84話 仕入れに無理をすると体調を崩すよね
太陽の日差しが強く海の波がザザーンと波打つ浜辺にて、悪役令息ルックスYは倒れていた。
「うぅ………やめときゃよかった………」
うめきながら砂浜の砂を掴んで悔しがる。ちっこい身体は海水でベトベトだし、日差しが強くて生乾きなのが気持ち悪い。サラサラの砂が服の隙間に入り込んでチクチクして気持ち悪い。
「ここは……南大陸かな?」
アキはふらふらとなりながら立ち上がると、植生を確認し、ため息をつく。目に入ってくる光景は明らかに北大陸とは異なるものであった。シダ類や椰子の木が生えており、南国ですとギラギラとした日差しが滝のように流れる汗とともに教えてくれていた。
アキ・アスクレピオス。悪役令息ルックスYはどうやら——
「ゲームでは訪れることができなかった南大陸に来れたようだね。……遭難してだけど」
ポテンと砂浜に大の字に倒れると、再びため息を吐くのであった。
——そもそもなぜこうなったかと言うとだ。ちょっとカレー粉が足りなくなったのだ。安売りしすぎたようで、あっという間にカレー粉は売り切れた。たとえ何十倍に増やすことができても、王都百万の人口の前には水溜りのようなすぐに乾いてなくなってしまうものであった。
なので、頭脳明晰な天才幼女は考えた。
ちょっと南大陸まで船で行くかなと。人魚たちでは大量の交易品を短期間で手に入れるのは無理なので。
幸い船はダゴンの封印を解きに海底神殿にやってきていたプトレマイオス兵の残したものが島に放置されていた。それはそれは立派なもので、そろそろゲームでは中盤あたり、船を手に入れたところだろと、他のゲームを参考にして使ってみようと考えたのだ。まだ始まったばかり? 最短攻略を目指すと船を手に入れるのが早くなるんだよ。
目指すは貿易王、7つの海を航海し、未知なるものを探して、様々な珍しい物を交易品として扱う凄腕艦長だ。カストールは行方不明だし、ゲームの1年夏までのイベントは終わっている。なぜか剣術ルートも魔法科ルートも担任が失踪。最後の錬金科ルートはリューラがカステランの建物の前でタイチを出待ちしているので、イベントはない模様。
なので、少しくらい遊んでもよいだろうと、いつも遊んでいる幼女は思いついたのだ。
「ヒャッハー、あたちは航海時代のゲームをたくさんやってきたから、船の操作なんかちょちょいのちょいでしゅよ!」
それはもう自信たっぷりに幼女艦長は船の舵輪を持ったものだ。大丈夫、大丈夫。どんな主人公でもエンディングに行けた経験あるからと、ゲームの経験を体験談にする幼女だった。
「ヒャッハー! さすがはお嬢、未知なる冒険が呼んでますぜ」
「やっふー、楽しそう! 面白い魔法でも見つかれば良いんだけど」
「ラム酒を目指してレッツゴー! 砂糖から作るラム酒は一度飲んでみたかったんです」
「まきゅー、おうちのマーモットたちはマモを仲間外れにするから家出まきゅ」
楽しいこと大好きなヒャッハーたちはノリノリで手を挙げて、船に乗ってくれた。帆を張るのも適当に、皆でワイワイしながら旅をして2日後。
見事に嵐にぶつかり、船から放り出された幼女である。人魚に変身する間もなく、同じく放り出されたマモと頭をぶつけて気絶したのであった。
——そして現在に至る。
「はぁ〜、船は無事かなぁ。ヒャッハーたちは守りきったかね。壊れたらもったいないよ。まぁ、この地に迷い家の拠点を作れば……作れば……んん?」
腰につけた無限ポシェットを使おうとするが、スカッと何も無いので青褪めてしまう。
「まじかよ、あたちの無限ポシェットがない! あれに鍵を入れてあるのに! というか全財産入れてあるんだぞ! ヤバい、青狸がポケット無くした状態になるじゃん! ポータルテレポートも全部スクロール化してポシェットに入れてたのに! せっかく無限鞄を手に入れたからって、アイテム入れまくるんじゃなかった!」
すぐに事態に気づき、ヒャッハーたちを呼び寄せようとする。『探知』と『アポート』の組み合わせなら、無限ポシェットを取り戻せる。ウイの魔法なら簡単な話だ。
仲間カードをスロットから取り外して再度装着すればオーケーなのだが……その手がピタリと止まってしまう。
「だ、だめだ。操船中に呼び寄せたら、船が沈没しちゃう。くっ、困ったぞ。というか、そもそもあたちはよく生きてたな、悪役令息補正?」
『テステス、こちらアキ。ヒャッハーたちは生きてる?』
『お嬢は無事でしたか、俺らは海原を航海中。食糧がないです』
『よかった、船は無事だったか。とにかく南に航海すれば大丈夫。南大陸に到着したら連絡送ってね』
ヒャッハーたちは無事のようだ。船を失ったらがっかりするところだったよ。
でも、普通は嵐の海に放り出されたら溺れ死ぬ。気絶していたから、水を飲まなくすんで生き残れたのだろうか。
『あ~ちゃん、あたちが生き残った原因なにか知らない?』
『あ~ちゃんしーらない。ワンちゃんがじんめいきゅーじょしてたかも? せなかにのせてくれておよいでたの! わんわんっていぬかきで!』
パタパタ手を振って教えてくれるあ~ちゃんだけど、その説明だと嵐の海で助けられたことになっちゃうぞ。
なるほど、なるほど。たぶん砂浜近くに流れ着いたのを犬が咥えて浜辺まで連れてきてくれたに違いない。近くにまだいないかなと見渡すが、リス神家の一族のような上半身を砂浜に突っ込んでいるマーモットしかいない。残念。
今のアキは生乾きの水夫服しかない。髪もボサボサで潮風が髪を傷めるのを注意しないといけない。砂まみれでもあり、全体的に薄汚れていた。
「うぅ、そろそろ助けてくれてもいいまきゅ? 哀れなマーモットがここにいるまきゅ」
「屋敷で召喚したマーモットの群れに警笛みたいな鳴き声で警戒されていただろ。あたちはマモがマーモットではないと思い始めてるんだ」
「モテモテのカリスママーモットだからまきゅよ」
マーモットモドキの疑いがあるマモが器用に砂を掘って顔を覗かせるので、呆れたジト目で見る。マーモットの群れは怖がって、マモから離れてたからな。ピギーピギーと鳴いて身を寄せ合って震えていたから見てて可哀想だったよ。
戯言を宣うマモはスルーして、とりあえず現状をなんとかしないといけない。なにせアイテムが何も無い無一文な幼女だ。装備カードも外して無限ポシェットに入れておいたのが痛かった。
とはいえ、慌てることはない。なにせ、無から有を生み出すチートなスキル。『ガチャ』があるからな!
そして、まだ『星の光イベント』は終わっていない! チケット使わなくても普通にガチャポイントでガチャをすれば良いのだ。手持ちは21500。マイルールに従い、一万をぶっこむ!
というわけで空に向けて両手を広げて、神への祈りを開始だ!
「神よ! 我、アキ・アスクレピオスがここに祈らん! 供物を捧げますので、どうかどうか、天の救済を〜」
ちっこい身体で平伏し、砂に潜ったマモを前にお祈りする。これなら確実、確実にゴッドがくる!
「まきゅ? もしかしてマモを生贄にしてる?」
「美味しく食べてください〜、とっても活きが良いでしゅ」
「まきゅ! それはひど過ぎるまきゅよ!」
「神への生贄だよ! 喜んで食べられて!」
「動物虐待で訴えるまきゅ!」
なにやら怒ってくるマモをスルーして、まずは『スペシャルガチャオール』だ!
光の柱が天から降り注ぎ、その色が変わると流星群が空を覆っていく。その幻想的な光景はたしかに『星の光』イベントにふさわしかった。そうして光の色は虹色となる。
「良かった。マモを生贄にした甲斐があったよ」
『GR:星のカードホルスター:カードを仕舞えるホルスター。アキしかさわれないし、認識されない。祈ると手元に戻る帰属型:使い切り』
星マークがワンポイントで可愛いカードホルスターが出てきました。
「あ、あ~ちゃん、気を利かせなかった? ありがとう、これからはこのホルスターにカードを仕舞うよ!」
突然のカードホルスター導入。これからはカードは物質化して持っておいてということだ。無くさないカードホルスター。アキ以外はさわれないし、認識もできないのだから、チートなアイテムだ。
「さ、さすがはゴッドレア! 嬉しい、嬉しいよ〜」
なので、砂を叩きながら喜びの涙を流すアキである。決して悔しいとかじゃないよ。喜びの笑顔だよ!
「まだまだしょーぶは始まったばかり! うぉぉぉ!」
なんと幼女拳を華麗に繰り出し、ぼちぼち連打。もはやノーマルガチャにかけるしかない!
『C:炎の矢:使い切り』
『N:魔力弾:使い切り』
『N:魔力弾:使い切り』
『C:氷の矢:使い切り』
『SR:星光の矢:使い切り』
『N:カウンターマジック:使い切り』
『SR:アイテム破壊:使い切り』
『C:ヒール:使い切り』
『N:魔法障壁:使い切り』
『C:探知:使い切り』
「ぐぐぐ………良いのか悪いのかさっぱりわからない! でも10連ガチャだからもう一回引けるよね!」
10連ガチャは11回引けるからと、ゲーム理論を持ち出してアキはガチャコマンドを押下する。ノーマルだと良い方なんだろう。遊びのカードもないし、イベントはたしかに素晴らしい。でも、あと一声、あと一声!
悲壮な覚悟でマモを生贄にしたんだよと、幼女は必死に祈りを捧げる。その祈りは神に届いたのか、砂をマモにかけまくり埋めようとする幼女の善意が届いたのか、光の柱は赤色と変化した。
『LR:極めし炎の矢:炎の矢の10倍の威力。威力はそれほどないがエフェクトがド派手:使い切り』
「ううっ、よ、喜んで良いのか? ビミョー。初級魔法だから、敵が油断するのか? いや、もしかしてあれか、今のはただの炎の矢だ、とか大魔王ムーブができるというやつかな?」
レジェンドだけどビミョーだなぁと顔を顰めてしまう幼女。人気のない砂浜で、一人ポツンとマーモットを埋める遊びをする幼女にしか第三者には見えない。
これがおっさんなら、通行人にスルーされてしまうが、哀れな幼女の場合は違った。
「ねぇ、君どうしたんだい? なにか困ってるのかな?」
優しそうな青年がにこやかに声をかけてきた。
「見たところ、迷子かな? お嬢さん一人かい? そんなにぼろぼろの服を着て………。なにがあったのか、教えてくれないかな? ご飯でも奢るよ?」
「わぁい、行くでしゅ! おなかしゅいてるの! 」
とっても優しそうな青年に、もちろん満面の笑みでアキは喜ぶのだった。日頃の行いが良いと、すぐに助けてくれる善人が現れるよな!
どうやら、この大陸でも楽しめそうだよ。




