83話 宣伝に地下アイドルは基本だよね
やけっぱちになってニアが皆の前でポーズをとる。フリルのついたスカートにあざといリボンのついたドレスと完全装備だ。皆の視線を集めるのにこれだけ適切な服装もないだろう。ないよね? 懐かしのアイドルだ。このなんちゃって中世時代には斬新に違いない。ケイが夜なべして作ったんだよ。
銀髪碧眼のアイドルを前に男は口笛を吹き、女は顔を真っ赤にしながら眺めている。ニアは恥ずかしそうに胸元や腰を手で隠しながら口を開く。
「うぅぅぅぅ、に、私の名前はニア。ニアがこれから説明します。行方不明となって、奴隷として売られる心配はない。社員全員に『探知』の付与された社員証が渡される。これは身分証明書の他に任務で行方不明となったら調査可能としている」
ビシッと人差し指を天に挙げ、フフンと笑う。すべてを諦めたかのような虚無の目だ。ちょっとマーモットに似てる瞳だ。
「なので私も攫われたけど、冒険者ギルドの拉致もすぐに気づいてくれた! たしかに命の危険もあるけれど、冒険者ギルドと違いしっかりと調べてくれるし……なんとポーションも配布! 大怪我の場合は、カステラン所属のシスターが通常価格の8割引きで治してくれる!」
「おぉ〜、そりゃ凄い! そんなにおらたちのことを考えてくれるギルドなんて初めてだぁ」
「かつ、訓練期間をとってあり、任務もそれぞれが連携している。先行して地形を調べる調査チーム、強敵を討伐するチーム、安全を確保するため地域の制圧をするチーム、そして採取を行うチーム! これらが連携して行動をすることにより、任務の成功率と安全率を上げている。個別の特殊な任務は精鋭チームが向かう」
薬草採取で死亡する例は多いが原因は簡単だ。それは少しでも強い魔物に出会って殺されるから。カステランはその原因を解消するために、それぞれのチームが連携して魔物討伐や採取依頼をこなすことにした。簡単な解決方法だが、これは冒険者のように自己責任として適当に依頼を与える冒険者ギルドには不可能な方法であった。
「そして、そのような危険な任務をしたくない人には、開拓村での開拓及び農業を行ってもらう。もちろん開拓村の周囲を討伐チームが魔物の間引きをするので安心安全!」
「! ほ、本当か? おら、また農業をやれるだか? 田畑もねぇ、農具もねぇとおらは捨てられたんだ」
「本当。開拓の資金はカステラン持ち。開拓後にその田畑を買い取るかは、開拓した人間に優先度があり、その場合のお金の貸し付けも行ってる!」
破格といえば破格の話だ。ここにいる冒険者の半分は村々から追い出された者たち。成人までは田畑を耕し暮らしていた人間である。血なまぐさい魔物との戦闘よりも、農業を行った方が好きなのである。カステランも別に農奴や小作人を雇うわけではない。
あれだ法人の開拓事業。一律にノルマを与え、マニュアルに沿った育成手順などを教える。最初は赤字は間違いないが、順当に行けば耕した人間は絶対にローンを組んでも田畑を買って農家となるだろう。その売り上げやローンによる金利の収入で、数年で黒字になるはず。原資は盗んだゲフンゲフン、たまたま落ちていた資金が潤沢にあるからね。
「今日から貴方もカステランに来ませんか? このカステランの看板娘ニアが素晴らしき未来を保証します!」
最後に胸元で腕を組んで、多少しゃがむとニコリと微笑んでニアの説明は終わったのだった。よくやったニア、助けた時にこの説明会で宣伝するのをお願いして良かった良かった。顔を真っ赤にして恥ずかしそうなのがまた良い具合に皆に受けてるよ。
「おら、入るべ! また農業で働けるなんて最高だぁ」
「私も王都よりも村で過ごしたい! もう王都はこりごり」
「討伐チームに入れば名声も手に入るよな? 回復ポーションやシスターがいるなら怖くねぇ!」
我も我もと皆が集まってくる。カステランにご案内と、ニアが建物に誘導し冒険者たちは列を並べて冒険者からカステランの社員へと転職する。
王都での冒険者はそうして姿を消して、たった一ヶ月でカステランは冒険者ギルドを駆逐したのであった。その後、資金の枯渇に加えて本部である王都の冒険者ギルドが消滅したため、他の領地にある冒険者ギルドも潰れていき、カステランの支部がドンドコ増えるが、それは後の話。
せっかち幼女、悪役令息ルックスY。恐るべき手際のよさである。
◇
次の日――
カステラン会議室内。居並ぶ面子はアキ、マノミ、シーウィード、ソロジャ、ヒャッハー騎士団たちの半分だ。本当はヒャッハーたちは全員連れてきたかったんだけど、おとーさまが仕事が回らなくなると困った顔になるので諦めた。なのでタイチを始めとするイチ、ニの名前がつくメンバーである。お茶係にケイです。ちなみにニアは看板娘なので、アキモットの横でスカートを靡かせて、残りの冒険者たちを勧誘してます。
「ここでカステランの地位を盤石にするため、封印してたポセイドン王国からの貿易品を売りに出したいんだけど、どう思うソロジャ? 冒険者ギルドでの依頼で稼いだ金を元冒険者や一般人が財布に入れている間がチャンスだと思うんだよ」
彼らの懐には冒険者ギルドから流れたお金があるはずなんだ。うちの会社が回収しても良いと思う。それにバトルばかりだったから、そろそろアキの頭の良さも皆に示さないとね。
「たしかに今は景気が良いです。さすがは目の付けどころが違いますな、冒険者の懐事情を考えるとは……悪辣ゲフンゲフン、冒険者ギルドを潰したタイミングでとは素晴らしきお考えかと」
なにか言いたいことがあるなら言っていいよ、ソロジャ君?
「この一月間、姫様のご指示通りに南方大陸から入手した交易品をカステランの倉庫に移動させておきました」
「ありがとう、シーウィード。なら、一般に売ろうよ。カステランの本当の開店日となる日だね!」
シーウィードはきっちりと交易品を溜め込んでくれた。その量は用意した倉庫3棟が満杯になるくらいだ。
「シーウィードさん、結構苦労してましたよ、お嬢様。船を使わずに交易品を集めているって、言ってましたよ」
コトリとお茶を置いてくれながらケイが教えてくれるけど、船を使わずに? どういう意味?
「我らは高速で泳げますから、船など必要ないのです。皆で泳いで交易品を買ってます」
「え!? それじゃ、孤独な行商人みたいに、個人で買ってるわけ?」
「はい。なので時折生活必需品を買いに来る希少な人魚さんと南大陸の港では親しまれています」
ケロリとした顔で言うシーウィードだけど、アキの脳裏にずた袋を担いで港にやってくる人魚たちの姿が思い浮かぶ。物々交換で細々と香辛料などを買う人魚さんだ。ピチピチと尻尾を振って帰っていく姿は夕飯を買いに商店街を訪れたおばちゃんのようだ。時折、パプゥと豆腐屋のラッパ音が聞こえてくる昭和風味の世界である。
「そうか、人魚たちだけだとそうなるのか。………それで倉庫3棟をいっぱいにしてくれるなんて大変だったでしょ? ありがとう、シーウィード」
「いえ、我らをお救いしてくれた姫様のお頼み。暇潰しにもちょうど良いと人気の仕事でしたのでお気になさらないでください」
「暇潰し程度に思ってくれるなら良いけど………」
人魚って、することないの? 魚を捕まえて食べては寝ての食っちゃ寝生活じゃないよね?
「これからはなにか別の方法を考えねばなりませんね。本格的に交易が始まれば、在庫はあっという間に尽きてしまいますよ、ロデーちゃん」
「マノミの言うとおりだね。どうするか考えないと。それは課題として、それでも在庫を気にせずに売っていくよ!」
ペチンとテーブルを叩いて気合を入れちゃう幼女だ。その迫力ある姿に皆はホンワカして、空気が緩む。が、商人たるソロジャはそこで終わりにしない。
「香辛料を売るのは良いですが、スプーンひとすくいでも金貨1枚はしますぞ? 庶民ではとてもではありませんが買えませぬ」
たくさん香辛料があると言っても、所詮は倉庫3棟。希少なことは変わらずに、とんでもなく高価となる。ソロジャの懸念も尤もだ。
「ふふふ、大丈夫、それに対する方法は考えてるよ。昨日、天才料理人たるマヨネーズ王が商会に訪問してきたでしょ?」
厨二病に変身して、ヤタノを唆したのだ。告げたのはカステランが香辛料を手に入れたから、あるレシピを売れば良いよと。
そして、ヤタノは見事に金貨200枚の大金と交換してレシピを売ったのだ。なんのレシピかというと……。
「あぁ、あの薬ですか。アムネジア姫のおっしゃる通りに大金を払い買い取りましたが………これを買うなら、皆はポーションを買うかと思いますぞ」
渋い顔でソロジャが小袋に入れた粉を取り出す。プーンとした漢方薬のような匂いがして、皆は顔を顰めてしまう。
「『カレー粉』でしたか。果たしてこれが売れるとは到底思えませぬ。この匂いを嗅いでください」
「嗅ぐまでもないですよ。薬なんですよね? 私は健康だから試しませんからね?」
警戒心を露わにアキを見ながら、ケイがトレイを胸元に掲げながら後ろに下がる。たしかに漢方薬みたいな臭いだ。カレー粉とはとてもではないが思えない。
ヤタノは料理の知識があることから前世は料理人だとは推測できるが、まぁ、普通は香辛料を掛け合わせてカレー粉を作れるわけないからな。ヤタノは得意満面だったけど。
だけど天才料理人が持ってきたというのが重要なんだ。失敗したレシピでも問題はない。
「それは置いておいて、その改良版がこれになりましゅ」
そっと懐から取り出すのは本物の『カレー粉』だ。甘口だよ。
「あ、これなら良い匂いで食べたくなります! 少し体調悪いかもです、お嬢様!」
元気いっぱいに体調不良だと言い募るケイだけど、赤みのかかったカレー粉はたしかにお腹が空いてくる良い匂いだ。小袋いっぱいに入っている。
「これを様々な食材と一緒に炒めましゅ。大人気間違いなし!」
「ですが、これも高いのでは?」
「小袋いっぱいで銅貨1枚かな」
「え? こ、この量で銅貨1枚ですか!? どうして!」
目を剥いて驚くソロジャだけど、たしかにどう組み合わせても、この量なら金貨数枚になるだろう。
「うん、そこは錬金の力かな」
『カレー粉1キロ:香辛料4種類以上を一つずつ』
でも、錬金工場だと、胡椒とか一粒ずつで作れるんだ。使っている香辛料は十グラムもないのに、なぜか量が1キロに増える不思議。これをゲーム理論といいます。これぞ錬金、無限アイテム増殖法だ。
「さぁ、これを看板に売るのでしゅよ、わははは」
「そ、それならば飛ぶように売れますぞ! 私にお任せください!」
ソロジャが胸を叩き、期待に満ち溢れた顔となる。うんうん、冒険者たちにも支給しようね。カレー粉があればなんでも食べれるからさ!
ワハハと幼女は高笑いをして、事業の成功を確信しちゃうのだった。
――そして一週間後。
ザザーンと波立つ浜辺にて、幼女は遭難して倒れていた。




