45話 難易度が上がると敵が増える時ってあるよね
「きしゃぁぁ!」
デザートワームのガラスを引っ掻いたような鳴き声が響き、耳が痛くなり、皆は顔を顰める。学舎が破壊されて、地面が大きく揺れる。巨大なる化け物はその存在だけで恐怖を周囲に与えていた。
「あんな化け物まで! プトレマイオスとはなに?」
見たこともない化け物を前に、ガタガタと震えながらカストールが驚きを露わにして尋ねると、操っているはずのペトルスはなぜか困惑した顔となり━━━。
「プトレマイオスとは、闇で暗躍する組織。強盗から誘拐、人身売買に暗殺、転売ヤーなど、様々な悪をなす組織だ」
男の声が聞こえてくると、何者かが勢いよく飛び込んできた。砂煙が舞い、靴をこすりながら止まると、男はペトルスたちへと向き直る。黒尽くめのローブを着込み、銅の剣を持っている。突然の男の出現に皆が混乱する中で、剣を構える。
「悪逆非道のプトレマイオスよ、俺が来たからにはもはや好き放題にはさせん。その野望を打ち砕いてやろう!」
重々しい中年男性の声が響き、空気がピリリとガラス細工のように緊張した物へと変わる。
「あん? プトレマイオスに逆らう人間はたまにいるが、てめーもそうか。ヒヒ、今までの奴らと同じように殺してやるぜ」
ペトルスは目の前の男の放つ空気に強者と気づき、口元を歪めて醜悪なる笑みを浮かべる。これまでにもプトレマイオスの存在を知り、対応を考える貴族や、復讐を誓う者たちはいたが、全て殺してきたのだ。
「復讐か? しか~しぃ、そんな奴らも反対に殺されそうになって命乞いをしたもんだぜ。お前、どうやら『認識阻害』魔法で、顔を隠しているようだが、その顔を見せてもらうぜ、命乞いをするときになぁ!」
ベロリと短剣を舐めて、ペトルスは嗤う。その言葉通りに男の顔はボヤケて見えなかった。高位の魔法により姿を認識できないようにしてるのだろう。
「だが、あのデザートワームはな」
「そうか! ならばお前たちの血を以って、我が戦いの狼煙としよう!」
ペトルスが続けて何かを言おうとすると、男は腰を落として身構えて叫ぶ。
「いや、あのデザー」
「俺の名前はアーモット! お前らプトレマイオスを滅ぼす者だ。ゆくぞ!」
「デザートワームは」
「デザートワームを放って、学院を混乱に陥れること、決して許さん!」
『旋風剣』
なにかペトルスが言おうとするが、言葉を許さずに、アーモットが剣を振るうと、魔力が剣に宿りつむじ風を巻き起こし、ペトルスたちへと向かう。
「ちぃっ、てめぇら避けるんだ! あれは階位5の武技だ!」
ペトルスは迫るつむじ風を見るや姿を消して、言葉だけを残す。だが、敵の集団の何人かが反応できずに、つむじ風に巻き込まれる。
「ぐわあっ!」
つむじ風に巻き込まれた者はズタズタに肌を切り裂かれて、血しぶきが舞う。
結果を確認せずに、アーモットは剣を盾にするように構える。と、空間から飛び出してペトルスが短剣を繰り出し、その刃を防ぐ。
「くひひっ、やるじゃねーか、このペトルスの星座スキル『カメレオン』の攻撃を防ぐとはな!」
星座スキルは特別な人間しか使えない固有スキルだ。しかも他の固有スキルの一段上の力を持つ。だが、最大レベル10に達した男は、開いたレベル差によりなんとか攻撃に気づいたのだ。
「隠れながらの卑怯なる攻撃など俺には効かん!」
お互いに剣を振るい、刃がぶつかる毎に火花が散る。ペトルスの剣の腕も相当なものであり、アーモットと引けを取らずに、激しい戦闘が繰り広げられる。
「やるな! おもしれー! なら、どこまで耐えられるか試してやろう」
楽しげに嗤うとペトルスが後ろに下がり、その体をかき消す。
「やってみよ! その前に雑魚を掃討させてもらう!」
『ソニックウェーブ』
さらなる魔力を剣に吹き込み、アーモットは他の敵たちに剣を振るう。ゴウッと衝撃波が生み出されて、地面を捲り、敵の集団に向かうと多くの敵を切り裂き倒すのであった。
「ちゃ、チャンスなのか!? お助けキャラがくるルートなのかよ、知らねーが俺も戦うぜ!」
「ここは僕たちも頑張ろう!」
「うん、悪い人は許せないもんね!」
ヤタノやカストール、スピカもアーモットの強さと活躍を見て奮起すると攻撃を再開する。そうして、戦いは混戦となるのだった。
「きしゃぁぁ」
デザートワームが学舎を破壊する姿を背景としながら。
◇
アーモットは謎の戦士だ。プトレマイオスを追う戦士である。その戦士の正体はというと━━━。
『超幼魔生物アーモット』なのだ! どこかのマッドサイエンティストが作ったとか、そんな設定もあるかもしれない。
『超幼魔生物アーモットの図解』
『上半身:幼女』
『下半身:マーモット』
『装備:頑丈なローブ』
『階位5:幻身(術者を倒さないと正体を見抜けない)』
『階位2:幻声(声を変える)』
以上、超幼魔生物アーモットである。最強、最強かもしれない。少なくとも可愛らしいことは間違いない。それか、マーモットに肩車をされている幼女にしか見えないかもしれない。
少なくともプトレマイオスを倒すために現れたことは間違いなかった。
━━━だが、一つ問題があった。
「くかかか、お前、足を怪我してるだろ? 剣の冴えにあわない足運び、遅え!」
剣を振るう上半身は鋭く速い。ペトルスが空間から現れて短剣を振るおうとするが、すぐに防ぐことができる。ペトルスの剣の腕を大幅に上回り、対抗できているのだが、体の向きを変えるのが遅い。
そのことをペトルスは見抜いており、今度は死角を常に狙うように攻撃してくる。その攻撃に段々とついていけなくなり、ローブに傷がつき、アーモットは動きが鈍くなっていく。頑張って肩車をしながら、ワタワタとしている。
『きょわー! マモ、反応遅いよ、なにやってるの! 右だよ右右、あ、やっぱ左!』
『まきゅ! 思念で指示を出されても、こんな速い戦闘でついていけるわけないまきゅ! こっちまきゅ!?』
ローブの中では、幼女とマーモットが醜く言い争いをしていた。幼女は剣豪の力で反応できるが、マーモットは当然ながらついていけなかった。
ペトルスが時折現れて攻撃をしてくる中で、対抗しつつ雑魚敵も倒す。そうしないとカストールたちが死ぬ。かなり厳しい戦闘だ。
『ソニックウェーブ』
音速の衝撃波で敵を倒そうとするが、直線状に放たれる攻撃は軌道を読まれており、なかなか当たらない。自分一人なら、敵の動きを誘導できて、軌道上に集めるのだが、カストールたちがチョロチョロと逃げ回りながら戦うので、それも不可能なのだ。
『というか、このペトルスってやつ、たしかもう少し後のサブクエストで現れる奴だ。王都で荒稼ぎをする盗賊団の討伐というやつ。なんでこんなところにいるの? こいつのスキルは剣術3、盗賊4だったはず! こんな最初では絶対に倒せない敵だよ!』
再びペトルスが現れて、短剣を繰り出すのをなんとか防ぎながら、幼女パーツこと、アキはむぅと顔を顰める。チュートリアルで現れる敵ではないのだ。
『なんかストーリーが変わったことに思い当たることはないまきゅ?』
幼女を肩車して、エッサホイサと体の向きを懸命に変えながらマモが尋ねてくる。アキはその原因に思い当たることがあって、戦っているマヨネーズ王を睨む。
『マヨネーズ王だ。あいつが王都でなにかをしたからきっとストーリーが変わったんだよ。それしか原因はないね。余計なことをして!』
幼女はマヨネーズ王に冤罪をかけた。アキが王都に来たのはほんの一日前。ならば、ストーリーとは違う動きをするモブだろうと考えるのは当たり前であった。まさか遠く離れたアスクレピオス領の治安が良くなったから、王都に悪人が集まってきたとは推測できなかったのである。
『いずれあいつをなんとかしないといけないかも。だけど、今はペトルスを倒す!』
ガキンとペトルスの短剣を防いで、アキはペトルスを倒すことを決意する。マモの動きが鈍くて追撃ができないため、本来ならもう倒しているはずなのに、倒せていない。そして、ジリジリとダメージを与えてくるので、このままではジリ貧だ。
『どうするまきゅ?』
『ペトルスは盗賊だ。絶対にあの技を使ってくる。その際がチャンス。マモ、あたちの合図に合わせて、『砂煙』を使って』
『りょーかいまきゅ!』
これはタイミングが重要だ。アキは目を細めて、精神を集中させる。ペトルスも時間がない。これだけデザートワームが暴れたら、警備員や学院の教師たちがやってくるのも時間の問題だ。だから早目にアキたちを殺す必要がある。奴らが呼び出した土術『階位6:デザートワーム召喚』が時間制限をかけるとは皮肉なことである。奴らが召喚したデザートワームが!
疲れたように見せて、剣を少しだけ下ろす。と、背中に気配を感じて、すぐに振り向くようにマモに命じるが遅かった。
「隙を見せたな、死ねぇっ!」
『不意打ち』
『騙し討ち』
『急所突き』
ベトロスが疾風の速さで短剣を突き出す。『急所突き』は敵の弱点を狙う技だ。成功すればクリティカル。失敗すれば弱ダメージの武技だ。戦士が使っても成功確率は低い。これは盗賊のように『不意打ち』と『騙し討ち』の武技を併用すると成功率が大幅にアップする。盗賊だからこそ、輝く武技なのである。
その攻撃は正確にアーモットの胴体を貫く。腕が体を貫いて、反対側に飛びだす。
「とった! ………なんだ、手応えがない!?」
ニヤリと嗤うペトルスだが、すぐに顔色を変える。当然だろう、なにせ、アキとマモのつながっている隙間に刺したのだから。
『つーかまえた! マモ、今だ!』
『りょーかいまきゅ!』
『砂煙』
マモが素早く周囲に砂煙を巻き起こす。視界が塞がれてなにも見えない状態になるが、問題はない。ペトルスの腕はローブに包まれている。なので、上半身の幼女だけ飛翔すると勢いよく剣を振り下ろす。
「岩をも断ち切るこの技をうけよ!」
『生死斬り』
剣速が遅く、外れるかクリティカルしかない階位6の大技だ。普通は使うことはないが、敵の動きを封じていれば100%命中する。
「なんだ、なんで分裂した!? な、中身がないのか貴様、もしや、悪霊」
最後まで言葉を発することなく、ペトルスは頭から両断された。縦に割れた死体が地面に落ちて、幼女はマーモットに降り立ち、再び肩車をされる。
「ふっ、俺はプトレマイオスを滅ぼすもの。それだけを冥土の土産に持っていけ」
暴れるデザートワームをどこからか飛んできた光線が貫くのを背景に、アーモットはニヒルに笑うと、ポータルテレポートでさっさと消えるのであった。あの光線は学園長の魔法っぽいしね。
そして、騒動を知った警備員や教師たちがやってきて、盗賊の残党とデザートワームを倒すのであった。
◇
しかしながら、デザートワームにより金庫が破壊されて、呑み込まれた金貨の回収費用、そして壊れた学舎の修繕費を賄うために、次の日、学費が払える者たちを対象に2次募集が行われた。
チュートリアルをわざと負けると、入学金が盗まれてしまい、二次募集が行われる。ゲームでは、ただ一文だけに終わる設定をアキは覚えていたのである。そこでアキはようやくアカデミーに入学できた。なので、入学金が簡単に手に入らない状況にするだけでも良いだろうと、軍師龐統うどんが考えたとか。
ついでに、デザートワームなどという化け物を王都に持ち込んだプトレマイオスの悪名も広まった。ストーリーよりも早く知られることとなったが、その影響は誰にも分からないのであった。
『クエスト:学費を狙う盗賊団に冤罪をかけた。しかもプトレマイオスを単なる盗賊団として宣伝した。経験点3000取得』
冤罪とか、よーじょはよくわかんない。プトレマイオスの宣伝は失敗、失敗。ごめんね。




