70話 かんわ あ~ちゃんのだいぼうけん
アキ・アスクレピオス。悪役令息ルックスYとして存在する悪逆非道の幼女。大悪魔オッサーンが取り憑いているとも言われる幼女の身体にはもう一人存在する。それは無邪気で素直な可愛い幼女あ~ちゃんだ。
アキが力を使いすぎて寝ている時はあ~ちゃんが表に出て行動する。先日の冒険者ギルド長との戦闘で疲れすぎたアキは丸一日を寝ることにして、あ~ちゃんに身体を渡すことを決めていた。
なので、あ~ちゃんはふかふかベッドの中でぱちくりと目を覚ました。窓を見るとカーテン越しに少し明るくなっている。
「おあよ〜、あ~ちゃんがおきまちたよ〜」
ふかふかの掛け布団を押しのけて、んせんせとあ~ちゃんは起き上がると周りを見る。しーんとして誰もいないので少しだけ寂しい。寂しいので抱き枕をペチペチと叩いちゃう。
「むぎゅう、マモはまだ寝てるまきゅー。身体の節々が痛いのまきゅよ。今日は有休とるまきゅー」
抱き枕ことマモはシィに完全に回復してもらったのに、まだ身体が痛いらしい。なら、お休みしてもらわないといけない。あ~ちゃんは気を利かせて掛け布団を丸めてマモの上に置いておく。うーんうーんと苦しそうに呻くのできっとまだ身体が痛いのだろうと、良いことしたねとウンウンと頷くとベッドから降りる。
「あ~ちゃんはおきがえしゅるの〜。おきがえ〜。チリンチリン、チリンチリン」
ぶんぶんと手を振ってベルを力いっぱい鳴らす。
「あ、早いですねお嬢様。おはようございます」
ノックと共に眠そうな目でケイが入ってきて、お着替えのお手伝いをしてくれるのだった。頭にリボンをつけて、お洋服を着て、くるりと回ってスカートをはためかせる。準備完了。
「あ~ちゃんさいきょーそーび! しゃきーん!」
「可愛らしいです、お嬢様。今日はなにをするんですか?」
「きょうはねー、おしろをぼーけんしゅるの!」
パチパチと拍手をしてくれるケイにえへへとはにかみ、ご機嫌な1日になるとあ~ちゃんは微笑むのだった。
◇
朝ご飯をおとーさまたちと食べ終えて、お城を冒険する。おかーさまにあ~んとご飯をもらって、ますますご機嫌だ。テテンとステップを踏みながら、城内を歩くと、召使いの人たちが笑顔で会釈してくれるので、ぶんぶん手を振ってご挨拶だ。
「アムネジア様、いつも可愛らしいわね〜」
「本当、あの顔を見ると癒やされるわ」
「ファンクラブを作らないか?」
と、皆の声を後に城内を進む。城内は複雑で冒険するのにピッタリだ。誰もいなさそうな石造りの廊下をきょろきょろと見渡す。
「おばけしゃんいないかな〜、なにかおもしろいものないかな〜?」
まだまだ召使いの数は足りず、手の届かない部屋を見て回る。面白いものを探すのが大好きなのだ。
しばらく歩くと地下へと続く階段を見つけたので、ポテポテ降りていく。そこは古ぼけたワインセラーでホコリだらけのワイン瓶が幾つかあるだけでクモの巣が張っている。
「おばけしゃん〜。おばけしゃん〜。むー、いないでしゅ」
ちぇっと、唇を尖らせてご不満なあ~ちゃんだ。面白いものがなにもない。
「ここにはあるかも!」
なので、壁をペチンと叩く。魔力を流すと目の前に魔法陣が映し出される。幾何学的な魔法陣は複雑なロックがかかっていて、解除するには特別なアイテムが必要そうだった。
「あ~ちゃん、なかをみてみたいでしゅ、あーけーてー。あ~ちゃんぱーんち!」
でも中を見てみたいので、解除キーと同様の魔法陣を手に宿らせて、ちっこいお手々で幼女パンチだ。カチリと魔法陣が音を立てると回転し、魔法のロックが解除される。ゴゴゴと音を立てて、ワインセラー奥の壁が開いていく。
「きゃー、おばけしゃんいるかな〜」
あ~ちゃんは大喜びだ。ぴょんぴょんと飛び跳ねて、てこてこと中に進む。一人が歩ける程度の細長い通路となっており、通路に間隔を開けてセットされている光石が中を照らしており面白そうだ。
「ぼーけん、ぼーけん! えいっ、ていっ」
なんか面白そうなボタンがあるので、ペチペチと全部叩いちゃう。押すたびに、真上を矢が通り過ぎたり、人と同じ大きさの大きな刃が突き出て来たりとするが、大人の目線に合わせて作られているようで、全部外れちゃうのであった。
「しゅごい、しゅごい! きれー」
目の前で炎が噴き出して、パチパチと拍手をして目を輝かしちゃう。とっても綺麗な炎だよねと大喜びだ。そうして、次から次へとボタンを押して進みしばらく経ち、大きな扉の前に到着した。頑丈そうな扉であ~ちゃんが頑張って開けようとしてもなかなか開かない。頑張って頑張ってようやく隙間ができたので、隙間からするりと入り込んじゃう。
「わぁ〜、ピカピカ。ピカピカ!」
中には金貨の山や宝石、美術品が転がっていて、キラキラと輝いていたので、あ~ちゃんは目を輝かしちゃう。
「それにおばけしゃんもいる! おばけしゃんはじめまして。あ~ちゃんです!」
そして、その中心には闇の衣を羽織った骸骨が浮いていた。杖を持ち、生者を憎む死者の炎を瞳に宿らせている。パカリと口を開き、おどろおどろしい地の底から響くような声を上げてくる。
「おぉぉぉぉ、まさかこの隠されし宝物庫を見つけるものがおるとは。儂も生前は見つけることができなかったものを………良くぞ参った、わかるわかるぞ、そなたの血は儂の子孫であることを!」
「あ~ちゃんです! あ~ちゃんです! おばけしゃんはなまえはなーに?」
あくまでもマイペースな幼女は名前を教えてよと、ワクワクした顔で尋ねるが、目の前のお化けは聞いてはいないようだった。
「儂を騙した愚かなる家臣、役立たずの息子、全てに復讐をしてやるわ! そなたの身体を奪ってな!」
『憑依』
話を聞かないお化けは杖をあ~ちゃんに向けて闇のオーラで包んでくる。
「おばけしゃん、しゅごい。これなぁに?」
「なに!? 憑依が効かぬ? ま、まったく入り込めぬ。海のような広さと絶壁のような壁………。ど、どういう精神をしているのだ!?」
なぜかおばけしゃんは驚いた顔で、あ~ちゃんを見てくるがよくわからない。闇は霧散して、あ~ちゃんは少しだけがっかりだ。
「ぬぬぬぬ、これではこの部屋に束縛されている儂は外に出られぬ。ならば汝を殺し、アンデッドとしてから憑依することとしよう。そしてこの部屋から出て、この地をアンデッドの楽園とするのだぁぁ!」
『火球』
杖から燃え盛る炎球が放たれる。その炎はあ~ちゃんへと向かってくる。
『幻歩』
熱そうなので、あ~ちゃんは肉体を霧に変えてその場を離れる。炎が着弾し爆発が巻き起こり爆風があ~ちゃんの髪を靡かせる。
「おばけしゃん、あそぶ? あそぶ? あ~ちゃんもあそぶ!」
おばけしゃんが遊んでくれるみたいなので、大喜びのあ~ちゃんだ。むふんむふんと大興奮。
「ちょこざいな技を持っているようだが、この不死王の前にどこまで耐えられるか見せてもらおうか!」
『烈死刃5連』
おばけしゃんは杖から魔力で作られた刃を解き放つ。強大な魔力が籠もっている証にその刃の色は漆黒で、触れただけで生命を奪われそうである。
ワクワクのあ~ちゃんは、迫る高速の死の刃を見て、むふんと鼻を鳴らすとゆらりと身体を揺らす。
『ファントムボティ』
『幻歩』
まずは単体攻撃を防ぐ魔法を。そしてその場を離れる武技を。床を踏み込み、瞬時に別の場所へと移動する。追尾してくる死の刃に回避しきれずに一撃を食らうが、ファントムボティが身代わりになってくれる。
『幻歩』
さらに単体攻撃を対策しながら移動すると、残りの死の刃が迫ってきて、また一発受けちゃう。だが、そこまでであった。他の死の刃は効果時間を超えたために消えていき、あ~ちゃんは無傷だ。
その行動は最高に効率的で、悪魔のような緻密さで行われた行動だった。リッチの魔法の射程距離と効果時間を考えてとられた人を超えた思考の持ち主の回避行動であった。
「くっ、この技を防ぐか! 見た目と違って戦い慣れてるな、貴様! だが、この魔法ならばどうだ!」
『死嵐』
おばけしゃんは憎々しげに骨の顎をカタカタと鳴らすと、さらなる魔法を使用する。あ~ちゃんの足元に血のように真っ赤な巨大な魔法陣が描かれると稲光を纏った死の竜巻がその体を覆う。
範囲魔法による攻撃だ。これならば回避することは不可能だと、おばけしゃんはカタカタと嗤う。あ~ちゃんがズタズタに斬り刻まれて倒れるのを見て、満足げにする。
「勝った! これで儂は外に出られる! 外に出て復讐を」
「たっーち! おばけしゃんのまけー」
「はぁ?」
が、可愛い声でペチンと身体を叩かれて、おばけしゃんはカクンと顎を外してあ~ちゃんを見てくる。
「あれは『幻分身』でちたー。おばけしゃんだまされまちたね」
くふふと口元を押さえて悪戯成功と笑うあ~ちゃんだ。慌てておばけしゃんは倒したはずの幼女を見るが、その姿は霧のように消えていき跡形もない。
「ぐ、お、おのれぇ。だが、儂は不滅のリッチ! 貴様では儂を倒すのは不可能! 高位の神官でもいなければ、滅することは不可能なのだ!」
リッチ、不死の王、不滅のもの。最高位のアンデッドと化したおばけしゃんは動揺しながらも嗤うが、遊びは終わったのだ。
「あたちのかちでしゅ。おばけしゃんはまけたからワンちゃんのえさー」
『サーベラス』
むふんと笑い、あ~ちゃんはおばけしゃんをたたいた箇所を指さす。その箇所には星座の光が宿っており、星座を中心に空間が割れていく。
「な、なんだ? なにをした? 貴様、なにを!」
「ワンちゃんはほねがだいしゅきなの。おなかしゅいてるって」
嫌な予感に慄くおばけしゃん。空間の狭間から巨大な3つの凶暴なる犬の頭が突き出てくると、リッチにがっちりと噛みついてくる。そうして骨は大好きだよと、引きずって空間の狭間に戻っていく。
「や、やめろぉ、この化け物はなんだ? 儂が餌? 馬鹿を言え、儂は不死の王………」
もがき逃げようと暴れるおばけしゃんだが餌を咥えた犬が離すわけもなく、やがてその身体は完全に空間の狭間に引きずり込まれると消えていったのであった。
「ワンちゃんにえさもあげれてよかったでしゅ………ひさしぶりにちからをつかったから、つかれちゃった、ねりゅ」
あ~ちゃんは全ての力を消費して、ふらふらとなったので、金貨の山の上で寝ちゃう。お疲れ幼女は電池が切れたように動きを止めるのだ。
そうしてすやすやと昼寝をして、姿が見えないため、心配したナツたちが探して、ようやく見つけて隠し宝物庫に驚くのであったが、おばけしゃんのことはあ~ちゃんの秘密だったので誰にも知られることはなかったのであった。




