2話 プレイヤーは未知のため命を賭ける
まじかよ。神様は死んでいた。
アキは自分を見て驚きながら尋ねてくるメイドの少女を見て憤慨していた。普通、キャラメイクできるなら、世界設定もそれに合わせるだろ! キャラメイクで姿が変わったら本人だと認識されないなら、キャラメイクの意味なくない?
主人公なら、ルックスMでもルックスLでも本人だと認識されていた。されていたが、そういや、ストーリーは変わらず男性向けだったと、その適当さを思い出す。ヒロインと恋人になれるしイベントも変わらなかった。百合は良いなぁとか、プレイしながら思ってたけど、よくよく思い出してみれば全部男性時のイベントと変化はなかったや。
(そんな適当な運営が、悪役令息がキャラメイクされた場合のことを考えるわけがなかった! やばい、どうしよ! 悪役令息に転生しましたが、姿は幼女になった展開は見たことない!)
ふざけやがって運営めと、内心で罵りながらも、今の現状をなんとかしないとヤバい。悪役令息はたしか侯爵の一人息子。その息子が自室にいなくて、幼女がいる状況は怪しいどころか、混沌としすぎて意味がわからない。
というか、まずは悪役令息に転生してどうしようとワタワタする時間じゃなかろうか? 幼女になって数分なのに、慣れる時間もなく、怒涛の次イベントが発生するとか、難易度が高すぎる!
「あの、アキ坊ちゃまはどこにいるのでしょうか? はっ、貴女はまさか………坊ちゃまはまさかまだ14歳なのに変態的性癖に目覚めて!?」
口を覆いメイドはカタカタと震え始める。それも当然の流れだろう。今のアキはぶかぶかとなって袖余りのアキの服を着ている。大きすぎて肩から服がズレて胸が見えそうにもなっているのだ。
悪役令息アキにそんな設定はいらないから! 14歳で幼女趣味とかないだろ、このメイドアホか!
弁明したいが、今の自分が言い訳を口にしても意味がないだろうことは推測できる。どこからか攫ってきた幼女を手籠めにする悪役令息14歳とか、悪い評判の中でも最悪すぎる。そういう方向性の悪役令息ではないのだ。
「う。うぉぉぉ! 今はマホーの実験中だったの! 部屋から出てって!」
というわけで、挽回するべくパンチをペチペチ繰り出して、メイドを無理やり部屋から押し出す。メイドも予想外すぎたようで、動揺していたために流されて部屋から出ていってくれた。
素早く鍵をかけて、一応の時間稼ぎをしてアキはぺたりとへたり込むように床に座る。その弱々しい姿を見れば、あらあらどうしたのとおばちゃんが心配して声をかけてくる可愛さだが、今はそれどころではない。
「ま、まずはこの姿だ。なんとかしないと。悪役令息の姿に戻れるか?」
この姿の方が可愛らしいが、本当に転生したのなら、幼女はまずい。せめて悪役令息の姿に戻らないとと慌てながら、とりあえず踊りながら考える。身体が踊りを求めているのだ。本人は気づいていないが、早くも幼女の思考に汚染されていた。
「ステータス!」
アキ・アスクレピオス
経験点:10000
職業:なし
体力:1
筋力:1
器用:1
魔力:1
知力:1
固有スキル:悪逆非道
スキル:なし
半透明のボードが目の前に出現し、ホッと安堵する。正直言うと、この言葉で表示されるか不安だったのだ。しかし、ステータスは酷い数値で可愛らしい顔を引き攣らせてしまう。
「ほっ、ここはテンプレだったか、良かった良かった。いや、平均ステータス12なのに、オール1とか悪意があるとしか思えない………。あたちの名前はアキ・あしゅくれぴーすか。くっ、幼女の舌足らずの口だとまともに名前も言えないか」
おっさんだった時も、生米生麦生卵も早口で言えなかったアキは名前を正確に言えないのは幼女のせいにしつつ、すぐにジョブを取得しようと手を動かそうとする。
なにせ10周もクリアした猛者たる俺だ。最強へのジョブ取得から最強ビルドまで頭に入っている。しかも普通は自動取得となるスキルだが、一周でもクリアしていれば特典として自由にスキルを取得できるおまけが付くのだ。ありがちなおまけだが、どうやらクリア特典は適用されているらしい。適用されていなかったら、経験点は表示されないからだ。ちなみに経験点は一周クリア毎に初期経験点が千点ずつ増えていく。一万点は10周クリアした証でもあった。
まずは幻影魔法を取得して、メイドの目を誤魔化せば良い。固有スキルの『悪逆非道』がよくわからないが、ゲームの知識チートがあれば、主人公を食っちゃう最強幼女が出来上がるだろう。できれば最強に幼女はつけたくなかったけど、仕方ない。
が、ピタリとそのちっこい指が止まり、ヌヌヌと葛藤した顔になる。
なにを葛藤しているかというと、10周クリアし、全エンドもコンプして、人物、魔物、アイテム、等のライブラリも全て集めたプレイヤーが使える隠しジョブの存在を思い出したからだ。
めっちゃ苦労して解放した隠しジョブ。そのジョブは特に最強というわけでもなく、今までのプレイと全く違う楽しさとなると攻略サイトには書いてあった。死ぬ前にそのジョブにして遊ぼうと思っていたのだ。ちなみにその場合、スキル取得の知識は全て無駄になるとも書いてあった。
「じゅ、10周もして、全コンプしたんだよ………。か、隠しジョブでもいいよな?」
良くない。大量の初期経験点があり、最強ビルドへの知識チートを使えば、アキは問題なくこの先もありがちな無双悪役ルートに入れるはずだった。
しかし、ピーピーと下手くそな口笛を吹いて、ジョブ一覧に表示されている初めて見る隠しジョブをちっこい指で押しちゃうアキ。人生がかかっているのに、プレイヤーの好奇心を捨てきれずに、隠しジョブを選ぶアホさを見せるのだった。
ピコンとジョブが取得される。と、ステータス画面が変わった。
アキ・アスクレピオス
職業:カードマスター
ガチャポイント:10000
固有スキル:悪逆非道
ジョブスロット:
攻撃力:
防御力:
装備スロット:
仲間スロット:
エクストラスロット:
「凄い……ゲームの仕様が変わった! これが苦労してやり込んだおまけかぁ。10周もクリアした甲斐があったな」
幼女はうるうると目をうるませて、攻略サイトは本当だったと感動した。一周につき50時間はかかるゲームを10周もクリアした甲斐があったもんだ。仕様を変えるとは運営やるじゃん!
ただ問題はこのジョブで新しい仕様で最強に至る道がさっぱりわからないということだ。本当に人生をかけて、よくわからないジョブを選んでよかったかは、元々の知力が1だった証と言うしかないだろう。
でも基本は覚えている。攻略サイトに載っていたから、いつか俺もやるんだと希望に胸を膨らませていたからだ。やり込み要素にしてもこの隠しジョブと仕様は魅力的すぎたのだ。
今までは無かった『ガチャ』というコマンドをタップする。
「お嬢さん? 大丈夫? 開けてくれないかな? 大丈夫、私はお嬢さんの味方だよ」
どんどんとドアを叩いてメイドが心配げな声をかけてくるが、お前は味方ではなく敵だろと、ガン無視する。魔法の実験だって言ったじゃん。全然信じてくれないじゃん。
普通は信じないが、御主人様のいうことなんだから信じろよと無茶を言いつつ、さらにタップする。すると説明文が表示された。
ガチャレア度
N白色→C青色→R黄色→SR赤色→UR金色→LRゼブラ色→GR虹色
『ノーマル:ガチャポイント500で1回ガチャができる』
『スペシャル:レア以上確定。ガチャポイント5000で1回ガチャができる』
『オール:全てを含むガチャ』
『ジョブガチャ:ジョブの出現率大幅アップ』
『装備ガチャ:装備の出現率大幅アップ』
『仲間ガチャ:仲間の出現率大幅アップ』
『エクストラガチャ:エクストラの出現率大幅アップ』
『スロットは初期は1枠。スロット解放カードで空きスロットを増やせる』
どうやらガチャができるらしい。『ノーマル』と『スペシャル』があり、さらにタップすると、各種のガチャができるらしい。
運営凄い。RPGをガチャシステムに変えるなんて、大変だったろう。その労力がどれくらい大変か、運営はアホかもしれないが、俺は感動したぜ。
人生をガチャシステムに賭けることにした自分のことは顧みることなく、幼女はワクワクとガチャをやろうとする。ガチャは大好きだ。昔はコンプガチャで、コンプするまで数十万円を賭けたことのあるアキは喜んでガチャを押そうとして━━━迷う。
なにはどうあれ、ジョブガチャをしなくてはなるまい。だが、欲しい物が出てくるだろうか? 答えは否。物欲センサーは絶対にある。欲しいものがある時は必ず天井までガチャしないと出ないのだ。しかもこれ天井ないっぽい。ちなみに天井とはガチャの数量が決まっており、最後の方に必ず欲しいものが出現するシステムのことである。経験談だから間違いない。
しかし天井がこのシステムはない。かつてガチャには天井はなかった。その悪夢がアキを襲い、嫌な予感に身体を慄かせる。
「もったいない。もったいないけど……『スペシャル』を使う! ポチッ」
R以上確定ガチャ。だいたいアキがガチャをするとRが確定する引きの良さを見せるのだが、最低でもR以上でないとこの状況は解決出来まいと血の涙を流してガチャポイント5000を支払いボタンを押下した。
と、天から白い光が降り注ぎ、射幸心を煽るテンポの良い音楽がどこからか聞こえてくると、光が青色、黄色と変わっていく。
「きょわー! きてー、きちぇー!」
色がレア度を示すのだ。経験談から黄色で止まることを恐れる幼女は細い腕を振り上げて、舌足らずで奇声をあげて、クネクネと踊り狂う。幸い幼女なので第三者に見られても無邪気ねぇと微笑まれるだけだ。元はおっさんが中には入っているので悪霊憑きにあったと思われるかもしれない。
幼女の気合の入った声が届いたのか、赤色から金色に変わり、光はおさまっていく。
そして、目の前にトランプのような大きさのカードがくるくると回転しながら降りてきたのであった。カードには霧の中で踊る怪しげな道化師が描かれている。
『UR:ファントムマスター:幻術10』
『攻撃力:400』
『防御力:700』
『幻術をマスターした道化師。敵の攻撃を幻術で1回だけ無効にする』
「きったぁ〜! ウルトラレア! あたちはできる子だった! フレーバーテキストの内容はよくわからないけど!」
歓喜の表情でガッツポーズをとり、さらに踊ろうとするが、踊っている場合ではないと気を落ち着ける。なぜかこの身体だと踊りたくなっちゃうんだよね。
すぐにジョブスロットに装備させると、頭の中にスルリと『ファントムマスター』の知識が入ってくる。どうやら敵を幻術で翻弄する支援タイプのジョブらしい。近接戦闘は苦手だが、今は問題はない。
幻術で使える魔法は頭に入っている。そこはゲームの仕様と同じだったようで安心する。思い浮かぶと使い方も自然と頭に入っていたので、すぐに発動させる。
このゲームはスキルレベルの最高が10とされている。スキルレベル10の幻術系統最高魔法だ。URで、最高魔法が使えることから、LR以上だとどうなるんだろうと疑問がよぎるが今は置いておく。
『夢は現実に』
一言呟いて、体内の魔力をまるで最初から使い方を覚えていたように、呼吸をするように自然に操作して魔法を発動させる。
1日に3回だけ使える永続魔法。幻術を本物に変える魔法だ。キラキラと金粉が舞うように魔力がアキの周りで瞬くと、その姿が変わっていく。
可愛らしい幼女の姿から、小憎らしい子デブの少年へと。幼女の姿を変えるなんて世界に対する損失だと紳士諸君はデモを起こすかもしれないが、必要悪なのだ。
「ふむ………これで誤魔化せるな」
姿見を見て満足気に嗤うと、アキはメイドを中に入れようと鍵を解除する。
一発で『ファントムマスター』を引き、すぐに少年の姿を取り戻す。天才、俺って天才な上に強運だよねと、くふふと笑い━━━。
「あわわわ、幼女が御主人様に変身しました」
壁に空いてる穴から覗いているメイドの目が見えて、死んだ目となる。どうやら強運はガチャで使い切った模様。
なんで貴族の屋敷なのに、穴が空いてるわけ? ボロくない?
早くも厄介なことになったとアキは頭を抱えるのだった。




