47話 ゲーム脳だと気づかないことってあるよ!
アキはAクラスだった。身分は関係ない平等のアカデミー。平等に資本主義を導入している模様。即ち、マネーの力である。
アカデミーの教室は大学の教室タイプで、階段状に段々となって机が置かれており、座るところは自由だ。ボッチのコブターンは勉強好きなんでと、一番前に座った。ほら、一番前の席って、皆嫌がるから近寄らないじゃん? だからボッチに見えるけどボッチじゃないんだ。たぶん。
だが、神はコブターンの中にいる幼女に同情したようで、隣にとすんと座る子がいた。
「えへへ、これからの学生生活楽しみだね、アキ」
誰あろうヒロインのスピカである。
「あ、あぁ、そうだな。貴様らもAくらしゅとはアカデミーも質がおおおちたものだ」
質を落としている筆頭学生は、なんとかゲーム通りのセリフを口にして恥ずかしがった。しかも噛み噛みだ。
そして、なぜだが隣に座り、コブターンのパーソナルスペースを侵攻する少女スピカがニコニコと笑う。その微笑みに裏はなく、なんでこんなに好感度が高いのか分からない。いや、薄々気づいている。
この子、ダメ男専なのではなかろうかという恐ろしい考えだ。誰から見ても性格も良く、可愛らしい少女が、なんでこんな奴と言うほどに、酒好きでだらしなくギャンブル好きな、性格も悪いダメ男を好きになるのだ。一説によると、ダメ男を私が支えないと駄目になっちゃうと、謎の思考でダメ男を好きになるらしい。この場合は駄目幼女かもしれない。でも、駄目幼女は支えてくれる人がたくさんいるので、美少女はいらないかもしれない。
考えたくないが、スピカはその可能性あり。とすると、ゲームのカストールはダメ男だったのか。そういえばアカデミーに入る前はノースキルだった。たしかにダメ男だったや。レベルゼロの主人公はたしかにそれまで何をやってたんだと疑問に思われるレベルの怠惰な男だ。そうか、あらゆるゲームの主人公たちは皆ダメ男たちだったんだ。
ゲームの裏に隠された真実に震えるアキ。スピカはそんなアキをニコニコと眺めているし、そんなスピカをカストールはまったく気にしている様子はない。どこかゲームと流れが違うぽいな。
なにか嫌な予感がする。そして、悪い予感はだいたい当たるのが人生だとこれまでの経験からアキは知っていた。だが、なにがすれ違っているのか分からない。なので様子見をすることに決める。
すれ違っているのはバタフライ幼女なのだが、自分視点ではわからないので仕方ない。
と、しばらく近況を話していると、ガラリと扉が開き、くたびれた様子のローブ姿のおっさんが入ってきた。肩を落として足を引きずる様子からこの人も疲れてるっぽい。
「おー、全員出席しているようだな。よし、俺はこのAクラスの担任のハコブ・オライガだ。新しく魔法科の担任にもなった。知っての通り、このアカデミーは単位取得制だ。Aクラスと言っても名ばかり。それぞれ取得したい講義を専攻し単位を取って進学、卒業の流れとなる。そこまでは良いな? 知らない奴などいないな?」
もちろんゲームで知っているので、問題はない。問題はないのになぜかハコブはコブターンを見て言っているような気がするのは気の所為だろうか。
講義は様々だ。ゲームでもその設定は語られていたが、主人公は戦士科、魔法科、錬金科のどれかしか選べない。そして、魔法科を選ぶと早々に詰むので、戦士科か錬金科の2択である。
「私は魔法科だよ。光魔法を鍛えたいと思うんだ。それに他の魔法も学びたいし。アキはどれを選ぶの?」
スピカがコブターンの顔を覗き込むように尋ねてくるが、スピカが魔法科なのは予定通りだ。主人公以外は取得するスキルは決まっている。なので、魔法科でも問題ない。クリア特典がないと自由にスキルを取得できない主人公だけが詰むのだ。
アキは『剣豪の腕輪』と、『偽人魚変身』スキルにより、剣術も水術も使える。剣術の方がスキルレベルは高いけど、ここで剣豪のように剣捌きを見せたら、小物の悪役令息としてはマズイ予感がするな。
「うむ、俺様は万能の使い手だからな。どうしようか迷うな、わっはっは」
「うんうん、そうだね。魔法は使えるの?」
悪役令息っぽく偉そうに言ったのに、なぜか優しい目でスピカに見られる。本当のことなのに、あまり信用されていないっぽい。方程式はできないけど、剣術も魔法も使えるんだけどなぁ。
なんでこんなに絡むんだろうと、言葉につまると、なぜか両手で握り拳をギュッと作って、スピカは励ましてくる。
「大丈夫、魔法ってコツさえ覚えればすぐに使えるようになるから。ほら、身体を動かすことなく、考えるだけで使えるんだよ」
励まし方がなんか遠回し的に身体を動かす事はやめたほうが良いと聞こえるのは気の所為だろうか?
でも、魔法科が良いだろう。錬金科は錬金素材を揃えるだけのルートだし、あんまり面白くない。
「魔法科にするか。カストールは剣術か? それとも錬金?」
この2つのどちらかだよねと、カストールに尋ねる。まぁ、ゲーム通りなら、先月の強盗騒ぎで剣術スキルレベルが上がっているはずだから━━。
「ううん、僕は魔法科を選ぶよ。これでもいくつか魔法を使えるんだ」
「………ま、魔法?」
耳を疑う発言がカストールから返ってきて、思わず顔を強張らせてしまう。え、魔法?
「あ。あれか、古代語魔法か?」
ワンチャン、万能に魔法を使える古代語魔法か確認する。ヒャッハー騎士団の魔女たちがその魔法の使い手だ。ライトニングから火球、ブリザードやフライなど様々な種類があって便利な魔法だし、ワンチャン、この魔法なら詰むことはない━━━。
「ううん、雷魔法。これでも雷矢を使えるんだ」
「………あ。そう。それはすごいな、うん、雷魔法なんてレアすぎる魔法じゃないか、で、剣術科にするんだっけ?」
「いや、魔法科だよ。アキ君は面白いね」
どことなく片言で返答するカストールに絶望する。まじかよ、よりによって雷魔法かよ。元素魔法は攻撃特化だから使いにくいんだよ。せめて上位の雷術なら良かったのに。ふざけていた心が冷えて氷のように感じられる。胃が急に重くなり、気持ち悪い。
ヤバい、絶対に詰むルートだ、これ。
そうか、そうか。魔法科を選ぶんだ。もちろん主人公の希望を俺は尊重するよ。反対する気はないし、そもそもそこまで親しくはない。
「剣術科にするのか、ヤタノ?」
「あぁ、剣術じゃないと面白くないしな。魔法科とかやってらんねーよ。へへ、俺は身軽さもレベル1になったからな」
「へー、良くわからねーけど、すげーな」
後ろの方では、ヤタノが友人らしい男子と話している。その内容と、前回ボクサー1が自動取得されていた様子から、一周目のプレイヤーだと推測する。自身の札を明かしまくる男だが、スタンダードに剣術科を選ぶっぽい。たしかにこのゲームでは剣術科が魔物と戦い爽快感があるので一番楽しいし、自動取得でも剣術か自身の選んだ武器のスキルになるはずなので楽なのだ。
それに対して、魔法科は………。
というか、今更ながらに気付く。一ヶ月前の戦闘時、ペトルスとの戦いでいっぱいいっぱいだったが、たしかにカストールは剣を使っていなかった。雷魔法を使ってたのだろう。と、するとだ。
━━━スキルレベル上がった? 『雷矢』は階位1の初級魔法だぞ。普通は自分が使える最高の魔法とか口にしない? 雷魔法しか使ってないないなら、雷魔法のレベルが上がる可能性は高い。次点で回避スキル系統。だが、この様子だとちっともレベルは上がっていないっぽい。
え、ゲームと違って、イベント毎にスキルレベル上がらないの? いや、現実だと当たり前の話なんだけどさ。マヨネーズ王は上がったぽいところを見ると、転生者たちだけの特典か!
たしかにイベント毎にスキルレベルが上がる人間なんて、現実だとよくわからん存在となるだろう。昨日猫探しクエストしたら火魔法覚えたよとか、ゲームの世界の中だけの話でよくわからないにもほどがあるからな。天才など比ではないチートな存在だ。スピカもレベルは上がっていないっぽい。とすると、このアカデミーの3年間で一つに特化してスキルレベル10にもならないわけだ。
遂に現実の非情なるルールに気付く幼女アキ。当たり前のことではあったが、ゲーム脳なアキはその可能性をちっとも考慮しなかった。さすがは知力1だろう。
とすると、敵の強さはそのままで、主人公だけが弱いというパターンになる。敵もゲーム開始はレベルゼロスタートで良いのに! 数十年も鍛えているから、敵のレベルは高いんだよ!
ある意味当たり前の事であるが、ゲームの世界では当たり前ではないことに気づき、アキは蒼白になる。それでもストーリーは進むのだ。
共通ルートで絶対に逃れられない戦いがあるのだ。そういう戦闘は必ず苦戦する強敵が出てくる。
ちらりとカストールを見る。よくよく見るとナヨっとしており、身体をさっぱり鍛えてなさそうだ。そりゃ、魔法使いを目指しているのなら当然の話だろう。だが、魔法科に行ったら、スキルレベル3になるのだって卒業間近とかになりそうだ。
「お前ら〜、科を決めるのはお試し期間が終わる1週間後だ。これが後の人生に影響することがあるからな。しっかりと考えて決めるように。な、アキ・アスクレピオス?」
「うむ、そのとおりだ。しっかりと考えて、皆も決めるように」
なぜだが、アキを見てくるハコブ先生だが、悪役令息らしく胸を張って頷く。
「だそうだぞ、カストール。しっかりと考えて決めるのだ。そうだな、魔法科は治癒魔法使いか、光魔法使い以外は金にならん。反対に魔道具や本を買うので金が飛んでいくばかりだ。うむ、俺は金になる錬金科にすることにする。金になるからな。何をするにも金は必要だからな、金が!」
作戦大幅に変更。錬金科に俺は決めた。お金になるからね。お金に! 伯爵家再興にはお金必要になるだろうね?
「そっかぁ、それじゃ別々の科になるね、大丈夫? 錬金って色々と薬品とか作るんだよ?」
釣れたのはスピカだった。いや、スピカは心配しなくていいから。
「あはは、僕はそれでも魔法科にしておくよ。なにせ、僕は魔法しか取り得がないから」
そして、肝心のカストールは釣れなかった。あははと頭をかくけど、決心は変わらない模様。むむむ、魔法科は詰むんだって! 剣術よりも詰むんだって! とはいえ、剣術も現実準拠なら詰んでいる。カストールの様子だと、基礎体力向上のマラソンから始まるから、いつになったら強くなるか分からないよ!
知識の積み重ねと魔力操作だけで腕を上げられる錬金科ルートしかない! というか錬金科なら金さえあれば、アイテムを揃えればクリアできるんだ。特に戦闘スキルは必要ない。金集めが苦労するけど、現実ならマネーパワーが一番現実的だ。
カストールは錬金科。絶対にそのルートで決定だ! でも、あたちは良い幼女なので無理強いはしない。カストールの気が変わるように祈るだけだ。
でも、少しだけ魔法科の先生とお話してこようかな。
━━━翌日、魔法科は休止となった。




