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その花は美しく、今日も空に舞う  作者: キクチケバブ
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アイタクナル


溜め息が漏れる。

綺麗とか美しいとか俺には分からなかった。


ただ、それは初めて綺麗だと思った。


第一話 キセキの桜


昼間とは打って変わり少し肌寒い。

右手にはコンビニのレジ袋、今日の夜食が入っている。


(今年も花見どころか桜も見てないな..)


店内で流れていた懐かしい曲がやけに耳に残り、そんな事を考えたのだろう。


特別に忙しいわけでもない。

仕事をしているわけでも学生でもない。


俺はただのニートだ。


昼間は人目が気になるし陽の光が眩しすぎる。


普段からコンビニ以外ほとんど出歩かないが、この日は少し歩いた先にある丘に向かうことにした。


(運動不足には丁度いいか)


いつもならサンダルだが今日はなんとなくスニーカーを履いてきた。だからなのか、いつになく行動的になる。


深夜は静かに時間がゆっくり過ぎる。

この感覚が好きだ。


人で賑わう、この辺りでは有名なこの公園も今は静まり返っている。


この先にある丘が目的地だ。


―桜の丘

頂上には幹の太い立派な桜が一本立っている。

何でも昔の偉い人が桜の木を植えたとか植えてないとか。樹齢が何百年?何千年?と言われているらしい。


この桜にさまざまな噂がある。

「桜の木の下で告白すると永遠に成就する」

「桜の幹に手を当ててお祈りをすると願いが叶う」

というベタなものから

「幽霊をみた、妖精をみた」なんて奴もいる。


そんなことがあってか

「キセキの桜」なんて呼ばれている。


なんの根拠も証拠もない。

ただその影響でこの丘は少しばかり有名なのだ。


勿論、俺はそんな事を信じていない。

願いが叶うなら叶えてほしいものだ。


そんなオカルト的なものが目的でなく、

この辺りで一番高い場所にある丘は街を一望できる。

その景色が好きだった。


今は街の夜景が見える。

この時間でも起きている奴がこんなにいるんだななんて考える。


この丘を最後に登ったのは小学生の時で、遠足か何かだったか。

(頂上には確かベンチもあったよな)

なんてことを考えながら街灯もまばらな道を進む。


頂上まではもうすぐだ。

息が上がり、額には汗が滲む。


下を向き、肩で息をする。

やっと頂上に着いた。

(こんなにキツかったか?)


息を整えながら頭を上げる。

目の前には、キセキの桜。


年を重ねてから公園の遊具を見ると小さく感じる、なんて事があるがそんな事はない。


小学生の頃に見た桜と何も変わらない。


(やっぱりデカいな...)


20メートル以上あるだろうか?

改めて立派な桜なんだなと感じる。


街灯のおかげで僅かにライトアップされて、

神秘的な雰囲気を演出している。


(夜桜は初めてだな)


夜食の肉まんを食べようとコンビニの袋に手を伸ばす。


―急な強い風が吹く

俺は反射的に目を瞑った。

花びらの淡い匂い。


瞼をゆっくりと開く。

桜の花びらと長い金色の髪が風に舞う。


―華奢な身体に白のワンピース。

真っ白な腕が伸びる、花びらを掴むような仕草でじっと桜を見つめている。


女の子...?


腕の時計を見る

―AM3:27


この時間に人がいると思わなかった俺は動揺しながらも

ゆっくりと後退りをする。


(できれば気付かれたくない...)

いつもなら物陰に隠れるがこの丘にそのような場所はない。


仕方なくゆっくりと振り返り、そのまま来た道を戻ろうとする。


「また逃げるの? ()()


急に自分の名前を呼ばれた俺は、訳がわからなくなる。


―放心状態


その子はまっすぐ俺を見ている。


青い瞳、長い金色の髪、くっきりとした顔立ち。

真っ白な肌に何を考えているのか分からない表情。


大人びて見えるが幼さも残るような顔立ち。


歳は18、19くらいだろうか。


「貴方は4人目なの」


高くも低くもない透き通るようなまっすぐな声。


「そして次が最後。実質ラストチャンスなの」


落ち着いたゆっくりとした口調の中に感情がこもっている。


こちらの反応を無視して話を進める彼女。


「君は?なんで俺の名前を知ってるんだ?」


訳がわからず口調が強くなってしまう


「私は、ミラン...

1度目と3度目で貴方と結婚しているの」


(何言ってるんだ?俺は結婚なんかした事もなければ、この子に会うのも初めてだ)


この子はふざけている訳でもないようだが、こちらは訳がわからない。


―やばい奴だ

理解ができない俺はストーカーか本当に頭がおかしい奴だと思った。


反射的に来た道を全力疾走で駆け抜ける。


あんなにも必死に登った丘をあっという間に駆け下り、公園を抜けコンビニを通り過ぎる。


自分でも驚くほどのスピードで家まで帰ってきた。


こんなに走ったのはいつ以来だ?

そんなことは今は事どうでもいい。


―肉まんを丘に落としてきたことに気づく。


汗だくで頭はパニック状態

いつものように部屋にこもる


なんなんだよアイツ、訳わかんねぇよ。

何で俺の名前知ってんだよ。


―回想


「また逃げるの? ()()


「私は、ミラン...

1度目と3度目は貴方と結婚しているの」


「そして次が最後。実質ラストチャンスなの」


―回想 終了


「結婚?」「ラストチャンスって何だよ」


―きっと疲れてるんだ、今日はもう寝よう。

ベッドにより掛かりじっと瞳を閉じる。


「ミラン...」


ー桜の丘

ベンチに座り、肉まんを半分にちぎり頬張る彼女


「やっぱり逃げちゃったね、才人...」


第一話 完






















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