第13回Chronos Championship開幕!!!
「…………っっっ」
俺ともつ鍋さんは互いに見開いた目で見つめ合っていた。
あまりに不自然な光景なので、柚季からも「カズマ先輩?」と声をかけられるが、互いに固まってしまって動けない。
「えーと……、初めまして? kAzです。よろしくお願いします」
「こちらこそ初めまして。もつ鍋です。よろしくお願いしますね」
ひとまず初対面という体が良いだろうと判断して声をかけると、もつ鍋さんもそれを察してくれたようだ。
他の出場者と同様、もつ鍋さんも席に案内し、後の対応は柚季と水希先輩に任せ、大会の進行を始めた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
『さあみなさん、お待たせしました! これより第13回Chronos Championshipを開催します!!!』
ゲーム内の観戦モードにおいて実況の音声が流れ、SNSが一気に盛り上がった。
『ご挨拶が遅れました。実況は私、声優の華咲杏です。よろしくお願いします♪』
華咲さんはタクオタのプレイヤーアバターでCVを担当してくれている声優さんで、大会の実況を毎回お願いしている。
しかも華咲さんはタクオタの上位ランカーで、プレイヤーとしても有名なのだ。
ただ、毎回40位あたりで止まってしまうので「いつか大会の出場権を得て、誰かに実況の代打を頼むのが目標」と宣言している。
ちなみにオンラインで自宅から実況しているため、彼女の大ファンである胡桃なんかは「いつか会いたい憧れの人」と話していた。
『さてさて、初めての方もいると思いますので、大会のルールを簡単におさらいしておきましょう』
大会の形式は第1回から大きく変更していないが、大会を見るのが初めての人に向けて華咲さんが毎回説明してくれている。
実はこの説明、華咲さんの発案で第2回から行っているのだが、わかりやすいと評判なので、ただのルール説明がもはや名物コーナーの一つとなっている。
実況に加えてゲームプレイ、そのうえ改善点の提案までしてくれるなんて、本当に華咲さんには足を向けて寝られない。
『この大会はランキング上位32名によるトーナメント戦です。
出場者は3デッキ用意して、各試合で好きなデッキを1つ選んで戦います。
準決勝からは3デッキとも使用した2試合先取の試合形式となるので、他のプレイヤーから手の内を隠すことも重要な戦略となってきます』
待機スペースの座席で、若葉は真面目にうんうんと頷いている。
隣に座っている女子も同じだ。
この場にいる上位ランカーにとって、聞き流しても良いレベルの当たり前の情報だが、この説明コーナー自体も味わって楽しもうという姿勢が嬉しい。
隅々まで楽しんでくれるところを目の当たりにすると、やはり運営冥利に尽きるというものだ。
『さらに、ここからが重要なルールです。
元々タクオタでは同名カードをデッキに入れられませんが、この大会では3デッキ通して1枚しか入れられません!
そのため、勝負の鍵を握るSPカードをどのデッキに入れるかというのも、非常に重要な要素となってきます。
今後の大会出場を目指す、未来の上位ランカーのみなさんは、ぜひそのあたりも注目して見ていただけると、出場者の方々が繰り広げる情報戦も一層楽しめますよ♪』
そう、そこが重要なのだ。
準決勝まで進めばベスト4だ。
単に上位入賞したいなら、1デッキに全てを集約して勝ち進んだり、3デッキを全て使って情報アドバンテージを与えない立ち回りをしたり、といったこともできるわけだが、そこまで手の内を晒すと準決勝以降の勝利が絶望的になりかねない。
そのため3デッキ目は準決勝まで使わず、1〜2デッキを相手に合わせて使うのが定石となっているのだ。
俺もできれば1デッキだけ使って準決勝まで行きたいところだが、ここにいる全員が格上なのだ。そこまで甘くはないだろう。
『ではここで、トーナメント表の抽選に移ります!』
「いよいよか」
華咲さんの声に、SNSのコメントだけでなく、会場の出場者すらざわめき始めた。
この大会において、対戦相手の抽選はこの場でかつ公開で行われる。
順位ごとにあらかじめトーナメント表を準備しても良いわけだが、運営メンバーも出場する可能性がある以上、事前に用意した対戦表など茶番以外の何物でもない。
ゆえに、こうする。
『画面にご注目ください。こちらは乱数を発生させるプログラムとなっております。私がこちらを実行することで、対戦相手がランダムに決定する仕組みです』
自分たちで抽選せず、全プレイヤーの目の前で乱数を生成するという方法だ。
一般的なプログラムのため、多少なりともプログラミング系の知識がある人にとっては理解できる内容で準備している。
これにより、やらせ等の可能性を出来うる限り排除しているのだ。
事実、この抽選方法に関して問い合わせが来たことは一度もない。
SNS上で騒ぎ散らかしていた迷惑なアカウントもいたが、良識あるどこかのエンジニアに完膚なきまでに論破されて以来、一言も発さなくなった。
『なお、トーナメント表の両端のみあらかじめ固定されており、ランキング1位のwakaba-MkⅡさん、ランキング2位の覚さん、の2名がそれぞれ入ります。
つまり、決勝戦に駒を進めるためにはどちらかに勝利しなくてはならないというわけですね』
抽選前に華咲さんから大切な補足が入る。
無論1位と2位を安全に決勝まで進ませるためのルールではなく、第何回の大会においても難易度を一定に保つためのルールとして設定したものだ。
プレイヤーの全員が理解しているかは不明だが、少なくともここにいる出場者たちはそれを理解しているので問題ない。
『では、さっそく抽選に行きます! 私と一緒にカウントダウンお願いしますね♪』
俺たちはノリノリで声を出し、オフィスに足を運んでくれた出場者の方々は少し恥ずかしがりながらも乗ってくれている。
『5、4、3、2、1……スタート!!!』
壮大な前振りから一点、プログラムは一瞬で起動し、その結果に紐づいたトーナメント表に瞬時にプレイヤー名が表示された。
『こちらが今回のトーナメント表です! 観戦画面からいつでも確認できますので、さっそく1回戦第1試合から参りましょう!!!
wakaba-MkⅡさん vs マテーマタさんです! お二人は準備をお願いします!』
無事に抽選も終わり、いよいよ対戦が始まろうとしていた。
「それではwakaba-MkⅡさん。こちらの部屋でお願いします」
柚季の案内により、待機スペースで座っていた若葉を対戦用の部屋に案内する。
会場に来てくれた人の対戦部屋には、普段の来客用として使う部屋と会議室の2部屋を使う。
1人で1部屋使うため、会場の2人が対戦しても問題ないようにしているのだ。
2人が対戦準備中なので、今のうちにトーナメント表を確認しておくとしよう。
「俺の対戦は……第9試合で相手はヤンバルさんか。そして準決勝まで進めば覚さんと当たり、決勝で若葉か」
出場者の中で最下位である俺にとって、誰が相手でも格上ということになるので、1戦たりとも油断できない。
それにしても、ヤンバルさん?
仕事中にどこかで見たような名前だが、どこで見たのだろうか……?
俺が思い出す前に、実況の華咲さんが状況を説明した。
『試合が始まる前に、1点だけ皆さんにお知らせです。
1回戦第9試合に予定されていた、kAzさんとヤンバルさんの対戦ですが、ヤンバルさんがどうしても都合がつかず辞退されるということで、kAzさんの不戦勝となります。
そのため2回戦は試合順を入れ替え、kAzさんの試合から進行しますので、どうかそれまでお楽しみに♪』
「っ!?」
俺は思わず目を見開いた。
そうか、仕事で見た名前だとは思ったが、辞退者の名前だったのか!
大会は2ヶ月前から連絡を行い、可能な限り全員に調整してもらえるよう動いているが、それでもこのように都合が合わない人も出てきてしまう。
『ヤンバルさん、今回は残念でしたが、また一緒に頑張りましょう!
もし次回の大会で私と当たったら、お手柔らかにお願いしますね♪』
都合がつかず辞退という、上位ランカーにとって泣くに泣けないお知らせだが、すかさず華咲さんがフォローしてくれる。
声優さんが自分に向けてメッセージをくれるなど、それだけで泣いて喜ぶ人もいるだろう。
どうかヤンバルさんが大会終了後に公開するアーカイブを見てくれることを願おう。
ヤンバルさんはさておき、不戦勝自体は幸運なことだ。
大会はプレイングの勝負でもあるが、情報戦でもある。
そのため不戦勝、つまり手の内を見せず1勝できることは大きなアドバンテージと言える。
試合順の調整もアドバンテージを打ち消すためにあらかじめ設定してあるルールだが、それでもこのチャンスは有効に活用せねばならない。
しかし運営でもある自分としては、不戦勝というこの状況を諸手を挙げて喜ぶことができないのがもどかしい。
だが起きてしまったことは仕方ない。
不戦勝した先の2回戦で瞬殺されないよう全力を尽くすことが、ヤンバルさんへのせめてもの報いだ。
初戦から全力で行かせてもらおう。
決意を胸に、自分の対戦順が来るまでライバルたちの対戦を目に焼き付けていった。
◯ あとがき ◯
みなさんこんにちはー! 華咲杏です。
見てくれてありがとうございます♪
いよいよ大会が始まりましたね!
CVに実況に、私の声で喜んでくれる人がいることに感謝です。
でも、私だっていつか出場者として誰かに名前を呼ばれたい!!!
だから私のことも、応援……してくださいね♡
ぜひぜひみなさん、また私たちに会いに来てください!
ブックマークも忘れちゃダメだぞ♪
私たちを評価してくれたら、ますますみんなのこと好きになっちゃうかも……♡
それでは、また次のお話でお会いましょう〜〜〜♪
ばいばいっ!




