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悪役令息だけどキャラメイクでルックスYを選んでしまいました  作者: バッド
一章 悪役令息になりました

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29話 欲をかくものは都合の良い未来しか考えないよね

 元アスクレピオス領都の城の会議室に貴族たちが集まっていた。貴族たちはアスクレピオス侯爵家の領地を借金の形に預かっていた者たちだ。


 皆はこの20年の間にアスクレピオス侯爵家の領地を食い物にしてきて、私財を膨らませていた者たちだ。子爵家と4家の男爵家。ただ、男爵家は一家だけ会議室にはいなかった。


「誰か一家が顔を見せないようだが?」


「ケーン・べナティ男爵だ。先代とは違い、今の当主はあの落ちぶれたアスクレピオス侯爵家に忠誠を誓っているからな。あの裏切りものが!」

 

 忌々しそうにテーブルを叩く豚にも似た顔の太った爺さん。この会議の主導者であるオレガノ・ルプス子爵だ。もっと言えば、アスクレピオス侯爵家から狡猾に領地を奪い取った者でもある。


 元々、アスクレピオス侯爵家は凶作により、領民を助けるために借金をしてはいたが、それは領地の税金で返済できる金額であった。だが、オレガノと他男爵家の4家は巧妙に契約書を作成した。


 即ち、借金返済を税の集金をする前に定めたのだ。国立借款書での契約は絶対であり、税の集金の前に借金返済を求められた先代侯爵当主は借金の数倍の価値のある領地を奪われて資金難に陥り破滅した。


 愚かな男だったのだ。子爵や男爵が大金を持っているわけがない。アスクレピオス侯爵家を邪魔だと考える他の高位貴族からの支援もあって、大金を貸し付けたのに寄り子からだと疑問に思わずにサインしたのだから。


 領都を奪われて、その城も宝物庫の財産も所有権を失った侯爵家は一気に没落することとなり、もはや借金返済は不可能と思われたのだ。騙されたことに気づき、怒り心頭の先代侯爵家当主だが、もはや対抗する術はなかった。後は、没落したことを恥じて、侯爵の爵位を王に返還すれば晴れてオレガノたちの領地になったのだが…………。


 先代当主は元々浪費癖のある人間で散財していた。にもかかわらず問題なかったのは、それだけ侯爵家が裕福だったからだ。いや、散財して貯金をしていなかったため、その隙を突かれたのだから問題はあったともいうが、直接的な理由ではなかった。


 だが、その噂を誇張して領地すら借金の形に取られたのだと流して、侯爵家のプライドを地の底まで落としたのに、意外なことにアスクレピオス侯爵家は没落しても爵位を返還しなかった。何か手があるのではと最初は警戒していたが、20年の歳月が経過して、単にプライドもなく、侯爵家という爵位にしがみついているだけだろうと思われたのだが━━━。


「べナティ男爵のことはどうでも良い、それよりも借金返済がなされたとは本当か? どうやって返済したのだ?」


 まさか借金返済が成されるとは欠片も想像していなかった。最低限の妨害はしていたし、社交界に顔を出さないほど困窮し、仕事も忙しかったはずなのだ。


「本当だ。早馬で返済がなされたことは確認している。ピスケス公爵家が借金返済の肩代わりをしたらしい……恐らくは国王派を増やすためだろう。国立銀行に行けば、いつでも返済された金は下ろせるはずだ」


 苦々しくオレガノは答える。何の担保もなく、勢力もない侯爵家を助けるとは思っていなかったが、たしかに侯爵家を支援すれば、後々強力な国王派の一員になる。借金返済も領地が戻れば容易いことだろう。 


 それでも、この領地の奪取には他の侯爵家や伯爵家が絡んでおり、酷く厄介な案件だ。借金を肩代わりするほどのメリットは無さそうに思えたのだが━━━。


「最近は頓に貴族派が力を増している。国王派はそれだけ追い詰められていたということだろう。厄介な話だが金で解決できる内容だ。そこを突かれたのだ」


 男爵の一人が悔しげに口を噛む。これが天秤のとれた平和な時であれば、アスクレピオス侯爵家を助けようなどとは思わなかったであろう。戦争の兆しが見えたからこそなのだ。


「国王派だ、貴族派だ、などと王都から離れた土地の我らにはどうでも良い話だ。それよりも領地を返還しなくてはならないのか? 本当に? 昔のように小さな街で我慢しろと?」


「………そうするしかあるまい。今さら高位貴族に助けを求めても遅い。どのような理由で国王の印可がされた領地返還に口を挟むのだと、反対に疑われるだろう。彼らは貴族派だ。確実に潰されると分かっていて、我らを助けるものなどおらぬ。借金返済のタイミングに気づけなかった我らが悪いのだ」


「ならばあきらめろと言うのか? かなりの散財をしてるから、来年の税がなければ困る!」


「ふん、投資で増やさないからだ。儂は貴族派が主導する大規模貿易船艦隊に全力で投資をしている。来年は私がこの近辺での一番の金持ちになっとるな、わっはっは。全ての金額を投資しているわ」


 誰も実のある意見は口にせずに、騒いでいるだけに終わる。小田原評定とでもいうのだろうか、これまで率先して行動する主導者がいないためである。結局彼らは小物であり、たまたま謀がうまくいっただけなのだ。小物であるからこそ、先代アスクレピオス侯爵は油断をしてしまったところもある。まさか寄親を騙して領地を奪おうなどと、だいそれたことはするまいと先入観を持ってしまったのだ。


 ナツ・アスクレピオス侯爵の行動が早すぎた。だからこそ不毛なる話し合いが続き、オレガノは苛立ちを覚えながらテーブルに置かれている手紙を忌々しそうに眺めて━━━なにかを思いついたようにその太った豚のような顔をニチャアと歪める。


「そうだ、諸君。良いことを思いついたぞ。これまでのように全てを奪うことはできないだろうが、それでも次善策としては良い思いつきだと思うのだがどうであろう」


 オレガノの言葉に言い争っていた者たちはピタリとやめて、どのような案であるのか顔を向ける。皆の視線が集まったことに満足気に、オレガノは手紙を持ち上げて、皆へと見せると自分の案を口にする。


「見てください、この手紙を。これはアスクレピオス侯爵の手紙。皆も受け取っておりますよね?」


「あぁ、小生意気にも借金返済を終えたことと、領地の返還が書いてある。しかも帰還したことを歓迎するために、街門の前で待っているようにとの内容だ。今までは金貨1枚貯めるのにも苦労して、儂らの顔をうかがってきた男が!」


 忌々しいと、コーセキ男爵がテーブルを荒々しく叩く。その顔は憤怒で真っ赤であり、自身の爵位が最低であることと、アスクレピオス侯爵家は寄親であるとの記憶は忘れているかのようだった。事実、つい先日までは吹けば飛ぶような存在で、アスクレピオス侯爵家などすっかりと忘れて好き放題していたのだ。


「さっさと爵位を返還させるべきでしたな。まさかあのプライドの高い爺が爵位を返還しないとは思ってもなかった」


「………なにやら当時は気が狂って息子夫婦の子供を殺そうとしたとか話があって、強制的に引退させられたしな………」


 痛恨の失敗だったと、他の男爵が口元を引き結ぶ。暗殺などで血を途絶えさせる方法は取れなかった。なぜならばその場合は改易となり、自身が受け取っていた領地も取り上げられてしまう可能性があったからだ。爵位返還ならば、この際に受け持っていた領地は寄り子に分配される形となった。それは当時の貴族派が支援をしてくれる予定でもあったからだ。


「皆さんの悔しさは分かります。なので、この手紙を逆手に取りましょう」


「? どのように逆手に取るのだ?」


「街門の前で待機するなど、我らに恥をかかせて、ちっぽけな復讐をしようとするつもりなのですが、そこであえて我々は謁見の間にて待ち受けます。侯爵家の麾下の騎士団を率いてね」


「………我らはアスクレピオスに従わぬという表明を遠回しに行なうということかね? 恥をかかすということか?」


「それだけではない。領地経営に必須の文官も連れて謁見の間にて待ち受けて、自分の影響力など欠片もないと教え込むのです。剣に手をかけて、いつでも剣を抜けると騎士団に脅しをかけてもらいましょう。そして、我らの方が上であることと、これからの領地経営は我らが行うので、椅子に座ってお飾りであるようにと伝えます。これはアスクレピオス侯爵家の内紛だ。ピスケス公爵家も手を出せない。なお、付け加えるなら、アスクレピオスはそこらの荒くれ者を部下に雇っておるらしい」


 オレガノはなぜかゆっくりとやってくるアスクレピオス侯爵家をしっかりと調べていた。それによると人気取りのためだろう、小麦を積んだ荷車を連れて、各村を回りながらやってきていた。そして、その配下は毛皮を着たそこらのごろつきだとの噂も集めていた。


 騎士団を前にしては、ごろつきなどは震え上がるだろうし、アスクレピオスは恐怖して自分たちの意のままに動くだろう。そう確信していた。


 もしも三女のキーナが、いや、その目付け役の部下がチュートリ山賊団を倒したのはそのゴロツキであり、見かけと違って恐ろしい腕を持っていると報告していれば、そのような策を取ろうとはしなかっただろう。


 しかし、キーナたちはアスクレピオス領地に無断で侵入し、あまつさえ助けられたなど、報告できるわけもなく、隠蔽してしまった。それが決定的なる運命の道をオレガノに敷いたのである。


 オレガノの提案に、皆は思案する。ここで知恵者が一人でもいれば、アスクレピオス侯爵がなぜわざわざゆっくりと向かってきて、こちらに準備をする時間を与えるのかを不審に考えただろう。


 だが、彼らは小物であり、たまたま運よく策がはまった幸運だけの者たちであった。成功体験しかない彼らは、この提案は上手くいくと、ニヤニヤと笑い始める。


「そうですな、実入りは減るが、なにかと予算をつけて懐に入れれば良い。良き策でありますな、ルプス子爵」


「しかし……もし剣を抜いた者が出たらどうします? 反乱となり、我らはおしまいです。危険な橋ではないでしょうか?」


 男爵の一人が不安を口にするが、オレガノは一笑に流す。


「もし抜いたとしても、アスクレピオスは震えるだけでなにもできませぬ。あとは我らが口を合わせて、剣を抜いた者などいなかったと証言すれば良いだけのことです」


「ふむ……たしかにそのとおりです。この城の手の者はルプス子爵の配下ばかり。そこに我らの麾下を集めれば、まず問題なくこの策はなされるでしょう。のりましたぞ」


「そうですな、儂もその策に乗りましょう」


「さすがはルプス子爵。古来の軍師トロイにも勝るとも劣らぬ策士ですな」


 皆が醜悪なる笑みを浮かべて、狡猾そうに策に乗ると賛同する。オレガノ・ルプス子爵は参加者からの称賛を聞きながら、気分よく誇らしげに、にたりと嗤うのであった。

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― 新着の感想 ―
先を見据えて投資してたのに…お労しや…
8公2民とか許されざる者たちなので簡単には楽にさせられないなぁ……(*`Д´)ノ
そのゴロツキ共後継者のために命かけることに1mmも疑問持たないし素で公爵家の騎士団レベルの精鋭なのに魔法装備まで持ってますよ… 後継者さんなんて数秒で無から軍団を呼び出すし海の王国の王女まで兼任して…
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