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悪役令息だけどキャラメイクでルックスYを選んでしまいました  作者: バッド
2章 アカデミーに悪役令息は通う

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41話 未経験者歓迎って、だいたい嘘だよね

(やっちゃった! セリフトチった! くっ、家であんなに練習したのに! ちくせう、やはり演技経験のない初心者には無理だった。ナンパとか経験ないし、難易度高い!)


 悔しがるアキ。別に女性が苦手というわけではない。普通にお喋りできるし、地球では恋人だってたぶんいた。だが、友人としてしばらく付き合ってから恋人になったのだし、ナンパをしたことなどない。よく知りもしない相手を道端でよく誘えるものだ。俺には絶対に不可能。道端で商品を売りつけるくらいに難易度高いと思うよ?


 目の前には二人の男女が立っている。


 一人は金髪が輝く、端正な顔立ちの二枚目の男子。僕は平凡だからとか言いながら、既に顔つきが平凡な男子の中で群を抜いている。たしかデフォルトの名前はカストール・ジェミニ。このゲームの主人公だ。元伯爵家で現平民、両親の家門再興の願いを背負い、死んだ双子の妹ポリュム……なんとか? のためにも頑張る男だ。妹の名前、ギリシア語とかで覚えにくかったんだよ。カストールは双子座の片割れの名前からとられていることは覚えている。


「ねね、カストール。この人は何のようなのかな?」


「いや………な、ナンパかな? スピカに対してナンパをしてるんじゃないか?」


「え? 試験の前に? そんなに余裕あるの、この人」


 やはり主人公の名前はデフォルトだったらしい。良かったと思いながらも全然良くない。


 女の子のほうが酷く普通の意見を言ってくる。たしかにな! よくよく考えると、このイベントおかしい! よく考えなくてもおかしかった! 普通、受験前にナンパするか? どんな陽キャだってそんなことしねーよ、運営め、もう少し考えてストーリー作れ!


 半笑いで困惑している女の子の名前はたしかスピカ・ヴィルゴ。カストールの幼馴染にして、メインヒロインだ。その髪色はピンク髪。古き良きヒロインの髪色だ。ふわふわ天然パーマで肩まで髪を伸ばしている。顔立ちは人の良さそうなほんわかした可愛さを見せており、小柄な身体ながら、きょぬーの美少女である。固有スキルは主人公やヒロイン、そして敵ボス専用の強力な切り札的スキルの『星座スキル』。その一つ『乙女の加護』がスピカの星座スキルだが、まだ覚醒していないはず。得意な魔法は光魔法という古典的なコテコテのヒロインでもあった。


 二人の痛いほどの不審者を見る視線に、アキは覚悟を決めた。ストーリー通りのセリフで進めようと。それ以外、この痛々しい空気に耐える自信がない。よくゲームのアキは堂々とこのイベントを終えたな。ある意味尊敬するよ。


「良いだろ。俺はアスクレピオス侯爵家の子息、アキ・アスクレピオスだ。俺と共に来れば良い思いをさせてやるぞ」


 メロンでも入っているのかと疑わしいほどのスピカの胸を見つめながら、ウヘヘと緩いエロい顔をして言う。もはや内心は羞恥でいっぱいだ。


 この視線に耐えかねて、スピカは怖がりカストールの背中に隠れて、カストールがアキにお断りだときっぱりと断る。その言動と態度に怒ったアキが殴りかかり、カストールに殴られて倒されるのだ。幼女じゃないから完璧にストーリーは進むはず。天才的俳優、オスカー賞確実なアキだ。


 だが、世界はコブターンの姿のアキには優しくなかった。


「あの………試験が終わった後なら良いですよ?」


 なんかスピカがとても哀れみの目で返事をしてくれました。


「えぇぇぇぇ、な、なんで? 試験の前にナンパする人間だぞ?」


「なんでナンパをしてきた人間が驚くんですか!?」


「はっ、いや、コホン、うへへ、ねーちゃんいいチチしてるのぅ」


 スピカのツッコミに慌てて咳払いをすると、アキはアドリブに入る。天才的、天才的な演技だ。素早く対応しアドリブに入る姿は天才的俳優にしか見えない。それか酔っぱらったおっさんにしか見えない。


 しかしながら、アドリブに慣れていない演技初心者は顔を赤くして、たどたどしい口調だったので、カストールとスピカはますます胡乱げな表情が深くなる。


 そして、あろうことか本来はアキを毛虫のように嫌うはずのスピカが優しい笑みで声をかけてくる。


「わかりました、それでは試験の後に行きましょう。ね? 私たちは合格するつもりですし、皆で合格祝いを兼ねて! 王都は初めてなので、良いお店教えてください」


「そうだね、アスクレピオス侯爵子息。僕たちはこれから試験で絶対に合格するつもりなので、よろしかったら応援してください」


 とても良い子である。さすがはメインヒロイン。イベントは少し変わったが、この子は転生者ではないとアキは確信した。カストールの方はプレイヤーの選ぶ選択肢により言動が変わるのでよくわからない。そもそもこんなセリフは選択肢にはなかった。スピカを守るか、傍観するか、逃げるか、だけだったのだ。アキをいたわるような選択肢はなかった。


 ことここに至り、アキはイベントが失敗したことを痛感するしか無かった。悪役令息デビューは失敗したのだ。


(原因がわからない! やはり幼女で絡んだ方が正しかったのか? いや、幼女を殴るとどう考えてもカストールの評価は下がるぞ? ワンチャンやってみるべきか………)


 幼女の姿になって、もう一度リテイクしようかなと考える知力1の悪役令息ルックスY。どう考えても、ろくなことにはならないと思うが、一旦正門から出て、幼女になろうかなと本気で実行しようと考えていると、それは起きた。


「うぉぉぉ、この野郎、女性に絡んでるじゃねーよ!」


「ん? ぐはあっ」


 遠巻きに見ている人々の中から、飛び出してきた男子がアキを殴ったのだ。結構な威力があり、アキは仰向けに倒れてしまう。


「はっ、見たか、おら! は、ハァハァゼェゼェ、ま、間に合ったか。試験が終わった後だと勘違いしてたぜ」


 急いでやってきたのだろう、汗だくになって息を切らして立っているのは黒髪黒目の少年だった。鍛えているようで細身だが筋肉質に見える。


「大丈夫か、お嬢さん。俺の名はヤタノ・コルブス。準男爵だ」


 一瞬してやったりとカストールへと鋭い目つきを向け嫌な笑みを浮かべる。すぐにスピカへと向き直ると親指を立てて爽やかそうな笑顔を向ける男子だった。


「あいつ、知ってるぞ。最近王都で有名な男だ」

「知ってるのか? あいつはなんで有名なんだ? 強いのか?」

「あぁ、元はちいさな食堂の息子だ。最近、王都で流行っている料理を作った奴で、大儲けをして金で準男爵を買ったんだ。有名な成り上がり………通称『マヨネーズ王』! マヨネーズと唐揚げで一財産築いたらしい」


 どうやら早くも転生者を見つけたようだ。


 しかも古典的な異世界料理チートのマヨネーズと唐揚げ………。まじかよ、こいつ危機感ゼロかよと、唖然とした顔のアキをみて、ますます調子に乗って鼻の穴をぷくりと膨らませて胸を張る。


「俺は貴族だろうと目の前で行われる悪逆非道は見過ごせねー」


 そして、主人公の立場を奪い取ろうとしていることも分かったのだった。


 ━━━だが、既にイベントは狂っていた。


 パシィッ


 ヤタノがスピカに叩かれた。やけに良い音をして頬を平手打ちされたヤタノが、驚きで目を見開く中でスピカは怒りの視線を向けて、カストールもムッとした表情でヤタノを睨む。


「なんてことをするんですかっ! いきなり殴るなんて非常識です! 私たちは受験前に少しお話してただけです! 大丈夫ですか、アスクレピオス侯爵子息様?」


 そして、優しく手を差し伸べるスピカ。


「えぇっ、このデブに襲われそうになってたんだろ? もう少しで胸とか揉まれてたんじゃないのか?」


「受験前にそんなことをする人がいるわけないじゃないですか! さ、アスクレピオス侯爵子息、行きましょう」


「あ、あぁ、ありがとう」


 受験前にナンパをした非常識な男は気の毒そうにヤタノを見ると、混乱しながらスピカの手を取って立ち上がる。そうして三人で学院内に向かうのだった。


(わかる、わかるよ。俺もおかしく思わなかったからな! そうだよな、プレイヤーは皆目の前のイベントだけに目がいって、不自然さには気づかないよな。………でも、なんでこんなことになったんだろ?)


 ちゃんとセリフを口にしたはず。間違いはなかったよなぁと首を傾げるアキだった。


『クエスト:悪役令息は主人公に絡む。経験点千取得』


 ガバガバのクエスト設定ではクリアしたことになったらしい。


(ま、この出会いからアキは主人公に絡んでいくんだから、別に良いか)


 良くないように思えるが、アキはクエストクリアになったんだからと、現実逃避しちゃうのだった。


「な、なんでだよっ!? 俺、主人公のクエストをちゃんとクリアしただろ。あ、ボクサー1になった」


 混乱した顔で絶叫しながらも、どうやらスキルが自動取得されて喜ぶヤタノの声が後ろから聞こえてくるのだった。


 アホなやつだなぁと、内心で呆れながらアキは受験会場に辿り着く。が、貴族は別枠なのだ。


 なんか、執事やら女性やらを連れた人たちが、少し離れた受付でお金を支払っている。あれは貴族たちだ。


 このアカデミー。貴族の爵位を持つものは一定の金を払えば合格できるのである。そして、貴族の格と支払う金額により上位のクラスに配置されるという、貴族主義ここにありといった制度なのだ。だからアキは不合格になる心配はゼロだ。侯爵家という格と支払う金でAクラスに配置される流れだ。ゲームではAクラスだったから間違いない。


「はぁ………貴様らも頑張って合格するのだな」


 さすがにここまで親切にしてもらって邪険にするのは良心が痛む。次のオリエンテーションでもアキは出番があるから、ストーリーどおりに平民の癖にAクラスに入れたのかと妬んで絡もうっと。まぁ、大まかな流れはやはり変わらないな。ゲームの強制力ってやつだ。


「ありがとうございます。必ず合格しますので、学院でもよろしくお願いします」


「明日は同じ学生として会おうね、えへへ」


 カストールとスピカは手を軽く振って、受験会場に向かう。それを見送って、やれやれとアキは受付へと向かう。


「アキ・アスクレピオス侯爵子息だ。入学の手続きに来た」


「はい、では入学費金貨百枚と寄付金の心付けをお願いいたします」


「うむ、持ってきて………」


 受付の言葉に頷き、アキは腰に下げているはずの財布に手を伸ばし………青ざめる。腰にはなにもなかった。


 一瞬殴られた時に落としたのかと慌てるが、原因は違うことにすぐ気づく。ダラダラと冷や汗が流れていく。


(あ、あたち、ここに来る前、どうやって来たっけ?)


 顔を洗って歯磨きをしてお着替えをして財布を腰に付けて、コブターンの幻影で体を覆った。財布を腰に付けてから、コブターンの幻影で体を覆っていた!


 即ち幼女の腰に財布はつけてある。お金を支払うには、この幻影を一度解除しないとならない!


 コブターンの中からぴょこんと幼女が現れて、お金を支払う。……コブターンは着ぐるみだったのかと驚かれること請け合いである。ストーリーの破綻は間違いない。


「? どうしましたか、アスクレピオス侯爵子息?」


「あーぁ、か、金を支払うまでもない。俺は特待生となって学院に入るつもりだ! 受験会場を教えろ!」

 

 不思議そうな受付へと、フッとニヒルに笑い、アキは己の力で入ることを決めた。


(大丈夫、あたちは文明の進んだ地球育ちだ。こんな異世界ファンタジーの試験なんか楽勝。間違いない、首席で合格だね! なんだ、お金を支払うことなんかなかったな)


 そして自信満々に受験会場に向かうコブターン。


 ━━━もちろん、アキは受験に落ちた。しかも筆記で足切りされて、実技を受けることも出来なかった。

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― 新着の感想 ―
馬車に忘れた!って戻って馬車内とかで術をかけ直せば良かったのでは… 流石に過去問も確認せずぶっつけ本番じゃそりゃそうなりますよ アキ君寝てたからまともに貴族教育も受けてないし、なんならこの世界の常識も…
この手の話で普通に落ちるの面白いw
よし、姫様は海へ帰りましょう。落ちたのですからここにいる必要はないですw
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