130話 カードでの小隊とかって弱いよね
「おまけせあて」
お任せあれと言いたかったが、まさかの五千円のガチャでブランデーケーキを出した動揺を隠せない幼女である。
幼女では食べられないアルコールを揮発させていないタイプなので、テーブルに放置する。ブランデーは幼女禁止なんだ。
置かれたブランデーケーキにシィが近づくと、クンクンと匂いを嗅いで、一切れ切り取り口に運ぶ。酒となるとケーキでも良いらしく、ホクホク顔だ。
「芳醇な香り。良いブランデーを使ってますねぇ。揮発させていないから、アルコールが味に深みを与えていると思いま」
いち早く酒のケーキだと、あ~んと口を開けて食べようとするシィの手からブランデーケーキが消えて、ガチンと歯が強く鳴り、アババと唇を震わせて悶える。
「これはケーキ。酒ではない。ボケたかシィ」
奪ったケーキはウイの手にあり、モキュモキュと美味しそうに頬を緩めて食べ始める。こっちの魔女はお菓子という点でブレないな。
「これは揮発させていないから、お酒です。ブランデーが少し変わった形となっただけですよ? あんぐ」
今度はホールごとぱくりとカバのように咥えるシスターだ。その姿は他人には見せられないほど酷い。この子が聖女とか、この姿を見れば思わないと思うんだけど。
「ホールに食いつくなんて優しさがない。ちゃんと切り分ける」
『真風刃』
「ヒョッ! 危なっ!」
無感情のような表情で、軽く指を振ると、シィの鼻面の前でスッパリとケーキは切られ、さすがにシィも青褪めて悲鳴を上げると後ずさる。恐るべし魔女。全然顔には出てないけど怒ってるな、これ。
「む、うまくかわされた。顔を削ぐつもりだったのに」
「テザートの中にはお酒を入れるものが多いので、全てお酒類に入れたら良いと思います」
「隠し味程度が酒の限界。デザートのツマ扱いで良い」
二人はそれぞれメイスと杖を持ち、ゴゴゴと睨み合い、一触即発の空気が
「とやぁー! 酒ばんざーい!」
「デザート至高!」
二人は殴り合いを始めて、ドッタンバッタンと部屋の中で争うのであった。デザート派閥とお酒派閥か。難しいところだな。
「くらえぇい、マモストレート!」
「わかりやすい軌道、マモホームラン!」
遂には寝ているマモを拾い上げて、野球を始める二人だ。
「まきゅー! マモはボールじゃないまきゅ、動物愛護団体のみなさーん、ここにマーモットを虐待する人間がいるまきゅ!」
マモも自分の身を守るため、杖をかわし、拾い上げようとする手から逃れてカオスの空気となるのであった。
「あ~……本当に彼女が王子の婚約者にならなくて良かったよ……」
死んだ目で二人の争いを眺めるおとーさま。うん、俺もそう思うよ。シィが王妃とか革命待ったナシだ。酷い聖女もいたもんだ。本来はスピカが聖女だから……彼女もゲームとは違いかなり酷い。ヤンデレの可能性あり。
とはいえ、アホな争いをしている二人を見て落ち着いてきた。パニックに陥る人を見ると落ち着くパターンである。
「おとーさま……あたちは先祖の力の一つ。無限の召喚術を行いましゅ。見ていてください!」
ゆっくりと告げると、アキは白鳥が翼を広げるように両手を広げると、白鳥のポーズをとる。心は白鳥、白き心に宿るは世界平和を祈る優しい心。
ぴょんぴょんと飛び跳ねて、手をパタパタと振る幼女に、また奇行を始めたなとナツは生温かい目となっていた。
「お遊びはなし。今回は五千円ぶっ込みましゅ」
皆の幸せを人差し指に乗せて、ゆっくりとガチャボタンを押す。おぉ、神の加護がはっきりと見える。ゼブラだ。ゼブラの柱が降りてきた!
『LR:ネクタール:使い切り』
??? 小瓶に入ったポーションぽい絵が描かれたカードが出てきた。
「ネクタールって、なぁに?」
なんだろう。桃味のジュースってこと?
アキはネクタールを知らなかった。説明書きもないので、たぶん一般的に知られてる能力があるんだと思うけど……。コテリと小首を傾げて、疑問顔の幼女となる。
「タイチ知ってる?」
「あぁ、これは有名な神の……桃のジュースですぜ。飲むと不老不死になったり、神の位階に上がるとか聞きます」
なぜかシィの方を見てから説明してくれたけど、なるほどね。レジェンド級のポーションなのか。
「万能薬の上位版かぁ。ふ~ん……しまっとこ」
とりあえずカードホルスターにしまっておく。どこかで使うこともあるだろう。でも、不老不死とか神の位階に上がるとか、かなり怖いから正確に性能がわかるまでは封印かな。
「ではおとーさま、もう一回やりますね」
最初からレジェンドレアとはついている。最初だよ。1回目なんかなかったんだ。ポチッ。
『SR:仙桃:使い切り』
「……なにこれ?」
また食べ物? マジで?
『あ~ちゃん、もものかわむけるよ! ひとりでむけるからみせたげる! ほら、むけた! あぐあぐ、あま~い! おいちいよ!』
そして性能を調べる前に、桃が大好きな幼女に食べられました。桃にハグハグとかぶりついて、幸せそうに食べていた。ガオガオイベントって、桃繋がり?
ちょっとだけ手が震えてしまう。なぜならば今回は全てスペシャルガチャにて勝負をしようと賭けているからだ。
ハァハァと息が荒くなり、白鳥幼女はパタパタと羽ばたきながらソフトの上によじよじと登る。ソファに登った意味は特にない。爆死したらどうしようとの恐怖があるだけだ。
「ちょわー! 我に力を与え給え! ピヨピヨピヨピヨ」
さらに5000点をドンと賭けて、鳴きながらお祈り幼女だ。
『GR:仲間スロット:使い切り』
「うぐぐぐ、嬉しい。嬉しいけど、ぐぐぐ」
ゴッドレア出現! その喜びに飛び跳ねても良いけど、スロットが増えるから喜ぶべきなんだけど……うぬぬ。
『GR:エクストラスロット:使い切り』
「きょわー! 神がかってる排出キタコレ! の、残り一万円……」
ソファから飛び立ち、もちろん飛べないので、絨毯の上にコロコロと転がり、やはり微妙な気分になってしまう。いや、後々のことを考えると凄いアイテムなんだけどさ。でも、なんとなく釈然としないんだよ!
「ちくしょ~! やってやる。いくら点数が少なくったって! もはや背水の陣、負けることはない! あとー!」
ソファに登ったと思えば、奇声を発して飛び降りて転がったりと忙しい幼女に、さすがに不安な顔をするおとーさまだが、そんなことを気にする余裕はない!
『R:弱者の戦旗:エクストラ:レベル1以下の仲間の戦士レベルを1上げる。最大効果数:百万人』
「むむ!?」
レアだ。残念ながらレアである。だがレアでも随分と面白いレアだ。このアイテム、レア度は低いが使い道は大きい。
「おとーさま! この召喚アイテムを見てくだちゃい!」
すぐにカードを実体化すると、幼女の笑顔が描かれた戦旗がパッと現れる。重たいかと思いきや、幼女でも持てるほどに軽い。そして召喚といえばなんでも通ると思っている幼女だ。
「うん? これは戦旗か。可愛い戦旗だけど、これはどんな効果があるんだい?」
「このアイテムの効果は、なんと農民を兵士に変える神器でしゅ! この戦旗の下でなら、剣を握ったことのない農民でも、新米兵士レベルにはなるんでしゅよ!」
興味津々のおとーさまへと、得意満面に教えてあげる。この効果はドラゴン戦など強敵相手では役には立たないが、戦争では夢のような力を発揮する。なにせ、農民を百万人の兵士に変えることができるのだ。さすがはアキ・アスクレピオス。ガチャ神に愛されている。
「これで戦争は勝ったも同然でしゅね。後は領地に戻り、農民たちを動員すれば━━」
得意満面におとーさまへと説明するのだが
「駄目だ」
きっぱりと断られた。深刻な顔で少し怖い。
「んと、なんででしゅか? これさえあれば兵士の不足なんか絶対にないよ?」
「その効果が本当なら、きっと国王陛下に取り上げられるだろう。そして、農民たちを徴兵し、いたずらに兵士を増やすに違いない。今までの戦争は数よりも質だったけど、それを補うほどに多くの兵士を動員できるなら、必ず使うよ。そして、農民たちの多くは死に、塗炭の苦しみを味わうことになる。領主としてそんなことは看過できない」
そうして優しくアキの頭を撫でながら、おとーさまはなぜ駄目なのか説明してくれた。……そうか、たしかにこの戦旗があれば世界征服もできてしまうかもしれない危険なアイテムだ。
「うん、わかった……」
「わかってくれて良かった。アキを無慈悲な暴君に育てたくはないんだ。正しい心を持つ大人になって欲しいんだよ」
優しいおとーさまのことが誇らしい。これが野心に満ちた貴族なら喜んで使うに違いない。そのとおりだ。今でも心優しい正義の幼女だけど、気を付けておかなくちゃね。
「おとーさま……」
「うん、なんだい?」
優しい瞳でアキを見てくるおとーさまへと、ニパッと笑顔で返す。
「なら、人以外に使えばいいんだよね!」
「うん、うん?」
優しい笑みのおとーさまの顔がハテナとなり、首を傾げるけど、安心してほしい。幼女は選択肢を間違えないよ!
「ウイ、お遊びはここまでだ! 手伝ってほしいことがあるから喧嘩を止めて!」
この廃課金者のアキ・アスクレピオスはたとえレアでも使い道を考えるのだ。そして、この戦旗の使い方もすぐに理解した。
「安心してくだしゃい、おとーさま! 農民たちを苦しめずにこの戦旗を使う方法を思いつきまちたから! これなら世界征服も楽勝です!」
「えぇと、世界征服? うん、少し待とうか、アキ」
「時は金なり。昔の人は良いことをいいまちた。まーかせて! このアキ・アスクレピオスなら、世界征服できる!」
平坦なる胸をそらして、わははと笑い準備を始める幼女である。
おとーさまは教育が間違っていたかもと呟くが、成果は見て御覧じろ。
きっと驚くと思うよ。