないと」


 ソウは、歯を強く食いしばった。


 痛みに耐えるように。


「ここまで来たんだ。引き返すなんて――できない」


「うん」


 ヒナは、ソウの手を――さらに強く握った。


 その手が、震えている。

 彼女も、怖いのだ。


「一緒に、行こう。私がいる」


 その声が、勇気を振り絞るように震えている。


 二人は――また、歩き出した。


 塔へ。


 一歩、また一歩。


 近づくほどに――圧力が、明らかに強くなる。


 ソウの呼吸が、どんどん浅くなる。

 足が、鉛のように重い。

 視界が、端から暗く狭まっていく。


 けれど――ヒナの手が、温かい。


 その温度が、金色の光が――ソウを繋ぎ止める。

 生命を、続けさせる。


「……もう少し」


 ヒナが、苦しそうに囁く。


 彼女も、辛いのだ。

 光を送り続けることが。


「もう少しで、着く。頑張って」


 ソウは、歯を食いしばって頷いた。


 五歩。

 四歩。

 三歩。


 塔の入り口が、目の前に迫ってきた。


 黒い石の壁に――ぽっかりと、まるで口を開けたように開いた穴。


 扉はない。

 鍵もない。

 ただ――開いている。


 招いているのか。

 それとも、拒んでいるのか。


 二人は、その前に――ようやく辿り着いた。


 中は――深い闇。


 外の光が、まったく届かない。

 まるで、光を拒んでいるように。

 いや、光を飲み込んでいるように。


「……入る?」


 ヒナが、震える声で尋ねる。


「ああ」


 ソウは、覚悟を決めて頷いた。


「行くしかない」


 二人は、手を繋いだまま――暗闇の中へ入った。


 塔の中へ。


* * *


 中は――冷たかった。


 骨まで凍るような、冷たさ。


 外の荒野より、ずっと、ずっと冷たい。

 空気が――まるで刃のように、肌に刺さる。


 ヒュゥゥゥ――。


 どこからか、風のような音が聞こえる。

 けれど、風は吹いていない。


 塔自体が、呼吸しているような――そんな音。


 足元を見ると――黒い石の床。

 鏡のように磨かれた、冷たい床。


 そして――階段。


 螺旋状に、上へ上へと――果てしなく続いている。


 暗闇の中に消えていく階段。

 どこまで続くのか、見当もつかない。


 壁には、何も描かれていない。

 何の装飾もない。

 窓もない。


 ただ、冷たい黒い石の壁。


 そして、階段だけが――上へ、ひたすら上へ続いている。


「……登るしかないね」


 ヒナが、小さく呟いた。


 その声が、塔の中で静かに反響する。


「ああ」


 ソウは、深く息を吸って――一段目に足をかけた。


 その瞬間――。


 ズシンッ。


 世界が、激しく揺れた。


 いや――違う。

 自分の中が、揺れた。


 魂が――。


 魂が――激しく拒絶されている。


 それが、痛いほどはっきりと分かった。


 まるで、世界そのものが――「お前はここにいるべきではない」と叫んでいるような。


「……っ!」


 膝が、ガクンと折れそうになる。


 全身に、冷や汗が噴き出す。


 けれど――ヒナの手が、しっかりと支えてくれる。


「大丈夫、ソウ」


 彼女の声が、震えながらも――温かい。


 その手が、金色の光を送ってくれる。


「私がいる。大丈夫」


 ソウは、歯を食いしばった。


 ギリ、と歯が軋む音。


「……ああ」


 声を絞り出す。


 もう一段、登る。


 二段目。


 圧力が――さらに、明らかに強くなる。


 息が、苦しい。

 喉が、締め付けられる。

 心臓が、ギュウギュウと痛む。


 まるで、世界全体が――巨大な手で、自分を押しつぶそうとしているような。


 存在を、消そうとしているような。


「これが――」


 ソウは、呟いた。


「世界の、拒絶……」


 ヒナが、息を呑んだ。


「薬師のおじいさんが言ってた……」


 彼女は、塔を見上げた。


「この塔は、半魂を試す装置だって」


「試す……?」


「そう」


 ヒナは、頷いた。


「半魂が、本当に生きるに値するか。世界に存在する資格があるか」


 その言葉が、重く響いた。


「それを、試される場所」


 ソウは、拳を握った。


 試される。


 自分の存在を。


 半分の魂しかない、不完全な存在を。


「……なら」


 ソウは、前を向いた。


「証明してやる」


 彼は、また一段登った。


「俺は、生きる資格がある」


 痛みに耐えながら。


「ヒナと、一緒に生きる資格がある」


 圧力が、さらに強くなる。


 けれど、止まらない。


 一段、また一段。


 ヒナが、隣で歩いている。


 彼女も――苦しそうだ。


 額に汗が滲んでいる。


「ヒナ……お前も、苦しいのか?」


「……うん、少し」


 ヒナは、小さく笑った。


「でも、平気」


 その笑顔が、痛々しい。


「無理するな」


「ソウこそ」


 ヒナは、握った手を強くした。


「私たち、一緒だから」


 二人は、登り続けた。


 螺旋階段を。


 上へ、上へ。


 十段。二十段。三十段。


 数えるのも、やめた。


 ただ、登る。


 圧力が――どんどん強くなる。


 ソウの視界が、暗く縁取られる。

 呼吸が、浅い。心臓が、不規則に打つ。


 けれど――ヒナの手が、離れない。


 その温度が、命綱だ。


「……ソウ」


 ヒナが、呟いた。


「ん……?」


「私、分かった」


 その声が、震えている。


「この塔――光を、拒んでる」


「光を……?」


「うん」


 ヒナは、自分の手を見た。


 いつもなら、光を出せる。

 けれど、今――光が、弱い。


 淡く、揺らいでいる。


「私の光が、抑えられてる」


 ヒナの声が、苦しそうだ。


「だから、ソウに――十分な光を送れない」


 ソウは、はっとした。


 だから、こんなに苦しいのか。


 ヒナの光が弱まっているから、自分の魂が満たされない。


「……でも」


 ソウは、ヒナの手を握り直した。


「お前の光、感じるぞ」


 確かに、弱い。

 けれど――ある。


 温かい光が、手のひらから流れ込んでいる。


「弱くても、お前の光がある」


 ソウは、前を向いた。


「だから、まだ登れる」


 また一段。


 痛みが、全身を襲う。


 けれど、止まらない。


 ヒナも、一緒だ。


 彼女も苦しんでいる。

 光を抑えられ、痛みに耐えている。


 それなのに――手を離さない。


 その覚悟が、ソウを支える。


「……ヒナ」


「ん……?」


「ありがとう」


 ソウは、呟いた。


「お前がいなきゃ、ここまで来れなかった」


 ヒナは、小さく笑った。


「私も、ソウがいなきゃ――」


 彼女は、塔を見上げた。


「ここに来る勇気、なかった」


 二人は、また登った。


 階段が――どこまでも続いている。


 終わりが、見えない。


 けれど、登り続ける。


 時間の感覚が、なくなった。


 どれだけ登ったのか。

 何段、越えたのか。


 分からない。


 ただ、登る。


 一段、また一段。


 圧力が――限界に近づいている。


 ソウの膝が、震える。

 視界が、ほとんど暗い。


 心臓が――止まりそうだ。


「……もう、無理……かも」


 ソウが、かすれた声で呟いた。


 膝が、完全に崩れそうだ。

 視界が、ほとんど真っ暗だ。


「ソウ!」


 ヒナが、慌ててソウの体を支えた。


 細い腕で、必死に。


「諦めないで! ダメ!」


 その声が、涙声になっている。


「でも……もう……」


 ソウの意識が、薄れていく。


 暗闇が、全てを飲み込もうとしている。


「まだ、私がいる」


 ヒナは、ソウの肩に手を回した。


 その手が、震えている。


「まだ、一緒だから。一人じゃないから」


 その声が――必死に、ソウを呼んでいる。


 温度が――ソウの胸に流れ込む。


 金色の光。

 弱いながらも――確かに、ある。


 ヒナの光が、ソウの欠けた魂を満たす。

 生命を、繋ぎ止める。


 同時に――。


 影が、動いた。


 ソウの足元の影が――ヒナの光を受けて、変化する。


 ソウは、かすむ視界で自分の影を見た。


 階段に伸びる、黒い影。


 それが――うねるように動いて。


 ヒナの光に触れた瞬間――。


 パキ、パキパキッ。


 結晶化した。


 黒い支柱のように。

 階段から立ち上がり、ソウの体を――下から支える。


「……これだ」


 ソウは、はっと気づいた。


 影の力。


 それが、今――自分を物理的に支えている。


 ヒナの光が魂を満たし、影の力が体を支える。


 循環。


「ヒナ、光を――もう少し出せる?」


 ソウが、震える声で尋ねる。


「うん」


 ヒナは、必死に両手を開いた。


 手のひらに、光を集める。


 弱い光。

 揺らぐ光。

 けれど――確かな光。


 その金色の輝きが、ソウの影に触れる。


 影が――さらに固まる。


 パキパキパキッ。


 階段を支えるように。

 壁を支えるように。

 ソウの体を、しっかりと支えるように。


「……行ける」


 ソウは、影に支えられて――ゆっくりと立ち上がった。


 まだ苦しい。

 まだ痛い。


 けれど――動ける。


「影と光で、支え合えば――」


 彼は、震える足で前を向いた。


 上へ続く、階段。


「登れる。二人なら」


 ヒナは、涙を浮かべて――笑った。


「そうだね」


 彼女も、ソウに寄り添って立ち上がる。


「私たち、二人でしか――登れない」


 その言葉が、この塔の――この試練の、真実だった。


 ソウ一人では、圧力に耐えられない。

 魂が拒絶されて、消えてしまう。


 ヒナ一人では、光が抑えられて弱すぎる。

 階段を登る力もない。


 けれど、二人なら――。


 影と光が重なれば――。


 支え合えば――。


 登れる。


 必ず。


 二人は、また歩き出した。


 影が階段を支え、光がソウを満たす。


 循環。


 それが、ここでも――機能している。


 一段、また一段。


 痛みは、まだある。

 苦しさも、変わらない。


 けれど――諦めない。


 二人で、登る。


 光と影の、二人組として。


 階段が――やがて、終わりを見せた。


 上に、光が見える。


 出口だ。


「……着く」


 ソウが、呟いた。


「うん」


 ヒナも、頷いた。


 二人は、最後の力を振り絞った。


 一段、また一段。


 光が、近づく。


 そして――。


 塔の、頂上へ。


* * *


 光が――満ちていた。


 眩しい。


 外の光。

 空の光。

 太陽の光。


 塔の頂上は――開けていた。


 屋根がない。

 壁もない。


 ただ、円形の広場。

 黒い石の床だけが、広がっている。


 そして、中央に――何かがある。


 祭壇。


 黒い石で造られた、古代の祭壇。


 ソウとヒナは――限界だった。


 その場に、膝から崩れ落ちるように座り込んだ。


 ドサッ、と。


 息が、荒い。

 ハァ、ハァ、ハァ――。


 全身が、震えている。

 汗が、滝のように流れている。


 けれど――。


 登り切った。


「……やった」


 ヒナが、涙を流しながら――笑った。


「登れた……本当に、登れた……」


 ソウも、涙を拭いながら笑った。


「ああ……やったな……」


 二人は、しばらく――長い間、呼吸を整えた。


 胸が、激しく上下する。

 心臓が、バクバクと鳴っている。


 圧力は――まだある。


 完全には消えていない。

 まだ、魂を押しつぶそうとする力がある。


 けれど、階段ほどではない。


 少し――ほんの少しだけ、楽になった。


 呼吸ができる。

 立てる。


 ソウは、祭壇を見た。


 黒い石で造られている。

 その中央に――何かが刻まれている。


 文字? いや、違う。

 模様のようなもの。


 複雑な、幾何学模様。


 それを見ていると――胸の刻印が、熱くなった。


「……っ」


 ソウは、胸を押さえた。


 刻印が、光っている。


 金色に。


 ヒナも、同じだ。


 彼女の刻印も、光っている。


「これ……」


 ヒナが、祭壇を見た。


「反応してる」


 二人は、ゆっくりと立ち上がった。


 震える足で。

 支え合いながら。


 祭壇へ、近づく。


 一歩、また一歩。


 近づくほどに――刻印が、さらに強く光る。


 胸が、熱い。

 まるで、燃えているように。


 そして――。


 祭壇の模様も、光り始めた。


 金色に。


 まるで呼応するように、複雑な幾何学模様が――一つずつ、光を灯していく。


 光が、渦を巻くように広がる。


 ブゥゥゥン――。


 低い音が、空気を震わせる。


 祭壇から、何かが――ゆっくりと浮かび上がった。


 光の塊。


 眩しい、金色の光。


 それが――形を取り始める。


 輪郭が現れる。

 頭。

 体。

 手足。


 人の形。


 いや――人ではない。


 光で造られた、何か。

 意志を持った、存在。


 それが――ゆっくりと、口を開いた。


『――よく、来た』


 声が、響いた。


 塔全体に。

 いや、世界全体に。


 まるで、天から降ってくるような――重く、深く、温かい声。


『半魂の者よ。そして、光持ちよ』


 光の存在が、二人を――真っ直ぐに見た。


 その目は、優しい。


『お前たちは、試練を越えた』


 ソウとヒナは、息を呑んで――黙って聞いている。


 言葉が、出ない。


 ただ、その存在の前に立つだけで――圧倒される。


『この塔は、世界の拒絶を具現化したもの』


 光の存在が、塔を示した。


『半魂は、世界に拒まれる。それが、法則』


 その言葉が、重く響く。


『だが、お前たちは――登り切った』


 光の存在が、二人の手を見た。


『二人で、支え合いながら』


 ソウは、ヒナの手を握った。


 彼女も、同じように握り返す。


『それが、答えだ』


 光の存在が、微笑んだ――ように見えた。


『半魂は、一人では生きられない。けれど、光持ちと共にあれば――生きられる』


『そして、光持ちも――一人では、この塔を登れない。けれど、半魂と共にあれば――登れる』


 その言葉が、胸に沁みた。


『お前たちは、証明した』


 光の存在が、両手を広げた。


『二人で一つ。それが、真実だと』


 ソウとヒナは、顔を見合わせた。


 二人で、一つ。


 それは――ずっと言われてきたこと。


 けれど、今――本当の意味で理解した。


『さあ、半魂の者よ』


 光の存在が、ゆっくりと祭壇を指し示した。


 その動きが、厳かだ。


『お前の魂を、完全にする術式がここにある』


 ソウの心臓が、ドクンと大きく跳ねた。


 ついに――。


 ついに、ここまで来た。


『だが――知れ』


 光の存在の声が、一段と厳しく、重くなった。


『魂を完全にすることは――お前たちの繋がりを、変える』


「……変える?」


 ソウが、震える声で尋ねた。


 変わる?

 どう変わる?


『依存から、共存へ』


 光の存在が、静かに――けれど確かに答えた。


『今、お前は光持ちなしでは生きられない。三十歩以上離れれば、魂が続かず――死ぬ』


 その言葉が、事実を突きつける。


『だが、魂が完全になれば――お前は、一人でも生きられる』


 ソウは、ゴクリと息を呑んだ。


 一人でも――。


 生きられる?


『そして、それは――』


 光の存在が、優しくヒナを見た。


『光持ちへの負担も、大きく減る』


 ヒナが、ハッと目を見開いた。


『お前の光は、もう半魂を満たすためだけに使われない』


 光の存在が――温かく微笑んだ。


『お前の光は、お前自身のものになる。お前自身の力になる』


 その言葉が――まるで祝福のように、温かかった。


 ソウは、隣にいるヒナを見た。


 彼女も、涙を浮かべて――こちらを見ている。


 その目が、希望に輝いている。


「……本当に?」


 ヒナが、声を震わせて尋ねた。


「私の光が――本当に、私のものに……?」


 その声に、どれだけの願いが込められているか。


『そうだ』


 光の存在が、力強く頷いた。


『お前たちは、もう――呪われた契約ではなく、選ばれた絆で結ばれる』


 その言葉が、胸に――深く、深く染み込む。


 選ばれた絆。


 強制ではなく。

 呪いではなく。


 自分たちで選んだ、絆。


 ソウは、胸が熱くなった。


 涙が、溢れそうになる。


 それが――自分たちの、未来。


「……やろう」


 ソウは、涙を拭って――決めた。


「魂を、完全にする」


 ヒナは、涙を流しながら――心から笑った。


「うん」


 その笑顔が、太陽のように輝いている。


 二人は、手を繋いで――祭壇へ向かった。


 最後の一歩を。


 光の存在が、優しく道を開ける。


『では、始めよう』


 光の存在が、祭壇に――両手をゆっくりと置いた。


『半魂を完全にする、古代の術式を』


 その声が、響く。


 祭壇が――強く、強く光り始めた。


 金色の光が、激しく渦を巻く。


 まるで嵐のように。


 空気が震える。

 塔全体が震える。


 光が、二人を包み込む。


 ソウとヒナは――その眩い光の中へ。


 手を繋いだまま。


 新しい未来へと――。


 希望へと――。


 踏み出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ