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これは仕事であって同僚をエロい目で見ているわけでは無いわけで

「ミユキ、仕様書見せて」


「ちょっと待ってね……今送ったよ!」


アリスの家とオフィスを往復した俺が荷物を運び終えた後、アリスはすぐに作業を開始した。


目を通しているのは新カードの仕様書だ。


カードに限った話ではないが、性能やレアリティといった要素を総称して仕様と呼び、単にそれがまとまったものを仕様書と呼ぶ。


一般的にイラストの依頼では細かい条件や要望などをまとめた発注書を使用することが多いが、アリス曰く「ラフを見てもらったほうが早い」とのことで、仕様書を見てそのままラフを描くスタイルが定着している。


脳内イメージが完成したのか、アリスはペンタブで軽快な音を立ててラフを描き始めた。





「できた。ミユキ、カズマ、見てほしい」


20分もしないうちにアリスが2枚のラフを描き上げたらしく、俺と柚季はアリスの画面を覗き込む。


そこには服がはだけた女性のイラストが2枚映し出されていた。


か弱き乙女たちに見えるが、隠し持った拳銃が映り込み、迂闊に手を出せば殺られるという雰囲気を感じさせるイラストだ。


「カウンター系のカテゴリだし、このまま進めて良いと思う。銃が映ってるところとか最高だな!」


「私も良いと思います!」


「OK、このまま完成させる。でも、その前にやることがある」


アリスは席を立ち、資料部屋から何かを抱えて戻って来ると、柚季と水希先輩にそれぞれ衣装を渡した。


「ミユキとミズキにはモデルになってもらう。差し込みの仕事だし、それくらい手伝ってくれるよね♪」


柚季は仕事を差し込んでしまったことに少なからず責任を感じており、借りを返せるならモデルだろうとやる気満々だ。


一方、水希先輩は「えっ、私も!?」と驚いている。突然巻き込まれたのだから当然の反応だろう。


……というか、これ、俺が役得なのでは?


◆ ◆ ◆


「じゃーん! カズマ先輩、どうですか?」


「おう、いいんじゃねーか?」


スーツ姿になった柚季がはしゃいでいる。入社式以降は見ることがなくなっていたので新鮮だ。


ただ、それよりも新鮮なのは、


「アリスちゃん、もっと大きなサイズないかしら……? ちょっとキツいんだけど……」


スーツ姿の水希先輩だ。普段は私服なので、俺が目にするのは初めてだ。


「…………イイな」


ひと回り小さいサイズを着ているため、胸が零れそうになっていたり、体のラインがしっかり浮かび上がっていたり、とにかくエロい雰囲気しか感じない。


「いや、ミズキのサイズはそれでOKよ。ほら、カズマの視線が釘付けだ」


「えっ?」


「げっ!」


勢い良く目を背けるが、水希先輩に見られていたようで。


「……恥ずかしいから、あんまり見ないでね」


……すんません、たまんねえっす。


「あー! カズマ先輩がえっちな目してる! 私も見てくださいよー!」


そう言う柚季は腕でぎゅっと胸を寄せ上げ、スーツから谷間を覗かせている。


……これもイイな。


じゃない、これはモデルの仕事中なんだ。早く終わらせてくれないと俺の理性がもたない。


「アリス! 早く終わらせてくれ!」


「終わらせて良いの? もっと見たいんじゃないか?」


「そりゃ見たいけど……、違う違う。ほら、あれだ! 早く描いてもらわないと、今後の作業に支障が出ると困るからな」


「ふーん?」


意味ありげな目でこちらを見て来るが、今は構っていられない。早く意識を逸らさねば。





席に戻った俺は自分の仕事を再開し、ひたすら画面に向き合う。


「えっ、アリスちゃん、さすがにこれは過激すぎよね……?」


「それで合ってる。せっかくこんな大きなモノ持ってるんだからアピールしなきゃ」


俺は何も聞いてない、俺は何も聞いてない。


「アリスちゃん、このポーズで合ってる?」


「もっと上着を脱いで。肩が完全に見えるように……そう、そのままで」


俺は聞いてないぞ。


「うぅ、やっぱり恥ずかしいわ……」


「その表情good! そのまま!」


俺は何も聞いてないぞぉぉぉ!!!






「カズマ、ちょっと来て」


「なな、なんだ?」


煩悩との戦闘中にアリスから呼ばれ、自然な足取りを意識して席に向かう。


焦るな俺。ここで水希先輩たちの方を見たらコイツの思う壺だ。


アリスの画面に目を向けると、複数の写真が一覧表示されていた。


「この中でどれが一番エロいか選んで」


「……はぁっ!?」


無論、先ほどまで撮影していた写真だ。


はだけた服でポーズを決める水希先輩と柚季が大量に映し出されている。


「これは仕事だから。ほら、早く好きなの選んで〜♪」


「ぐっ…………!!」


画面に穴が開くほど凝視して脳裏に焼き付け、やっとの思いで写真を選んだ。


これは仕事であって、決してやましい気持ちがあったわけではない。


◆ ◆ ◆


「ま、間に合ったぁ〜〜〜!」


結局アリスはその日のうちに2枚のイラストを描き上げ、無事リリース準備を終えることができた。


柚季はホッと胸を撫で下ろし、アリスに何度も感謝を告げていた。


これにて一件落着なのだが、俺は一つ気になったことを聞いてみる。


「アリスの荷物はまた家まで運ぶのか?」


そろそろマンションの住人も帰宅する時間なので、運ぶなら今すぐにでも始めた方が良さそうだ。


「このままでOK〜! ココの方が楽しいし、私も仕事部屋(オフィス)で仕事することにするよ。そしたらカズマで遊べるしね♪」


「おい、最後に聞き捨てならねえ言葉が混じってたぞ」


「そーだ、資料部屋にあるモノは自由に使って良いからな〜」


アリスは俺の方を見ながらそう告げる。


「資料部屋? 何かあったか?」


参考資料が置いてある部屋に足を運ぶと、見たことのある光景が蘇った。


そう、アリスの部屋だ。


つまり、R-18仕様の部屋に早変わりしていたわけで。


「おいいいっっ!? 何してんだコラァァァ!」


腹を抱えて笑うアリス。


いつの間にセッティングしやがった!?


柚季と水希先輩はアリスがセッティングしていたのを知っていたようで、特に驚いた様子は無い。


……って、おいおい。あの部屋、そのままで良いのか!?





ちなみに新カードのリリース当日、柚季と水希先輩がモデルとなった2枚のカードは飛び抜けた売上を記録した。


俺も天井までガチャを引いたのは内緒だ。

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