とある転生者の更生
前から書き溜めてた駄文を放流します。
夜の闇に包まれた王国の玉座に、一人の男が座っていた。彼の名はヒロキ。異世界から転生し、たった一人でこの王国を築き上げた男だ。しかし、彼の瞳に光はなく、ただ虚ろに前を見つめていた。彼の周りには、兵士や家臣たちが控えている。だが、彼らの瞳に光はない。まるで哀れな操り人形のようだった。
「愛なんて、存在してはいけない。だから、この世界から、いや、すべての世界から愛という概念を消してやる……」
ヒロキの冷たい声が玉座の間に響く。彼の言葉に、兵士たちは動揺することなく、ただ目の前を眺めている。
*****
その頃、世界の創造を司る女神『アネラ』は、ヒロキの暴走に頭を抱えていた。
「あの子に、頼る他ないようですね……」
女神は、一人の少年の顔を思い浮かべ、思念を飛ばした。
*****
街の片隅に一人の少年が降り立つ。彼の名はユキ。どこか飄々とした雰囲気を持つ少年だ。
彼は、この街の人々の瞳が虚ろであることに気づく。
「ずいぶんと異様な光景だな……」
ユキはそっと、一人の少女の肩に触れる。そして、「鑑定」の権能を発動させた。
『対象:ルカ(平民)』
『状態:愛の呪い(強制)』
『原因:転生者ヒロキの権能によるもの。愛をもつ人間から、心を奪い、隷属させる』
「なるほど……趣味の悪いことだ」
ユキはヒロキがいるであろう城へと向かう。道すがら、ヒロキに隷属する兵士たちが、まるでロボットのように行進している。彼らの目に感情はなかった。
ユキの目に、大きな城が映る。
「そこか」
*****
ユキはたった一人で城に乗り込み、玉座の間へと辿り着く。
「止まれ、そこの人間」
ヒロキは侵入したユキを睨みつける。
「まだ私に隷属していない人間がいるとは。それにしても、ノコノコとやってきて間抜けなやつだ」
ヒロキはそう言って、ユキに手を伸ばす。その手には、おぞましいほどの魔力が宿っていた。
「愛の呪い」を発動しようとしているのだ。
だが、ユキの体が淡く光ると、ヒロキは手のひらを弾かれる。
「なに!?弾かれただと!?!?」
「あいにく、僕にはもっと強力な呪い……失礼、加護がかかっているんでね」
ユキはそう言って、ヒロキの攻撃を軽くかわす。ヒロキの驚きに満ちた表情を見て、ユキは「交渉」の権能を発動させる。その瞬間、ヒロキの心の奥底に封じ込めていた想いが、ユキの心に流れ出す。
『愛なんて、ない! 愛なんかで人は救われない! 俺は、誰も愛してなんかいない!』
『俺には、親や友なんか必要ない!!』
「まぁ、そんなことだろうと思ったよ」
ユキは薄く微笑み、攻撃を軽々と避け続けながら、語りかける。
「君は、本当は愛されたかったんだろう?」
ユキの言葉が、ヒロキの心の奥底に眠っていた「愛されたい」という本心に触れる。
すると、ヒロキは動揺したような反応をしたが、すぐに顔を憎しみに染める。
だが。
「愛されたかった……親に、一度でも抱きしめられたかった。ただ、それだけでいいんだ……」
ヒロキの口から、ついに本心がこぼれ落ちる。ヒロキ自身が、自らが放った言葉に狼狽えている。
その瞬間、ユキの瞳が金色に輝いた。
頭の中で機械的なアナウンスが鳴り響く。
『権能《再創造》を発動します。対象者の過去を再創造します』
ヒロキの人生、両親にすら愛されなかった過去が、温かい光に包まれていく。
「君は、愛を知らないだけだ。報われない君に、創造の女神の奇跡を授けよう」
ヒロキが、光に包まれ、消えていく。その顔は、どこか安らかだった。
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ヒロキが消えたことで、「愛の呪い」は解け、街の人々の瞳に光が戻っていく。
「君の人生が、愛に溢れたものであることを願うよ」
ユキがそう呟くと、ユキの体もまた、光に包まれる。
「忙しないことだ」
休むまもなく呼び出される現状に嘆息し、一瞬の暗転の後、ユキの視界は女神の胸に埋もれていた。
オレ、女神に愛されるのスコスコ星人。