50話 パーティー解除を忘れることってあるよね
声をかけてきたのは、1年前に出会った女の子。ゲームのヒロインの一人マノミ・ピスケスだった。相変わらず可愛らしい娘だけど、気のせいか凛としている感じがする。でも、なんで幻霧の中に入ってこられるわけ?
そこでアキはハッと気づく。まさかとは思うけど影響を受けない相手がいるのだ。ステータスをピピッと操作すると━━━。
『パーティーメンバー』
『ケイ・メイジャ』
『マノミ・ピスケス』
と表記されていた。たしかにゲームであったよ、パーティー編成! でも、なんで自動でパーティーメンバーに入ってるの!? 1年前にパーティー組んでそのままだったということか! 幻霧の影響を受けないのはパーティーメンバーだけなのだ。まさかのマノミに見られちゃった。
「……ピチピチピチピチ」
仕方ないので、ピチピチと木箱に戻る。戻った木箱の蓋をマーモットが塞いで、よいしょと持ち上げると運んでいく。何もなかったことにする幼女だ。
「いや、いやいやいや、待ってください! ロデーちゃんですよね? なんでここに? そして、この戦闘跡は何なのでしょうか?」
何もなかった事には出来なかった幼女だ。マノミが木箱をしっかりと掴み、困ったマモはマノミに木箱を渡すと、やれやれ疲れたよと肩を回してコリをほぐし始めた。本当にマーモットなのか、極めて疑わしい。
仕方ない。ここで説明しないと、いつまでも木箱を手放さないだろう。パカリと木箱を開けると、バイザーを持ち上げて、ご挨拶。
「久しぶりマノミ。この戦闘跡は、プトレマイオスへの報復にきたの。ここの魔法使いは人魚をさらっては非道なる人体実験をしてたんだ。彼の屋敷には隠し地下室があって、そこにはたくさんの死体があるから、今から行ってみる予定なんだ」
きりりと真面目な顔で話を捏造する幼女人魚である。一部は本当だ。ハコブの屋敷には本当に隠し地下室があり、そこにはたくさんの死体がある。ソースはゲームだよ。地下室には貴重なアイテムや素材もあるから回収しておきたいしね。
マノミはちらりと戦闘跡を見て、キメラハコブの死体を見ると、納得したと頷く。
「では、すぐに先生を」
「ダメダメ。そんなことをしたら国際問題だよ。もうポセイドン王国の名前は知れ渡ってるよね? ポセイドン王国の国民をさらって人体実験をしてたなんて大問題。戦争になってもおかしくないから、密かに片付けるつもりなんだ」
「………たしかにそうですね。では、私と私の護衛はついていきます。後ほど報告もしませんといけませんし」
「うん、それなら良いと思う。それじゃレッツゴー!」
目指すは金目の物だと、目を輝かせる幼女人魚であった。
◇
「こ、これは………なんてことだ。お嬢様方、入ってはなりませぬ」
サーカスの時にも会った護衛が隠し地下室を覗いて青ざめていた。あれからすぐにハコブの屋敷に向かったのである。図書館の戦闘を説明するのにマノミの護衛を一人残し、見た目は普通の屋敷に向かい、中に入ったところで、護衛が惨状を見てしまった。よほど酷い光景なのだろう、護衛は押し留めてくるが、マノミは険しい顔で足を止めることなく中に入った。もちろん木箱に入っているアキも中に入る。ピチピチ、マモはしっかりと木箱を運ぶように。
「私はピスケス家の者です。証人としても確認しなければなりません」
「ピチピチピチピチ」
中に入ると凄惨の一言であった。液体が充填されたカプセルには多くの魔物や人間の死体が部品だけ浮かんでおり、目を思わず背けてしまう。手術台には解剖されたゴブリンの死体が置かれており、血塗れの手術用具が横に放置されていた。
皆がハコブの悪行に言葉を失い、幼女人魚も死んでいる人魚を見て悲しく思い、運び役のマモをペチペチ叩く。
『あの戸棚! あそこの本は回収して! そこの木箱の中にポーション系と素材、あ、宝石も貰っとこ』
『悪魔の方がマシに見える幼女だまきゅ』
『ここのお宝を集めれば、ビール代なんか余裕かもよ』
『キュキュー、了解まきゅ!』
悲しく思いながらお宝を漁る二人である。見た目は気持ち悪そうに壁に寄りかかりシクシク泣く演技も見せちゃう。マーモットはホイッスルをピッピッピーと吹くので、少しアホっぽかった。そしてドンドコ木箱にお宝を入れまくる幼女である。
「………ここまで非道なことをする者がアカデミーの魔法使いだったとは……謝罪のしようもありませんね………。本当に表沙汰にしなくて良いのですか?」
「う、うん! 国内問題として片付けて! あたちは仲間の形見を貰えれば充分だよ」
ドクロのついた杖とか、地上にしかない薬草を木箱に放り込み、形見と称する泥棒人魚アキ。段々重くなって、マーモットのホイッスルが激しく鳴るけど、限界までいれるつもりです。
マノミたちは国内問題として片付けさせてくれるならと、その行動をみて見ぬふりをした。というか、それで済むなら安いものだとも考えていた。
(お父様たちはポセイドン王国と貿易の交渉に懸命になっています。窓口すらもなかなか用意できないのに、こんなことになったら、水の泡となる。またロデーちゃんには大きな借りができてしまいました。ありがとうございます、ロデーちゃん)
柔らかな微笑みを浮かべて、内心で感謝の念を送るマノミ。まさかアキが魔法科ルートを潰すために行動したとは露とも思わなかったが、普通はそんなことを思いつくはずもないので当然の帰結であった。
だが、魔法使いハコブの暴挙は表に出さなくてはならない。
「この件は私に任せてもらっても良いでしょうか、ロデーちゃん?」
「うん! 全部お任せ! あ、でも、事態が完全に解決するまでは魔法科は休止しておいてね。ハコブの他にも同じことを考える人がいるかもだし」
「わかりました。必ずお約束しますね! この事態を解決するまでは、魔法科は休止することをピスケス家の名で誓います!」
そうして、マノミが請け負った通りに、魔法科は次の日から休止となったのであった。
◇
それじゃあ、ここにあたちがいるのはまずいから帰るねと、そそくさと帰ったアキとマモ。途中でポータルテレポートのスクロールで帰還した。目的は達成したので、自称形見を鑑定しつつ、のんびりとソファで寛いでいた。
「なにか、少しマノミの印象が変わってたな。前みたいにオドオドしていなくなったかな?」
おかしいなと、さっきのマノミの様子に疑問を持つアキ。入学当初は弱気でオドオドしている娘だったはずなのに、堂々としており、立派な公爵家の一員に見えた。あの姿はヒロインの好感度が上がった時のラブラブイベント後になるんだけどなぁ。
「ウ~ン、マヨネーズ王が接触したかな? その影響? むむむ、おのれマヨネーズ王! マノミにちょっかいをかけるなんて許せない!」
うぬぬと拳を握りしめて、マヨネーズ王に冤罪をかける幼女である。自身が原因だとはちっとも思っていなかった。
「でも、魔法科ルートでないとマノミは絡まないし様子見にするか。それよりも魔法科ルートを潰せたのは良かった予感がする」
「悪人を倒しに行ったのはわかりましたけど、魔法科ルートってなんなんですか?」
ケイがコトリとオレンジジュースをテーブルに置きながら尋ねてくる。まぁ、不思議に思うのは当たり前だ。傍目から見たら謎の行動に見えるしな。
「んと、簡単な推理だよ、ケイ君。情報を精査したところ、これから沢山災厄が訪れると思うんだけど、そのうちの一つを潰したんだ。人魚の仇もとれたし、万事よしだよ」
適当に嘘を告げて、ひらひらと手を振る名探偵な幼女だが、シーウィードはアキの行動に感心するとともに、今回の事件に対して怒りを見せる。
「さすがは姫です。しかしこの地で我らが同胞がそのようなことに………正式に抗議をせねばならぬでしょう。本当に水に流すのですか?」
「うん。ここでさらに王国に圧力をかけると潰れるかもしれないから。そうなると困るのは民草なんだ、それにこの大本の原因はプトレマイオスだから彼らを倒さないとならない」
怒るシーウィードの気持ちはわかる。が、それだとプトレマイオスや独立しようとする貴族たちを利するだけなんだよね。今回は魔法科ルートを潰せただけで良しとしよう。
それよりもだ━━━。
「これで、あたちの立てた方法が可能だと分かったことが大きい。やはり時代は悪役令息ではなく、悪徳監督役の方が簡単だと思うんだ」
もう悪役令息は古いねと、すべてを操る監督役を狙おうとする幼女がここにいた。斬新すぎる考えをしちゃう悪魔的思考の幼女だ。
「ん〜、具体的にどうするんですかい?」
タイチたちはアキの言うことがわかるので疑問顔だ。ケイとシーウィードたちはハテナ顔だ。だが、アキのやることに間違いはないだろうと口を挟むことはしない。しないが、たぶんあとでタイチは質問攻めにあうだろう。タイチよ、適当に話を作っておいてね。
というわけで、ちっこい脚を組みつつ、組むのに失敗をして、コテンと横に倒れながら幼女はニヤリと笑う。
「あたちたちの最終目的はプトレマイオスの撃破。彼らの暗躍は多くの人々に災厄をもたらすからね。そこまでに至る前にこちらも組織を作りたいと思う」
今までの事から、先回りすればゲーム的にクリアになるのではないかと思われることが多々あった。例えば、この先でモンスタースタンピードが起きて、それを防ぐイベントがあるんだけど、魔物の軍勢を先回りして倒しておき、町へと迫るモンスターはマーモット一匹だけにするとどうだろう? てこてこと走る呑気な魔物だけだけど、なんとなくクエスト発生とかになりそうな予感がするんだよね。雑な運営だからモンスタースタンピードに当て嵌めてくるに違いない。その場合、マーモットを倒せばクエストクリアである。
プトレマイオスの邪魔をしつつ、ストーリーも進めるために組織が必要なんだ。たぶんこれでいけると思う。
「ふぃー、一仕事終えた後のビールはたまらんまきゅ。でも冷えてないのが残念まきゅよ」
「おぉ、なかなか良い飲みっぷりですね。もう一杯いきましょう。冷やすのはウイたちがいればよかったんですけどねぇ」
話に加わらずに、ワハハと笑って、酒を飲む呑兵衛たち。知らぬ間に生贄にされそうなことも知らずに、マモは嬉しそうにゴクゴクとエールを飲んでいた。あいつの背中にチャックないよな?
「組織づくりにおいて、アスクレピオス侯爵家とポセイドン王国の支援は受けない。あたちだけのお金でやるつもりでしゅ。全くの秘密組織にするんだ」
「えー、でも、アキ様はお小遣い銀貨一枚しかないんですよ? それでなんとかできるんですか? 秘密組織ごっことか?」
「ふふふ、任せておいて。あたちは一ヶ月でアスクレピオス侯爵家の借金を返した幼女だよ。お金を稼ぐなんて簡単でしゅ」
不敵に笑うと、幼女は銀貨を指で弾き、部屋の隅に転がっちゃったので、涙目で探すのであった。




