第16話「均衡の塔:光を拒む階段」
北へ向かって、十五日。
長い、長い旅だった。
険しい山を越え、深い谷を渡り、果てしない荒野を歩いた。
教会の騎士に追われたこともあった――三度。
賞金稼ぎに襲われたこともあった――数え切れないほど。
けれど、二人は逃げ切った。
光と影の力で、戦い、逃げ、生き延びた。
そして――今。
目の前に、それは――あった。
均衡の塔。
荒野の真ん中に、ただ一つ――異様なほど孤独に聳え立つ塔。
黒い。
まるで闇を固めたような、深い黒。
黒曜石で造られているのか――表面は鏡のように滑らかで、継ぎ目が一切見えない。
まるで、一枚の巨大な岩を削り出したような。
人の手で作られたとは思えない、完璧な造形。
高さは――。
見上げても、見上げても、頂上が見えない。
雲の中に消えている。
いや、雲を突き抜けて、さらに上へ続いているように見える。
窓はない。
装飾もない。
文様も、彫刻も、何もない。
ただ、静かに――圧倒的な存在感で――そこにある。
「……これが」
ソウが、息を呑んで呟いた。
声が、震えている。
「均衡の塔……」
ヒナも、塔を見上げている。
首が痛くなるほど見上げても――頂上が見えない。
「すごい……本当に、あったんだ」
その声が、畏怖に満ちている。
二人は、しばらく――長い間、立ち尽くしていた。
言葉も出ない。
ただ、見上げる。
塔の前には、何もない。
ただ、乾いた荒野が――どこまでも広がっているだけ。
草も生えていない。
石ころ一つない。
ただ、灰色の土。
風も――吹いていない。
空気が、止まっている。
静寂。
完全な、絶対的な静寂。
それが、塔の周りを――まるで結界のように満たしていた。
虫の声もない。
鳥の鳴き声もない。
生命の気配が、まったくない。
「……行こう」
ソウが、決意を込めて――一歩、踏み出した。
その瞬間――。
ガクン、と。
胸が――激しく締め付けられた。
「……っ!?」
まるで、見えない手に心臓を掴まれたような。
息が――できない。
浅く、浅く、喉が詰まる。
あの感覚だ。
森で倒れていたときの――あの、生命が"続かない"感覚。
魂が、欠けている感覚。
世界が、拒絶している。
「ソウ!?」
ヒナが、慌てて駆け寄ってソウの手を掴んだ。
両手で、強く。
瞬間――。
温かさが、流れ込んできた。
金色の光が、手のひらから――まるで血液のように体に広がる。
呼吸が、ゆっくりと戻る。
詰まっていた喉が、開く。
「……っはぁ、はぁ……」
ソウは、荒く息をした。
「大丈夫!? ソウ!」
ヒナが、必死な顔で尋ねる。
その目に、恐怖の色。
「ああ……なんか、急に――」
ソウは、震える手で胸を押さえた。
心臓が、バクバクと不規則に打っている。
「塔に、近づいたから……?」
ヒナが、恐る恐る塔を見た。
その目に、警戒の色。
「……たぶん」
ソウは、額の汗を拭いながら頷いた。
塔が――何かを放っている。
目に見えない、けれど確かな何か。
圧力。
拒絶。
殺意にも似た、敵意。
それが、自分の魂を――欠けた魂を、押しつぶそうとしている。
「……でも、行かないと」
ソウは、歯を強く食いしばった。
痛みに耐えるように。
「ここまで来たんだ。引き返すなんて――できない」
「うん」
ヒナは、ソウの手を――さらに強く握った。
その手が、震えている。
彼女も、怖いのだ。
「一緒に、行こう。私がいる」
その声が、勇気を振り絞るように震えている。
二人は――また、歩き出した。
塔へ。
一歩、また一歩。
近づくほどに――圧力が、明らかに強くなる。
ソウの呼吸が、どんどん浅くなる。
足が、鉛のように重い。
視界が、端から暗く狭まっていく。
けれど――ヒナの手が、温かい。
その温度が、金色の光が――ソウを繋ぎ止める。
生命を、続けさせる。
「……もう少し」
ヒナが、苦しそうに囁く。
彼女も、辛いのだ。
光を送り続けることが。
「もう少しで、着く。頑張って」
ソウは、歯を食いしばって頷いた。
五歩。
四歩。
三歩。
塔の入り口が、目の前に迫ってきた。
黒い石の壁に――ぽっかりと、まるで口を開けたように開いた穴。
扉はない。
鍵もない。
ただ――開いている。
招いているのか。
それとも、拒んでいるのか。
二人は、その前に――ようやく辿り着いた。
中は――深い闇。
外の光が、まったく届かない。
まるで、光を拒んでいるように。
いや、光を飲み込んでいるように。
「……入る?」
ヒナが、震える声で尋ねる。
「ああ」
ソウは、覚悟を決めて頷いた。
「行くしかない」
二人は、手を繋いだまま――暗闇の中へ入った。
塔の中へ。
* * *
中は――冷たかった。
骨まで凍るような、冷たさ。
外の荒野より、ずっと、ずっと冷たい。
空気が――まるで刃のように、肌に刺さる。
ヒュゥゥゥ――。
どこからか、風のような音が聞こえる。
けれど、風は吹いていない。
塔自体が、呼吸しているような――そんな音。
足元を見ると――黒い石の床。
鏡のように磨かれた、冷たい床。
そして――階段。
螺旋状に、上へ上へと――果てしなく続いている。
暗闇の中に消えていく階段。
どこまで続くのか、見当もつかない。
壁には、何も描かれていない。
何の装飾もない。
窓もない。
ただ、冷たい黒い石の壁。
そして、階段だけが――上へ、ひたすら上へ続いている。
「……登るしかないね」
ヒナが、小さく呟いた。
その声が、塔の中で静かに反響する。
「ああ」
ソウは、深く息を吸って――一段目に足をかけた。
その瞬間――。
ズシンッ。
世界が、激しく揺れた。
いや――違う。
自分の中が、揺れた。
魂が――。
魂が――激しく拒絶されている。
それが、痛いほどはっきりと分かった。
まるで、世界そのものが――「お前はここにいるべきではない」と叫んでいるような。
「……っ!」
膝が、ガクンと折れそうになる。
全身に、冷や汗が噴き出す。
けれど――ヒナの手が、しっかりと支えてくれる。
「大丈夫、ソウ」
彼女の声が、震えながらも――温かい。
その手が、金色の光を送ってくれる。
「私がいる。大丈夫」
ソウは、歯を食いしばった。
ギリ、と歯が軋む音。
「……ああ」
声を絞り出す。
もう一段、登る。
二段目。
圧力が――さらに、明らかに強くなる。
息が、苦しい。
喉が、締め付けられる。
心臓が、ギュウギュウと痛む。
まるで、世界全体が――巨大な手で、自分を押しつぶそうとしているような。
存在を、消そうとしているような。
「これが――」
ソウは、呟いた。
「世界の、拒絶……」
ヒナが、息を呑んだ。
「薬師のおじいさんが言ってた……」
彼女は、塔を見上げた。
「この塔は、半魂を試す装置だって」
「試す……?」
「そう」
ヒナは、頷いた。
「半魂が、本当に生きるに値するか。世界に存在する資格があるか」
その言葉が、重く響いた。
「それを、試される場所」
ソウは、拳を握った。
試される。
自分の存在を。
半分の魂しかない、不完全な存在を。
「……なら」
ソウは、前を向いた。
「証明してやる」
彼は、また一段登った。
「俺は、生きる資格がある」
痛みに耐えながら。
「ヒナと、一緒に生きる資格がある」
圧力が、さらに強くなる。
けれど、止まらない。
一段、また一段。
ヒナが、隣で歩いている。
彼女も――苦しそうだ。
額に汗が滲んでいる。
「ヒナ……お前も、苦しいのか?」
「……うん、少し」
ヒナは、小さく笑った。
「でも、平気」
その笑顔が、痛々しい。
「無理するな」
「ソウこそ」
ヒナは、握った手を強くした。
「私たち、一緒だから」
二人は、登り続けた。
螺旋階段を。
上へ、上へ。
十段。二十段。三十段。
数えるのも、やめた。
ただ、登る。
圧力が――どんどん強くなる。
ソウの視界が、暗く縁取られる。
呼吸が、浅い。心臓が、不規則に打つ。
けれど――ヒナの手が、離れない。
その温度が、命綱だ。
「……ソウ」
ヒナが、呟いた。
「ん……?」
「私、分かった」
その声が、震えている。
「この塔――光を、拒んでる」
「光を……?」
「うん」
ヒナは、自分の手を見た。
いつもなら、光を出せる。
けれど、今――光が、弱い。
淡く、揺らいでいる。
「私の光が、抑えられてる」
ヒナの声が、苦しそうだ。
「だから、ソウに――十分な光を送れない」
ソウは、はっとした。
だから、こんなに苦しいのか。
ヒナの光が弱まっているから、自分の魂が満たされない。
「……でも」
ソウは、ヒナの手を握り直した。
「お前の光、感じるぞ」
確かに、弱い。
けれど――ある。
温かい光が、手のひらから流れ込んでいる。
「弱くても、お前の光がある」
ソウは、前を向いた。
「だから、まだ登れる」
また一段。
痛みが、全身を襲う。
けれど、止まらない。
ヒナも、一緒だ。
彼女も苦しんでいる。
光を抑えられ、痛みに耐えている。
それなのに――手を離さない。
その覚悟が、ソウを支える。
「……ヒナ」
「ん……?」
「ありがとう」
ソウは、呟いた。
「お前がいなきゃ、ここまで来れなかった」
ヒナは、小さく笑った。
「私も、ソウがいなきゃ――」
彼女は、塔を見上げた。
「ここに来る勇気、なかった」
二人は、また登った。
階段が――どこまでも続いている。
終わりが、見えない。
けれど、登り続ける。
時間の感覚が、なくなった。
どれだけ登ったのか。
何段、越えたのか。
分からない。
ただ、登る。
一段、また一段。
圧力が――限界に近づいている。
ソウの膝が、震える。
視界が、ほとんど暗い。
心臓が――止まりそうだ。
「……もう、無理……かも」
ソウが、かすれた声で呟いた。
膝が、完全に崩れそうだ。
視界が、ほとんど真っ暗だ。
「ソウ!」
ヒナが、慌ててソウの体を支えた。
細い腕で、必死に。
「諦めないで! ダメ!」
その声が、涙声になっている。
「でも……もう……」
ソウの意識が、薄れていく。
暗闇が、全てを飲み込もうとしている。
「まだ、私がいる」
ヒナは、ソウの肩に手を回した。
その手が、震えている。
「まだ、一緒だから。一人じゃないから」
その声が――必死に、ソウを呼んでいる。
温度が――ソウの胸に流れ込む。
金色の光。
弱いながらも――確かに、ある。
ヒナの光が、ソウの欠けた魂を満たす。
生命を、繋ぎ止める。
同時に――。
影が、動いた。
ソウの足元の影が――ヒナの光を受けて、変化する。
ソウは、かすむ視界で自分の影を見た。
階段に伸びる、黒い影。
それが――うねるように動いて。
ヒナの光に触れた瞬間――。
パキ、パキパキッ。
結晶化した。
黒い支柱のように。
階段から立ち上がり、ソウの体を――下から支える。
「……これだ」
ソウは、はっと気づいた。
影の力。
それが、今――自分を物理的に支えている。
ヒナの光が魂を満たし、影の力が体を支える。
循環。
「ヒナ、光を――もう少し出せる?」
ソウが、震える声で尋ねる。
「うん」
ヒナは、必死に両手を開いた。
手のひらに、光を集める。
弱い光。
揺らぐ光。
けれど――確かな光。
その金色の輝きが、ソウの影に触れる。
影が――さらに固まる。
パキパキパキッ。
階段を支えるように。
壁を支えるように。
ソウの体を、しっかりと支えるように。
「……行ける」
ソウは、影に支えられて――ゆっくりと立ち上がった。
まだ苦しい。
まだ痛い。
けれど――動ける。
「影と光で、支え合えば――」
彼は、震える足で前を向いた。
上へ続く、階段。
「登れる。二人なら」
ヒナは、涙を浮かべて――笑った。
「そうだね」
彼女も、ソウに寄り添って立ち上がる。
「私たち、二人でしか――登れない」
その言葉が、この塔の――この試練の、真実だった。
ソウ一人では、圧力に耐えられない。
魂が拒絶されて、消えてしまう。
ヒナ一人では、光が抑えられて弱すぎる。
階段を登る力もない。
けれど、二人なら――。
影と光が重なれば――。
支え合えば――。
登れる。
必ず。
二人は、また歩き出した。
影が階段を支え、光がソウを満たす。
循環。
それが、ここでも――機能している。
一段、また一段。
痛みは、まだある。
苦しさも、変わらない。
けれど――諦めない。
二人で、登る。
光と影の、二人組として。
階段が――やがて、終わりを見せた。
上に、光が見える。
出口だ。
「……着く」
ソウが、呟いた。
「うん」
ヒナも、頷いた。
二人は、最後の力を振り絞った。
一段、また一段。
光が、近づく。
そして――。
塔の、頂上へ。
* * *
光が――満ちていた。
眩しい。
外の光。
空の光。
太陽の光。
塔の頂上は――開けていた。
屋根がない。
壁もない。
ただ、円形の広場。
黒い石の床だけが、広がっている。
そして、中央に――何かがある。
祭壇。
黒い石で造られた、古代の祭壇。
ソウとヒナは――限界だった。
その場に、膝から崩れ落ちるように座り込んだ。
ドサッ、と。
息が、荒い。
ハァ、ハァ、ハァ――。
全身が、震えている。
汗が、滝のように流れている。
けれど――。
登り切った。
「……やった」
ヒナが、涙を流しながら――笑った。
「登れた……本当に、登れた……」
ソウも、涙を拭いながら笑った。
「ああ……やったな……」
二人は、しばらく――長い間、呼吸を整えた。
胸が、激しく上下する。
心臓が、バクバクと鳴っている。
圧力は――まだある。
完全には消えていない。
まだ、魂を押しつぶそうとする力がある。
けれど、階段ほどではない。
少し――ほんの少しだけ、楽になった。
呼吸ができる。
立てる。
ソウは、祭壇を見た。
黒い石で造られている。
その中央に――何かが刻まれている。
文字? いや、違う。
模様のようなもの。
複雑な、幾何学模様。
それを見ていると――胸の刻印が、熱くなった。
「……っ」
ソウは、胸を押さえた。
刻印が、光っている。
金色に。
ヒナも、同じだ。
彼女の刻印も、光っている。
「これ……」
ヒナが、祭壇を見た。
「反応してる」
二人は、ゆっくりと立ち上がった。
震える足で。
支え合いながら。
祭壇へ、近づく。
一歩、また一歩。
近づくほどに――刻印が、さらに強く光る。
胸が、熱い。
まるで、燃えているように。
そして――。
祭壇の模様も、光り始めた。
金色に。
まるで呼応するように、複雑な幾何学模様が――一つずつ、光を灯していく。
光が、渦を巻くように広がる。
ブゥゥゥン――。
低い音が、空気を震わせる。
祭壇から、何かが――ゆっくりと浮かび上がった。
光の塊。
眩しい、金色の光。
それが――形を取り始める。
輪郭が現れる。
頭。
体。
手足。
人の形。
いや――人ではない。
光で造られた、何か。
意志を持った、存在。
それが――ゆっくりと、口を開いた。
『――よく、来た』
声が、響いた。
塔全体に。
いや、世界全体に。
まるで、天から降ってくるような――重く、深く、温かい声。
『半魂の者よ。そして、光持ちよ』
光の存在が、二人を――真っ直ぐに見た。
その目は、優しい。
『お前たちは、試練を越えた』
ソウとヒナは、息を呑んで――黙って聞いている。
言葉が、出ない。
ただ、その存在の前に立つだけで――圧倒される。
『この塔は、世界の拒絶を具現化したもの』
光の存在が、塔を示した。
『半魂は、世界に拒まれる。それが、法則』
その言葉が、重く響く。
『だが、お前たちは――登り切った』
光の存在が、二人の手を見た。
『二人で、支え合いながら』
ソウは、ヒナの手を握った。
彼女も、同じように握り返す。
『それが、答えだ』
光の存在が、微笑んだ――ように見えた。
『半魂は、一人では生きられない。けれど、光持ちと共にあれば――生きられる』
『そして、光持ちも――一人では、この塔を登れない。けれど、半魂と共にあれば――登れる』
その言葉が、胸に沁みた。
『お前たちは、証明した』
光の存在が、両手を広げた。
『二人で一つ。それが、真実だと』
ソウとヒナは、顔を見合わせた。
二人で、一つ。
それは――ずっと言われてきたこと。
けれど、今――本当の意味で理解した。
『さあ、半魂の者よ』
光の存在が、ゆっくりと祭壇を指し示した。
その動きが、厳かだ。
『お前の魂を、完全にする術式がここにある』
ソウの心臓が、ドクンと大きく跳ねた。
ついに――。
ついに、ここまで来た。
『だが――知れ』
光の存在の声が、一段と厳しく、重くなった。
『魂を完全にすることは――お前たちの繋がりを、変える』
「……変える?」
ソウが、震える声で尋ねた。
変わる?
どう変わる?
『依存から、共存へ』
光の存在が、静かに――けれど確かに答えた。
『今、お前は光持ちなしでは生きられない。三十歩以上離れれば、魂が続かず――死ぬ』
その言葉が、事実を突きつける。
『だが、魂が完全になれば――お前は、一人でも生きられる』
ソウは、ゴクリと息を呑んだ。
一人でも――。
生きられる?
『そして、それは――』
光の存在が、優しくヒナを見た。
『光持ちへの負担も、大きく減る』
ヒナが、ハッと目を見開いた。
『お前の光は、もう半魂を満たすためだけに使われない』
光の存在が――温かく微笑んだ。
『お前の光は、お前自身のものになる。お前自身の力になる』
その言葉が――まるで祝福のように、温かかった。
ソウは、隣にいるヒナを見た。
彼女も、涙を浮かべて――こちらを見ている。
その目が、希望に輝いている。
「……本当に?」
ヒナが、声を震わせて尋ねた。
「私の光が――本当に、私のものに……?」
その声に、どれだけの願いが込められているか。
『そうだ』
光の存在が、力強く頷いた。
『お前たちは、もう――呪われた契約ではなく、選ばれた絆で結ばれる』
その言葉が、胸に――深く、深く染み込む。
選ばれた絆。
強制ではなく。
呪いではなく。
自分たちで選んだ、絆。
ソウは、胸が熱くなった。
涙が、溢れそうになる。
それが――自分たちの、未来。
「……やろう」
ソウは、涙を拭って――決めた。
「魂を、完全にする」
ヒナは、涙を流しながら――心から笑った。
「うん」
その笑顔が、太陽のように輝いている。
二人は、手を繋いで――祭壇へ向かった。
最後の一歩を。
光の存在が、優しく道を開ける。
『では、始めよう』
光の存在が、祭壇に――両手をゆっくりと置いた。
『半魂を完全にする、古代の術式を』
その声が、響く。
祭壇が――強く、強く光り始めた。
金色の光が、激しく渦を巻く。
まるで嵐のように。
空気が震える。
塔全体が震える。
光が、二人を包み込む。
ソウとヒナは――その眩い光の中へ。
手を繋いだまま。
新しい未来へと――。
希望へと――。
踏み出した。




