42話 数学って本当に社会では使わないから!
「うわ~ん! なんであたちが落ちるの! 方程式なんか分からないよ! エクセルのマクロや関数式は分かるけど方程式は忘れたよ! 単純な計算はこんぴーたーに任せるのが主流なんだよ!」
屋敷に戻り、うわ~んと泣いて、コロコロと床を転がる幼女アキ。大悪魔オッサーンはビールの泡のように消えた模様。数学では方程式が出たのだ。そして、大悪魔オッサーンは方程式が分からなかった。大人なら方程式は楽勝とか言うのは嘘である。昨今は数式は全て数値を入力すればシステムが全て回答してくれるのだ。なので、数学は乗算が限界、漢字なんか読む力しか残らない。全てパソコンが変換してくれるから。これ本当だから。今どきの大人はマジに数学とかできないからね? その代わりにプログラムを組む能力はあるんだよ。
それに歴史や古典も出た。このゲームのフレーバーテキストを暗記していれば答えられたかもしれないが、そこまでやり込む変態ではなかったので、普通に分からなかった。
なので、実技を前に足切りされて、試験をめでたく落ちた悪役令息ルックスYである。せめて知力が高ければなんとかなったかもしれないが、幼女は知力1なので足を引っ張るだけに終わるのだった。
『あ~ちゃんも! あ~ちゃんもコロコロしゅる! あ~ちゃんコロコロとくいだから! コロコロとくいだからみせたげる!』
そしてあ~ちゃんのお強請りに負けて、身体の主導権を渡して、床をコロコロと転がり、キャッキャッと楽しむあ~ちゃんの姿もあった。
「あ~ちゃん、コロコロ〜、あ~ちゃんはコロコロ〜。コロコロましゅたー」
しばらくコロコロ大会を開いて、満足したあ~ちゃんから体を渡してもらうと、ため息混じりにトスンとソファに座ると頭を抱える。
「まっずいぞ! このままだと、ひっじょーにまじゅい!」
「まぁ、アキ様はしばらくしたら死んだことにするんですし、アカデミーに入らなくても良いんじゃないですか? このサンドイッチは美味しいですよ、会心の出来です」
コトリとローストビーフサンドイッチとミルクを置いてくれるケイがお気楽に言ってくる。ケイはアキがアカデミーを落ちたことを親に怒られるのがまずいんだろうくらいな、軽い気持ちだ。だが、そんなことではないのだ。もっと重要なことなのだ。
なぜなら、主人公のそばにいて、ストーリーに時折絡んだり、主人公の活躍を眺めたりできないじゃん! つまらないよ! せっかくゲームの世界に来たのに、ストーリーを見ることができないとか拷問だろ! それに、一番の問題が『マヨネーズ王』だ。あいつ、絶対にストーリーをめちゃくちゃにする予感がするよ。ストーリー全体を見張っておかないと駄目だろう。『マヨネーズ王』の名前、なんだったか忘れたけど。
「というわけで、なんとか入学できる方法を皆でかんがえよー」
むふんと鼻を鳴らして、ちっこい手を掲げると幼女は皆にお願いする。三人そろえば文殊の知恵というよね。
「はっ! ではポセイドン王国の名前を出し、コブターンを入学させなければ王国を滅ぼすと書信をだすのはいかがでしょうか?」
「うん、シーウィードのアイデアはナイスだけど、本当に戦争になりそうだから、最後の手段にしておくね」
「はい、提案を聞いて頂きありがたき幸せ」
真面目極まるシーウィードたちが喜ぶが本当に戦争になるかもしれないデメリットもあるな。うーんとアキが迷う中で、次はケイが手を挙げる。
「大金を積みましょう。一万枚くらい寄付すると言えば、入学させてくれるのでは?」
「実にあたちらしい方法をありがとう。それも候補に入れておくね」
「えへへ。こんな問題くらい楽勝ですよ」
テレテレと照れるケイだけど、ナイスアイデアだ。でも必要以上に悪役令息が目立つ可能性があるから躊躇うな。
「俺が思うに幼女で入学すればいいと思いますぜ? 入学させてくれないと泣くと脅せば大丈夫かと」
「どこらへんが大丈夫なのか、タイチの頭の中を物理的に覗こうか?」
「いや、真面目に考えましたよ!?」
どこらへんが、真面目なんだよと焦るタイチをジト目で見つつ、改めて考えると今度はシィが手を挙げる。
「2次募集って、やってないんですか、お嬢。普通はこういうのって、2次募集ありません?」
酒を飲みながらシィは言ってくるので、期待していなかったが、一番期待できる提案だった。
「………2次募集? そうか、それだ! ある、あるよ。本来はないんだけど、一つだけ2次募集を発生させる方法がある!」
スカッと指を鳴らすと、むふーと、興奮気味に立ち上がる。思い出したのだ。ストーリーには2次募集のルートがたしかにあった。と、するとそのルートに進まなければならないわけで……。ふむ!
「良き良き。その提案をしょーにんする! とすると、今のままでも可能だけど………ここはさらなるパワーアップだね!」
パワーアップ。即ちガチャである。今回やるのはガチャポイント5000を使用する『スペシャル仲間ガチャ』だ。レア確定の仲間カードが大幅に出やすくなるガチャだ。もったいないけど仕方ない。
「むしん、むしーん。むしむし」
ここは敢えて騒ぐことなく、目を閉じて静かに結果を待つ。もはやそこにいるのは修行僧。どこにも物欲はなく、心は凪いだ水面のように静かだ。ぽちっとな。
BGMも耳には入らず、光の変化も分からない。ゴッドカード確定だろう。無心の幼女がガチャしたんだからゴッドカード確定。
BGMがおさまり、高鳴る胸を落ち着けて、そっと目を開く。また、奇行を始めたよと呆れたケイと、なにか尊い儀式なのでしょうとアキの行うことを疑わない盲信者シーウィードたちは見ないふりをして、カードを確認する。人間タイプなら使用するのは一人になったら使用する。他はここで使う予定だ。
カードにはマーモットの絵が描かれていた。
『SR:魔ーモット:仲間』
『攻撃力:100』
『防御力:400』
『ペットにするとアホ可愛い』
「きたー! 大当たり! カモン、マーモット!」
喜び飛び跳ねて、幼女はカードを使用する。と、カードが光り魔法陣が描かれると、小動物が姿を現す。
1メートルにも満たない小柄な体躯。茶色の毛皮を持ち、長い爪を生やし、どことなく眠そうな目に、二本の尖った出っ歯を持つビーバーに似た小動物。齧歯類リス科の可愛いマーモットだ! 二本足で立っているのがとってもラブリー。
「一度マーモットを飼ってみたいと思ってんだ! うわぁ、可愛い〜」
地球では犬、マーモット、猫の順で飼いたかったのだ。でも、マーモットって、ペットにするのにかなりの前費用と場所の確保が必要と聞いて諦めていたのだ。でも、この屋敷なら大きなお庭もあるしお金もあるから飼える!
幼女は目的を忘れて大喜びだ。満面の笑顔で早口で語り始める。オタクが興味のあることになると、急に饒舌になる理論だ。
「マーモットは高地に住んでて、ウサギみたいに巣穴を掘って暮らしてるんだ。警戒心は強く、ぼーっと立っているように見えるときは聴き耳を立てている。野生の草食動物なのに、人懐っこくて、人を見つけると餌をくれとお強請りして近寄ってくるんだよ」
動画で見たことがあるんだ。カメラマンが撮影していると、駆け寄ってきてランチをおくれとしがみつくんだよ。その様子を見てメロメロになっちゃったんだ。
「警戒心は強くて、ホイッスルのような鳴き声をあげるんだ。だから、まずは餌付けしないと!」
ふんすふんすとほっぺを真っ赤に紅潮させて、アキはローストビーフサンドイッチからレタスを取り出すと、お皿に乗せてそ~っとマーモットに差し出す。ワクワク、マーモットに餌をあげられる日が来るとは思わなかった。転生して良かった!
転生して初めて神に感謝を贈るアホな幼女は大興奮で、レタスを食べようとするマーモットを観察する。
マーモットはお鼻をヒクヒクと震わすと、レタスに手を伸ばす。そして、そっとローストビーフサンドイッチにレタスを挟み直すと、二本足で立ちながら、むしゃむしゃと食べ始めた。
「………草食動物だから、ローストビーフは食べられないよ! 食べるのをおやめ!」
「まきゅ!」
慌てて止めようとするが、マーモットは取られないように慌てて口の中に全部放り込むのであった。食い意地の張った小動物である。
「ま、まぁ、丸ごと餌を見せたら、動物は全部食べちゃうよね。これはあたちが悪かったよ」
「え? でもアキ様、この子、サンドイッチにレタスを挟んで」
「しゃらーっぷ! 食い意地の張った小動物だから仕方ないの! ほら、近づくとホイッスルのような鳴き声を放つから気をつけないと」
そっと幼女が近づくと、もぐもぐと咀嚼していたマーモットがピタリと止まり、こちらを見つめる。そうそう、警戒心強いんだよ。でも、1回くらい生の鳴き声聞きたいかも。
悪戯顔で、幼女が襲いかかるフリをして、一歩近づく。
サッとホイッスルを口にするマーモット。
幼女は一歩下がると、マーモットはホイッスルを下ろす。
再び近づくと、サッとホイッスルを咥えるマーモット。
「………こいつ本当にマーモットか? そういやマーモットって食用になるんだよ」
おかしいだろ、なんでホイッスルを取り出すんだよ。どこに持っていたわけ?
「まきゅ!? まきゅまきゅ!」
ジト目になってしまう幼女の呟きに、マーモットは慌てて近寄ってくると両手を翳す。その動きには覚えがある! 何度も動画で見たことある。
「疑似喧嘩だ! マーモットは仲間同士で押し合いっこして、襲われたときの練習をするんだよ! え~い!」
マーモットの手のひらに、アキも手を合わせて押しくらまんじゅうをする。マーモットが背筋を伸ばして、ウ~ンウ~ンと押し合いへし合いするので感動しちゃう。これこれ、これを見たかったんだ。まさか実際に疑似喧嘩できるとは思わなかったよ!
押し合いへし合いしても幼女のほうが体格は良いので、コロンと転がるマーモット。可愛いなぁ、あたちは大満足でしゅ。
いい汗かいたなと、アキはソファに座り当初の目的をきれいさっぱり忘れてケイにジュースをもらうと、ちぅぅと吸ってご満悦だ。
「あ、マモにもジュースくださいまきゅ。やれやれ、幼女の相手は疲れるまきゅね」
隣に座ったマーモットがグテっと寝そべり、生中を頼むおっさんみたいに手をあげてケイにお願いする。…………お願いした。
「お前、マーモットの皮を被ったなにかだろ? 上手に焼けました〜って、一度やってみたいんだけどどう思う?」
マーモットの首を掴んで、期待を壊したなと深淵の闇を瞳に宿して問いかけるアキ。下手な答えをしたら、即バーベキューだ。アキの本気の瞳をみて、慌てる敵。敵でいいと思うんだ。
「あわわ。違うまきゅ。マモの名前はマモ。使い魔は普通のマーモットとは違うまきゅ。でも、ほとんど普通のマーモットと同じまきゅよ? ちょっと人語を介せたり、土魔法を使えるくらいもきゅ。ほら、疑似喧嘩やるまきゅよ」
『あ~ちゃん、あ~ちゃんもやってみたい! ん〜ってやりゅの!』
手のひらを出して、また遊ぼうとするマーモット。くっ、悔しいが可愛い。あ~ちゃんもやってみたいと大はしゃぎだし……。
「はぁ〜、見た目はたしかにマーモットだから良しとするか。で、どんな魔法が使えるの?」
嘆息しつつ、今回の作戦内容を思い出すドライなアキだ。
「土術階位6までマスターしてるもきゅ」
「土術がそんなに高いのか!? そっか、それなら作戦通りにいけるかも」
にやりと悪そうな笑みを浮かべて、アキは作戦を検討するのであった。
てってれー、使い魔マモが仲間に入った!




