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チェイン・ストーリー 〜白光の冒険者〜  作者: 桜町ナユタ
プロローグ
1/24

胡蝶の夢

 

 以前のこと、わたしは夢の中で蝶となった。喜々として蝶になりきっていた。


 


 放課後、教室の窓から夏の終わりを感じさせる風と、部活動に励む運動部の声が流れてくる。

 椅子に腰をかけながら、机の横にかけていたスクールバッグを手に取り机の上に置く。今日の授業で出された課題を、カバンに詰め込む。


 さて、今日はこれからどうしようか。


 二学期が始まってから半月が過ぎ、夏休みボケが抜けきり、秋のイベントである文化祭の準備が忙しくなり始めた時期、久しぶりに予定のない放課後だった。

 学業から解放された生徒たちの陽気な声を聞き流しながら、放課後の予定を考える。


 そういえば、あの小説の新刊が出たって聞いたな。


 ふと、昼休みに友人との会話が思い浮かぶ。家にまっすぐ帰るよりも、どこか寄り道していこうかと思っていたところなので、本屋でも寄っていくことを決める。

 そうと決まれば、行動のみだ。机の上に置いたカバンに手をかけ、椅子から立ち上がる。

 カバンを肩にかけ、椅子を机にしまう。 

 

 その時、肩に誰かの手が置かれた。振り向くと見慣れた顔が、口元に笑みを浮かべている。


「よ、今日も生徒会か?」


「いや、久々の休業日だ」


「それならゲーセン行かね?新作の格ゲーが、今月から入っているみたいなんだけどよ、すげえ人気らしいぜ」


「お、これはおごりかな」


「ばーか、んなわけあるか」


 そう言いながら、友人はボクシングのファイティングポースを取り、右、左と交互に拳を振るう。

 それを、友人と同じポーズを取り、右、左と交互に友人の拳を防ぐ。

 小気味よい音がなる。自然と口元が、釣り上がってくるのがわかった。


「てか、アホなことやってないで、とっとと行こうぜ。早く行かねえと列ができちまう」


「お前から仕掛けてきたんじゃん」


「いやいや、お前がおごりとかいうからだろが…」


「え、こうゆう時っておごるもんじゃねえの?」


「てめーにおごるくらいなら、ゲーセンにその分突っ込むわ」


「よよよ、私とは遊びだったのね」


「そのセリフ、あながち間違いじゃないな。…他人が聞いたら誤解が生まれるだろうけど」


 泣き真似をすると、呆れた声を上げる友人。まあ、不毛な会話は終わりにして早く行こうと言うと、てめえが言うなと言いたげな目をしながら、背を向け教室の扉にあるいていく。


「んで、どこのゲーセンに行くんだよ」


 その後を追いかけるように歩き出しながら、今日の目的地の場所を訪ねる。


「商店街にあるやつ」


「商店街?駅前のやつの方が近くないか?」


「まだ、この辺りだと、商店街のゲーセンしか導入されてないんだよ」


 それなら電車で帰るよりかは、自転車で帰る方がいいかもしれない。玄関を出たら駐輪場によるか、と今日の帰宅方法を考える。

 教室の扉に歩き着き、引き戸に手をかけ、そのまま少し力を入れ横にスライドさせる。

 教室から一歩踏み出そうとすると、目の前に見慣れた…というかほぼ…いや毎日と言っていいほど顔を合わせる女性が立っていた。


「おーっす生徒会書記、ベストタイミングだな!」


 相変わらず、自信満々な声と不敵な笑み、そして腰に手を当てたポーズは様になっている。


「…おーっす生徒会長、俺に何か用っすか?」


 その言葉に生徒会長は、笑みを深めた。美人という言葉が当てはまる顔立ちをしているためか、ほとんどの人は…特に男からしたら見惚れるような笑みだったでだろう。

 しかし、付き合いの長い人間からしたら、見惚れるなんて話ではない。むしろ嫌な予感しかしない。


 何を言われるか身構えていると、後ろから友人が顔を出した。


「なーに突っ立っているんだよ…あ、会長じゃないっすか、お疲れ様です」


「む、君は私の書記の友達ではないか。いつもこいつが世話になってるな」


 だれがあんたの書記だ、生徒会の書記だっうの。


 そう声を出して突っ込みたかったんだが、余計ややこしくなりそうだったので、喉の奥で止める。


「いえいえ。んで、こいつになんか用があるんすか?」


「ああ、ちょっと頼みたいことが…」


 やばいこの感じは、厄介ごとを押し付けられるパターンだ。

 付き合いの長さからか、会長が言いたいことを察する。それをどうにかして回避するために、瞬時に頭を働かせ、会長の言葉に被せるように言葉を発した。


「イヤーすいません、会長申し訳ないんですけど、今日は用事があるんですよ」


「む、そうなのか?」


「ええ、こいつとちょっと予定がありまして」


 友人に、指を指す。こちらに視線を向ける友人は、少し驚いたような表情を浮かべていた。

 目を使い話を合わせろと合図を送る。疑惑の目を向けていた友人は、会長と交互に見比べると、なにかを察したように口元に笑みを作って頷いてみせた。


 さすが親友、普段はおちゃらけてるが、やる時はやるやつだぜ。


「あーそう言えば、今日は予定が入ってたんだったー」


 …は?


「というわけで、また今度なー」

 

 そう言うと、友人は横を通り過ぎていく。

 友人の予想外の行動に、思考停止をしている時に、肩を叩かれた。

 現実に引き戻されると、友人がいい笑顔でサムズアップしていた。

 そして、そのままこの場を去っていく。

 …肩を震わせながら。


 あ、あのやろう、分かった上でやりやがったな?!

 

 歩き去る友人を追いかけ、一発ぶち込んでやろうと思い、走り出そうとした時、再び肩を叩かれた。

 その瞬間、どっと冷や汗が流れてる。今振り返れば、取り返しがつかないだろう。このまま走り出したい衝動に駆られる。だが、振り返らないわけにはいかなかった。

 叩かれた後、肩に置かれた手が、離さないと言いたげに力が込められていたのも理由にあるが、単純に逃げ出した後が怖かっただけである。

 ゆっくりと振り向くと、そこにはほとんどの男なら惚れてしまうだろう笑顔をした会長がいた。


「おい、書記」


「…はい、なんでしょうか会長」


「今日の放課後、予定はないな」


「そうみたいですね…」


「つまり暇だな」


「そうみたいですね…」


「…」


「…」




「頼みたいことがあるからついてこい」


 会長の言葉に頷くしか、選択肢はなかった。

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