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世間って案外狭いものですね

その日、新カードの仕様を決めるMTG(ミーティング)が行われていた。


つい先日も新カードをリリースしたばかりだが、1枚のカードを作るだけでもイラストの準備から効果の実装まで、やることが山積みなので準備が早すぎるなんてことはない。


ゲーム運営は時間がいくらあっても足りないのだ。


「ーーーーというわけで、次回はこの仕様で作りたいです。胡桃先輩、開発にどのくらいかかりそうですか?」


「この量なら3日あれば全部作れると思う」


「わかりました。念のため4日でスケジュールを組んでおきますね」


柚季と話しているのは、俺と同期のエンジニア桃森(もももり)胡桃(くるみ)だ。


カードの仕様を決める際、既存のシステム上で実装できない効果の場合は新規開発が必要なため、こうしてエンジニアとも相談が必要となる。


開発に長時間かかりそうなものがないか、あらかじめチェックしておかねばならないのだ。


「それでは、今回のMTG(ミーティング)は以上です。お疲れ様でした!」


「「「お疲れ様でした」」」


参加していた水希先輩、柚季、胡桃、そして俺、4人とも通話をオフにする。


胡桃が在宅勤務(リモートワーク)なのでオンラインでMTG(ミーティング)しているが、もはや慣れたものだ。


コーヒーを飲みながら一息つくと、スマホに通知が届いた。


普段使っているSNSにメッセージがあったらしい。


『久しぶりに今夜どう?』


そっけない一言だが、理解するには十分だ。


『了解。また22時からで』


俺も簡単に返事し、再び仕事に向かう。


今夜の楽しみが出来て浮かれているのは間違いないが、それでも今日の仕事はしっかりせねば。


◆ ◆ ◆


残業せずに帰宅していた俺は、約束の時間にボイスチャットを起動してすぐに通話を開始した。


「久しぶり。kAz(カズ)くん、元気してた?」


ヘッドセットを通して聞き慣れた心地良い声が聞こえてくる。


「最近忙しかったけど、やっと落ち着いたわ。mOmO(モモ)さんは仕事も順調みたいだな」


「ふ〜ん、忙しかったくせに私のSNSは見てるんだ。私のこと大好きかよ」


「茶化すなよ。俺だってmOmO(モモ)さんとのゲーム楽しみにしてんだよ」


「そ。悪い気はしないけどね」


通話相手は学生時代からの友人、mOmO(モモ)さんだ。


偶然いくつかのゲームでフレンド登録していたことをきっかけに意気投合し、今ではボイスチャットアプリで通話しながらゲームする仲だ。


と言っても、ゲーム経由で知り合ったため互いの素性は知らない。


ま、ゲーム仲間ってそういうもんだろ?


ちなみにmOmO(モモ)さんと俺はどのゲームでもほぼ同じランク帯にいるため、良きライバルだったりする。





kAz(カズ)くんって職場でモテるでしょ」


「いきなりだな」


戦闘中のmOmO(モモ)さんをサポートするため回復薬を取りに行っていたところ、思わぬ質問が飛んで来た。


「面倒見も良いし気配りもできるし、理想的な人なんだろうな〜と思ってさ。今も回復薬取って来てくれたし」


「面倒見か……、自分ではわかんねえな。やるとしても、後輩とのゲームに夜通し付き合ったりするくらいだぞ」


「…………ふーん」


なんとなく拗ねたような声が聞こえる。


mOmO(モモ)さんとは長い付き合いだ、そのくらいは声色でわかる。


「……私とゲームする時間は無いのに、後輩とは夜通しゲームするんだ。ちょっと嫉妬しちゃうな〜」


「半分仕事みたいなもんだからな」


「そっか、仕事だもんね。残念だけど、それなら仕方ないよね♪」


話の内容とテンションが合っていない。残念と言ってる割になぜか楽しそうだ。


「じゃ、そろそろお開きにしようか。久々にkAz(カズ)くんとプレイできて楽しかったよ」


時刻を確認すると、いつの間にか0時を回っていた。


ゲームしてるとあっという間に時間が過ぎるな。


「俺も楽しかった。またやろう」


「うん。また近いうちに、ね」


そういえば、誰かと気兼ねなくゲームしたのも久しぶりかもしれないな。



その後いつの間にか意識が落ちていて、気づいた頃には朝になっていた。


◆ ◆ ◆


「はよーございまーす」


「おはよう、カズマ君。何かいいことでもあった?」


翌朝オフィスにて、水希先輩から開口一番にそう聞かれた。どうやら俺はわかりやすいタイプらしい。


「昨日、久々にゲーム仲間と遊べたんですよ。まあ、一緒にゲームしただけですが」


「いいじゃない。楽しかったなら何よりだわ」


軽く雑談していると、柚季とアリスも出勤して来た。


「おはようございま〜す! 何の話してたんですか〜?」


「昨日俺がゲーム仲間と遊んだってだけの話だ」


「ミユキ、良いのか? カズマから女のニオイがするぞ」


「……!! まさか遊んだってそういうことですか!?」


「どういうことだ! 単にゲームしただけだ!」



いつもの騒がしい朝だったが、オフィスのドアが開く音がする。


「おはようございます。今日から私もここで仕事させてもらいますね」


そこには同期のエンジニア、桃森胡桃が立っていた。


「胡桃ちゃん、おはよう。好きな席を使って良いからね」


「ありがとうございます。では、ここに」


胡桃は俺と斜めに向き合う位置に腰を下ろし、ノートPCを起動する。


胡桃もこのマンションに住んでいたなんて、世間は狭いものだな。



「昨日はありがとね。楽しかったよ」


「昨日? 何かあったか?」


胡桃から早速声をかけられたが、心当たりが無さすぎる。


そもそも昨日一緒だった時間は仕事でのオンラインMTG(ミーティング)くらいなのだ。楽しかったと言うには大袈裟だろう。


「……このニブチンめ」


戸惑っている俺に胡桃が何か呟いたが、声が小さくて聞き取れない。


聞き返そうとした時、社内チャットに通知があった。


目の前にいる胡桃から音声通話がかかって来たのだ。


わざわざ通話にする意味はわからないが、とりあえず出てみるか。


「どうした?」


「……kAz(カズ)くんのニブチン」


「…………は?」


思考と動きが停止する。


俺をkAz(カズ)くんと呼ぶ人物は1人しか思いあたらない。


「え……いや、嘘だろ?」


戸惑う俺に、とどめの一言が発せられる。


「仕事だもん、仕方ないよね♪」


俺の視線を受け止めた胡桃は小悪魔的な笑みを浮かべ、ウインクで合図している。


こうして俺は半日も経たないうちにmOmO(モモ)さんとの再会を果たしたのだった。

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