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鯉が昇った先は

作者:

 空の色が夕闇へと染まり、神社を囲む木々の枝が浸食していくように伸びていく。

 人々の喧騒が遠くなっていく中で、不意打ちのように響いた明るい祭囃子の音がやけに耳についた。


 遠くなっていく人々の笑い声に耳を傾けながら境内を浴衣姿の君と並んで歩く。出会った頃より長く伸びた黒髪を高い位置で一つにまとめ、露わになったうなじから誘うような甘い香りが漂う。


「砂糖を溶かしただけって分かっているんだけど、お祭りの時に食べる飴って特別感があるよね」


 そう言った君は、僕の視線に気づくことなく棒の先に刺さった飴に花びらのような唇をつけた。


 ついさっき目の前で熱々の飴を伸ばして捻ってハサミで切って作られたばかりの鯉の飴。透明な飴を真っ赤に色づけして、今にも水面を跳ねそうな鯉が君の唇の中へ吸い込まれていく。

 そうかと思えば、全体を出して蝶の羽のように広がった帯びれだけを口に含み、全体を舌で舐めあげた。少しだけ乾燥していた唇がねっとりと潤い、透明な糸を引く。


 その様子を横目で見ながら歩いていると、飴を堪能していた君の口からパキッと軽い音がした。


「ッ」


 我慢できずに漏れた声に君が顔をあげる。


「どうかした?」

「いや、なんでもないよ」

「そう?」


 軽く首を傾げながら、尾びれがなくなった鯉の飴を口に咥えた。口内で舐めまわす舌の動きに背中がゾクリと震える。


 次はどこを噛まれるのか。それとも、その形が無くなるまで舐め続けられるのか。


 想像するだけで体の奥底が疼き、ぶるりと震える。皮を破って溢れそうになる体を抑え、ひたすら君が飴を食べ終えるのを待つ。

 すると、君がふと思い出したように飴を口から出して言った。


「そういえば、初めて会った時も飴をくれたよね。あの時は丸いどんぐり飴だったけど」

「そうだね」


 あの頃の君は幼く、未熟だった。丸い瞳からボロボロと涙をこぼし、不安に揺れていた。


 けど、僕は一目見て分かった。



 ――――――やっと巡り合えた。



 それから僕は辛抱強く待った。今すぐにでも連れて行きたい気持ちを堪えて。


 ようやく君は少女から乙女へと実りを遂げた。


「あの時に何か約束をしたような気がするんだけど、なんだっけ?」

「大丈夫。もうすぐ、わかるよ」


 僕の真っ赤な血が君の体内へ浸潤していく感覚に浸りながら、君の目には映っていない常闇へと足を進めた。


~~


 カラコロと下駄の音が響く境内。

 浴衣を着た子どもが境内の前に飾られた飴を指さして言った。


「あ、こいのあめだ! 食べたい!」

「ダメよ。この鯉の飴は神様への捧げものだから」

「かみさま?」

「そうよ。ここは闇御津羽神(くらみつはのかみ)っていう神様を奉っているの。この神様には相手……お友達がいるんだけど、ここにはいなくてね。そのお友達の代わりに鯉の飴を捧げているの」


 子どもが鼈甲の飴で作られた鯉を見つめながら首を傾げた。


「どうして、こいなの?」

「滝を登った鯉は龍になって神様のところへ行くから。闇御津羽神が寂しくないようにって、たくさんの鯉をお供えするの」

「かみさまのおともだちは、どこにいるの?」

「わからないのよ。闇淤加美神(くらおかみのかみ)っていう神様なんだけどね」


 母親の説明に子どもが首を傾げる。


「そうなんだ。だから、食べたらダメなんだね。でも、さっきのおねえちゃんは、赤いこいのあめを食べてたよ」

「そうなの? おかしいわね。ここには金色の鯉の飴しかないのに」


 ガラガラビシャ!


 不意打ちのように空から大粒の雨が降ってきた。

 蜘蛛の子を散らすように人々が軒下や、大木の下へと逃げていく。


 ゴロゴロガシャーン!


 子どもも母親に手を引かれながら雨宿りできる場所へと走っている最中にも雷が鳴り響き、黒雲の中を稲妻が走る。


「きゃー!」

「浴衣が濡れちゃう!」


 悲鳴と雷鳴が入り混じる中、母親の手から離れた子どもが立ち止まって空を見上げた。


『ハッハッハッ!』


 盛大な笑い声とともに真っ赤な二匹の龍が絡み合うように立ち昇っていく姿が幼い瞳に映った。




ホラーを書く予定だったのに、なぜかこうなってました。゜(゜´Д`゜)゜。

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