66話 第二形態はラスボスだけの特徴だよね?
星座スキルの真の力、第二形態への変貌はラスボスだけの特徴だったはずだ。なぜならば、第二形態に至るには、星座の女神の力を盗む必要があるからである。
本来の星座スキルは選ばれた者だけが使える希少にして強力なスキルだ。様々なチート的な能力を持つスキルは、ゲーム的には主人公や敵幹部が使えるスキルだけど、この星座のスキルには裏設定があった。
プトレマイオスの目的。それは全ての星座を司る星座の女神から力を盗みとり、真の星座の力を宿すこと。最終的には女神の力を全て奪い、地上を支配する星の神になることがラスボスの目的だが、ゲームではありがちだけど、ラスボスは自分の星座の力を儀式にて女神から盗んだところで、主人公たちが到着する。そして、主人公たちと自らの星座の真の力を手に入れて第二形態となったラスボスとのラストバトルが始まるわけ。
まぁ、ゲームのテンプレ、王道的な流れだ。
だが、その力らしきものをメランは使用した。狼男になるなんてゲームでは知らないんだけど? ラスボスと違うのはいかにも不気味にして強大な力を持つ身体に変態したラスボスと違い、単に狼男になっただけに見えるのが救いだろうか。
「ガハハハ、驚いたか? この身体はなかなか気に入っているのだが━━━」
楽しそうに嗤うメランが掻き消えると、アキの眼前に現れる。視認できていないんだけど!?
「ぐっ、いてっ!」
同時に身体に衝撃が奔り、アキは吹き飛ばされてしまう。勘だけでギリギリで躱したのだが………それでも口の中に鉄のような血の味が広がる。どうやら掠ったらしいけど、とんでもない威力だ。
「やりすぎるのだ。相手をすぐにミンチに変えてしまうからな。ガハハハ」
メランは拳を突き出している体勢で立っていた。恐るべき速さである。ステップ系統の武技を使用した痕跡はなかったから、純粋に身体能力だけでやったのだ。
「ふざけんなよ、てめー。その力はどこで手に入れまちたか!」
前言撤回、この犬男はヤバいレベルで身体能力が上がっている。ケルベロスは伊達じゃなかったか!
「ふふーん、俺もこのような力に頼るのは逃げのように感じられて、ひじょうに心苦しくはあるのだが、それだけ危機的な状況に追い込まれてしまったということだ。誇ると良いぞ、幼女よ? 冥土の門の通行許可証を与えるから、名前を遺していくが良い」
挑発だろう、招くように手をクイと動かす。なんてムカつく敵だろう、幼女に対して優しくないね。
『たいへんたいへん、あのワンコつよいよ、あきちゃん! かまれたり、ひっかかれたらいたいでしゅ!』
『むぅ~、戦ってみないとわからないぜ』
慌てるあ~ちゃんがアキの裾を引っ張る仕草をする。あ~ちゃんが慌てるなんて、かなり珍しい。それだけ強いということか。
『だけど、ここで逃げるわけにはいかない。冒険者ギルドのギルド長を暗殺できる機会なんて、そうそう滅多にないからな!』
どちらが悪役か分からない発言をして、冥府の番犬に負けず劣らず、子猫のお怒りモードでアキは鋼の剣を構え直し突撃する。
『シャープボディ』
武技にて速度を上げて間合いを詰めると、まずは牽制だと、速度重視の剣を振るう。狙うは脚。幼女の背丈なら巨漢のメランの脚は狙いやすい。同時にタイチたちも左右から挟み込む攻撃だ。
「とやっ!」
「ふん、甘いわっ!」
アキの横薙ぎの一撃をあろうことか、蹴りにて受け止めるメラン。僅かに毛皮へと刃が食い込み傷ができるが気にすることもなく、続けてのタイチたちの剣を両腕を水平にすると身体を横回転させて弾く。
「こいつ、傷つくのを恐れないのかよ! くぅ~、痛い!」
回転した勢いを利用しての蹴りを繰り出すメランに慌てて後ろに下がるが、速すぎてやはり回避しきれずにアキの身体に掠ってしまう。アキの身体にバラバラになるような衝撃が奔り、痛みで身体がよろける。幼女の身体はジョブやスキルにて補正されていてもガラスのように脆弱であった。
「ガハハハ、動きが鈍そうではないか? ひ弱だな! 俺の身体はほれもう治ったぞ」
自慢げにいうメランの身体は既に治っていた。この犬男は再生能力付きらしい。ふざけた壊れ性能で怒って良いかな?
「にゃめんなよ!」
『ファントムボディ』
階位6の『ファントムボディ』を使用して、自身に幻の肉体を重ね合わせると、メランを迎え撃つ。メランは鋭利なるケルベロスの爪を伸ばして斬り掛かってきて、素手であるため、その攻撃は速く、そして変化がつけやすい。
右爪での斬り掛かりをパリィにて弾くと、左拳を握りしめての正拳突き。ジャブ、ストレートときて、蹴りを加えて回避しきれぬ連撃だ。
ステータスにて大幅に負けるアキはなんとか防ごうとするが、防ぎきれるものではなく、何発か命中してしまう。だが、命中しても身体に重ね合わさった幻が消えるだけでダメージを負うことはない。
「むっ! その幻が肉体を守るのか! 小狡い技を使うものだ!」
「そのとおりだ! 幼女の身体はお触り禁止だぜ!」
余裕綽々に見せかけるが、『ファントムボディ』は2発まで敵の単体攻撃を術者の代わりに受け止めてくれる魔法だ。メランの連撃ではすぐに消えてしまう。内心は焦っていたので、すぐにヒャッハーたちにアイコンタクトを送る。
「ヒャッハー、俺たちも参戦させてくれ!」
「おらおら、ボコにしちまえ、ボコボコだあ!」
まんまチンピラのようなセリフを吐き、センイチたちがメランへと向かっていく。時間を稼いだ甲斐があったようで、ギルド員たちは全て倒しており、白兵戦部隊は手が空いたのだ。
『フォースシンクロ風刃剣』
完全に同期された動きで、センイチたち4人が同時に剣を振るい風刃を繰り出す4つの風刃が重なり合い威力を大幅に高めて、メランへと迫り、それをみたメランが回避しようとすると、力を込めた膝に矢が絶妙なタイミングで命中し、体勢を崩し回避を許さない。
「おぉっ!? そこまで連携が可能なのか、驚きだな。では、こちらも真剣にやるか」
今現在の最高威力の武技が眼前に迫る中でもメランは動揺せずに、腕をクロスさせるとその肉体を膨れ上がらせる。
『金剛不壊』
『金剛力』
『冥府の身体』
いずれも高位の肉体強化武技だ。階位7『金剛不壊』は防御力大幅向上、階位5『金剛力』は筋力向上、『冥府の身体』は特殊スキルで全耐性を大幅に引き上げる。
4枚の重なり合ったギロチンの刃のように硬く、また鋭い切れ味を見せる風刃は分厚い城壁すらもやすやすと切り裂く。そのはずであった。
だがメランの腕に命中した風刃は、地面を擦りながらメランを押していくが、その腕を切り落とすどころか、数センチ程度の深さの傷を与えるにとどまってしまう。
『重力剣』
しかし、その隙を逃すわけはなく、タイチたちの重力剣がメラン肩にめりこむ。全力の一撃であり、まともに食らったはずであった。だが、やはり多少肉体に食い込むだけに終わってしまう。
「ぬっはー! ぬるい、ぬるいぞ! 冥府の拳の力を見せてやろう!」
『冥府絶影爪』
影を残すほどの速さにてメランが爪での攻撃を振るう。すぐに盾を構えるタイチたちだが、魔法の付与された盾をあっさりと紙のように切り裂くと、その身体を切り裂く。
「グッ、この野郎、タンカーの矜持を潰しやがって………」
4本の爪痕がタイチたちに残り、大量の血が流れ出す。致命傷を負ったタイチたちだか、心臓が停止寸前で癒やしが入り、なんとか一命を留める。
「ガハハハ! 良いぞ、良いぞ。魔力尽きるまで回復させるが良い! 俺の攻撃はまだまだ続くからな!」
『絶影歩爪痕斬』
シィたち神官がタイチたちを回復しても、特に怒るでもなく、シィたちを狙うこともせずに、センイチたちに向けて、メランが脚を踏み出すと共にその姿を消す。
「グッ」
「ガハッ」
その恐るべき速さは、ただ地面にメランの足跡が残るだけで視認は不可能となり、センイチたちの身体に漆黒のオーラが斬撃の軌跡を刻んでいった。
「こいつやべぇ! まずは動きを止めないといけないようだ」
『氷雪矢』
氷雪の舞う矢をレイたちがメランの未来位置を予測して放つ。触れたら、敵を凍りつけせる一撃だ。視認できなくとも、その動きの跡から予測した一撃は見事メランに命中し、その身体を氷で覆う。さすがのメランも動きを止められて動揺するかと思いきや、その顔には笑みがあり余裕の態度だ。
「良い腕だ。魔法剣士の恐ろしさというものが分かるが………残念だったな、今の俺は止められぬわっ!」
『ファングクラッシュ』
矢を放ったレイたちとの間合いを一瞬で詰めると、メランは爪を土手っ腹に突き刺す。軽装のレイたちは身体を貫かれて倒されてしまう。
「くっ、回復が追いつきません」
「わかってる! これで!」
『エリアヒールのスクロール』
シィたちの険しい声に、舌打ちしつつとっておきのエリアヒールのスクロールをアキは使用する。癒しの波動が辺りに広がり、全員が一瞬で回復するが、その顔色は悪い。
「まきゅー! たすけてー」
そうして、メランは近かったマモをアキに向けてサッカーボールのように蹴飛ばしてくる。避けようとするが、身体に掠ってアキは錐揉みしながら吹き飛んで地面をゴロゴロと転がる。
「こふっ、こ、こいつヤバいくらいに強い………慢心していたか…………」
幼女の身体は脆弱で、たった一回掠っただけでぼろぼろだ。立ち上がるのも難しい程にダメージを負ってしまった。
(ストーリーを先回りして、敵幹部たちを倒していったけど、過程を無視したつけがきたか………。本来のルートなら、なぜ星座の真の力を引き出せたのかも理由が分かったに違いない。こ、ここでゲームオーバーか)
敵を倒せるイメージが浮かばない。ここで逃げるとアスクレピオス侯爵家が狙われてしまう。どちらにしても詰んでいた。
『あきちゃん、だいぴんち! あ~ちゃんがおてつだいしゅるからまけないで! すーはー、すーはー、えっと、こーだ!』
あ~ちゃんが泣きそうな顔で手を振っている。宥めようとしても、吹き飛んだ影響で、意識が朦朧として話せない。
なんとか意識を取り戻そうとする中で、あ~ちゃんが空になにかを書いていく。そうして疲れたよとポテリと倒れるとスヤスヤと寝始めてしまった。かなり無理をしたのだろう。
『すぺしゃりおべんと:せいざすきるがちゃかいさい:いっかいじゅうまんぽいんた』
その内容を見て、ククッと思わず笑ってしまう。
(そうか、そうなんだ。薄々気づいてたけど……介入できるのか。なら━━━期待に応えないとな! やっぱり頼りになるのはガチャだよね!)
アキは震える手で、『ガチャ』コマンドに手を伸ばすのであった。




