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悪役令息だけどキャラメイクでルックスYを選んでしまいました  作者: バッド
2章 アカデミーに悪役令息は通う

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63話 なりすまし詐欺にはご注意しましょう

「簡単だ。僕はこれでも色々な情報が手に入る立場にある。でだ、考えたんだけど、最低限共通ストーリーをクリアしておこうって思ったんだ。そして、直近の共通ストーリーは『王都疫病発生』だろ?」


「あれはもう発生しただろ? アカデミーが破壊されたじゃねーか」


「いや、発生していない。君はクエストクリア時、ログは表記されるかい?」


「クエストクリアのログか………。そういや、なかったな。お前はどんなクエストが現れるんだ? 俺は『天才料理人現る』とか、『初めてのモンスター退治』とか、そんだけだ。チュートリアルクエストクリアぽかった。ゲームのストーリーのは『悪役令息現る』、『学費強盗事件』ぐらいか。あまりクエストって出ないんだけど、たしかに『王都疫病発生』もなかったな。病魔鼠を倒したから、クエストクリアになってもおかしくないはずなのに」


 厨二病の問いかけに、たしかにそのとおりだとヤタノは疑問が生じる。ゲームにおけるクエストをクリアしようとヤタノも頑張ってはいるが、ろくにクエストクリアにならなかった。そして、クエスト表記はされると、ホイホイと自分の情報を相手に教える迂闊なヤタノでもある。厨二病が目を鋭くさせて、聞いていることにもおかしいとは思わなかった。


「だろう? たぶん『王都疫病発生』はまだなんだ。とするとだ。防がないとならない。その方法は目星がついてるんだけど、僕がやると目立ってしまうんだ。有名人だからね」


 さりげなく権力者だと遠回しにいう厨二病に、ヤタノはピクリと眉を顰めるが、尋ねることはしなかった。


(こいつ高位貴族の出身かよ。同じ転生者でもスタートが違うってやつか。………だが、あっさりと俺を捨てそうなかんじがするんだよなぁ。手を組んで大丈夫か? だが俺に選択肢はない。くそっ、マヨネーズなんて広めなければよかったぜ)


 自身の過去の行いに悪態をつくヤタノ。即答しないヤタノを見て、厨二病は軽くため息を吐くと、机に手を伸ばす。


「これは、前金だ。やる気が出れば良いんだけど」


 突然机にドサリと置かれた袋に、ヤタノは目を見張る。どこにもなかったはずなのに、いきなり出現させたのだ。驚くのも無理はない。


 ━━━しかし、本当に驚いたのは袋の中身を見てからだった。


「金貨が入ってるのか? それにしてはやけに大きい………。なっ、こ、こここ、米かよ! これ米か! このゲームで米なんてなかったのに!」


 ヤタノは袋の中は精米した米だったことに思わず声を上げて顔が緩んでしまった。無理もない、日本人のソウルフードとも言える米が目の前にあるのだ。このゲームは食べ物だけはガチの洋風ゲームで、米や醤油はどんなに探してもなかったのだ。将棋はあるのに、運営の変なこだわりに殺意を覚えたものだ。


「そうだよ。それに醤油もある。前金としてこれらを払う予定だけど良いかな?」


 小さな壺を新たにテーブルに置く厨二病。すぐに蓋を開けてみるとプンと醤油の匂いが漂い、嬉しさで体が震えてしまう。


「良いに決まってるだろ! 返せと言われても、もう返さないからな! これは全部俺のだ! というか、これらはどこで手に入れたんだ?」


 白いつぶつぶがサラサラと手からこぼれて、知らずに喉がゴクリと鳴り、夕飯を食べたばかりなのに腹がすく。この1年、パンが主食で、味付けも果物ソースとかがメインの肉や魚。米と醤油がどれほど欲しかったことか。今のヤタノにとって、米と醤油は同じだけの重さの金よりも価値があった。


「手に入れる方法は内緒。それなりの地位にいると平民の君と違い手に入るんだよ。で、どうする? 手を組むかい? 断るのなら仕方ない。僕は家に帰って、ヤケ食いでもするよ。お米がのどを通り過ぎる感触って良いよね」


「………犯罪とかヤバい内容の時、俺がてめーの依頼を拒否できる契約なら結んでやる」


「もちろん、そんなことはしないさ。貴重な元日本人だからね。それじゃ、改めてよろしく。僕の名前は厨二病で良いよ」


「けっ、すかしやがって。いいだろう、俺の名前はヤタノ・コルブス。よろしくな」


 最低限の条件を了承した厨二病とヤタノは握手をして、手を組むことを決めるのだった。


「それじゃ、最初の依頼は『冒険者ギルドの下水道掃除』に参加してほしい。適当に掃除をしたら、さっさと帰って良いからさ」


「『下水道の悪夢』関連か? でも、あれは病魔鼠は放水でほとんど死んだと聞いてるぞ?」


「あぁ、その生き残りがアカデミーに現れたんだけど、このクエスト、曲がりなりにも攻略しておかないと『王都疫病発生』は起きないはずだからね。任せたよ。チョチョイと鼠の死骸を集めるだけで大丈夫。それできっと『下水道の悪夢』はクリアとなるはずさ」


 そんなもんなのかと、ヤタノは厨二病の言葉に頷く。たしかにそれでも下水道を掃除してクリアとなる可能性はある。参加すれば、クエストクリアとなるのは、悪役令息現るや学費強盗事件でわかっていた。


「わかった。それじゃ、連絡方法は━━━って、いねえ! 消え方まで厨二病かよ! はぁ………仕方ねぇ、米と醤油のためだ、我慢するか。おっと、早速炊いてみないと」


 少し目を逸らしただけで、窓枠に腰掛けていた厨二病が消えていたため、驚くよりも厨二病すぎると嘆息する。


 だが、抱えた米袋の重さにニヤつき、たいした依頼でもないことに安堵して、ヤタノは再び厨房へと向かうのだった。そして、米を炊いたところを見られて、また一悶着あるのだが、転生者として迂闊な行動であることを自覚することはなかったのである。


            ◇

 

 次の日、ヤタノは冒険者ギルドにて、『下水道の掃除:報酬1日銅貨3枚』を受けた。下水道は意外なことに臭くなく、放水のせいで鼠の死体がそこら中に転がっているくらいだ。その死骸の片付けが問題なのだが。


「王都の下水道は浄化付与されてるから、多少の汚れは綺麗にしちまうって本当だったんだな。死臭が全然しねーや」


 本来、溺死した死骸だらけなのだから腐臭がしても良い。だが、清浄な空気が漂いヤタノを苦しめることはない。そして、ヤタノはせっせと病魔鼠の死骸を下水道の出口に運んでいた。


「ガハハハ、そのとおりだ! だが、これだけ大きな死骸だと浄化もしきれんからな。たまに冒険者が掃除をするわけだ! 偉いぞ、ヤタノ。こんな安い報酬の仕事を受けるなんてな!」


「ええ、ほら、俺ってボランティア大好きなもんで、掃除とか大好きなんっすよ」


 バンバンと荒々しく肩を叩いてくる豪快な男に、いてーよと内心思いながらも、口元を引き攣らせて笑顔で答える。


「ほぅ〜、やはり金を稼いで準男爵にまでなったマヨネーズ王は違うな。他の冒険者は一人も来なかったから助かった、単位は期待しておけよ? これで卒業させてやるから」


「掃除だけで卒業させていいんすか? 俺は嬉しいっすけど」


「他の生徒たちには秘密だぞ? ガハハハ。なぁ、兄者? 兄者もヤタノの冒険者ランクを二段階ランクアップさせてくれ。これだけの男はなかなかいないぞ?」


 豪快な男の名前はダックス・サーベラス。アカデミーの剣術科ルートの担任だ。脳筋を身体で表しているように、ムキムキではち切れんばかりの身体と背丈も2メートルを超えている。


「ったく、仕方ねぇな。美味しい仕事があったら紹介してやる」


 苦笑しながら死骸を運ぶのはメラン・サーベラス。王都冒険者ギルドのギルド長だ。国内の冒険者ギルドを仕切ってもいた。ちなみにダックスの兄で、顔も体つきもそっくりだ。即ち脳筋である。


 他にも10人くらいの男たちが死骸を運んでいる。全て冒険者ギルドのギルド員で、冒険者はヤタノしかいなかった。


「人手が必要なら、もっと報酬を高くしてもよかったんじゃないですか? こんな金額なら冒険者が来るわけないですよ。最近は特に低ランクの冒険者は少ないでしょ?」


「まぁ、低ランクの仕事は誰でもできるから問題はない。この下水道の死骸片付けは国から報酬が出てるが………ほら、わかるだろ? 冒険者ギルドも色々と入り用なんだ」


 気まずそうに語るメランの言葉に合点がいく。ようは国の依頼料をポケットに全部入れるつもりなのだろう。だから報酬が安く、冒険者に依頼を受けさせるつもりはなかったのだ。


(ま、死骸の片付けだからな。当然そんな方法もとるわけだ。ゲームと違って報酬も安いし、現実の冒険者ギルドはクソだな、まったくうんざりだぜ)


 冒険者ギルドの腐りっぷりにヤタノはうんざりする。地球とまったく変わらない。美味しい仕事は独り占め。めんどくさい仕事は中抜きをして、安い報酬で冒険者に仕事をさせる。冒険者は派遣社員と同じだ。中抜きをされ続けて、結局安い賃金だけできつい仕事をするのだ。


(でも、厨二病のやつ、なんでこんなことを? 死骸片付けがクエストに繋がるのか? くそっ、俺は剣術科ルートしかクリアしてねーし、サブクエストもあんまり受けなかったんだよ。わかんねー)


 よくわからないが、それも米のためだと諦めて、死骸を集めること丸一日。放水で流された死骸を抜きにして、一万匹を超えたくらいの病魔鼠の死骸を集め終えた。


 下水道の外は既に太陽が落ちかけており、オレンジ色の空に染まり始めている。


「あー、疲れた。これで銅貨3枚とかやってられね〜」


 疲れ切ったヤタノは座り込み、うんざりとしてため息を吐く。もうクタクタで他のギルド員もくたびれきっている。


「ガハハハ、お疲れヤタノ。お前、なかなか体力あるな」


「どーも。それじゃこれで解散っすか?」


 ダックスが笑顔で首を横に振り、死骸を指さす。


「最後は兄者の締めで終わりだ。貴重な光景だから見ておけよ」


「はぁ………燃やすとか?」


 ダックスの言葉に、死骸の前に立つ筋肉ムキムキ野郎をヤタノは眺める。冒険者ギルドのギルド長がなにをするのか皆目わからない。


 メランは薄笑みを浮かべると、腕を組みパンプアップする。


「むぅぅぅん! 我が星座スキル『サーベラス』よ。その力をみせよ!」


 爆発的にメランの魔力が高まると、その体が鉄のように硬くなり、紫色の死を感じさせる禍々しいオーラを噴き出す。


「さぁ、冥府の門は開いた。貴様らに人間界への通過を冥府の門番ケルベロスが許可する!」


 メランが狂気の笑みを見せ、禍々しいオーラが地を流れていく。オーラが死骸に触れると、死骸たちがピクリと反応して、次々と起き上がってくる。一万匹を超える病魔鼠の死骸全てが。


「な!? 『クリエイトゾンビ!?』 この数を!」


 目の前の光景が信じられずに、ヤタノは思わず叫び、目を疑ってしまう。ネクロマンサーでも百匹程度しか作れないはずだった。しかもメランは戦士系にしか見えず、魔法は使えそうにないのに。


 叫ぶヤタノに、メランは横目で見てきて、にたりと嘲笑う。


「俺の星座の『サーベラス』は自身の身体能力を2倍。そして━━━発生させるオーラに触れた死体を自動でゾンビにするんだよ」


「そんなスキルが……なんだって星座スキルはいつもいつもチートレベルなんだよ。こんな数のゾンビ鼠が王都に解放されたら大変なことになるぞ。………アアッ、そういうことか!」


 ゾンビは身体能力が上がるが、知能は失われて魔法も使えない。だが病魔鼠の体に宿る病魔の毒は健在だ。そして、これらが王都に放たれるということは……『王都疫病発生』クエストとなることに、ヤタノは気づいた。即ち、厨二病はこの展開を予想していたのだ。


「だから冒険者たちに受けてほしくなかったんだが、卒業は嘘ではないぞ? ヤタノ卒業おめでとう」


 後ろから聞こえたダックスの声に、慌てて振り向き、剣を振り上げる姿が目に入る。顔を愉悦で歪めた剣術科の担任の一撃。剣術1のヤタノでは反応もできない。


「卒業って、そういう意味かよ!」


「あぁ、俺の秘伝の奥義を見て、冥府で剣術を訓練するんだぞ、ヤタノ。お前には素質がアベッ」


 そして、光線がダックスの上半身を貫き四散させた。


『ツインシンクロエナジーボルト』


 光線の放たれた先、夕闇が訪れる外の世界にいつの間にか、黒尽くめの人間たちが現れていた。今、魔法を撃ったのだろう二人の持つ杖が魔力の残滓で放電している。


「やぁ、きっとこうなるだろうと思ってたんだ。お疲れ様でした、ヤタノ君」


「おせーよ! お前、こうなることがわかってたんだろ! 俺はこのストーリー知らねぇぞ?」


 生命の危機から凍りついていたヤタノはようやく余裕を取り戻し、文句を口にする。


「でも、戦闘は無しでクエストに参加したことになるはずさ。さぁ、ここからは流れ弾が当たっても死ぬ世界だ。ヤタノ君はさっさと霧の向こうに行くんだね。死んでも知らないよ?」


 そして、その集団の中心にいる厨二病がヘラリと笑う。


「ぬぐぐ、いつかお前を上回る力を手にしてやるからな、ちくしょう!」


 悔しいがそのとおりなので、ヤタノは振り返らずに全力でその場を逃げ出し、なぜか霧が渦巻く中を通過し立ち去るのだった。

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― 新着の感想 ―
学園内に不穏分子多くない?まともな教師の方が少なくなって来た
 それまでハズレ扱いだったガチャ産の米•醤油が転生者にとって強力な誘惑カードになるのは日本食のありがたさを知る体験をした人間には「あるある」レベルで実感出来るからマヨネーズ王を籠絡するなどちょちょいの…
炊きたてのご飯に醤油マヨかけ回して、おかずなくてもおいしく頂けます。冷めたら最悪。それはそうとそろそろ幼女の出番?
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