46話 入学式って、新しい友だち作りの重要な機会だよね
━━━1ヶ月後。
本来は試験日の次の日に行われる予定の入学式は延期となった。恐るべき組織プトレマイオスの悪逆非道により、教員たちも利用して様々な魔道具や運営費を保管している学舎をデザートワームにて破壊された。そのため、魔道具や金貨の回収、プトレマイオスのスパイを洗ったりと、アカデミーは大忙しで、とてもではないが入学式を行うことができなかった。
そのため、1ヶ月後にようやく入学式となったのである。おのれ、プトレマイオス。悪逆非道にもほどがあると、幼女を含めて皆が怒ったものだ。
入学式が遅れた理由はもう一つあって━━━。
「聞いたか!? 経営学の教授がプトレマイオスの奴にすり替わってたんだって! しかも事務員にも組織の奴がいたらしいぞ」
「あぁ、別区画に収められている魔道具が横流しされてたらしいそ」
「なんつーか、プトレマイオスってヤバい盗賊団じゃね? アカデミーに組織の人間をそんなに潜入させられるなんてよ」
「きっと裏で貴族が絡んでるに決まってる。あ、ああいう無能な子豚は別だがな」
「ヒデーな、お前。というかあいつ入学できたのか。金をよく工面できたもんだ」
と、ストーリーに関わるプトレマイオスのスパイが数多く捕まったらしい。そして、コブターンは陰口を叩かれて笑われていた。なお、プトレマイオスは盗賊団ではない。本来はプトレマイオスの名前は大事件の時に明かされるんだけど、事故ったんだ。しょうがないよね。世界を震撼させる恐るべき組織から、ちょっとあくどい盗賊団にスケールダウンしちゃったけど、プトレマイオス様の後の活躍をお祈りします。
(まぁ、試験全然できなかったからな…………コブターンが笑われるのは無理もない。でも、中身は幼女だから! 幼女だから仕方ないんだよ!)
まさかの筆記試験で足切りされたコブターン。弁明のしようもないよねと落胆していた。そして、幼女のせいにしていた。幼女のせいではなく、自身の知力のせいなのに。
だが、そこに両親から冷遇されている意味も含まれているとは、まったく思わなかった。何せあ~ちゃんはお城で両親に囲まれて幸せに暮らしていたのだ。思いつくほうが無理と言うものだろう。
今回はタクシーこと馬車で来ずに、皆と同じく歩きで来たぜと、アキは正門を通って、てくてくと平民たちの中を歩いていた。まさかの貴族たちは他の門から馬車で来ているとは考えもしなかったのは、前世地球の学校のイメージが残っているからであった。
馬鹿にされていても貴族だ。万が一報復があったら怖いのか、平民たちは遠巻きにクスクスと笑ってくるがアキは気にしない。というか、二次募集に金の力で入って恥ずかしい。やはり入学試験で目立ったのが失敗だったけど、あれイベントだから仕方ないのだと、すぐに割り切る幼女である。
校舎は2割ほどデザートワームとの戦いで破壊されており、復旧の目処は立っていない。とりあえずは、貴重なアイテムは回収したのだろう、瓦礫が散乱し、放置された戸棚やテーブルが哀愁を誘う。
学生たちは瓦礫を横目に講堂へと進む。人的被害はほとんど皆無であり、プトレマイオスの悪人どもも検挙された。そのため、特に悲しむことはなく、浮ついた表情で学生たちは楽しげだ。
その反面、講堂で壁際に並ぶ教員たちや、上級生の中でも入学式を任された面々は疲れ切った顔をしていた。中には眼の下に隈ができているものもいる。
本来はうぉぉぉと叫びながらビルドアップする筋肉だるまのようなむさ苦しい武術家の男教師がいたり、冷笑を浮かべて上から目線の生徒会の面々が腕組みをして睥睨してきたりと、テンプレ展開のシーンが繰り広げられるはずだ。
しかし、名物教員は肩を落として、眠気を堪えるように、目をシパシパさせている。生徒会の面々はそもそもいない。たぶん疲労により休んでいると思われる。
なので、極々平凡な入学式になるのだった。講堂に並べられている椅子に座って、学院長の話を聞く。隣の席に誰も座らないのが切ない。悪役令息は取り巻きっていないのかな? そういや、コブターンはソロでいつも主人公に絡んでたんだけどなんでだろ?
周りの生徒たちは楽しそうなのに、ポツンと一人座っているコブターン。こういうときはあれだ、スマホをひたすら見ていればいいんだよ。なろうでも読もうかな。ランキングって今どうなってるんだろ。
エアスマホを手にして、俺の手相は良いっけと、悲しき演技をする悪役令息コブターン。演技が慣れているのが、前世の立ち位置を垣間見させて、泣けてくる。いじめっ子ではなく、苛められっ子になりそうな雰囲気を早くも醸し出していた。
だが、常に救いの手はあった。
「お~い、アスクレピオス侯爵令息様、ここは空いてますか〜」
やけに可愛らしい声が聞こえてきたと思うと、小さく手を振ってスピカとカストールが立っていた。ニコニコと笑顔が眩しー!
善意100%の主人公とヒロインだ。かつて、ここまで好意的な主人公たちがあっただろうか。
ちょっと心にダメージを負っていたコブターンは、ついつい笑顔で頷く。ボッチの陰キャは陽キャが声をかけてくると、ちょっと嬉しくなっちゃう法則だ。
「あぁ、別にいいですよ、どうぞ」
そして、まったく悪役令息らしくない態度で返すアキである。寂しすぎて、幼女に戻って椅子に座ろうかなと、碌でもないことを考えていた悪役令息ルックスYだ。
「えっと、私はスピカ・ヴィルゴ。スピカって呼んでね」
「カストール・ジェミニ。カストールと呼んでください」
ぱちりとウィンクする良い子すぎるスピカと、爽やかな笑顔の二枚目すぎるカストール。ゲームで散々プレイしていたから、二人のことはよく知ってるけど、リアルだとやはり感動しちゃうな。それにこのルートの二人は極めて善人っぽい。ルートによっては悪人や悪落ちルートあるからね。
「あ~ちゃんで、げはんげふん、アキ・アスクレピオス侯爵令息だ。よろしく頼む。アキって呼んでくれ」
普通に挨拶を返しながらも、アキはあ~ちゃんに注意する。だって突然挨拶をしようとしてくるんだもの!
『あ~ちゃん、ご挨拶したら駄目だよ。あたちたちが本当は幼女なのは秘密。ナイショだよ、シーッだよ』
『ひみちゅ! あきちゃんとあ~ちゃんのひみちゅ! シーッだね、シーッ』
秘密とかナイショとか幼女は大好きなので、人差し指を口元に添えて、ろうそくでも消すように、フーフーするあ~ちゃん。精神世界でも、とってもかわいい幼女だ。
とりあえずあ~ちゃんは抑えることに成功して、悪役令息の演技を再開だ。そうしないと友人ポジションになっちゃう。
「俺様はアスクレピオス侯爵家の者だからな。そばにいればいい思いをさせてやるぞ、グフフフ」
ワキワキと手を動かして、コブターンはイヤらしい表情で頬をふくらませる。自分では完璧な悪役令息の演技だ。セクハラよと言われないように、少し離れて手をワキワキ。最近は肩を叩いただけでも訴えられる可能性があるからな。
もちろんそんなヘタレな演技はバレバレだった。頬を赤面させて、悪ぶる少年。
「えへへ、それじゃお近づきになっちゃうね、えいっ」
あろうことか、スピカはコブターンの手に自身の手を絡めさせて、正面からの恋人繋ぎで、悪戯そうに微笑むのだった。恋人以外で、しかもアイドル並みに可愛らしい女の子にこんなことをされるのは初めてだ。柔らかい女の子の温かい手に驚いちゃう。これが正体が幼女でなければ照れていただろう。
(まじかよ! どうなってるの、この子! 幼馴染のカストールが好きな設定だろ。それなのに、ほぼ初対面の少年に、こんなに親しそうにして良いわけ!? しかもカストールも、ニコニコ微笑んで嫉妬する素振りがない。天使? 天使なの、この子?)
傍目から見ると入学式の前にいちゃつくカップルである。しかも片方はソバカス顔の小太りの少年、片方は恋人にしたくなる、ほわほわした顔立ちの可愛らしい少女。
あんな男になんであんな可愛い子がと、アキに対する嫉妬により、ますます嫌われることとなる。
だが、嫉妬するだけの周囲よりもアグレッシブな男が一人いた。ガタガタと椅子を蹴倒しながら少年が突っ込んできた。
「うぉら、なにしてんだ、この悪役令息が!」
「ぐへ」
またも殴られるコブターン。痛さも伝わるので、極めて痛い。椅子を倒して冷たい床に転がってしまう。
誰だと尋ねるまでもない。殴ってきたのは、マヨネーズ王こと、ヤタノだった。興奮気味に鼻の穴をふくらませて、ニマニマとイヤらしい顔をしていた。さっきのコブターンよりも遥かにイヤらしい顔だった。たぶんこの人痴漢ですと、叫んでも捕まえることができそう。
「てめーのような身分をかさにして横暴をする人間を俺はゆるさねー。このアカデミーは身分は関係ない、平等なんだ!」
そして主人公のセリフを完璧にパクる男である。チラチラとスピカを眺めて、ありがとうございますと言われるのを待っている。
「へっ、あいつやるじゃねぇか」
「そうだな、俺たちの怒りを体現してくれたな」
「このままあのブタを虐めてくれよ」
そして、ヤタノは周りから一目置かれるのであった。本人的に良いのかと疑問に思われる一目の置かれ方だ。
そして、もちろんスピカは感謝の言葉を口にしなかった。
「なんてことするのっ! アキ大丈夫? いきなり殴るなんてサイテー!」
怒り心頭でスピカは怒鳴るとコブターンに手を伸ばして支え起こす。なんかコブターンに対する同情心がアップしている感じがするよ?
「ええっ、だってこのブタに手を握られていたじゃねーか。しかもあと少しでキスもされそうだったろ?」
「どこの世界に無理やり正面から手を繋ぐ人がいるのよ! もう私たちに近寄らないでよね!」
「そ、そんな。俺はハーレムの第一号はスピカだって決めてたんだぜ? ほら、一番好きなヒロインだからさ」
慌てて焦ったのだろう、言葉にしてはいけないことを口にするマヨネーズ王。アホなことは確定した。
「フンッ!」
ゴスッ
スピカの怒りを込めたストレートが炸裂し、もんどり打って倒れ込むヤタノ。まぁ、怒るのは無理もない。どこの世界にハーレム1号と呼ばれて喜ぶ人がいるというのか。
「殴りたりないわ。このこの! 人を馬鹿にしてるの? 誰がハーレム1号なのよ!」
「や、やめろって、いで、いてえー、誰か助けてくれー」
マウントを取って殴り続けるヒロインスピカ。この場合、最近廃れた暴力ヒロイン枠に入るのだろうかと、アキは真剣に考えて、騒ぎを聞きつけた教員たちが駆け寄ってきて、スピカを止める。
そうして、入学式は見事に中止となった。結局プリントを配られておしまいとなったのである。
不敵な顔の生徒会長も、謎めいた学園長も見ることはなかった。え、イベントシーンじゃなかったっけ?
『クエスト:入学式を台無しにする。経験点3000取得』




