77話 素材集めクエストのクリア方法の基本
「はて、なにを驚いているんだ? なにか驚くようなことでもあったか?」
パクパクと口を鯉のように開け締めする間抜けなギャーフたちを薬草のベッドの上に寝そべりながらコブターンは嗤う。そして、内心はこのベッド薬草臭いとも思っていた。
「な、それだけの薬草をどうやって集めたのだ!? お前は追いかけて来なかったではないか!」
「それはだなぁ」
「おにーちゃん、薬草持ってきたよ!」
「あぁ、ありがとう。それじゃ銅貨3枚とカステラの茶色いところをプレゼントだ」
ギャーフが尋ねる中で、子供がとてちてと薬草の束を渡してくるので、アキはお金と至高のオヤツを手渡して礼を言う。
「な、何をしてやがるてめぇっ! お、おまっ、お前、なにを薬草を買い取ってやがるんだ!」
その様子を見て、身体をプルプルと震わせると、顔を真っ赤にして激昂するギャーフ。
「おいおい、貴族ともあろう者が下品な言葉遣いだな。見ての通り、貴族にふさわしい薬草の集め方をしたのだが何か変だったか?」
「そうよ、アキはそこの金持ち令嬢に頭を下げてトイチでお金を借りて用意してんだからね! 金貨を銅貨に両替するのに王都を往復して苦労したんだから! トイチって10日に1割減っていく恐ろしい借金なんだから! 100日後には借金がなくなっちゃうのよ!」
「ちょっとスピカは黙っててくれる? なんか俺が極悪非道の紐野郎に聞こえるから。紐野郎ルートは俺の求める道と違うんだ」
拳を握りしめて、ふんふんと鼻息荒き暴走娘を宥めつつ、コブターンはクククと銅貨を指で弾き嗤う。銅貨はコロコロと転がって行っちゃったので、後で拾うことも誓う。あと、スピカに早く借金は返さないと、無くなっちゃうから金稼ぎ頑張らないとな。トイチって、こんな仕様だったっけ?
第三者から見るとハーレム紐野郎に見えるが。その内情は甘やかされている幼女なので問題ないと思います。幼女は甘やかすのが世界の理なのだ。
「さて、薬草集めでは俺様が勝ったようだな。では続いて、ポーション作りといこうか、これからが錬金の真の勝負だぞ、ギャーフたち!」
「そ、そうだな、この卑怯者め! だがポーション作りでは負けない。皆、気合いを入れて作るぞ!」
「おぉーッ!」
薬草集めはスタートにすぎない。本命はポーション作りだ。どちらが多くのポーションを作るか、そして質の良いポーションを作製できるかがテストの肝となる。ギャーフたちの集団で錬金釜を持っているのは4人。彼らを中心にギャーフたちはポーション作りを始める。
「葉筋はしっかりと取れよ! それで質が変わるらしいぞ」
「均等に切るんだぞ。煮込む際にムラができるからな」
「お湯の温度も一定になるように気をつけて!」
集団で声を掛け合って何かを作ることに熱中する。青春、青春である。前世でも小説とかでよく見た青春だ。前世の現実ではどうだったかというと、文化祭とか休憩室を作るのに青春していたと言えよう。
手は出さないようにとお願いしたので、スピカたちも少し離れたところで鼻歌混じりにポーションを作っている。小刻みにトントンと包丁を振るい手慣れているけど、料理をしているようにしか見えない。
コブターンはたった一人、ぽつんと立っており少し仲間外れにも見えるが気にしない。
「さて、俺様もポーションを作るとするか」
寝そべっていた薬草の山に手を付けると掻き分けて、と。薬草のベッドは実のところかさ増しで中には木箱が置いてある。
「まきゅ?」
ぴょこんとマーモットが出てきて首を傾げるが、抱きあげて頭の上に乗せると箱の中に手を入れる。ひょいと取り出すのはポーションだった。しかもたくさんあります。
「完成!」
キリッとコブターン決め顔スマイルを見せると、様子を見ていたギャーフが怒鳴ってくる。
「完成じゃねぇだろっ! なんでポーションがあるんだよ。作れよ、てめぇっ!」
「はっ、ポーション提出は作製しなくてはならないというルールはない。あらかじめ店でポーションを買っておけば良いのだ」
エヘンと胸をそらすコブターン。だってゲームではそうだった。中級ポーションを買っておくと、毎回首席になれるから錬金術科ルートは金だけあればクリアできると言われる所以なんだよね。攻略掲示板では「まさしく錬金」とかネタにされていたよ。
ゲームで大丈夫だったから現実となっても大丈夫だと信じる幼女知力1。
だが、現実はそう上手くはいかなかった。
「アキ・アスクレピオス。これはさすがに看過できません。まじめにやらないと単位をあげることはできませんよ」
リューラが見兼ねて注意をしてくる。が、そのパターンも一応考えておいた。
「先生、このポーションを作る過程を書いた報告書です。見てください」
「レシピって買ってきたので…………」
コブターンが手渡した報告書を呆れた様子で見ていくリューラだが、その顔が徐々に真剣になっていく。
中身はというと━━━。
『タイチ・一花男爵』
『独身』
『アキ・アスクレピオスの護衛となったが忙しく王都で働いている。自身を支えてくれる女性がいないかと思っている』
『出没地点:カステランの玄関にて冒険者をスカウトしている』
以上。
「これは素晴らしい報告書ですね。ではポーションは私の執務室に皆は持ってくるように。私は支えなければいけないダーリンの元へ行かなくてはいけないので、今日はここまでです。アキ・アスクレピオスは合格とします」
報告書を胸に仕舞うと、さっさと走り去るリューラ先生。錬金術師リューラはなにか用事を思い出したらしい。
「ふっ、俺様の勝ちのようだな?」
「卑怯すぎるだろ、貴様。本当に貴族か? そこまで非道なことをするとは……」
うぬぬと歯噛みするギャーフたち。そうだろうそうだろう、悪役令息ルックスYは小悪党なのだ。ようやく小悪党っぽくなれたねと笑うアキ。
「こ、こうなれば決闘だ! 決闘で勝負だ!」
「ほほぅ、ならば、先ほどの賭けの結果をさらにベットしての決闘にしようではないか。お前らは全員でかかってこい。使用魔法は『魔法矢』のみ。武器は刃がない武器」
「全員だと!? ば、馬鹿にしてくれるな、いいだろう!」
もはや怒りで目が曇って、即決するギャーフたち。
「グッド。それならば、賭けは毎日カステランでのこちらが斡旋する依頼を1割の報酬で3年間受けること。もちろん依頼は代理人に任せても良い!」
「良いだろう。貴様が負けたらピスケス公爵令嬢には金輪際近づかないことだ!」
「了解した。負けるのは相手が降伏するか、気絶した場合のみとする!」
実に平等なる取引で決闘となるのであった。
◇
「吠え面をかかせてやる、アスクレピオス侯爵令息!」
「ギャフンなんとか伯爵令息にその言葉をそっくりそのまま返そうではないか」
アキの前には16人の生徒たち。前衛は木の棒を持ち、後衛は少女たちで杖持ちだ。意外なことに油断せずに対峙しているな。タコ殴りにしてくると思ったんだけど。
「貴様はまた卑怯なことをするつもりだろうからな。油断はしない!」
「学習能力があるようでなによりだ」
コブターン対ギャーフの集団。周りで薬草採取していた一般人たちも面白そうに野次馬となる。
「では、私が開始の合図をしますね。アキ、すぐに負けても大丈夫だよ。そこのマオンナさんが近寄れなくなるくらいだから」
「合図な。それとなんでそんなにマノミに敵対心を露わにするんだ?」
「それはナイショ! では始め!」
スピカが手を挙げて、合図を出す。
「後衛、一斉に魔法攻撃だ!」
『魔法矢』
『魔法矢』
『魔法矢』
女生徒たちは情け容赦なく魔法を放ってくる。青白い光の矢が数多く飛来してきて、コブターンへと命中する。これ、もしも普通の男子生徒なら重傷を負ってもおかしくないんだけど、ひどすぎない?
コブターンボディは普通ではないんだけどさ。
「ふははは、効かぬ、きかにゅ。ふははは、フハハハみせたげる! フハハハ」
ちょっとあ~ちゃんに主導権を奪われながらもコブターンは高笑いをする。魔法矢はコブターンに命中したが、全て弾けて霧散していき、傷一つ負わせることはできない。
「な!? どうやって魔法矢を防いでいるのだ?」
「それは俺様が魔法抵抗と魔法防御が高いからに決まってるだろう!」
予想と違った光景に目を剥いて驚くギャーフたちだが、コブターンは実のところ『夢を現実に』で作り上げた着ぐるみだからちょっぴり魔法防御力が高いのだ。作成された物に対するその値はゲームでは10。即ち10以下のダメージは完全に無効化する。魔法矢のダメージは1D6。魔力や魔法スキルによる補正でもっと高くなるけど、生徒レベルではダメージが10を超えることなど不可能なのだ。これが階位2レベル魔法とかだとやられてたけどね。
「くっ、魔法防御の高い魔道具を装備してるな、この卑怯者め!」
「戦う前に勝負は決しているんだ、弱体伯爵令息」
煽るアキ。悪役令息ここにありと大喜びで、あ~ちゃんもふんすふんすと踊ってご機嫌だ。幼女教育に悪い存在アキである。
「だが、こんなこともあろうかと、木剣を持ってきたんだ、全員で殴ってやれ!」
うぉぉと、男子生徒たちが木の棒を振り上げで叩いてくる。貴族らしく剣術は習っていたのか、一応その構えは様になっていた。
しかし、それすらもアキの手の中にある。予想通りであり、薄ら笑いでコブターンはステップを踏む。なにせ新型装備怪盗の腕輪を装備しているからね!
「この俺様の軽やかなる動きについてこれるか、いたっ、いてっ、あれ? いてて」
盗賊6のレベルの高さで回避をしようとアキは軽やかに動こうとするがペシペシ殴られてしまう。なんか身体が重くて躱せない。コブターンの体重を考慮して動いているのになんでだ?
(そ、そうか。リーチが違うんだ。盗術6の回避行動は幼女の体にマッチングしてる。コブターンの背丈は175センチ。アキの本来の背丈は幼女センチだ!)
ポコポコ殴られながら恐ろしい真実に気づいたアキだ。当たり前のことなのかもしれない。
「オラッ、降参しろ、このデブ!」
「そうだ、この野郎。このまま殴るぞ!」
「アキ、降参しよう。マオンナを離すチャンスだよ!」
口々に降参しろと言ってくるギャーフたち。なぜか審判も混ざっていたような気がするがここで負けるわけには行かない!
「しょうがない、俺様の切り札をみせてやろう。セットマーモット」
頭の上にいるマーモットを掴み、アキは腰溜めに構えると、魔力をコブターンとマーモットに駆け巡らせていく。
『ビリヤードショット』
振りかぶって第一投。マーモットを力いっぱいギャーフたちに投擲する。マーモットは手足を振り回し戦意十分だ。
「まきゅ」
ガン
「まきゅ」
ゴン
「まきゅきゅ」
ゴゴン
弾丸となったマーモットがギャーフたちを吹き飛ばし、さらにその反動で他の生徒たちにも飛んでいく。『ビリヤードショット』は盗術の階位3の武技だ。その効果は範囲攻撃の投擲術。敵の集団をビリヤードのボールに見立てて、近い距離にいる敵に跳ねながらダメージを与えていくのである。
ひょろい魔法使いではマーモットの体当たりに耐えることは不可能でギャーフたちはあっさりと気絶した。残るは女生徒たちだけだな。もう一度ビリヤードショットを使えば━━━。
「降参、降参するわ!」
「ん? 降参するのか?」
まだまだ戦うと思ってたら女生徒たちは意外なことにあっさり降参する。ふふふ、コブターンの強さに恐れたか。
「そうよ! またその子を投げるつもりでしょ! 可哀想でしょ!」
「そうよ、動物虐待よ!」
「見てられないわ、この悪党!」
恐れるのではなく怒っていた。まきゅーと目を回しているマーモットを女生徒たちが抱きあげて、大丈夫? と撫でている。倒れた男子生徒たちには目もくれないどころか踏みつけているので、女生徒たちの優しさとはなんぞやと考えてしまう光景だ。
「アキちゃん、あまり動物を虐めたら、メッですよ?」
「そうだよ、アキ。私も少し怒ってるよ」
「はぁい」
マノミとスピカにも怒られちゃって、しょんぼりしちゃうアキだった。試合に勝って、女生徒たちに負けるというやつだろう。ますます女生徒たちから嫌われることとなるコブターンであった。
ちなみに被害者マーモットは酒の飲み放題一週間で許してくれた。




