126話 目的と違ったストーリーは追いかけない
「くっ、なんであたちまで動けなくなったんだ!? なんでかわかる、あ~ちゃん?」
グーパーと手を動かして、問題がないことを確認する。動けなかったのが不思議なくらいに今は動きに支障はない。
『むー、なんかね。あ~ちゃんがしゅーくりーむたべてたら、あきちゃんねむっちゃった。だからおこしたんだよ。んと、しゅーくりーむたべう?』
あと一口分だけのしゅーくりーむを手のひらにのせて、とっても良い子なあ~ちゃんはコテリと小首を傾げる。残り一口はあ~ちゃんが食べていいよ。
ハグハグと美味しそうにしゅーくりーむを食べるあ~ちゃんに癒されながらも、難しそうな顔になってしまう。
「停止コマンドか……人を勝手に停止させないでほしいぜ。やだやだ、面倒くさそうな敵だな。どうするか……」
厄介そうな敵に出会ってうんざりしちゃうぜ。なんで停止させることができたのかとか、どう対処するか考えないといけないけど……今はいっか。
「去った敵よりも、今は確認しないといけないことがあるからな。あ~あ~、こちらアキ。タイチたち聞こえる?」
『ん? お嬢ですかい。どうしました?』
『む、そっちは大丈夫だった?』
気になるのはこっちではない。琥珀の城に向かったタイチたちの様子も気になる。
『あ~、どうも停止させられていたようです。戦闘中に俺らは行動不可能となってました』
『ちっ、やっぱりか。でも問題はなかった?』
ヒャッハー山賊団のカードが封印されていたということは、タイチたちにも影響すると思ってたんだ。
『えっとですね……今、問題なくなりました』
『たいへんたいへん、ひとくちちょこがみっつもふってきたよ!』
アキの疑問はあ~ちゃんが見せてくる一口チョコの存在で解決した。
『クエスト:ペガサス座を回収した。経験値5000取得』
『クエスト:ユニコーン座を回収した。経験値5000取得』
『クエスト:ケンタウロス座を回収した。経験値5000取得』
ぞろぞろと表記されるログ。その表記される意味は一つだ。
『もしかして終末の3騎士たちと戦って勝った?』
この三つの星座持ちには覚えがある。全員それぞれの星座に合わせた幻獣に乗って戦う中ボスたちだ。ちなみにケンタウロスは変身していた。
『へい。第二段階に変身して来たんで、かなり苦戦しましたが、マノミお嬢さんとスピカお嬢さんが第一段階に覚醒しやして。その助けもあって、なんとか倒したところですぜ。フードを被った奴がもう一人いたんですが……二人が第一段階に覚醒したら、早々に逃げてしまいました』
ジェットホースアタックをしてきて大変でしたと説明するタイチだが、どうせユニコーンを踏み台にして倒したとかそんなんだろと、それはどうでもよく、気になる点は一つだけだ。
『スピカたちが覚醒したのか? え? こんな序盤で?』
『へい。琥珀の城の謁見の間で敵は待ち受けてたんですが、あっしらがピンチの時に、琥珀の玉座に触れると、こう、パアッと光ってパワーアップしました』
『むむ、琥珀の城にそんなギミックがあったのか? それをできるのは星座の神殿だけだと思っていたのに、隠しギミックがあったのか』
星座の力を覚醒させる方法は2つ。愛とか信頼とかよく分からない感情、即ち好感度がマックスになってイベントが起こり覚醒する。それとゲームでは、選択肢を間違えまくって、誰も覚醒できなかった時の救済措置として、星座の神殿というダンジョンで覚醒できるのだ。
(琥珀の城はゲームでは雑魚ボスがいるだけのダンジョンだった。でも、凝った作りの建物だったから他に隠し要素があるんではと言われていた。本当は星座の神殿と同じ機能があったのか……)
取り敢えず皆へと合流するべく、コブターンの姿に変化しながら歩く。なにかおかしい。思い出すと変なところが多々ある。
琥珀の城はプレイヤーの中でもやり込み勢が探してなにも見つけることができなかった場所だ。なのに、スピカたちが見つけた? ストーリーが大幅に変わっている影響としてもおかしい。
(このパターンは誰かに教えてもらえないと分からないパターンだ。スピカたちが誰かに教えてもらったのかも……)
仲間のところに戻ると、ほとんどの敵は倒されて、何人かの騎士が倒れたレグルスの元に集まっていた。レグルス自体は身じろぎしているので蘇生は成功したらしい。
マモはというと……。
「マモが帝王むにゃー」
草むらに潜り込んで、他のマーモットと並んでスヤスヤと気持ちよさそうに寝ていた。草の中に顔を突っ込んで寝ている姿は可愛らしい。どうやら、疑似喧嘩をして疲れたので寝ちゃったらしい。
取り敢えずロープでマモはぐるぐる巻きのミノムシマモに変えておき、集めた薬草を入れているずだ袋に放り込み、後でお仕置き決定。
未だに幻霧は継続させているが……敵もほとんど倒したし、ボスは撤退した。由美に敗北イベントだったのだ。アキが負けたわけじゃないもん。
パチリと指を鳴らすと、視界を阻んでいた霧が消えたのだろう。残りの騎士たちはキョロキョロと周りを見て、すぐに生き残りの敵に集中すると、数の暴力であっさりと制圧するのであった。
「うひょー、剣術と体術がレベル3になった! うまー、このイベントはうまうまー」
ヤタノは空を見上げて、なにやら踊りを踊っているので、知らない人のふりをして離れておく。それよりもレグルス王子の容態が心配だ。
「レグルス王子! おぉ、なんということだ。まさか敵にやられたのですか? シィ、王子の鎧を脱がせて楽な体勢にするのだ。マントとか剣や盾もだぞ。武具よりも王子の命が大切だからな!」
大事な王族なので守らなくてはならない。貴族としての義務だと、せっせと武具を外して楽にしてあげる優しい悪役令息ルックスYです。放り投げたから無くしても仕方ないよね?
「うぅ……ここはいったい……僕はどうしたんだ?」
「おぉ! 目が覚めましたか、王子! このアキ・アスクレピオスの部下がお助けしたのです。気分はどうですか? 陛下にはアキ・アスクレピオスが助けたとお伝えくだされば、私は感激で涙を流すでしょう!」
大袈裟なリアクションにて、王子をユサユサと揺らす優しい悪役令息。だが、なぜか騎士が乱暴に引き剥がして放り出されちゃうのだった。
「レグルス王子。体調は大丈夫でしょうか? いったい何があったのですか?」
「体調は……大丈夫だ。特に異常はない。奴は……敵の首領は倒したのか?」
隊長の問いかけに問題はないと答えるレグルス。でも、獅子座の力はなくなっているはず……あ~ちゃんが食べちゃったし。まぁ、星座の力は使わないと分からないか。返せと言われても返せないし黙っとこ。
「敵の首領とおっしゃいますと、あの変わった服を着た男ですか。奴の姿は見えません。恐らくは逃走したのでしょう」
「? 男? 少女だったのではないか?」
「いえ、中年の男性でしたが……?」
レグルスは隊長の言葉に困惑するが、隊長は嘘をついているようには見えない。どうしたことだろうと、周りを見るが他の者たちも同様に中年のおっさんでしたと答える。
とすると、答えはひとつ。おっさんが少女の身体に転生したのだ! 小説でよく見るパターンである。
「認識阻害の魔法でも使われたのか? あの姿は偽物? どちらが偽物なのか分からないな……」
違った。レグルスはまともな答えを出してきた。が、誰かの起こした霧により、間近で見たものはレグルスのみ。困惑していたが、頭を振ると真剣な顔になる。
「敵の正体を考えるのは後とします。それよりも敵は我らを待ち構えていましたし、武力もあると判明しました。獣森は父上に依頼して王国騎士団を派遣させることとしましょう。もはや学生のテストの範囲を超えていますからね」
「かしこまりました。すぐに王都に報告に向かわせましょう」
由美の力を見て、なおかつ、獣森に待つガニュメデスの力を考慮したのだろう。ゲームでも騎士団が襲撃したら敵は退却したので、プレイヤーのバトルはスキップして、騎士団をいきなり呼び出すことにレグルスはした。
その選択肢が正しいのかはともかくとして、クリア報酬がもらえないのは少し痛いんだけど。プレイヤーとしての矜持はどこに行っちゃったの? 幼女はプンスコ怒ってます。
でも、俺も停止コマンドとやらで停止させられたからな……。思わせぶりな言葉を吐く敵だったけど、あれを次もやられるとまずい。なにか対抗策を考えないと。
仕方ない。今回はガニュメデスとのバトルは後回しにしよう。幼女は諦めも良いのだ。それに色々と経験値やアイテムも手に入ったしね。
「あと、僕の服や武具はどこだい? なぜパンイチなのかな?」
そこは気づかないで良いじゃん。ゲームでも高価な武器を買うために、装備を全部売って、パンイチで行動してても誰も気にしなかったのに。
ちょっと欲張り過ぎたのかもしれない。レグルスはしっかりと装備を全て集めてしまうのだった。
そうして、アキたちは王都へと戻ることになり、マノミたちとも無事に合流できた。レグルスは王様に注進し、レグルスの兄が将軍を含めて騎士団とともに獣森に意気揚々と出陣。枯死の魔法陣といまいち微妙な効果だった塩雨のオーブを破壊し、その名を轟かせるのだった。
俺たちはもちろんテストは合格だったと付け加えておこう。
━━そうして、前学期は終了したのである。後は自由行動ができるワクワクの夏休みだ。
めでたし、めでたし。
◇
と思ったら、戦争が始まった。ストーリーどおりに、貴族派が反乱を起こしたのである。
たぶん獣森で王国騎士団の半分と将軍が殺されたためだろう。
獅子座の加護を失いし王族はもはや王にあらずとか、反乱軍は言っているらしいけど、幼女は知らないよ? しゅーくりーむを食べただけだもん。