39話 目覚めさせる供物はなにがいいんだろう
「えっと、本当にこの供物でアキ様は復活なさるんですか?」
「うん! きっとそう。たぶんいわれたとおもいましゅ!」
むふんむふんと鼻息荒く、元気よく答える幼女あ~ちゃんを見つめて、本当かなぁとケイは疑わしく思う。
庭で走りまわるあ~ちゃんと、暴れまくるシーウィードたちを宥めて、屋敷に入ってから、あ~ちゃんがアキの覚醒の方法を思い出したのだ。
その覚醒の方法は、テーブルの上にちょこんと乗っているカステラだった。供物にカステラを捧げると、アキは復活するとの言は幼女からである。ケイはシーウィードたちに睨まれて、タイチたちに拝まれて、急いでオーブンを掃除してカステラを作ったのである。
く〜とお腹の虫が鳴いて、じ~っとカステラを眺めるあ~ちゃん。口の端からよだれも垂らす。
「あ! おもいだしまちた! あきちゃんはこのちゃいろいところきらいだったかも!」
ちっこい手をふらりと伸ばすと、カステラをむんずと掴んでザラメが溶けて茶色い部分をリスみたいに齧る幼女。個人的に一番美味しいところだと思う部分をカジカジと食べちゃう。
そうして残った黄色いスポンジ部分をじ~っと眺めて
「あきちゃん、かすてらきらいだったかも!」
残りも全部食べちゃうのだった。
「あったかいみるくものみたい! みるくのみたいでしゅ!」
二切れ目を食べ始めると、カステラとホットミルクは最高の相性だよとお強請りするあ~ちゃん。アキのための供物という話はすっかり忘れた模様。幼女らしい行動であった。
もしゃもしゃとカステラを食べて、ミルクをコクコク飲むあ~ちゃん。お腹いっぱいになって、ミルクの口ひげを残しつつ、フワァと欠伸をする。お腹がいっぱいになったので眠くなったのだ。後はお昼寝するだけの幼女だが、その様子にタイチたちが慌てる。
「ちょ、お嬢を呼び出さないと駄目ですぜ。お昼寝したら駄目だってば」
「そうですよ、明日はアカデミーの試験日ですよ? このままだと不合格確実です!」
「だいじょーぶ、あ~ちゃんおなかいっぱいになったからしばらくねりゅの。あきちゃん『おはよう』!」
あ~ちゃんが呟いたセリフとともに、うとうとしていた幼女がぱっちりおめめを開いて、空気を変える。周囲の人々が一瞬寒気を覚え、警戒して身構えるほどに危険な空気。
「む、おあよー。もうアカデミーの試験日か? 結構早かったな」
そうしてニヒルに笑おうとして、ぷくぷくほっぺを緩ませる幼女は伸びをする。
「アキ・アスクレピオス。悪役令息ルックスY、覚醒完了だ」
冷たい視線、人を人とも思わない傲慢なる薄笑み、子猫が爪を出したかのように、凄みをみせて幼女は嗤う。ようやく悪役令息ルックスYのアキが戻ってきたのだった。
◇
「だいぶ寝ていたようだけど、状況を説明してくりぇ」
くーるに笑い、アキはソファに座ると脚を組む。組もうとして失敗し、コテンとソファに倒れるまでが幼女のデフォルトである。
いまいち決まらない幼女を前に、ケイは真面目な顔となり、現状を説明し始める。ここらへんはしっかり者のメイドだ。
「はい、アスクレピオス領は極めて治安が良くなりました。やはり百花騎士団のお陰でしょう。魔物は村付近にはいなくなりましたし、街道に蔓延っていた山賊たちは殲滅を終えています。そのため、アスクレピオス領では悪さはできないと噂されていますね」
「良き良き。ヒャッハーたちはよく頑張ってくれたな」
領地の治安は最優先課題だったのだ。治安が良くなければ何をしても変わらない。ヒャッハーたちを貸し出した甲斐があったというものだ。
「そして、アスクレピオス侯爵様は小麦を他の領地から買い集めて村々に配給、開拓のための鉄の農具も配り、食い詰めて仕方なく冒険者になった者たちを集め開拓民として各村に引き取らせています。フユ様は流行のドレスやアクセサリーを買い集めて、召使いたちに新しい服を買ってあげています。宝物庫の財宝が恐ろしい速さで減っているらしいですよ」
「良き良き。水霊の祝福水の半分の代金をおとーさまに譲った甲斐があったよ。ポセイドン王国からもらった物も全部おとーさまに譲ったしね。とすると商人もたくさん訪れているだろうし、大勢の人々で活気があるんだろうね」
水霊の祝福水の代金は半分はいつか地上との交易を始めるポセイドン王国へ、半分はおとーさまに譲った。宝物庫に貯めていても仕方ないとの考えからだ。お金を貯めるのは、領地が限界まで育った後で。シミュレーションゲームでは、常にそのように行動し、金も食料もあふれんばかりに増えたものだ。ちなみに『水霊の祝福水』は単純作業が気に入ったあ~ちゃんが倉庫に山と積むほど作っていた。
「あ、でもピスケス公爵家に借りた借金はまだ一万枚残ってるらしいですよ。全部返してないんです」
「良き良き。それはわざとだよ。必ず少しだけ借金は残すようにとおとーさまには伝えておいたんだ。借金という繋がりがあることでピスケス公爵家と深い関係にあるとのアピールをしているわけ」
不思議ですねと首を傾げるケイだけど、フフンと笑って座り直す。全て順調にいっているらしい。我ながら頭の良さが怖いぜ。
「海洋王国ネプチューンと名乗る船団が他の国と連合して攻めてきましたが、我らが守護神の最初の一撃で総勢200隻からなる艦隊を殲滅しました。今はネプチューン王国は我らがポセイドン王国へ、慌てて泣きつき賠償金の支払いを相談しております。これで完全に地上人に海の王国ポセイドンの復活が認識できたと考えます。全てロデー姫のお陰であります!」
「良き良き? ま、まぁ、ほとんどシナリオ通り!」
シーウィードがポヨンポヨンと豊満な胸を揺らして誇らしげに伝えてくるが、あたちのせいじゃないもん。やはりモビーディックを置いてきたのは失敗だったかも。でも攻めてくるのが悪いんだから幼女しーらない。
海のことは忘れることにして、現状はだいたい理解できた。特に問題はなさそうだ。うん、たぶん問題はなさそうだ。
それじゃ、これからのことを考えて行動を開始しますか!
◇
「まずはこのお屋敷をきれーにしないとな」
「誰か雇いませんか? 王都ならたくさん人がいると思いますよ?」
「却下。お金は最低限しか持ってきていないし、それは生活費とアカデミーへの寄付金と学費だ。あたちが使えるお小遣いは月に銀貨一枚だよ。それにケイたち信用できる者たちを選んだのは、この屋敷に知らない人間が入ってきてほしくなかったからだ。令息が住んでいるはずなのに、幼女しかいなかったら変だからね」
身内のみでこの屋敷で暮らしたい。が、そうもいかないので、ケイやシーウィードたちを仲間に引き入れたのだ。この人たちは一応信用できるからな。だから、ここに見知らぬ人間を入れるつもりはない。
それに、アキに相応しい解決方法はあるんだ。まぁ、任せておけって。
「くくくく、眠りし間に溜めた運を今ここで使う! はーにゃーはらみーた、ふぐちーりおいしーよ」
含み笑いをして、アキはラジオ体操らしき踊りを始める。細い手足をブンブンと、体をゆらゆら、幸運の幼女ダンスだ。
また奇行が始まったとケイはジト目となり、シーウィードたちはアキのやることは全肯定だから拍手をしており、タイチたちは何をするのか知っているので、気にしない。
「ちょえーびちーり、見えた!」
クワッとぱっちりおめめを見開くと、ガチャコマンドをポチリと押す。なにが見えたかはガチャ人たちにしかわからない。
久しぶりのガチャのBGMと、天から降り注ぐ光にワクワクする。やはりガチャは良いものだ。そして、久しぶりのガチャをやる幼女には、リカバリーボーナスもつくに違いない!
『N:高級食パン:使い切り』
「10連ちゃんのつもりだったから!」
記憶を改竄し、さらにポチポチ神拳をする幼女。一幼女相伝の秘奥の拳法だ。
『N:カステラ:使い切り』
『N:カルメラ焼き:使い切り』
『N:歯ブラシ:使い切り』
『N:バスタオル:使い切り』
『N:下着:使い切り』
『N:ポータルテレポートのスクロール:使い切り』
「さ、作為的なものを感じる。運営め、物欲センサーの新型を導入したな! もう、ポータルテレポートのスクロールはいらないよ! お詫び的な数合わせで出してるだろこれ!」
むきゃーと地団駄を踏む踏んで暴れる幼女だ。いかにノーマルでもこれはおかしい。こっちは無料ガチャではなくて、課金してるんだぞ。昔のガチャシステムを参考にしてるだろ、これ!
プンスコ怒りながらもガチャの手を止めない幼女だが、ようやく色が変わっていくことに希望の光を見る。白から青、青から黄色、黄色から赤へと!
そうして光がおさまり………。
『SR:剣豪の腕輪:攻撃力+200:剣術6:エクストラ』
人の力を変化させる奇跡のカードが出現するのであった。
これこそがゲームの仕様をTRPGからカードバトルに変えるわけわからん存在アキの『ガチャ』の能力だ。経験点をガチャポイントにして、カードを呼び出すガチャを可能とする。出現するものは様々で、武具から始まり食べ物や魔法のスクロール。そして━━━仲間として人間すらも召喚できるのだ。現にタイチとシィは『ヒャッハー山賊団』というRカードから現れた人間たちだ。
とりあえずはSRが出現したので良かった。これは、なかなかのカードだよ。屋敷の掃除にはまったく役に立たないけど。とりあえず装備をしておいてと。
残り2回!
『N:皮の服:防御力+10:装備』
『N:ポータルテレポートのスクロール:使い切り』
うん、わかってた。わかってたんだ。きっとこんなんだろうって。でも、10連やると決めてたんだ。幼女にはやらねばならぬ時があるのである。
残るガチャポイントは6500。当たるような気もするけど……気もするけど鉄の意志で止めておく。
まぁ、SRが出たんだ。黒字だよ黒字。特別ガチャにすれば良かったとか思わないもん。
「あの〜、お嬢? で、屋敷を綺麗にする方法はでやしたか?」
部屋の隅っこに体育座りでしょんぼりする幼女の姿を見ながら空気を読めないタイチが尋ねる。地雷原に飛び込む勇気はもはや勇者にジョブチェンジしたと言っても過言ではない。
「………もちろん、庭をきれいにする方法は思いついたよ? カードオープン銅の剣」
手に銅の剣を呼び出すと、ニヤァッと子猫の獰猛なる笑みを浮かべる幼女は立ち上がる。めげている暇はない!
窓へと向かうと剣に魔力を籠めて、怒りの一振り。
『旋風剣!』
階位5の小型の竜巻を作る斬撃の武技。小さな竜巻が雑草も伸びた草木も全て根こそぎ引き千切る。
「外はあたちとタイチ! 中はケイたちが掃除して! 掃除は真面目にやるしか方法はないんだからね!」
窓枠に脚をかけると、涙目で指示を出し、お外へと飛び出す幼女だった。
そうして夕方まで武技や魔法が飛び交い、屋敷はなんとか綺麗になって━━━隣の屋敷や通りすがりの者から、あの屋敷は危険だと、なぜか噂されてしまうのだった。




