23話 思い込みってあるよね
魔神ダゴンは倒せた。あまりにもあっさりと倒せたので、まだ復活するんではと警戒していたが、復活する様子はなさそうで、アキは胸を撫で下ろす。
「モビーディック………助けてくれてありがとう。あなたのことは忘れましぇん」
頭上をゆっくりと遊弋するモビーディックを仰ぎ見て感謝の言葉を告げ、レジェンドの使い切りなんだぜこいつと、もったいなさで悔しくて涙する真似をするアキ。海中なのでイマイチ決まらない幼女である。
だが、その様子をマノミは見て、きっとなにか積年の思いが成就したんだろうなと、優しい思いになって涙するアキに勘違いしていた。
「それよりも脱出しよう。ここにはもう用はないから、ええっ!?」
さっさと脱出しようとするアキだが、海中からホタルのように小さな光が雪降るように噴き出してきたので、驚いてしまう。
ゲームではダゴンを倒せなかったために起きなかったイベントなのだろう。
「海中に静かに降る雪か、ふふ、ロマンチックな演出を運営もするもんだな。見直したぜ」
へへと、鼻をこすって幼女がふんわりと微笑むが、幻想的な光景を見れることだけが、ダゴンを倒した報酬のわけがなかった。
『よくぞ魔神ダゴンを倒した。我が子孫。ロデー・ポセイドン王女よ』
目の前にクラーケンとタメを張る巨大なおっさんが現れた。いや、半透明なので本体ではないのだろう。白いトーガを着て、右手に三叉の矛を持つひげもじゃのおっさんだ。冠を頭に被り、どう見ても普通ではない。というか、誰ですかと問うまでもない。
「海の神ポセイドン様にご挨拶を。会えて光栄です」
恭しく頭を下げて、ご挨拶する良い子の幼女だ。カクレクマノミも踊るように泳ぐのでたぶん頭を下げているつもりなんだろう。
『ほほう、余のことがわかるとはな、なかなか殊勝なり』
感心するようにあごひげをしごきながら言うおっさんだけど、どう見てもポセイドンだろ。これでゼウスとかなら訴えるわ!
『よいよい、頭を下げろ』
もっと下げないといけないらしい。
『違った。頭を上げろだな。うむ、頭を上げよ』
おちゃめなポセイドンに多少疑わしい目つきになっても幼女は許されると思う。
『さて、この世界を去った我はそこまで時間はとれぬ。さっさと褒美を与えようではないか。さぁ、願いを言ってみよ。魔神の魂の欠片がある以上、どのような願いでも叶えられるはずだ』
おぉ、やはり報酬イベントらしい。
なら、願いはたった一つだ。これしかない。
『ゴッドカード確定ガチャを100連やらしてください! それ以上だと気前が良すぎて、サービス終了を疑われるので、100連でいいです! あ、違った。ゴッドカード確定の10連ガチャを10回お願いします!』
欲望に忠実なる幼女。その名はアキ・アスクレピオス。さらにセコさも加わっていた。
『よろしい。その願いを叶えよう。海を荒らす邪悪なる旧神を滅ぼせしそなたへの報酬だ!』
重々しい声音で了承してくれるポセイドンに驚き、狂喜してしまう。まさか了承してくれるとは思わなかったよ。駄目元で言ったのに、ポセイドンサイコー!
幼女は体をくねらせて、喜びの踊りをして、満足そうにウンウンとポセイドンは頷くと、片手を持ち上げる。
『では、そなたの願いの通り。ダゴンに殺され魂を飲み込まれた千年前に存在したポセイドン王国10万人の者たちを復活させよう! 良いな? ダゴンの残されしエネルギーを使えば容易いことよ』
………はぁ? 誰がそんなことを言ったんだよ。よくねーよ、ぼけたかおっさん。
『いいえ、その願いは違います!』
異議アリ!
『では、そなたの願いの通り。ダゴンに殺されしポセイドン王国10万人の者たちを復活させよう! 良いな? ダゴンの残されしエネルギーを使えば容易いことよ』
『いいえ』
『では、そなたの願いの通り。ダゴンに殺されしポセイドン王国10万人の者たちを復活させよう! 良いな? ダゴンの残されしエネルギーを使えば容易いことよ』
『……いいえ』
『では、そなたの願いの通り。ダゴンに殺されしポセイドン王国10万人の者たちを復活させよう! 良いな? ダゴンの残されしエネルギーを使えば容易いことよ』
『…………………………はい』
駄目だこりゃ。ハイと言うまでループする選択肢だわ。ちくしょー、鬼か、いや、神様だった。
ポセイドンはその手に光る球を集めると、握りしめて破壊する。そうして砕かれた光が海中に降り注ぎ、雪のような結晶に吸い込まれていくと、結晶は人魚の形へと変わって、光がおさまったあとには本当に人魚が現れるのであった。
驚くことに全ての結晶が次々と人魚に変わっていく。いや、変わるのではなく蘇生されているんだろう。たぶんあの結晶は魂で、魂が昇天していないから蘇生できたとかそんな裏設定なんだろうね。
おぉ、ファンタジーだよ、ファンタジー。神様の蘇生魔法によるイベントは感動的だな。
『フワァ、あ~ちゃんもパチパチしゅる。ねーねーパチパチしゅる〜』
『あの力は俺たちには無理だよ。今はこの光景を記憶しておこう。たぶん一生に一回あるかないかの光景だからな』
はしゃぐ精神世界のあ~ちゃんに答えながら、アキはフフッと優しく微笑むのであった。
「これは………私たちはダゴンに吸収されたのでは?」
「身体が元に戻ってるぞ! 生きてる、生きてるんだ!」
「夢じゃないんだな。やった、やったぞ!」
人魚たちが自分たちの身体を見て、触って確認すると歓喜する。
『聞けぃ、ポセイドン王国の民よ。汝らはダゴンに魂ごと吸収された。しかし千年経ち、王国の末裔たるロデー・ポセイドン王女が苦難の果てに海の守護者の助力を願い、遂にダゴンを打ち倒し、王国を復活させたのだ!』
ポセイドンが威厳のある顔で余計なことを言う。この野郎、余計なことは言わなくて良いのに!
おぉ、と人魚たちはポセイドンの言葉に感動し、アキを見てくる。視線の雨が痛いほど突き刺さる。
「そうだったのですね、ロデー・ポセイドン。貴女は私が逃がした末の妹の末裔だったのですか。貴女のダゴンを倒すため、王国を復活させるための苦労と長き旅。海深き中で見守ってきました」
なんか鱗が黄金のハデハデで美人な人魚が労わるようにアキに話しかけてくる。
「他の人魚からは無理だと言われ、馬鹿にされて、仲間もいないのにたった一人でダゴンを倒したその活躍を私は見守ってきました」
またもや見守ってきました宣言。
「さぁ、皆でポセイドン王国の復活を祝いましょう。そして、小さき英雄ロデー・ポセイドン王女に最大の感謝と、称えるべき賞賛を! このクイーン・ポセイドンが勇者ロデーの名を永遠のものとして語り継ぎましょう!」
「おぉぉぉぉ〜! 海神ポセイドン万歳!」
「勇者ロデー王女に万歳!」
「ポセイドン王国の女王クイーンに万歳!」
クイーン・ポセイドンは片手を上げて、厳かに宣言する。その言葉に国民たちは大喝采をあげるのであった。
どうやらこの国の女王様らしい。でも見守ってきました宣言は嘘だろ! 長年ってまだ転生してきて一ヶ月しか経ってないよ! なんか幼女が一人で旅してきたような英雄譚が捏造されそうだよ。時折、女王様が幻影になって助言するシーンも絶対に加わるだろ!
これ、勇者勇者詐欺だと、頬を膨らませてプンスコ怒るアキ。こうなったらアイテムの力で人魚に変身してると暴露しようとすると
『まぁ、待て待て。王国を滅ぼした女王なのだ。ダゴンという脅威を前にしては無力であったので不可抗力ではあるが、ここでそなたが実は人間だとバレると女王の威厳は失墜し、ポセイドン王国が滅びてしまう。そうなると崇められる予定の儂も困る。ここは黙っておいてくれ』
思念にてアキにだけこっそりと語ってくるポセイドン。なんと、勇者勇者詐欺に神様も加わった。だが詐欺に加わるアキではないのだ。そんな卑劣な行動に黙っているわけには━━━。
『残ったダゴンの力を使い、偽人魚変身の固有スキルもやろう。人間時も水術レベル3が使えるぞ? 水属性無効はない人魚の腕輪の劣化コピーだが、スロットを使わないで良い分お得であるぞ? それにポセイドン王国の王女になると海での素材採取なども助かろうなぁ?』
神様の癖に悪魔のような囁きをしてくるおっさんである。あ~ちゃんも見てるんだ、そんな卑劣な囁きを聞いて黙ってる俺だと思ってるのか!
アキは正義の心を燃やし、クイーンの前に立つと手を挙げる。
「女王様〜。あたちがんばって王国を復活させまちた!」
「苦労をかけましたね、ロデー王女よ!」
二人は強く抱き合い、感動の光景に皆が涙するのであった。
アキは偽人魚王女になったのだった。
王国を救うためには仕方ないよね?
◇
廃墟と思われた海中都市であったが、廃墟みたいな城の中にあった宝珠を稼働させると、空気が充填されて、海中都市へと早変わりした。
とりあえず都市の復興は後回しにして、皆で食べて歌ってと宴会をしている。残念ながら千年経って酒はない。でも皆喜びで満ち溢れて騒いでいる。
「よ~しよし、ロデーよ、儂の膝の上に来ないか?」
筋肉ムキムキのおっさんがあぐらをかいて、自分の膝を叩く。
「やだわ、父様。男の膝なんて、硬くて嫌に決まってるでしょ。姉の私においでロデー」
「父上も姉上もやめてください。ロデーは兄が好きなんです。な、ロデー?」
妖艶なる美女や二枚目の青年もアキに笑顔で声をかけてくる。アキは女王様の王配や子供たちに囲まれていた。末裔だって言ったのに、娘とか妹扱いをされている。どうやら王族には幼い子供はおらず、しかもその幼さでダゴンを倒すために旅立った勇敢さに感動したらしい。
チヤホヤされるのは好きだけど、少しうざい。
それにしても━━━。
「皆さん、人間の姿で飲み食いするんですね。都市も水中ではないですし、意外です」
マノミが不思議そうに尋ねるが、アキも同意である。ゲームとかでも、人魚は水中都市だったよ?
だがその言葉を聞いて、人魚たちは顔を見合わせるとプッと噴き出して笑い始める。
「それは御伽話だ。考えてみよ、そんなことをすれば大都市だとどうなる? 食べカスは? トイレは? 数十人程度なら良いが、万を超える人口だと………考えただけでゾッとしないか? 我らが脚を人間の脚に変えることができるのは大都市を作りあげるためだと言われている」
リアルな答えが返ってきました。夢も希望もないな。でもたしかにそうかもね。水槽だって掃除しないと汚くなるのに、人魚たちの人数だと………気持ち悪くなるから考えるのをやめとこ。
人魚の生活を面白おかしく教えてくれて、反対に地上の生活を教えて話し、しばらく宴会を楽しむアキとマノミ。
皆が楽しそうにする光景を見て、水を飲んでいたマノミが俯きポツリと呟くように言う。
「ロデーちゃんは怖くなかったんですか? たった一人で王国を復活させる旅をして? 王都でも見世物のように扱われて……寂しくなかったですか? やめようと思わなかったんですか?」
幼い人魚の苦労をマノミは分からない。だが、マノミはその苦労が自分では想像もつかない程なのは理解できた。そして、その勇敢なる意志の強さがどこから来るのかを知りたかった。
「うんと、皆が笑顔になれる未来を想像して頑張ったんだよ。失敗したってやり直せばいいもん。だからダゴンを倒せたし、ポセイドン王国を復活できたんだと思う」
主にガチャを頑張った幼女の言である。ガチャは爆死しても追加の課金をすれば良いのである。
息を吐くように適当な答えを返す幼女だが、その言葉はマノミに感銘を与えた。
「皆が笑顔になる未来を想像して頑張る………失敗してもやり直せば良い……。そうですね、そのとおりです」
マノミは静かに決意する。強くなろうと。失敗しても良い。皆の笑顔を守るために。
初めて自分からの望みで強くなることをマノミは強く決意するのであった。
「ふふ、我が娘ながら含蓄のある言葉ですね。そのとおりです。失敗してもやり直せば良い。これからしばらくは王国の再建、各地に散らばった人魚たちを再度集めること、やることはたくさんあります。ですが、私たちはきっと立派な王国を再建します。海の守護者モビーディックも我らを守ってくれるでしょう」
天を仰ぐと海中に優雅に泳ぐモビーディックの姿があった。驚きだけど使い切りでも、仲間は消えないらしい。たぶん仲間カードは倒されても復活できるけど、使い切りは死んだら復活できないとアキは予想する。そりゃそうか。米とか出した途端に消えたら意味ないもんな。
でも、モビーディックはダゴンよりも強いんだ。ポセイドン王国には要らないんじゃないかな………。女王様の顔を見ると既にモビーディックは王国の守護者扱いにされてそう。ま、どうせ海でしか使えないんだ、まぁ、守護者として扱ってもらってもよいか。
そうして、復活させたお礼として、パクった『瞬間移動』の指輪を渡した上で、一ヶ月に一度水霊石を浜辺の街に持ってくることをお願いし、たまには連絡をするようにと渡された人魚の通信石を貰って、アキは海神ポセイドンのミッションを終えるのだった。めでたしめでたし。
明日には帰らないと皆心配しちゃうなと、アキは大欠伸をして、おねむの時間になるのだった。
『クエスト:ポセイドン王国の復活により、海に国境が出現し、大陸を跨る船での交易は不可能となった。経験点10000取得』
グーグーグーグー。きっとゲームの強制力だよ、グーグー。




