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その花は美しく、今日も空に舞う  作者: キクチケバブ
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カンジテ


小さな手、小さな身体。

先の尖った小石を拾い、道端に線を描く。

コンクリートは薄く削れ、白く跡が残る。


【第二話】


少しづつ線が重なり面になる。

毎日毎日、線を描いては日が暮れる。


日が暮れれば家に帰る。


次の日もまた次の日も、僕はひとりぼっちだった。

寂しいとか悲しいとかそんな気持ちになったことはない。


―今日もそんな1日になると思っていた。


「君何してるの?」


聞き慣れない声

振り返ると小さな女の子が腰に手を当てて、こちらを見下ろす。


「それって、楽しいの?」


目の前にいるはずなのに。顔がボヤける。


「だれ?」


「誰でもいいじゃん」

僕の質問は無視される。


変な奴...そう思った


「暇なら付き合ってよ」

急に女の子に腕を引っ張られ、立ち上がる。


女の子は走り出す、僕も嫌々走り出す。


「腕痛いって」


強引に腕を引っ張られるたから反射的に声が出てしまう。そして女の子の腕を振り払う。


「男の子でしょ、いいから早く着いてきて!」

その子はこちらを全く気にしていない。


仕方なく着いていく。


身体に似合わず力が強く足も速い。

どんどんと距離が離される。


「はやくーこの丘の上だよー」


女の子は上を指さして待っている。


やっと追いついた。

と思ったら...


また、ひたすら坂道を登る。


「ねえ綺麗でしょ?」

女の子は急に立ち止まる。


目に前には街の景色が広がっている。


「この丘、この辺りでいちばん高いところにあるの!凄い綺麗じゃない?」


「うん...」

僕は静かに頷く。


建物や家があんなに小さく見える。

街を囲む山も、流れる川も全てが小さく見える。

こんなに景色を意識して見るのは初めてだった。


「私、ここの景色が好きなの!自然が沢山あって、この街も大好き」


「うん...」


「君、反応つまんないなぁーもっと凄いの見せてあげる」

女の子はまた走りだす。


僕は必死に追いかける。


「着いたー!」

女の子が両手を広げて背伸びをする。


―白い花びらがゆっくりと舞う


目の前には見たこともない大きな木。


「この木、キセキの桜っていうだよ凄いでしょ」


「さくら?」

自然と声がでた。


こんなに大きな木を見るのも、さくらを見るのも初めてだった。


「凄いでしょー!」

女の子は自慢げにこちらを見ている


「君、名前は?」

僕の顔を覗き込んでくるが、また顔がボヤける。


「くらまいさいと」


「さいと?じゃあ、さいとって呼んでいい?」


「なんでもいい」

そっけなく返事をする。

名前を呼ばれるがなんとなく恥ずかしかった


「私は、みらん」

「よろしくね、さいと」


「みらん」


それから、「みらん」は毎日、俺の前に現れた。


「いつも、ひとりで楽しいの?」


「別に...」


みらんは僕に一方的に話しかけてきた。

でも、自然と嫌じゃなかった。

ただどう反応がすればいいのかその時の僕には分からなかった。


「さいと、漢字って知ってる?」


みらんは僕から石を取り上げると、コンクリートに線を描き始める。


線と線が重なり形になっていく。


「実」

「これで、み」


「蘭」

「これが、らん で」


「実蘭」

「みらんって呼ぶの」


「凄いでしょ」

自慢げに僕を見つめる。


「うん...」

実蘭は物知りだった。


年は変わらないのに、「かんじ」や「かけざん」

に「えいご」もできる。


「さいとの漢字は?」


「知らない...」

知らないけど、お母さんが靴に書いてくれたこれが

「漢字」だって実蘭が教えてくれた。


「才人」


時間が経ってから気が付いたことがある。


それは、僕が実蘭を好きだったこと

そして、実蘭もひとりぼっちだったこと


実蘭は人懐っこくて少しうるさくて、

いちいち僕に干渉してくる。


ただ実蘭は僕とずっと一緒にいてくれた。

いつしかそれが当たり前になっていた。


―季節が流れる

それから何度目かの春。

僕たちは少しだけ大人になった。


―キセキの桜の前にあるベンチ

ここが2人の特等席になっていた。


実蘭はベンチに寝転び空を見上げる。

「才人は結婚って知ってる?」


ボーッとしていると思ったら急に話しかけてきたので少しびっくりした。


「知らないけど大人がするんだってお母さんが、言ってた」お母さんに昔ケッコンしてたって聞いたことがある


「私も詳しく知らないんだけど結婚するなら、才人がいいなぁ」

実蘭が大きな欠伸をして眠そうに目を擦りながら呟く。


「うん...」

僕はよくわからなかったから小さく頷いた。

ただ、これからもずっと実蘭と一緒にいたいと思った。


実蘭と別れて家に帰る。


その夜、電話がかかってきた。

お母さんが電話を受けると悲しい顔で僕を見つめる。


僕の両肩に手を当てて、急に抱きしめられる。

お母さんは静かに泣いていた。


ーその夜

実蘭はこの世界から居なくなった。


第二話 完

































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