65話 急に敵が強くなると全滅しちゃう
「くっ!」
ダイヤモンドナックルがアキの身体を貫き、絶命させる、と思いきやその姿が揺らぎ消えていく。そして、少し離れた場所に姿を現すのだった。
「あっぶな、初撃は必ず回避できるスキルがなかったらやばかった」
初めての命の危機に冷や汗をかいたよ。ファントムマスターの能力『初撃は必ず回避できる』が発動したのだ。
にしても、カードの攻撃力って現実に反映されてるわけ? たしかに銅の剣はしょぼいけど、元の攻撃力は600あるんだから、傷一つ負わないのはおかしいだろ。これ、魔法を含めた総合攻撃力で、単発は弱いとかありそう………。それか、最も恐ろしいのが、ステータスオール1の幼女はスキルを使いこなせていない可能性だ。どっちもありそうで、両方が原因かもしれない。
アキは嘆息しつつ、気を取り直して銅の剣を構え直す。戦闘は継続しており、立ち直ったタイチたちがメランと打ち合っている。戦士組は底なし沼を回り込み、他のギルド員と戦闘をしており、範囲攻撃の得意なウィッチたちはマモと霧の戦士と共にゾンビラットの駆逐中。シィたちシスター組は中間地点で、仲間への治癒を続けていた。
そして、タイチたちは信じられないことに魔法剣を繰り出しているにもかかわらず押されて防戦一方だった。
「この野郎! ヒャッハーの力をみせてやる! オラオラオラァッ!」
『雷光剣』
チンピラのようなセリフを吐き、タイチの持つ剣に雷光が宿る。雷光剣は最速の剣だ。稲光のように鳴り響き、視認も難しい稲妻の剣がメランを襲う。
「面白い! 魔法剣士と戦うのは初めてだ! 楽しい、楽しいぞぉぉ!」
『シャープボディ』
だが、驚くことにメランはその剣速に負けぬ速さで拳を振るい、戦闘が楽しくて堪らないといった顔で剣を打ち払っていく。『シャープボディ』はたしかに格闘家のスピードを上昇させる効果があるが、それでもその拳は速すぎた。
「ちっ、俺も参戦だ! 舐めんじゃねぇぞ、ヒャッハー!」
舌打ちしつつタニも参戦し、タイチと同じく雷光剣で攻撃するが、その全てが防がれて、あまつさえカウンターを受けて、ダメージを負う始末だ。
「マジでしゅか。ヒャッハーたちの攻撃は単なる二人での攻撃じゃないんだぞ。どんだけ『将軍級』とか強さに差があるんだよ」
激しい戦闘を続ける三人を見ながらアキは目を疑う程に混乱していた。なにせ、タイチたちは二人にして一つの意識を持つ。その連携は人間の連携などを遥かに超えており、メランの死角を突き、隙を作るように攻撃をしているのだ。普通ならばとっくに勝負はついているはずだった。
(むー、『騎士級』もそうだけど『将軍級』もわけわからないレベルで戦闘力が跳ね上がってる。ゲームで言えば『将軍級』は階位6以上だと思うけど、たしかに次元の変わる強さを発揮はするけど、ここまで強くはなかったぞ! タイチたちならなんとか食いつける程度のはずなのに、全然敵わない! ガニュメデスの時は魔法使いで魔力も尽きかけていたから、真の強さが分からなかったのか!)
タンク役の二人はそもそも攻撃力が低い。ならば、センイチたちを支援にと思うが、ギルド員も凄腕で、優勢ではあるが倒すのに時間がかかりそうだった。ウイやマモもゾンビラットにかかりきりだ。
「仕方ない、あたちも参戦する! そもそもファントムマスターは階位10。きっと『英雄級』とかだろうし。……なら、準備をしなきゃ!」
幼女は戦闘に加わることを決意して、『ガチャコマンド』を喚び出す。狙うは『装備ガチャ』だ。ほら、銅の剣じゃ傷をつけることができないからね? 仕方ないんだ。
(今のガチャポイントは111500。時間もないしスペシャルガチャだ!)
「無心で拝礼! 2に天に拝礼! 3に幼女に拝礼!」
皆が真剣に戦闘をしている中で、一人お辞儀をし始める幼女である。一人だけ遊んでいるように見えるけど仕方ないのだ。ガチャの作法なんだ。
「ぬおおおおおお」
ポチッとスペシャルガチャを押下する。てろてろてろーとBGMが鳴り、レア確定のガチャが無心の心に感動したのか、色が変わっていき………虹色になる!
「キタキタキター! やっぱりあたちはできる幼女でちた! 神をも殺せる無敵の神装備オープン!」
大興奮の幼女である。ぴょんぴょん飛び跳ねてカードを見て━━━。
『GR:装備スロット』
爆死した。
「うぬぬぬぬぬ、平時なら嬉しいんだけど、嬉しいんだけど………もう一回! 今のあたちならできる! 流れは来てる!」
『R:鋼の剣:攻撃力200:装備』
やはりレア確定ガチャだと判明しました。ち~ん。
「でも今度は武器がパワーアップしたんだから通じるだろ。装備変更、鋼の剣と人魚の腕輪でしゅ!」
攻撃力、防御力の両方が大幅に上がり、アキは鋼の剣を呼び出すと手に取り、メランへと駆け出す。本来は幼女では持てない重さのはずの鋼の剣は、まるで羽のように軽く、そして手にぴったりと馴染む。
「よくわからん幼女も来たか!」
「幼女への暴言は痛い目に遭う凶兆だよ!」
「ぬかせ!」
しなやかなるガゼルのように走り、メランへとアキは鋼の剣を繰り出す。その剣速は剣豪のもの。剣術スキルレベル6の力を充分に持っていた。今ならこの剣の一撃でプレートメイルも紙のように切り裂くことができるとアキは確信するが、メランの拳に妨げられて火花を散らし弾き返されてしまう。
「ちょっと硬すぎない? 鋼だよ? さっきの剣の20倍の攻撃力だよ?」
「知らないのか? 極めたる拳士の拳はオリハルコンをも上回る硬度を持つのだ!」
「虚偽表示は消費者センターに通報しないとね! 貴方の肌は人間ですって!」
軽口を叩きながら、メランと打ち合う。線香花火のように火花が弾けて、高速でアキとメランは戦いを繰り広げていく。
メランの能力はゲームで覚えている。『格闘術7』、『戦士5』、『歩法5』、『セージ2』だ。7レベルの格闘家がリアルだとこれだけ強いとは思いもしなかった。
だが、負けるわけにはいかない。正義のため、あたちの野望のため、ゲームを楽しむために、ここで死んでもらう。主に正義のために! 本当だよ!
「ていていてい」
「ぬはははは、やるではないか!」
「こいつっ!」
アキはこれでも剣術6だ。メランとのレベル差はたった1。それなのに、メランは風のように速いアキの剣撃を見切って、手の甲で巧みに弾き、受け流し、体勢を崩そうとしてくる。
だが、アキも剣術6の凄腕だ。押し負けてはいるが、それでも戦える。鋼の剣に魔力を流し、小柄な肉体をしなやかにするべく武技を発動させる。
「てーい! あたちの本領はこれからだよ! 剣豪幼女の力を見よっ!」
『胡蝶の舞』
階位6の『胡蝶の舞』。『命中率大幅アップ、クリティカル率大幅アップ、回避率大幅アップ』のゲームで好んだ武技。
幼女の背中に蝶の翅が生えたかのようにオーラが形成されて、その動きが軽やかに蝶が舞うかのように優雅にして鋭い動きへと変わる。
「がははっ、その動き、技重視の武技とみた。それだけの腕をその歳で持つとは、貴様見た目と違うな。エルフか? ハーフリングか?」
「あたちは良い子の幼女だよ、見掛け通りにね。それ、今度はそちらが防ぐ番だ!」
「筋肉のない攻撃などで俺に傷をつけられると思ってるのか?」
ヒラリと舞いながら、繰り出してくるメランの拳に剣の先端をぶつけてその軌道を曲げる。しかし、傷一つ入ることはなく、その拳の軌道もほんの僅かにずらすだけであった。剣術で負けて、筋力でも負けている証拠だ。
だが、アキは一人ではないのだ。
「ヒャッハー、俺たちの存在を忘れてもらったら困るぜ!」
「俺たちがいるんだぜぇ!」
隙ありと、左右からタイチたちが剣を構えて飛び込んでくる。メランの動きはほんの僅か体が揺らいだにすぎない。だが、それだけでも良いのだ。
『ツインシンクログラビティソード』
溜めの必要な重力系魔法剣を二人は使う。剣の周囲の空間が揺らぎ波打つ。タイチたちの攻撃は重力操作により、その剣の重さは数倍へと変わり、メランを襲う。
「3人がかりというわけか!」
『ステップ』
歩法にてメランの体が瞬時に後ろへと下がる。虚しく二人の剣は空を切るが、それも予想通りだ。
「ステップ後は僅かに硬直するでしょ! 迂闊な技を使ったね!」
『胡蝶の舞』
ステップにて逃げることは予想していたアキは出現場所に剣を叩き込む。鞭のようにしなやかにして高速の剣。まるで木の葉が空を泳ぐかのように、メランの身体に剣撃が入る。
「ぐおっ、よく練れた連携だ!」
メランの身体に傷が入り、鮮血が噴き出す。痛みで僅かに顔を歪めながらメランは対抗して拳による連撃で対抗するが、アキはすぐに後ろに下がると回避に専念するので、拳は当たることはない。
「オラオラオラァ、倒してやるぜ!」
「幼女軍の力を見せてやらあっ!」
軍団のやられ役の雑魚のように叫び、タイチたちがうひゃひゃと重力剣を振るう。大剣よりも重く、そして遅い剣撃は本来ならばメランに命中したりはしない。だが、アキが牽制をし、メランの動きを制限して、行動を予測するため、メランは時折剣が掠り、徐々に傷が増えていく。
「このままならあたちの勝ちだ! 他の面子もそろそろ倒し終えるよ!」
アキはむふんと凶暴なる笑みを浮かべて戦闘を続ける。まだゾンビラットたちは片付けていないが、センイチたちは他のギルド員を倒し終えそうだ。戦いに残りのヒャッハーたちが加われば勝ち確定だ。
メノンもそれを理解したのだろう。周りの様子を見て片目を細めると大きく後ろに下がる。
「はっ、まさかここまでやるとは思わなかった。ガハハハ、なら、俺も全力でいこうか。むうんっ! 真の星座の力をみせてやろう! 星に選ばれし真の星座の力を!」
「なにを!? え? 真の星座の力?」
メランが身体に力を込めて、魔力が膨れ上がる。戸惑うアキの眼前で、メランの身体から吹き出る魔力が暴風となって吹き荒れる。そうして、メランの身体に異変が起きる。
身体が闇のような漆黒の毛皮に覆われて、顔が変形して牙が生えて鼻が伸び、凶暴なる狼へと変わる。手から剣のような鋭さを見せる爪が生えて、傷だらけの肉体は回復してしまう。メランの身体は人間から狼男へと変じていた。
『第二形態:ケルベロス』
「わぉーん! これこそが俺の持つ星座『サーベラス』の真の力だ。冥府の門の番犬の力を見せてやろう!」
「え、なんで第二形態を使えるわけ?」
アキはポカンと口を開けて呆然としてしまった。なぜならば━━━第二形態は。
悲報。中ボスがラスボスしか使えない第二形態を使ってきた。




