18話 攫われるシーンはいつ見ても切ない
『ヒール!』
席に座りちびちびと酒を飲んで一人サボっていたシスター1号改め、シィ。事態を理解し、即応で手をかざして回復魔法を発動させる。護衛が首元を深く斬られて息絶える数秒。その数秒の間にヒールにより、護衛の首元は癒されて、ギリギリ命を繋ぎとめる。
「ゲホッ、た、助かった!」
倒れる寸前であった護衛は血の塊を吐いて、剣を抜き放つと黒ローブの男に斬りかかる。黒ローブの者は完全に殺したと確信しており、まさか反撃が来るなど思ってもおらず、回避することもなくまともに受けてしまい、胴体を剣で薙がれて反対に倒れる。さすがは騎士であり、その一撃は強力であったため、黒ローブが下に着込んでいた鎖帷子ごと斬り裂いていた。
「貴様ら何者だっ!」
護衛の一人が怒りを露わにして怒鳴るが黒ローブはもちろん答えることはなく、短剣を構えると突撃してくる。その歩法は滑らかで素早く、たった数歩で間合いを詰めてきた。その速さを見て護衛たちは息を呑む。敵の強さを理解したのだ。
「騎士級! ということは、マノミお嬢様を狙ってきおったな! この痴れ者たちが! ピスケス公爵令嬢を狙うことがどういう意味か理解しているのだろうな」
護衛の言葉にもまったく頓着せずに切りかかってくる敵に舌打ちする。マノミかそれとも人魚なのかを確認したかったのだ。ピスケス公爵令嬢と聞けば、敵の狙いが人魚の場合は怯むだろうと考えていたが無視してきた。それはマノミが狙いであることを指し示していた。
「くっ、全員命を賭けよ! マノミお嬢様を守るのだ!」
「はっ!」
護衛は3人。敵の数はざっと20人はいるだろう。しかも動きから見て、全員が信じられないことに騎士級であった。白昼堂々と襲撃に来ることから、かなりの組織力を持つ相手だと護衛たちは唇を噛みながら戦闘を開始するのだった。
「こ、これはいったい?」
マノミが突如として始まった襲撃に驚き、動揺する。
「こ、これはいったい!」
そして、アキは突如として始まった襲撃に興奮していた。
(思い出した! これ、マノミ誘拐事件だ! え~と、たしか儀式にマノミが必要だったんだよな。攫われて儀式に使われるがマノミはなんとか逃げるんだ。そして、マノミは攫った組織と相手を倒すことを誓うんだよね、とするとマノミはさらわれてもいっか)
ストーリー通りに進むんなら、別にマノミを助ける必要はないやと、お気楽非道な幼女である。でも、少しだけ良心は残ってもいた。
「皆、敵を殲滅しろ。誰も死なないようにするんだ」
護衛がどうなるかはストーリーでは語られてなかったけど、確実に殺されるのは目に見えている。さすがに死なせてしまうのは夢見が悪いのだ。
「おうっ! 援軍に来ましたぜ!」
シィからの共有意識により、タイチたちがテントに飛び込んでくる。それを見た黒ローブの者たちが半分ほどタイチたちに向かう。
二人の黒ローブが左右から短剣にてタイチに斬りかかる。騎士級である彼らの攻撃ならば、短剣であっても、一撃で平民の傭兵ごとき殺せる自信があった。それは油断でもあり、傲慢でもある。
対してタイチは機械のように冷静であった。元々彼らは召喚カードであり、その心には慢心や油断という言葉は存在しない。左右からの攻撃を仲間目線から共有し、冷静に迎え撃つ。
『ディフレクト』
ただ迎え撃つといっても、攻撃を受け止めるという選択肢をとった。肉体や武具の硬度を高めて、敵の攻撃を防ぐ武技『ディフレクト』だ。
左右からの短剣の一撃は毛皮に穴を開けるが、皮を1枚切っただけに終わる。硬い物に全力で短剣を振り下ろした黒ローブたちは、その反動で強烈な衝撃を受けて、腕が痺れて動きが止まる。
タイチは敵の動きが止まったことを他者目線で見ており、スッと腰を屈めた。そして、タイチの頭がさっきまであった場所を斧がオーラを纏い猛回転して飛んでいき、黒ローブ二人の首を切り落とすのであった。
『トマホーク』
回転しながら戻ってくる手斧を掴み、ウォーリア1号改めてセンイチがニヤリと笑う。タイミングがずれればタイチの首も刎ね飛ばしたはずの武技『トマホーク』。大木すら折ってしまう威力の一撃に騎士級であれど軽装の黒ローブたちに耐える術はなく、息が合ったというにはタイミングが良すぎる連携をタイチたちは見せつける。
「こいつらも騎士級だ! 見かけに油断するがはっ」
黒ローブたちはここにきて、ヒャッハーたちが恐るべき練度の騎士級たちだと理解した。しかしその警告を告げた男の喉に矢が刺さりもんどりうって倒れる。
『速射』
レイが矢を放ち、戦士たちが突撃する。倒れている椅子や死んだ黒ローブたちを滑らかなる動きでよけて走り抜け、残りの黒ローブたちに接敵する。他者目線での俯瞰視点が行える共有意識を持てるヒャッハーたちは小石だろうと椅子だろうと、障害物などに足を引っ掛けるような間抜けな真似はしない。
対して黒ローブたちは椅子などのせいで、その動きをわずかに鈍くして、ヒャッハーたちと切り合いを始める。
『ヒール』
「サンキュー、ジーニ」
神官であるとバレて黒ローブに殺されそうになっていたシィが治癒の魔法にて傷だらけの身体を癒やされる。シスター2号改めてジーニにウィンクをして、シィはメイスで動揺する黒ローブの頭を思い切り殴り飛ばす。
「まさか、神官が二人もいるというのか! まずい、神官を先に殺せ!」
一人でも神官がいることに驚いていた黒ローブたちは、まさか二人目がいるとは予想の域を超えていたため、遂に動揺し足並みが崩れる。それはそうだろう、神官が2名となれば同時に殺さなければヒールにて延々と回復されてジリ貧となるのだ。しかも新たなる援軍も騎士級ときている。
3人の黒ローブが這うように疾走してジーニへと向かう。すぐにレイがフォローに入り、弓を向ける。
「退けっ!」
「おっと、そうはいかねーんだ、これが」
横薙ぎに素早く振ってくる短剣を弓にて受け止めて、手首を返しくるりと受け流すレイ。その隙を狙いもう一人の黒ローブが跳躍して短剣を振り下ろす。一人が敵の意識をひいて、もう一人が殺すコンビネーションだ。
しかし、レイは足を強く踏み込み支点とすると、倒れるようにのけぞり矢を番えていた。目の前に迫る短剣をスウェーして、矢をゼロ距離で打ち放つ。
「!? こ、この距離で」
優れた弓兵でも、短剣が当たる距離で矢など放たない。だがその常識を打ち破ったレイにより、目に矢が突き刺さり、のけぞって倒れる黒ローブ。そのままレイは2本目を番えて、一人目に追撃し矢を突き立てるのだった。
一瞬で二人が倒されたことに動揺を隠せずに立ち止まる黒ローブ。冷笑を持ってレイは横にずれると、その後ろには神官ではなく、魔女たちが構えていた。
「敵射線よーし」
「良き良き」
二人の手のひらが放電し、魔法陣が二重に描かれる。
『ツインシンクロライトニング』
まったくの同時発動。双子でもここまで合った魔法は放てない。カードから生まれて共有意識を持つ二人だけが使用できるシンクロ魔法。それは通常のライトニングの数倍の威力をもって、空間を貫き、ヒャッハーたちがさりげなく射線に誘導していた黒ローブたちを雷にて焼き尽くすのであった。
あっという間に半分以下となった黒ローブを見て、護衛騎士たちはヒャッハーたちの手並みに驚愕と尊敬の念を送っていた。
(魔法使いもいるとは! 神官二人に魔法使い二人、そして信じられないレベルの練度の騎士たち。ここまで強い者たちは王国の近衛騎士でもそうそういまい。人魚の王女を守る精鋭であるか!)
人魚の王女とは怪しい限りであったが、手練れの騎士や神官、魔法使いたちが護衛にいることに本物であったかと確信すると共に、ヒールにて回復をしてもらい、黒ローブたちが減って圧力がなくなった護衛たちは意気をあげる。
「援軍感謝致す! 残りは半分以下、もはや敵に負ける道理無し! ここで一気に押し返すぞ!」
「おおっ! 我らピスケス家の騎士の力を見せるとき!」
「残りを制圧せよ! 黒幕が誰かを確認せねばならぬ!」
護衛騎士たちは黒ローブたちを倒していき、殺さずに捕虜にする余裕も出てくる。元々一対一ならば暗殺者風情に負けないのだ。
剣撃が響き、黒ローブたちが次々と倒れてゆく。反撃を受けても、シィたちがヒールで即座に癒やし、傷すらも残らない。勝利は目の前であった。
「や、やりました。ロデーちゃん、危ないところでしたね。でも、ロデーちゃんの護衛は素晴らしく強いです。やっぱり海の王国騎士なのでしょうか?」
「あ、あはは。それは秘密かな」
ドキドキしましたと、頬を紅潮させて、ぎゅっと拳を握りしめるマノミに、アキはから笑いで答える。やりすぎたかも。これじゃ攫われるイベントがなしになっちゃう。
ストーリー的にもここでマノミが攫われないとまずいことになると焦るアキだが━━━。
「やれやれ、まさかここまで強い護衛がいるとは思っておりませんでした。油断大敵ということでしょう」
隣から人を小馬鹿にしたような甲高い男の声が聞こえてきて、アキとマノミは驚いて声のした方へと顔を向ける。
そこにはマノミのように青い髪を背中まで伸ばした青年が立っていた。他人を下の者と見ることに慣れているような高慢な目つきの冷たさを感じる男だ。黒ローブの者たちとは違った明らかに強力な魔法のかかった豪奢な意匠のローブを着込んでいる。
「! 何者だっ、お嬢様から離れろっ!」
新たに1名の黒ローブを斬り殺した護衛騎士が剣を構えてこっちに向かってくる。が、それを冷笑にて答えると、青年は人差し指をついっと向ける。
「力の差がわからぬものは早死にしますよ」
人差し指に、青い魔力が収束されていく。
「まずっ! 『プロテクション』」
「ちょっと、待った! 『ツインシンクロフレイムウォール』」
シスターとウィッチが防御魔法を唱えるのと同時であった。
『氷竜の吐息』
人差し指から莫大な量の吹雪が生み出されて、世界を冷気で覆う。プロテクションによって作られた魔法障壁もフレイムウォールによる猛火の壁も吹き荒れる極寒の嵐にのみ込まれて消えていく。
氷の山が床には生まれ、屋根は氷柱が作られる。全てが凍りついたと思わしき光景を見て、青年はピクリと眉を動かして目を細める。
「ほう、驚いた。中位魔法如きで私の魔法を防ぐとはね。褒めてやろう、優れし魔法の使い手たちよ」
「ぬぐぐ、こ、こいつ、仲間ごと殺そうとするとは……許さぬ!」
氷に浸かった者たちは絶命していなかった。重なり合う防御魔法によりギリギリ命をとどめており、なんとか氷から逃れようと、護衛騎士たちやヒャッハーたちはもがいていた。しかし体を覆う氷を砕こうとしても、ヒビが入るが壊れることはない。
「ここでトドメを刺しても良いが……どうも殺すのに時間がかかりそうだ。なのでここは目的通りにして、立ち去ろうと思う。幸運だったな、君たち」
『冷気麻痺』
「きゃー、離しなさい、私はピスケス家の者です! 離しなさい! く、か、身体が………」
青年はマノミに麻痺の魔法をかけると、小脇に担ぐ。
「では、立ち去ろう。さらばだ諸君」
「いやぁ~、助けて〜」
そう言うと、『瞬間移動』を発動し、青年はマノミと共に消え去るのであった。
悲しきマノミの悲鳴がテントに響き、マノミ誘拐事件は終わるのであった。アキの望み通り死人は出なかったので一安心である。
━━━ひとつ誤算があって━━━
「ふふふ、まさか人魚も手に入れることができるとは思ってもおりませんでした」
青年が楽しげに笑う通りに
「ピチピチ、ピチピチ」
なぜかアキも攫われていた。




