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悪役令息だけどキャラメイクでルックスYを選んでしまいました  作者: バッド
一章 悪役令息になりました

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10話 金策を考える

「きんかじゅういちまんまい?」


 掃除したばかりの執務室。資料棚にはなにもなく、執務机もガタがきてカクカクと揺れて、椅子はギシギシと軋みをあげる中で、小太りの少年が手渡された紙を見て、信じられない内容にプルプルと震えていた。


 誰あろうアキである。魔法による幻術で本来の悪役令息であったコブターンに変装していた。いや、コブターンという名前ではないのだが、わかりやすくコブターンモードと命名することにしたのだ。


「はい、アキ様……残念ながら、その金額で間違いありませぬ。4家の男爵家と一家の子爵家に借りておりまする。本来は返済できる予定でしたが、契約書に問題がありまして、子爵たちに嵌められたようです。その結果、今の状況となりました。だいたい20年前の話でございます」


 小心者そうな老齢の代官は、いきなり呼び出されて借金の総額を教えよと言われて、汗をかきつつ説明をしていた。


 アキ様は家庭教師もなく、自由と言えば聞こえは良いが、貴族としては失格の烙印を押される暮らしをしてきていた。今まではなぜ高位貴族なのに、こんな悲惨な暮らしなんだと愚痴を呟き、時折暴力を振るう、まぁ、子供の上にろくに鍛えていないので痛くもなかったが、そんな乱暴な少年だった。


 それが急に借金の話を聞きたいとはどういうことだろうと、代官は訝しげに思うが、たぶんトンビがキツツキを産んだと呼ばれるそこそこ頭の良いケイが教えたのだろうと推測する。


「両親がいくら働いても無理じゃん! これ、絶対に無理じゃん!」


「は、はい、そのとおりでございます…………アキ様のご両親はそれはもう立派な方々で、なんとかこの地だけでも守らならければと、懸命に働いております」


 これは本当の話だ。だが侯爵家が下級官吏というのが、まずあり得ない。王都では蔑まれながら働いていると聞く。来年になれば、アキ様は高位貴族の王法に従い、アカデミーに入学しなくてはならない。その学費を爪に火をともす暮らしで貯めていると聞いている。だからこそ、節約するために休暇を取っても街へと戻ってこないのだ。


 アキ様はアカデミーに行っても、バカにされ続けて、決して楽しい思い出は作れないだろう。そのことを思うと、哀れで少しくらい乱暴でも看過していた。


「あ、アキ様。どうやら街の壁と、村の壁の修理費が必要らしいです。ほら、ここに書いてあります」


 ケイが代官の書いていた資料を見て、わざわざアキ様に教える。


(馬鹿者がっ! 絶対に金の工面などできないから、無給でも働いてくれる者たちに声をかけて、自前で直そうと思っていたのだ。一応形だけでも当主様に伝えなくてはならないから、記載しておいただけなのにアキ様に教えるなっ!)


 金が無いので、騎士たちと共に手製で修理をするのがいつもの流れであった。なので年々壁はボロくなっており、魔物の襲撃を防げるか不安が増していったが、無い袖は振れない。手紙の返信でも、当主様の高位貴族にあるまじき、申し訳なさそうに謝るお言葉に涙しているのだ。


 それを少し読み書きができて頭が回るからと、得意げにアキ様に伝えるケイに怒りを覚える。きっと金などないことに、アキ様も惨めな思いを━━━。


「お前、よくもまぁ見つけるね。嫌がらせかよ……とはいえ、外壁の修理は急務だな。金貨88枚……百枚持って行くがいい」


 アキは足元にある木箱を蹴っ飛ばすと、なんでもないかのように金貨を取り出す。


「は、え? が、そのお金はどこから!?」


 箱の中身は金貨であり、ぎっしりと詰まっていたのが代官は見えた。その大量の黄金の輝きは一度も見たことがない。


「これはだな、合法的に手に入れたものだ。気にするな。それよりもさっさと仕事に就け。壁を直す手配をしないといけないだろ」


 不満そうに唇を尖らせるアキを見て、代官はなにが起こったのかと、金貨の詰まった木箱とアキを交互に見比べる。こんな大金がこの屋敷にあるはずないのだ。ならば非合法かといえば、小さな街だから、人が行方不明になったり、怪しげな薬が出回ればすぐに分かる。というかその程度で稼げる金額では決してない。


「早く仕事にいけ! きっちりと壁を直すんだぞ、手抜きしたら財産ボッシュートだからな!」


「ハハッ! かしこまりました、すぐに手配いたします。これで街もしばらくは大丈夫でしょう。無給で働いてくれていた者たちも報われます」


 隠してあった遺産でも見つけたのだろうかと首を傾げながらも代官は退出して思うのだった。その懐に仕舞われた金貨の重さに頼もしさを感じながら。


          ◇


「きょわー、ジュージューまんまい! どーやって返せばいいの! あたちわかんないよ!」


 幻術を解いて、アキは床に寝そべると、むきゃーと叫ぶとコロコロ転がる。これは無理だ。返す方法がわからない。幼女にバトンタッチするよと、手足をパタパタ、床をコロコロ、幼女モードのアキである。


 大金すぎるのだ。ゲームだって集めた最大金額は三万枚くらい。大幅にキャパを超えている。


「た。たしかに私も驚きました。アスクレピオス領は思ったよりも悲惨だったんですね。お金がなくて長閑な田舎とばかり思ってました。いつかお金を貯めて王都に行きたいなぁと夢みる少女でした」


 ケイも予想外だったらしい。最後は現実逃避して、手を組んで夢みる少女のふりをする。


「ケイの願望はともかくとして、金を返さないとしても、さっきのように壁の補修とかがあるから借金は膨らむだけだよ。詰んでるな」


 ひとしきり騒いで落ち着いたアキは椅子に座り直して、肘をついて顎を乗せて悩んでしまう。まともな稼ぎ方じゃ無理だ。山賊程度では何百年かかるかわからない。なにか一発逆転の方法が必要だ。


 各地の伝説の武具をかき集めて、金持ちに売る。………数万枚は稼げそうだが、その代わりに主人公は詰むかもしれないからボツ。


 投資で儲ける。この世界での投資は知り合い同士の持ち合いだから、実質参戦不可能。


 病気をばら撒いて、治療薬を売る。少し心の琴線に触れるけど、病気なんか簡単に癒せる魔法があるから却下。


 段々と『悪逆非道』に相応しい危険な考えに向かっていくが、悪事で大金を稼ぐ方法が思いつかないから諦める。


 ゲーム仕様外の方法が必要だ。そして、アキはその方法を持っているんだよ。即ちガチャだ!


「ケイ。なんか美味しいお魚買ってきて」


 ピンと金貨を弾いて渡すと、ケイはパシッと受け取る。金貨を受け取っても、代官と違い挙動不審にならない肝っ玉の太い少女である。


「は~い。それじゃ網元になにがあるか聞いてきます。そういえばヒャッハー傭兵団の皆さんはどこに行ったんですか?」


「明日まで休暇をあげたから、戻ってこないよ」


「え~っ、私も一緒に遊びたかったです。今度の休暇は私も誘ってと伝えておいてくださいね〜」


 さっさといけと睨むと、ぺろりと舌を出してケイは出掛けるのであった。その様子を見ながら、手を宙に添える。


「ヒャッハー山賊団はケイでは会えない場所にいるんだよ」


 目を細めて眠たそうなおめめにしながら、アキはステータスボードを見る。そこに表示されている『仲間スロット』は空白で『残り21時間13分』と表示されていた。


 カードのクールタイムを調べようとして外したら、24時間のクールタイムが必要と表示されたのだ。なので、今は仲間はいない。外した途端にヒャッハー山賊団は消えたのである。その後にカードをセットしようとしてもできなかったのだ。


「これ、カードの入れ替えすることを考慮されているな。本来はカードを外すだけじゃなくて、代わりのカードをセットしないといけないんだろう。まぁ、戦闘中ではなかったから確認できて良しとしよう」


 運営はここらへん適当だよなぁと苦笑しながらも、緊張で額から一筋の汗を垂らす。金策カードなんてあるのだろうか。カード自体が現実に投資対象になっているゲームは見たことあるけど、金策カードなんて聞いたことない。


 というか、情報が少なすぎだ。だからこそワクワクと期待で胸が躍るんだけどな。


「よーし、よーし。ノーマルガチャでゴー!」


 今のアキには大量のガチャポイントがある。なので思うことは、10回以内に1枚でもレア以上が出れば黒字となるということだ!


 地球ではその論理で無料ガチャをしてもゴミしかでてこなかったのだが、その記憶は貸金庫にしまっておく。


 可愛らしい人差し指を突き出してポチリとガチャを押す。チャララーと音楽が鳴り、光の柱の演出が開始された。


『N:米(使い切り)』


「最初はこんなもん!」


『N:醤油(使い切り)』


「戦いは始まったばかり!」


『C:鑑定眼鏡:装備』


「流れは来たーっ!」


『N:小石(使い切り)』


「きょわー! ポチポチ神拳、あたたたた!」


『N:布(使い切り)』、『N:木の枝(使い切り)』、『C:普通の錬金釜:エクストラ:錬金術2』、『N:ポータルテレポートのスクロール(使い切り)』、『N:ポータルテレポートのスクロール(使い切り)』


「ご、ゴミしか出ない………ノーマル渋すぎでしょ。ポータルテレポートだけは使えそうだけど………もー、最後の1回!」


 あまりにもひどすぎるガチャの結果。涙目になりながら、唇をプルプル震わせて、最後の1回を使用する。ガチャポイントは一万点までと決めているのだ。これ以上1日で使うと爆死したときに落ちこむ自信がある。


「無心、むしんだー! 無心の境地から勝利は訪れる!」


 無心と叫ぶ時点で無心ではない。だが無心の時には物欲センサーは働かずに良いカードが出ると経験談から知っているアキは、半目にて顔をぼーっとさせて、ふらふらと幽鬼のように、ガチャなんてまったく興味はないんだよと演技をして、ポチリとガチャを押下した。


 負け続けるギャンブラーのセリフを口にして、アキは必死に祈りをすると━━━光の柱の色が変わり、幼い顔を照らしていく。その色は白から次々と変わっていき、変わるごとに幼女の顔も暗闇の中に射し込む光に照らされたように喜びの笑顔へと変わっていく。


 ━━━そして、アキは━━━


「ピチピチピチピチ」


 人魚となった。

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― 新着の感想 ―
ケイがちょっと嫌なウザさしてるなぁ おバカなウザさじゃなくて鬱陶しくて計算があるタイプのウザさ
代官さんとそのお仲間さん、好感度爆上がり(≧▽≦)
いやいや、結構ヤバそうなの混じってるやんw
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