95話 スキップしたストーリーって、後で確認できないゲームは困るよね
清盛・キャンサーは倒した。『空間障壁』というチートな技を使ったけど倒した。そして、清盛が転生者であることも分かった。それ以外はスキップしてきたので、まったくストーリーが分からなかった。まぁ、そこまで気にはしない。RTAを目指すプレイヤーはストーリーなんか気にしたらいけないんだよ。
「まぁ、それに後々わかるだろ。それよりもと」
『捕食』
元清盛の灰へと手を向ける。捕食の時間だ。ワクワクするね! 今度こそ良いのが手に入ると思っています。
灰の山から膨大な黄金の粒子が現れると、アキの掌に吸収されていく。これまでとは比べ物にならない量だ。否が応でも期待しちゃうぜ。
『固有スキル空間歪曲を%REあS。キンキンに冷えたミルクを創る能力を手に入れた』
とても良いスキルが手に入りました。
「………あ~ちゃん?」
『やった! やったよ、あきちゃん。これでさいきょー。あたちたちさいきょーだよ。かすてらのちゃいろいとこと、ちべたいみるく! あたちたちさいきょー!』
ジト目となりあ~ちゃんを見つめるけど、あ~ちゃんは飛び跳ねて、コロコロ転がって、満面の笑顔で大喜びなので涙を堪えて諦める。うん、次は冷たいミルクを創る能力って言ってたもんね。有言実行なんだね、あ~ちゃん。俺たちさいきょー。
キャンサーを苦労して倒したのに赤字だったな……。と思ってたら、あ~ちゃんの話はまだ終わりではなかった。
『そんでね、あ~ちゃんはせいちょーできるの。かにさんたべたからせいちょーできるよ。みせたげる!』
ふんすふんすと興奮気味にあ~ちゃんは両手を掲げるとぴかりと光る。光りに覆われたあ~ちゃんの身体が——変わっていく。
『あ~ちゃんはせいちょーした!』
そうして光の中であ~ちゃんの身体が成長していき、やがて収まると——
『んと、どこが変わったの?』
あ~ちゃんの姿は全く変わっていなかった。背が伸びたりすると思ったんだけど?
『もー、あ~ちゃんはかみのけが一センチのびたんだよ! せいちょーきのあ~ちゃんです!』
女の子は髪の毛が少し伸びただけでも様変わりするのだ。幼女も同じなのかと納得するアキである。
『凄い! さすがはあ~ちゃん。凄い成長したね。このままだと世界樹よりも大きくなっちゃうね!』
『えへへ、あ~ちゃん、おっきくなっちゃうね』
すぐさまアキが拍手をすると、あ~ちゃんは身体をクネクネと揺らして喜ぶ。きっとこのままいけば、背中まで伸びちゃうだろう。美人さんがもっと美人になるに違いない。
『それじゃね、それじゃね。あ~ちゃん、あたらしいちからで、みんなをたすけちゃうね!』
そして、あ~ちゃんはちっこいお手々を翳すと、えいやと力を集めていく。さっきまでパクパクしていた黄金の綿飴だ。シュルシュルと黄金の粒子を集めて何かを作り始める。なにかなと眺めていると、黄金のキューブが……いや、拳大のキューブとは違い、一口で食べられるキャラメルができた。そのキャラメルは1枚のカードに変わる。
『じゃ~ん、これはね〜、ピカピカのちからでかいふくできゅるんだよ! ぺかーってなおるんだよ』
『AR:星光のキューブ:全てを癒すキューブ』
ヒラリと落ちてきたカード。なんとあ~ちゃんレアだ。その力には興味があるね。
ちらりと周囲を見渡すと、雛子を始めとして、皆が倒れ伏して立ち上がる余力はなさそうだ。予想外なのはカストールだ。誰もが力を吸い取られて顔を持ち上げることもできないのに、カストールだけはクロールを行う余裕があった。助けを求めている? いや、あれはクロールをしたかったんだと思う。
(これは黄道12星座の力を持つからか? 鍛えているフェニックスでも耐えられないのに、鍛えていないチンピラなのにジェミニという星座持ちなだけで耐えられるなんてね。まぁ、考えるのは後で良いだろう。まずは皆を癒さないとな!)
もったいないが早速カードを持ち上げると、その力を使う。
「ほしひかりの力よ!」
読み方がわからないので、せいこうかほしひかりか分からないけど、どちらでも良い。アキが掲げたカードが太陽の光のように輝くとキャラメルが空中に現れて回転し始める。
「ギャァァァ、目が目が〜」
「まきゅ〜、眩しいまきゅ〜」
なにをやるか見ていたカストールとシャドウマーモットがまともに光を目にして転がって苦しむが、それはどうでも良いとして、キャラメルはゆっくりと溶けると、黄金の粒子を湧き水のように生み出して、周囲へと流れていく。
「心の優しいロデー・ポセイドンが命じる。ほしひかりよ、全てを癒せ!」
誰よりも心の優しい幼女の願いにより、キューブはその力を解放し、倒れ伏した人々を癒していく。そして、癒された人々は聖幼女だと喝采する。
そんなに褒めないで良いよと、幼女はテレテレと照れて、英雄になるのが流れだ。
そう思っていた。
ズゴゴゴ
「ん? なにこの音?」
なにか地響きがするねと、コテンと小首を傾げるアキだが、すぐになにが起こっているのか理解した。
「うぉぉぉぉ!?」
石床がめくれ上がり、植物が生えてきたのだ。まるで触手のようにスルスルと生えてくると幹が太くなり、木へと育っていく。それどころか、木々はみるみるうちに太くなっていき、高層ビルのように巨大になっていった。
広場は急成長した木々により崩壊し、監獄を囲んでいた壁も、牢獄のあった建物も全て破壊し、植物は侵食していく。
唖然としたアキは木の枝にしがみついて何とか耐えて、周囲の状況に目を剥く。まじかよ、癒やすって人々だけを癒やすんじゃないの? 全部癒しちゃうの!?
育っていく大木の上に乗っかり、外の様子を見ると監獄は完全に木々により埋もれて、雑草が覆い尽くし、世界崩壊後数百年経過したみたいな光景へと変わっていく。街外れにあった事が幸いして、住宅街に侵食する前に植物の成長は止まった。半径1キロくらいだろうか? オアシスは遠く離れているのに、砂漠の中にポツンと緑あふれる森林が生まれるのであった。
街の住民たちも何事があったのかと、森林を指さして騒いでいる。誰も彼もが驚きでいっぱいだ。
「おおぅ……。なんてこった、これほどの力があるとは思わなかったよ」
もはや家でも建てられそうな太い枝にちょこんと座りながらアキは呆れてしまう。あ~ちゃんレアの力を甘く見ていたよ。迂闊に使うレベルのカードじゃなかったな。
『これでみんなげんき! あ~ちゃんえらい? えらい?』
『うん、あ~ちゃんえらい!』
えっへんと胸をそらす得意げなあ~ちゃんを褒めてあげながらも考えてしまう。
(あ~ちゃんはほんの一部の力を返しただけだ。拳大の大きさのキューブを何個も食べてたしな。それに対してキャラメルくらいの力なのに、これだけの力を使えるのか……。なら、あ~ちゃんはどれだけの力を内包してるんだろ?)
改めてあ~ちゃんの存在に疑問を持つ。キューブは星座の戦士を生み出したギミックだ。そして、星光の力は星座の真の力を発動できる。
だが、あ~ちゃんの力は、それらとは一線を画すレベルの力だ。文字通り次元の違う力である。
(同じ力でも使う人によって違う? 俺たちは一部の力しか使えてないのに、あ~ちゃんは100%星光の力を引き出して使えるのでは?)
とするとあ~ちゃんという存在の正体は——
しゅごいでしょと踊るあ~ちゃんを見て思う。
(可愛い幼女で、俺のパートナーだな。今はそれでいいか。細かいことを気にしても仕方ないしな)
果たして本当にそれで良いのかは不明だが、そういう隠された設定をアキは気にしない。ストーリーが進めばわかるだろと、目の前のことだけを気にする幼女なのだ。
というわけで、考察をポイと投げ捨てると、アキは目の前の事柄に集中することに決めた。今はこの状況をなんとかするのが先決だ。
「とんでもない力であるな。これがポセイドンの加護を受けた王女の力というわけか」
バサリと翼をはためかせて、雛子が枝の上に着地する。その顔は畏れが半分、驚きが半分といったところか。
「もう身体は大丈夫? ピヨって言える?」
「あぁ、もうすっかりと身体は回復した。ロデー王女に感謝を。奪われた力を全て返してくれたのだろう? ピヨ」
「えっ……うん、全部返したね、確実に返したよ。きっとそう!」
頭を下げて感謝してくる雛子に、ウンウンと頷いて、アキは鷹揚に手を振る。あ~ちゃんはほとんど返してないと思うけど、真実を言う必要はないよね?
「しかし……まさか我らの森を取り戻してくれるとはな。ここまでしてくれるとは思わなかったぞ?」
「この砂漠は意図的に作られていたからね。あたちとしてはこの力を引き出して直しただけだよ。かなりの力を使って、もうクタクタだけどね」
嘘である。皆の体力が回復するくらいだと思ってました。まさか、森林が生まれるとは思ってませんでした。でも、幼女は最初から計算通りだよと、幼女スマイルで誤魔化した。さすがは幼女である。
「そなたを仲間に入れてよかった。まさか数時間で森林まで取り戻してくれるとはな。夢ではないかと思うぞ。ほら、ロデーのお陰で、皆の活気が戻ったようだ」
雛子の指差す先、街の方角へとアキは顔を向けて、あんぐりとお口を開けちゃう。
なにせ指差す先には——
「チュンチュン、木々が生まれたチュンチュン!」
「くけー! あそこに家を作るくけー」
「ほーほー、我らの家は日当たりの良い場所だホー」
雀や鴉、梟などの翼を生やした住民たちが一斉にこちらへと飛んできていた。まるで昨今問題となっている町中の数本の木々に群がるヒヨドリみたいな多さである。多すぎてかなり気持ち悪い。
「え!? この街の人たちは皆鳥人族なの?」
「皆ではないがほとんどそうだな。地を駆けるトーラスたちとはるか昔から争ってきたのが我らだ」
なんともないように平然と答える雛子。なるほど、殆ど情報を集めないできたからな。初めて知ったよ。
「まきゅー、ここはマーモット家の領地まきゅ! マモを王様として認めないと住まわせないまきゅ!」
「あ、こら、蹴落とそうとするんじゃないっす! ここに巣を作る? 俺っちは羽がないから落ちたら死ぬんだよ!」
「ロデー姫! どこにいらっしゃるのですか? ロデー姫〜。貴女様の剣がここにいます!」
まるでバーゲンセールに訪れたおばちゃんたちのように皆が争って巣を作ろうとする。混沌である。もはやカオスである。
「今度からゆっくりとクエストはやろうかな」
アキは港に船が近づいてくるのを見ながら、砂漠に似合わない涼しいそよ風を受けて、苦笑するのであった。




