後輩女子からデッキ相談されたら帰るわけにはいかねえ
「ふぅ、今日は久しぶりに早く帰るか」
まだ定時を過ぎて間もない時間、凝り固まった体を伸ばし帰る準備を始める。
今日の仕事は終わったため、このまま定時退勤。家でのんびりゲームでもやろうかと妄想を始める。
横目でチラリと柚季の様子を伺うが、何やらゲーム中だ。
……早く帰らないと、またコイツに呼び止められるな。
気配を消して席を立ち上がったその時、恐れていた事態が起こった。
「悔しいいい〜〜〜! あとちょっとだったのに〜〜〜!!!」
柚季が手足をバタつかせ始める。
…………スルーして帰っちゃダメか?
数秒間真剣に悩んだが、さすがにダメな気がした。
他の社員は在宅勤務中なので、今日のオフィスは俺たちしかいないのだ。
このまま帰ると後日大変なことになりそうで怖い。
「何かあったのか?」
明らかに何かあったであろう柚季に、恐る恐る声をかける。
「カズマ先輩ぃぃ……!!」
「うおっ!?」
涙目になった柚季がこちらを見つめてくる。
どうやら対戦で負けが込んでいるらしく、連敗のダメージが大きかったようだ。
タクオタはプレイヤーのランキングに応じてマッチングされるため、勝てなくなるタイミングが訪れるのは設計通りではある。
しかし当然ながら、設計通り=納得できる、という訳ではない。
「どうすれば勝てるんですか〜? 一緒にデッキ考えて欲しいです……」
定時後とはいえ、ゲームで困ってる可愛い後輩に手を貸さない理由など無い。
「しょうがねえな、今日中にマスターランク目指すぞ」
立ち上がっていた俺は再び腰を下ろした。今日くらい付き合ってやるか。
「……! カズマ先輩大好き!」
「うぉあっ!?」
いきなり抱きつかれたが、それ以上に今の体勢がまずい。
対面のまま俺の太ももに座って抱きついてきやがった。
この体位……もとい体勢は非常にまずい。
「ほ、ほら、早くデッキ組むぞ! 自分の椅子に戻れ!」
「私はこのままでも良いですよ?」
「俺が良くないわ! 早く離れろ!」
「ちぇ〜っ」と言いながら自分の椅子に座り、慣れた手つきでデッキ編成画面を開いた。
危ねえ……離れるのがあと少し遅かったら大変なことになっていた。
何がとは言わねえが。
◆ ◆ ◆
「これが今のデッキです。先輩から見てどうですか?」
「SPカードで火力上げてから押し切るデッキか。悪くはないが、攻撃に偏り過ぎてて、相手の防御カード次第では1枚で詰む可能性があるな」
柚季も身に覚えがあるようで、うんうんと頷いている。
「バフ解除系のデッキと当たると、相性悪くて一方的に負けちゃいます……」
俺も柚季もゲームに集中しきっているため、さっきまでの甘い雰囲気はいつの間にか消え去っていた。
「大まかな方針としては、防御カードも少し入れるか、速攻型に尖らせるか、の2つだろうな」
「防御カードってあまり好きじゃないんですよ〜。先輩だってあまり入れてないじゃないですか」
「俺のデッキは超速攻型だし、最後にリカバリできるSPカードを使えば事足りるしな」
「私、攻撃系カードばかり集めてたので、あまり防御カード持ってないんですよ〜」
そう言いつつ、柚季は自分のカードリストからいくつかカードを選んでいく。
「私の持ってるカードなら……これとかどうですか?」
「良いんじゃないか? 上級者向けのSPカードだけど、発動タイミングを見極めれば攻防両方に使えるしな」
「先輩なら他にどれ使います?」
「俺だったらこっちのカードもサブで入れておくな。相手が特殊なデッキだった場合に備えられる」
「ふむふむ……、なら今のデッキからこれを抜いて……」
◆ ◆ ◆
その後、俺とのテストプレイを挟みながらのデッキ編成がしばらく続いた。
アドバイスを聞く柚季の表情は真剣そのもので、時折「ふんふん」「そっか、このカード使えば良かったのか〜」と、思わず独り言が漏れている。
コイツもゲームが好きなんだな。
教えてもらったことを素直に実践する柚季を見てると、可愛い後輩だなと改めて実感する。
仕方ねえ、もっと細かい所まで教えてやるか。
教える側としても一層熱が入る。
2人のテストプレイをしばらく続けた後、デッキが完成した柚季をランキング戦に向かわせた。
「これなら大丈夫だ。存分に戦って来い!」
「はい! マスターランクまで昇って見せます!」
◆ ◆ ◆
柚季はスマホを見ながら固まっていた。
「やった…………」
画面にはマスターランク昇格の演出が流れている。
「先輩! やりましたぁぁぁ!!!」
満面の笑みを浮かべる柚季を見てると、俺も思わず笑顔になってしまう。
「おう、よくやったな」
「カズマ先輩のおかげです! ありがとうございます♡」
ぎゅうっ。
「うぉいい!?」
突然抱きつかれ、柔らかい感触が俺の理性を破壊しに来る。
「おまっ、何してんだ!?」
「感謝の気持ちを込めてぎゅ〜〜〜っとしてるだけですよ♪」
「い、い、いいから離れろ! マスターランクまで上がったんだから早く帰るぞ」
「わかりました! この後は私の家で一緒にプレイを」
「しねえよ! 今何時だと思ってんだ!」
時計の針は既に0時を超えていた。前にもこんなことあったような気もするが、気のせいということにしたい。
「や〜だ〜! 先輩とずっと一緒にいたいです!」
「明日も会社で会うんだから、さっさと帰って寝ろ!」
「えっ! 明日も付き合ってくれるんですか♪」
「そうは言ってねえ!」
コイツの相手をするのは疲れるが、今日くらいは許してやるか。
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