56話 アイテムの買い占めは合法なんだ
――次の日。とりあえず、マノミには検討するので、ご連絡をお待ちくだしゃいと帰らせた翌日となる。
「いいんですかい、あの少女を仲間に入れて。あの子は一般人ですぜ?」
「その言い方だと、あたちはカタギではないということになるんだけど、発言の理由を聞きたいところでしゅね」
タイチの言葉に、ぱっちりお目目で睨みつつ、アキは掃除をしていた。迷い家の床を懸命にゴシゴシと雑巾で擦って汚れをとっているお手伝いのできる良い子の幼女だ。なんで床が汚れたのかを考えると少し猟奇的になるので、考えるのはやめたほうが良いだろう。今後はこの迷い家を住居として、王都の屋敷はほとんど放置する予定。
幼女とタイチが働いているのに、他の皆はというと、お買い物だ。アキの指示したものを買いに行っているために、二人でお掃除していた。あ~ちゃんもやると騒いだけど、このお掃除は少し幼女に悪影響を与えるので、アキがやっていた。
「マノミは信用できるキャラだよ。ゲームでも裏切りイベントとか無かったし。ピスケス公爵家と関係なく行動をしますとは言ってたけど有形無形な形でピスケス公爵家の力を間接的に使えるから役に立つ」
汚れた雑巾をバケツにいれると、放置されていた木箱の上に座る。頑張った甲斐があって、ようやく綺麗になったのだ。
「ひでぇなぁ、それじゃピスケス公爵家とは無関係に行動するようにとかなんとかは詭弁だったんですね?」
「言い方がひどいなぁ、マノミがどれくらい真剣かと、ピスケス公爵家に足を掴まれないようにでしゅよ。マノミにお手伝いをしてもらう時は、自然な形になるようにお願いするよ」
別にマノミを都合の良い女扱いする気はない。そんな非道なことはしません。とはいえ、ピスケス公爵家の娘だったからという理由は外せないのは確かだ。
「タイチは組織が秘密裏に行動するために必要なことがなにかわかりましゅか?」
「ウ~ン、やっぱり秘密厳守ってところですかね」
「なら、どうやって秘密厳守にするの?」
「そりゃ、裏切った者は殺すとか、裏切らないように金をたっぷりあげたり、可愛がったりとか?」
木箱に座って、足をプラプラと振りながらアキが尋ねると、質問に少し考えて答えるタイチ。
「ぶっぶー、はずれ。家族や友人が人質になったり、魔法などで魅了を受けて洗脳されたら裏切るでしょ?」
「まぁ、そのとおりですね。どんなもんにも裏道ってのはありますから。なら、他に方法があるんで?」
「うん。それはね…………無関係な間接的な仲間を作るんだよ。組織を知る人が少ないほど、秘密は守られる。簡単にして単純な方法だよ」
人差し指を振りながら、ドヤ顔で平坦な胸を反らして腕を組む幼女。
「この組織の真の目的は、ケイたち人間には内緒だけど、本当は『ゲーム通りにストーリーを進め隊』でしょ? で、ストーリーで下水道に主人公を向かわせることが必要な場合、前準備としてタイチが傷ついた冒険者のフリをして、苛ついた顔で、何人かに酒を奢るわけ」
『まいったぜ、下水道に潜ったら魔物がいやがって、怪我をしちまったよ』
『へ、そりゃ剣呑剣呑。他の奴らにも教えておくよ』
酒場でたびたびそれを繰り返せば、下水道が変だとの噂が生まれる。人々の口に上れば自然と主人公たちにもその情報が伝わるだろう。他にも、村の墓場が怪しいとか、その噂を知るやつは酒場にいるとか、銅貨数枚でエキストラを雇えば、あら不思議、主人公たちは向かってほしいところに行くだろう。
「なぁるほど。本人にその気はなくても、俺達の手伝いをしているってわけですかい。はぁ、よくもまぁそんな悪辣な考えを次々と思いつきアタッ」
「天才的な計略と言ってほしいよ、まったくもぉ。なるべく組織の人数は少なくして、手足は無関係な人にするのが一番秘密厳守になるの!」
いらんことを口にしようとするタイチに雑巾を投げつけて、唇を尖らす幼女だ。幼女に取り憑く恐るべき大悪魔がいるかもしれない。理想は幹部たちだけで運営する小規模な組織だね。
「ただいま戻りました〜。錬金の道具って高いんですね、私びっくりしました。お釣りでクレープとかいう天才料理人が発明したおやつを買ってきましたよ」
「姫、ご指示通りに王都にある錬金の道具は全て買い占めてまいりました。半額ほどまで値引きしてもらえましたから、あまりはお返しいたします」
と、話している間に、身体が霧のようにボヤケている人たちが屋敷に入ってくる。皆錬金釜や各調合道具をたくさん持っている。階位5の『幻想変装』で、認識阻害をかけてあるのだ。注意して見られたらバレるが、一般人程度なら十分に誤魔化せる魔法である。
幻想変装が解除されると、ケイやシーウィードたちの姿にもどり、ホールにどんどん買った錬金道具を置いていく。
「………あんまりなかったんだね。全部で50個くらい?」
ホールに並べられた錬金道具を確認してアキは意外に思って確認する。王都なんだからもっとたくさんあると予想していたが、意外に少ない。
「はい。どうやら錬金術は流行っていないか、それとも事前に買い集める道具が高いのか、両方が理由かもしれませんが、在庫はほとんどありませんでした」
「でも、ほとんど集めたと思いますよ。それにもうこの屋敷で手に入れた金貨は全て使っちゃいました。うぅ、少しは残しておけば良かったのに」
アキの命令を聞けて嬉しいシーウィードは頬を興奮で染めながらピシリと答えてくれて、ケイは肩を落として、残念そうに空っぽの木箱を見る。
セツロが屋敷に隠していた宝石や金貨は合わせても5000枚程度だったが、今はカラになっている。お金を手に入れても右から左へと使ってしまう悪い幼女だった。
「でも、こんなにたくさんどうするんですか? 使わないですよねって………。あぁ~! アカデミーはどうしたんですかアキ様! 早くもサボりですか!?」
はむっとクレープを食べながら、眉を顰めるケイ。が、クレープの甘さにほんにゃかと顔を緩める。かなり美味しいらしい。どうせマヨネーズ王がレシピを売ったのだろう。
「人聞きの悪いことを言わないでくだしゃい。ちゃんとアキモットがあたちの代わりに通ってましゅ」
アキは余裕の態度で、フフンと笑い返す。コブターンの幻影着ぐるみをマモに着させて登校させたのだ。アカデミー編をガン無視する悪逆非道な幼女だと、ゲームならば騒がれるだろう。
「出席さえクリアできれば問題ないよ。あたちは錬金術の講義がある一週間に一度だけ出ましゅ」
ゲームでも普通の授業はスキップされて、イベントの起こる科しかシーンはなかったからと、平然と答えるゲーム脳な幼女である。
「え、それ大丈夫なんですか? アキモットって、ゴーレム操作をしているマーモットのことですよね? 授業に出ないと落第しちゃいますよ?」
ケイは心配そうな顔になるが問題ないよ。
「テストで赤点取らなければいいんでしょ。その方法は考えてあるから大丈夫。授業中もぼんやりしてて、休み時間は寝てればいいとマモには伝えてあるから問題ないよ。土術って、かなり便利だよね。というか、あたちはアカデミーに通ってる暇なんてないから」
マモはアキの着ぐるみをゴーレムに変えてアカデミーに通っている。そして、テストは『セージ』のスキルを取得すれば大丈夫。きっとガチャで出てくるから大丈夫。セージは知識のスキルだ。たぶんテストくらい答えられるだろう。
自身の日頃の行いからガチャ運は良いと根拠なき自信を持つ幼女である。本当にテスト日までにセージスキルのあるカードがでてくるかは不明であり、出なかった場合は試験で足切りされたアキに勝ち目はないが、気にしないギャンブルな幼女だ。
そして、マモはアキの予想以上に上手く働いてくれた。授業中はぼんやりとして、休み時間は陰キャの如く寝るフリというか、本当に寝ていた。そして、なんと人が多くて出欠を取らない講義を確認し、週に3回通えば大丈夫なようにメモしてくれたのだ。人生2回目みたいな本当にマーモットなのか疑わしいマモだ。だが、数日後に聞いて、ビールを飲んで良いよと喜んだアキであった。なにせサボり癖のある高位貴族の令息なんて、まさしく悪役令息に相応しい行動だからだ。
一つだけマモが言わなかったことは、お腹が空いたら花壇に行って、食べられるお花とか草をまきゅまきゅと食べていたのだが、草食動物として当たり前の行動なので、報告することはなかったくらいだろう。
そんなことは露知らず、アキはコホンと咳払いをして、ぷにぷにほっぺを引き締める。
「皆、錬金道具を手に入れてくれてありがとうね。これを集めたのには理由があるんだ。錬金釜って、量産できない貴重なものなんだよ。うん、一つ作るのに3年はかかるって鑑定では書いてある」
変態的な能力を持つ『鑑定眼鏡』で見たところ、錬金道具のうち錬金釜だけはなかなか作成できないとフレーバーテキストに記載されていたのだ。なので王都中の物を買い占めれば、もはや手に入らない。
「ははぁ、穴場の店を開店させる前に、錬金釜を入手させないようにですかい。たしかにこれさえ買い占めちまえば良いんですもんね」
タイチはピンと来たようだ。そう、そうしないと、カストールたちが錬金釜を手に入れるパターンとなる。となると、穴場の店にも行かないだろう。とても困ったことになる。
ストーリーを進めるために、手段を選ばない子、その名はアキ・アスクレピオス。
「え~と、お友達に無理やりプレゼントしたい恥ずかしがり屋なアキ様なのはわかりました。でも、それじゃ、そのお店を買うだけですね。あの………アキ様、お金は大丈夫ですか?」
ケイが残りのクレープを飲み込みながら尋ねてくるが、そんな初歩的なミスはしないって。
「それは先にシィに買いに行かせたから大丈夫。後は誰かが店主役をすればオーケーだ。にしても、買い占めたのには理由がもう二つあるよ」
「ん? 失敗を挽回するためじゃないんですかい?」
「もう二つとはどのような内容なのでしょうか、姫」
アキは錬金釜の縁に指をツツツと滑らせて、むふふと悪戯幼女のスマイルとなる。
「この下水道の下には多くの鼠や虫が棲息している。それらによる疫病の発生を防ぐための薬品作りだね」
「おぉ! さすがは姫です。下々のために働くその崇高な姿に、このシーウィードは尊敬の念を禁じえません」
大げさなシーウィードが跪くと称賛してくるけど、夏の共通ルート『王都疫病発生』の事前準備なんだよね。
「もう一つって、なんですか?」
「それは――今は秘密。もう少し情報を集めたらおしえるよ」
パチリとウィンクをして、幼女は悪戯そうに微笑むのだった。




