天才少年と、愛の証明
ユキの意識は、過去へと遡る。
それは、まだ自分がこの仕事に就く前の、遠い昔の記憶だ。
ユキは、科学の発展した世界に生を受けた少年だった。
彼は生まれながらの天才だった。
五歳の時に大学レベルの数学を理解し、十歳で複数の言語を操り、十五歳で世界的に有名な論文を発表した。しかし、彼の才能を理解する者はいなかった。
周りの人間は皆、彼を「天才」と褒めたたえたが、それは彼を人として愛しているわけではなかった。 両親は彼を「成功の道具」と見なし、教師たちは彼を「面倒な存在」として扱った。ユキは常に孤独で、心にぽっかりと穴が空いたような虚無感を抱えていた。
そんなユキを、さらに孤独へと突き落とす出来事が起こる。
彼は、不治の病に侵され、若くして死を突きつけられた。
ベッドの上で死を待つユキの周りには、誰一人としていなかった。
両親は、彼の死を惜しむよりも、彼の才能を失うことを嘆いていた。
ユキは、そんな冷たい現実に絶望し、静かに息を引き取った。
*****
死後、ユキの魂は輪廻の輪から外れる。
彼の魂の質の高さと、天才的な才能に目をつけた創造の女神アネラが、彼を自身の元へと呼び寄せた。
アネラは、ユキの魂を抱きしめ、優しく語りかけた。
「ようこそ、私の愛しい魂よ。私の名前はアネラ。あなたを次なる世界へ導く者です」
しかし、ユキは心を閉ざしたままだった。
「どうせ、僕の才能を利用するつもりでしょう。今までも、そうだった」
ユキの冷たい言葉と射殺すような目に、アネラは微笑みを絶やさなかった。彼女は、自身の権能で、ユキの過去を知っていたのだ。
「ユキ、あなたが私を疑うのは無理もありません。では、そうですね....。あなたさえよければ、しばらく一緒に暮らしてみませんか?もちろん、あなたを利用することも、危害を加えることもしないと約束しますよ?」
ユキはすぐには頷かなかったが、他の選択肢があるわけもなく、渋々と了承した。
それから二年間、アネラはただひたすらにユキを愛し続けた。
彼女はユキに、花の名前や、星々の輝き、そして、誰かを愛し愛されることの美しさを教えた。
はじめは警戒していたユキも、アネラの温かな愛に触れ、少しずつ心を開いていた。
ある日、ユキはアネラの顔に影がさしていることに気づく。
「どうしたんだ?アネラ」
アネラはすぐに微笑みを浮かべ取り繕うが、ユキはアネラの手を握る。
「言ってくれ。君が困っているのなら、僕は君の助けになりたい」
アネラは動揺したように目を見開き、ほどなくして、異世界に転生した者たちが問題を起こし、世界が危機に瀕していることをぽつぽつと話した。
「私には、いえ、天界にいる者はみな、どうすることもできないのです。彼らの心を開き、正しく導くことができれば良いのですが……」
アネラの悲しい顔を見て、ユキは胸がチクリと痛み、同時に、それほどまでアネラに肩入れしている自分に驚いた。
しかし、だからこそ彼は、アネラを助けたいと心から願った。
「僕に、何かできることはあるか?」
ユキの言葉に、アネラの瞳が涙で潤んだ。
「ありがとう……私の愛しいユキ。では、あなたへの愛の証明として……私の権能の一部を、あなたに与えます。きっと、あなたの助けになりますから」
アネラの言葉と共に、ユキの体に温かい光が満ちていく。
『神の寵愛:権能《再創造》を付与します。
対象:ユキ』
そうして、ユキは「異世界転生者担当部門長」として、転生者たちを導くことになるのだった。
とりあえず回想終わり。
次回から主人公視点です。
やったね!神の視点ムズすぎるもん。