共用スペースの利用ルールはきちんと周知しましょう
mOmOさんの正体が目の前にいるエンジニア・桃森胡桃だと判明し、mOmOさんと呼び続けるわけにもいかないので胡桃と呼ぶことになった。
胡桃は相変わらず俺のことをカズくんと呼ぶが、この声でカズくんと呼ばれるのは聞き馴染みがあるので特に違和感は無い。
だが、
「カズマ先輩、また私に隠れてイチャイチャするなんて……」
「ゲームしてただけだ! それに隠れてたわけでもねえ!」
「良いんだよ、カズくん。一緒に熱い夜を過ごしたって言っちゃっても♡」
「ゲームで白熱してただけだろ!? 胡桃も誤解しか生まねえ言い方すんな!!」
「ほらー! やっぱりイチャイチャしてるじゃないですかー!!!」
柚季から理不尽に怒られる俺を見て、胡桃が笑いをこぼした。
「美雪ちゃん、やっぱりカズくんと仲良いんだね」
「やっぱり?」とハテナを浮かべながら柚季が首を傾げる。
「カズくん、美雪ちゃんの話ばかりしてるんだよ。夜通しゲームに誘ってくる後輩って、美雪ちゃんのことでしょ?」
「えへへ〜、そうなんですかぁ〜?」
柚季の顔が一瞬で緩む。あまりのちょろさに驚くが、胡桃の話題転換の上手さにも驚いた。
「だからさ、みんなでゲームしようよ♪」
「良いですね! 今夜さっそくやりましょう!!」
「みんなでパジャマパーティだね♪」
「わーい! 一度やって見たかったんです! カズマ先輩も買い出し手伝ってくださいね♪」
どうやらパジャマパーティなるものをやるようだ。女子会というやつだろう。
…………ん? 俺も買い出しを手伝う?
「ちょっと待て、俺も参加するのか!?」
◆ ◆ ◆
その日の終業後、各々で身支度や買い出し等を行い20時に再びオフィス集合ということになった。
だが、
「……さすがに早く来すぎたな」
誰もいないオフィスに戻った俺は一人呟いた。
時刻は19時25分。集合時間より30分以上早い。
それもそのはず、俺がしたことといえば、マンションの1階にあるコンビニで買い出しを済ませて着替えを取りに帰っただけだ。
オフィスで一人きりになったのは久しぶりなので少し寂しい気分になる。
「集まる前にシャワーでも浴びておくか」
この広い部屋に30分も1人でいるのは退屈なうえ、皆が来る前に汗を流しておきたかったので浴室に向かった。
この仕事部屋は単なるマンションの一室なので、当然風呂やトイレもある。
ちなみに大部屋なのでトイレは2つあり、男性用と女性用で分けて使っている。もちろん、男性用は俺専用と化しているが。
浴室に向かった俺はホワイトボードに名前を書いてドアを閉めた。
この方法は仕事部屋で浴室を使う際のルールとして決めたばかりだ。
つい先日アリスが浴室にいた際に危うく俺がドアを開けそうになり、慌ててこのルールを作ってみたところ、ひとまずうまくいっており一安心している。
それにしても、パジャマパーティか。
俺にとっては未知の世界だが、皆で集まったらゲームするに決まってるため、少し気楽でもある。
……皆のパジャマ姿を前に興奮しないようにせねば。
今のうちに気持ちを落ち着けるためにも、服を脱いだ俺は浴室の電気をつけて扉を開けた。
「「…………え?」」
湯船に浸かる、一糸纏わぬ胡桃と目が合った。
「きゃぁっっ!?」
「うわぁぁっ!?」
一瞬遅れて状況を理解した俺は慌てて背を向け、後ろ手で浴室のドアを閉めた。
「ご、ごめんっ! 入ってると思わなかった!」
「いや、私こそごめん! 家だと電気消してゆっくり浸かるのが好きだから、つい……」
ひとまず経緯は置いておこう。一番マズいのはこの状況が誰かに見つかることだ。
「俺、すぐ出てくからごゆっくり!」
「う、うん。ありがと!」
2人ともテンパっているが、最低限は頭が回っている。
とにかくここを去らねば!
さっき脱いだ服を再び着ようと手を伸ばした時、
「カズマ先輩〜! 皆が揃う前に2人でゲームしましょ〜!」
とびっきりの悪夢だ。
シャワーも浴びていないのに、俺の体は冷や汗でずぶ濡れになっている。
「お、おう。そうだな。今行くからちょっと待ってろ」
「先輩、なんで慌ててるんですか? お風呂で何かありましたか?」
ぐっ……!! コイツ、こんな時だけ鋭い!!!
「い、いやあ、別に何も無いぞ?」
素早く服を脱ぎ、浴室の電気を消して脱衣所から外に出ると、パジャマ姿の柚季が立っていた。
「……先輩、お風呂でサッパリした感じがしないです。やっぱり何か隠してますね?」
マズいマズいマズいっっっ……!
ここで変な名探偵ぶりを発揮するな!!!
「ちょっと見せてもらいますね」と脱衣所に足を踏み入れ、浴室の電気をつけてドアを開けると……
「……や、やあ」
「ひゃっ!?」
当然そこには胡桃がいるわけで。
「カズマ先輩!! これは言い逃れできませんよ!!!」
「悪かった! 俺もわざとじゃないんだ!」
「関係ないですっ! 裸の2人であんなことやこんなことを……っ!!!」
「違う! 何もしてない!! 胡桃からも何か言ってくれ!」
「……私は、まあ、何かしても良かったけど」
「ほらぁぁぁっっっっ!!! やっぱりそういう関係だったんですね!?」
「胡桃ぃぃぃっっ!?!?」
胡桃のまさかの裏切りにより、誤解を解くまでにしばらくかかったのは言うまでもない。
パジャマパーティ、まだ始まってもいないんだがなぁ……。
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